外れスキルのお陰で最強へ 〜戦闘スキル皆無!?どうやって魔王を倒せと!?〜

血迷ったトモ

第40話 街を目指して

自身の人外っぷりに、軽く絶望しながら、聡はとぼとぼと、街道を歩く。
 地図によると、この街道は、以前、聡が発見して、エンデ村にたどり着くまでお世話になった川と、ほぼ平行に作られており、上流方面へと真っ直ぐに続いているようだ。

 先程の実験は、ここから川とは正反対の方向に歩いて、10キロ近くほど離れた場所で行ったのだが、街道とは正反対の方向に向けて放った『ファイヤー』の被害や、剣による被害も受けていなかった。しかし、『レイン』により、雨は降ったようで、ぬかるんだ道をひたすら歩く羽目になった。

「さて、マリウスさんの地図によると、あと数時間で街に着くかな?」

 何にも無い荒野で、目印となる物はそう多くは無いのだが、特徴的な形の岩や、進むにつれて目立ってきた草木で大体の現在地を割り出し、夕方前には着きそうだと、ホッと一息つく聡。

「えっと…。なになに?『街の衛士に話が通るよう、身分の保証書を袋の底に入れて置いたから、街に着いたら門番に見せろ』か。至れり尽くせりだな。」

 地図にある注意書きを読み、アイテムボックスに入れてあった皮袋を取り出し、中から保証書を取り出す。

「お、これか。まぁ、手ぶらってのもおかしいし、皮袋は背負ってくか。ついでにこの保証書は、懐に入れてっと…。」

 黒髪黒目は、この世界では目立つ存在らしいので、灰色のローブを身につけ、フードまで被り、旅人として、有り得なくはない格好に落ち着いた聡は、異世界で訪れる最初の街となる、城塞都市『ベルクフリート』へと、再び歩き始める。

 昼休憩を挟んだ後、およそ30分後、聡の視界に、堅固な石造りの壁と、そんな壁に囲まれた街の中心に聳え立つ、巨大な塔が現れる。恐らくは監視塔だろう。
 この都市は、魔王が封印から解き放たれた後、戦闘においての最前線となるべく築かれた街である。…もっとも、既に魔王トイフェルは消滅し、その役割は、ついぞ果たされる事は無くなったのだが。

「おぉ。こりゃすげぇ。ザ・異世界って感じだな。」

 ここまでは、『レイン』の効果は及ばなかった様で、乾いた道をひたすら真っ直ぐに歩く。その途中、ベルクフリートをぐるっと回り込むような形で、別れ道も作られていたが、門に目掛けてゆっくりと進む聡。

「う〜ん。これぞ中世って感じの兵士が2人か。長槍を装備、と。」

 想像上の騎士よりは、身軽な装備を固める兵士へと近付く聡。その兵士達の後ろの門扉は、固く閉ざされており、思っていたよりも警備が厳重である事を感じる。

 そんな事を考えながら、兵士達の目の前まで来ると、一方の兵士から声が掛けられる。

「そこで一旦止まってくれ。」

「はい、分かりました。」

 槍の間合いだが、こちらの攻撃は届きそうにない、絶妙な位置で止まらされた聡は、ちょいと冷や汗が出そうなのを、必死に表に出さないようにする。

「何か身分証はあるか?」

 この世界では、冒険者ギルド等の各ギルドの会員証である、ギルドカードが身分証となり、また、街に住む者であれば市民証を持ち、それらを使って、街の出入りの管理を行っている。
 しかし、そんなものは聡が持っているわけもないので、懐から、マリウスから貰った保証書を取り出す。

「いえ、持ち合わせておりませんので、エンデ村のマリウス村長から頂いた、こちらの保証書を見て頂きたいのですが。」

「エンデ村の…。分かった。見させてもらおう。」

 兵士にエンデ村の名を告げると、驚いた表情を浮かべ、急に警戒レベルが数段下がる。

ーマリウスさんって、実は凄い人なのか?確かに実力はありそうだったけど…。ー

 エンデ村の名前の効果に驚いていると、急に畏まった様子の兵士が、こちらの間合いに近付いてくる。

「失礼しました。確認が出来ましたので、こちらはお返しします。それと、本来、入場にはお金が要るのですが、マリウスさんが負担する様なので、このままお入り下さい。」

「え?あ、そうですか。ありがとうございます。」

 何故かキラキラした目で、歓迎の表情を浮かべる兵士に、戸惑いながらも大人しく従う聡。

ーな、何で急にこんなに態度が急変するんだ?この保証書、何て書いてあったんだよ?ー

 後でゆっくり読もうと考えながら、保証書を懐にしまい直す。

「おい、開けてさしあげろ。」

ー態度が違いすぎん!?ー

 もう一方の兵士に対する言葉遣いに、心の中でツッコミを入れている聡。

「はっ!畏まりました!」

 もう一方の兵士は、指示を出した兵士に敬礼してから、木で出来た大きな門扉に走って向かう。
 それを後目に、聡の応対をした兵士が、頭を下げながら言う。

「申し遅れました。私は、ここで衛士長を務めさせて頂いている、ヴィリーと申します。以後、お見知り置きを。」

 ヴィリーは、3,40代の、ガタイのいい男で、兜をしている為髪型は分からないが、短い金髪のようだ。
 比較的、顔立ちも整っており、若い頃はさぞかしモテたのだろうと、聡は思う。

「わ、私は、聡と申します。」

「サトシ様ですね。この街では、ごゆっくりお過ごし下さい。」

「は、はい。」

 畏まられるのに慣れていない聡は、ヴィリーから視線を外し、門を開けに行った兵士の方を見る。
 すると、ちょうど、ギシギシと音を立てながら、重厚な門が徐々に開かれていく所であった。

「おぉ…。」

 隙間から見える、異世界で初めての街に、緊張と興奮を感じた聡は、感嘆の声を出してしまう。
 そんな聡の様子に、気を良くしたのか、ヴィリーは芝居がかった動きで、街に手をやりながら言う。

「サトシ様。ようこそ、我らが『ベルクフリート』へ。」

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