植物人間

透華

ベッドの音

今日は退院の日。
俺は左手に力を入れて、ベッドから起き上がった。
リハビリのおかげで、失っていた筋力は戻り、普通に生活する分には申し分ない。
ただ、驚いたことは自分の圧倒的な回復力だった。
まだ、目覚めてから1週間と少ししか経っていないのだ。
なのに、俺は体力を取り戻し、退院しようとしている。
窓の外は俺が事故に遭った日と同じで、晴れ渡り、日光が燦々と降り注いでいる。
俺はこの1週間、何故か日光に当たるのを待ちわびていた。
それに、以前と比べものにならない程、水を欲するようになった。
自分の身体が明らかにおかしい。
でも、病院の検査では回復力には驚いてはいたものの、何も言われず、退院の日を迎えてしまった。
俺は疑問を頭から追い払うように頭を振った。
病院にずっといて、憔悴しきってるだけだ。
退院すれば、違和感なんてすぐになくなるかもしれない。
俺は昨夜用意していた小さなボストンバッグを持ち上げると、ドアを開ける。
そして、部屋の前の「松笠 弦人」と書かれた札を取ると、受付に向かって歩き出した。

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