世界にたった一人だけの職業

Mei

番外編 デート ー1

 一章の、宿に帰る。そして、川崎への想い。ー2の後の番外編です。読んでいない方はそちらを読んでからこれを読むと分かりやすいと思います。


「ふああぁぁ……。よく寝たなぁ……」
 俺、柏沢蓮斗はベッドから身を起こしカーテンを開けて朝日を浴びる。まだ目覚めたばかりだということもあり、視界はうっすらとぼやけている。蓮斗は眠い目をこすり、大きく伸びをする。
「顔でも洗うとしようかな……」
 今俺が泊まっている部屋は入り口から見て、右奥の方にベッド、左奥には服を入れるための箪笥等があり、左の手前の方にドアが一つあり、中に入れば俺達が元いた世界にあった洗面所に似たものがある。魔力を流し込むと水が流れる仕組みらしい。魔力のない人は水も流すことが出来ないらしい。これは無料で配布されているパンフレット的な物に書いてあったのだが、ガルンは魔力を循環させることで街を活性化させているらしい。というのが表面上の理由で、実際は勇者を召喚するためだったり、そういったことで使われるのだとか。それでも街の方にも少量の魔力が循環しているらしい。本当に少量、だが。因みに右の手前の方にはこれまた魔力で動く仕様のトイレが設置されている。もちろんドアはある。なければ大問題になるだろう。それこそ街の治安でも疑われかねないくらいに。
 俺は左の手前にあるドアを開ける。そして、洗面台の横にある魔力循環装置に魔力を流す。すると、水がいきなり勢いよくドバッ!!と流れ出した。
「おわっ!?」
 蓮斗はその事に驚き、咄嗟に魔力循環装置から手を離す。すると、先程まで勢いよく出ていた水はしっかりと止まった。
「……魔力によって水の出る強さも変わるのか……」
 もとの世界では蛇口をひねればすぐに水が出ていた蓮斗にとっては非常に不便な物であった。だが、贅沢を言ってもいられない。蓮斗はもう一度、魔力を意識しながら魔力循環装置に触れる。すると、今度はきちんと適量の水が流れ出した。だが、先程同様直ぐ手を離してはいけない。魔力循環が安定するまではきちんと触れ続けなければいけないのである。本当に面倒くさい。
 暫く魔力循環装置に触れていると、やっと魔力が安定したのか魔力循環装置から少し高い音が鳴る。因みに魔力循環が停止した時には低い音が鳴るそうだ。
 俺は流れて来た水を両手ですくい、顔をバシャバシャ洗う。
「……ふ~。スッキリするな~」
 俺は何回か水をすくい、顔をバシャバシャ洗う動作を繰り返し、満足したところでその動作を止める。本当は汚れとかは"清浄クリーン"で落とせるのだが、日本人たるもの、やはり水を使わないと落ち着かないのだ。
「"乾燥ドライ"」
 生活魔法の一種、乾燥ドライで自分の濡れている顔を乾かす。その後、俺は出しっぱなしの水を止め、洗面所を出る。
「服は……。あれしかないからあれでいいや」
 服は学校で着ていた制服と、王宮に召喚されたときに支給された物がある。だが、学校の制服を着ていくのはあまりにも目立ちすぎる。何せこの世界には無い素材で作られているからな。それこそそんな格好で街をうろついていたらそこら中の商人が目を光らせてこちらを見てくることだろう。途中で服も買っていければいいんだが……。
 俺がこんなに張り切っている理由。それは……今日川崎とデートをするからだ!! 俺にとっては人生で初のデートなのだ。逆に張り切らない理由などあるのだろうか。デート……。デート……! その甘美たる響きの何たることか……! ああ……。想像しただけでにやけてしまう……!
  蓮斗がそんなことを思っているとふと気になることが頭に思い浮かぶ。
「う~ん……。この街ってそういえば何があるんだ? 異世界に転移してきてからここ最近ろくに街を回る暇も無かったし……」
 そう。蓮斗に限らず異世界転移してきた蓮斗のクラスメイト全員、街を回る暇が無かったのだ。いや、暇がなかったのではなく外に出ることが出来なかった・・・・・・・・・・・・・・と言うべきか。
「まあ、そこら辺はデートしながら追々考えればいいか……」
 蓮斗はそう言いながら左奥にある箪笥の所まで移動し、その内の引き出しを一つを引き王宮で支給された服を出す。その服は非常に質素な物で元の世界の冬に着たら絶対に寒くなるようなそんな格好だった。
 蓮斗はそれに着替え、金を入れた小袋をポケットの中にいれると勢いよく自室を飛び出していった。

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