世界にたった一人だけの職業

Mei

戸惑い。そして、蓮斗の答えはー。

 俺、柏沢蓮斗は今とても奇妙な状況にあった。
 突然で悪いが、もし目の前に魔族がいたとしよう。その時、皆はどうするだろうか? 当然、大方闘うか逃げるの二択に絞られるはずだ。魔族は人間と敵対する存在の一つ。魔族と人間が普通に敵対もせずに会話をしていると何処か奇妙な感じがするだろう。しかし現実はどうだろうか?
 蓮斗は今、目の前の魔族の少女に友達になってくれと言われたのだ。これで驚かない奴が何処にいるだろうか。いたら素直に称賛したいと思う。疑い深い奴なら何か裏があるのではないか、何を企んでいるのかと真っ先に考えるだろう。
「…………どうして友達になりたいんだ?」
 だが、蓮斗はそう聞かなかった。いや、あえて・・・聞かなかったのだ。目の前にいる魔族の女、ヴァーナムがそんな危険な奴に見えなかったからかもしれないし、あるいはただ単純に友達になりたい理由を聞きたかっただけなのかもしれない。どちらにせよ、蓮斗はその理由を聞かないことには決めかねると思ったから聞いたのだ。
「…………そ、それは……。魔法を学びたいからで……」
 ヴァーナムはしどろもどろになりながらもそう答える。
「……本当にそうか?」
 蓮斗はヴァーナムを諭すような口調でそう言った。
「わ、我はおに……貴様に興味があるのだ。これでは駄目か?」
 心なしか冷淡そうな印象だったヴァーナムの瞳が潤んでいるような気がする。蓮斗はそれを見て少し慌てたように答えた。
「い、いや。充分だ、友達になりたい理由としては」
 俺がそう言うと、口を綻ばせ喜びを露にするヴァーナム。こうしてみてみると魔族だの何だのといった種族関係なく、年相応の少女なのだと思えてくる。
「……だけど、いいのか? 一応言っておくが、ガルンは世界から孤立したような状態になっているんだ。ガルンの国王陛下がシランドゥに攻め込む命令を出して敗北したことでそうなったんだ。俺は何処からどう見てもガルンの国の出身だと思われる……。そんな俺と一緒にいて平気なのか?」
 俺はそんなことをヴァーナムに言うが、
「貴様にはその変身能力みたいなのがあるではないか。現に今だってエルフの姿をしているであろう? それに、もしおに……貴様がガルンの国で召喚された勇者一行だと周囲にばれたとしても……我は貴様を裏切ったりなどしない」
と堂々と蓮斗の前で答えてみせた。途中で何か言い淀んでいた気がするが、きっと気のせいだろう。蓮斗はその言葉を聞くと安心したようにホッと胸を撫で下ろす。同時に、今までの緊張も抜けていった。
「そ、そうか……。じゃあ、よろしく頼むよ、ヴァーナム」
「こちらこそ宜しく頼む。それと我を呼ぶときはラヴィと呼ぶといい。ヴァーナムじゃ言いにくかろう?」
 ヴァーナム、もといラヴィはそう言うと蓮斗に手を差し出す。
「分かった、そう呼ばせてもらうよ」
 蓮斗はそう言うとラヴィが差し出した手をとる。二人はしっかりと握手し合い、笑みをこぼした。暫くして二人とも手を離す。
「……それと、我も貴様のことを蓮斗、と呼んでも……?」
「おう、構わないぞ」
何かさっきから目が輝いたり、かと思えば突然どぎまぎしたり。まるで、あいつをみているような……。いや、でもあいつがここに転移してきた何て事がそうそうあるわけないか……。異世界がここだけとは限らないし……。まあ、考えても仕方ないか。いずれはっきりしてくるだろう。
「では、蓮斗。早速で悪いが……我にさっきの魔法を見せてくれないか?」
「……さっきの魔法?」
蓮斗は言葉の意味がうまく掴めなかったようで、訝しげな顔で首を傾げる。
「あれだ、あの変身する魔法の事だ。さっき蓮斗がエルフに変身した魔法だ。多分だが、他の種族にも変身できるはずだ。それを見せて欲しい」
「……生憎だが、俺は今ほとんど魔力が残っていない。残念だが、今日は使えな……」
 蓮斗が言い切ろうとしたその前に。
「では我が魔力を癒してやろう! 我はこう見えても魔族の中でも優秀な回復術士ヒーラーだからな!」
 ラヴィはそう言い切ると同時に魔法を唱え始めた。
「"魔力回復マナリカバリー"」
 ラヴィがそう唱えると蓮斗の身体が淡い光で包まれる。それと同時に蓮斗は身体から何かが湧きだしてくるような感覚を覚える。暫くすると、淡い光は徐々に消えていった。
「おお……! これが魔力か……! こんなに明確に感じたのは初めてだな……。ありがとう、ラヴィ」
 蓮斗はラヴィに対して礼を言う。ラヴィも満更でもない様子で微笑んでいた。
「それにしても……。魔族で回復術士ヒーラーのラヴィであの強さなんだもんな……。ガルンに本格的に魔族が攻めてきたらどうなるか……。考えただけでもゾッとするな……」
蓮斗がぶつぶつ言いながら魔族の事について考える。たまたまラヴィにも蓮斗の声が聞こえていたようで、
「蓮斗。言っておくが、魔族に人間で言う職業など存在しないぞ?」
「……そうなのか?」
「ああ。元来魔族は生まれつき高い身体能力が高く、様々な物において適正が高い。その代わりなのかもしれないが、魔族には職業は無いのだ。他の種族も我らと同様に職業が存在しない。その代わり何かに特化していることが多いのだ。エルフであれば魔法、獣人族であれば圧倒的な素早さと優れた聴覚や嗅覚、と言った具合にな」
 蓮斗はラヴィの言葉を聞き、改めて魔族の出鱈目さに驚くと共に、この世界の中でよく人間が生きてこられたな……と思ったのだった。

  
 




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