世界にたった一人だけの職業

Mei

川崎春香の憂い。そして、不安。

 時刻は朝。

「う~ん……」

 川崎は眠い目を擦りながら、目を覚ます。

「……あ、そうだ。蓮斗くんを起こしに行かなきゃ」

 蓮斗くんは結構寝坊助さんだから私が起こして上げないとね。そうでもしないと蓮斗くんは起きないから。

 私は、寝る用の服から普段着に着替え、顔を洗い、歯を磨き、身支度を済ませてから蓮斗くんの部屋へと向かった。


☆★☆★☆


 私はいつも通り蓮斗くんの部屋を開け、中に入る。こういうところが無防備過ぎると言うかなんと言うか……まあ、そのお陰でこうして私も部屋に入れているわけだから、そこはなにも言えないな。

 私は明かりを着けずに蓮斗くんの寝ているベッドに向かう。勿論、音は立てずに抜き足差し足。蓮斗くんはこういうところに敏感で、少しでも音を立てるとすぐに気づく。

「さてさて、蓮斗くんは……」

 私は遂に蓮斗くんのベッドに近づくことに成功し、私はそのまま蓮斗くんの寝顔を覗こうとしたーーー。

「……あれ? 蓮斗くんがいない……? もう起きてるのかな」

 いつもなら蓮斗くんはまだ起きてない筈なのに。今日は珍しい。……はあ……起こしかったなぁ。

 私は蓮斗くんの部屋を出る。今度は一階の食堂に行ってみる。しかし、どの席にも蓮斗くんの姿はない。

(……何処にいったのかな……? これ以上宛もなく探し続けても見つからないよね……)

 少し心配になる川崎。ついでに朝食でもとっていこうと思い適当な席を探していると。

「よ、よう川崎。お、おはよう」

 声の主の方を向くと、やはり高峰だった。

「おはよう、高峰くん」

 私はぎこちない高峰くんの挨拶に普通に挨拶を返す。

「ねえ、蓮斗くん知らない?」

「……知らないな。今朝は見てない」

 高峰は少し不機嫌そうにそう答える。……私、何か悪いことしたかな? 

「もし見つけたら教えてね」

 私はそう言いながら高峰くんに軽く会釈すると、再び朝食をとるために適当な席を探し始める。

「か、川崎! もし朝食食べるなら、一緒に食べないか?」

 やはり依然としてどぎまぎしている高峰。

「別にいいけど……私直ぐに行っちゃうよ? 蓮斗くん探さなきゃいけないし」

 そう。一刻でも早く蓮斗くんを探さなきゃいけない。でも、その為にはまず朝食。腹が減ってはとか言うやつね。

「……ああ。構わないよ」

 心無しか落ち込んでいるように見える高峰くん。本当に感情の起伏が激しい。

「じゃあ、あそこに座ろうか」

 丁度空いている席を見つけ、そこに座ろうと促す川崎。川崎が座った向かい側に高峰も座る。

「すいません。注文良いですか」

 丁度近くを通った女性の店員さんに声を掛ける。

「はいは~い」

「日替わり朝食を一つ下さい」

「わかりました。そちらのお客さんは?」

「俺も同じで」

「わかりました。こちらのお客さんに日替わり朝食2つね~!」

 女性が厨房の方にそう言うとは~い、と何人かの返事が返ってきた。女性はそれを聞くと、どうぞごゆっくり~、と言ってその場を立ち去った。まあ、ゆっくりする暇もないんだけどね。

 暫く沈黙が続く二人。私としては今すぐにでもこの席から立ち去りたい。だけど、そうしたらきっと高峰くんに失礼だろう。我慢って大事だよね。

 私はそんなことを思いながら料理が出来るのを待つ。

「な、なあ川崎」

「ん?」

「な、何で蓮斗を探しているんだ?」

 唐突にそんな話題を振る高峰。

「うーん……。心配だからかな?」

「心配?」

 高峰は怪訝そうな顔で川崎の言葉を反芻する。

「う~ん……。何て言うんだろう……。何か無茶しそうなんだよね……。危なっかしいって言うか……」

 川崎自身もよく分かっていないようで、曖昧な返答をしてしまう。要するにそれだけ蓮斗が心配だということなんだろう。

「そ、そうか……」

 高峰はそう返事をすると顔を俯かせ、再び黙りこくってしまう。と、丁度そこに。

「お待たせしました~。こちらが日替わり朝食で~す」

 さっきとは違う女性が両手に大量の料理を抱えてやって来た。私は、何でこんなに持てるんだろう……と少しびっくりした。その女性が両手に抱えた料理をテーブルに置く。今日のメニューは、パンにコーンスープもどきに、肉じゃがもどきだ。……少々味気ないけど、異世界の料理はこんなもんか。

「いただきます」

「い、いただきます」

 二人はそう言うと、それぞれ料理に手をつけ始める。

 私はコーンスープもどきから手をつけ始める。


ズズズ……。


 うん。思ってたより美味しい。仄かな甘味が口に広がって……。はあ……ほっこりする。

 次は肉じゃがもどき。


モグモグ……。


 ……これは思ってた味とちょっと違う……? 確かに美味しいけど……結構辛い!

 私は慌ててテーブルの上に水があるか探したが……なかった。

「す、すいません! 水下さい!」

 私は近くの女性店員さんに声をかけ、水を持ってきてもらい、窮地を脱したのだった。


☆★☆★☆


「ごちそうさまでした」

「か、川崎食べるのが早いな」

 高峰が驚いたようにそう言う。

「だって、一刻でも早く蓮斗くんを見つけたいから」

 私は笑顔でそう答えた。

「……そ、そうか……」

 またしても落ち込む高峰。

「じゃあ、私はこれで」

 しかし川崎はそれも気に止めず、宿のドアを開けて急いで外へと出ていった。

(……蓮斗くん、無事だといいな……)

 私はそんなことを思いながら、蓮斗くんの探索を開始した。





 

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