魔王に成り上がったスライム~子育てしながら気ままに異世界を旅する~

Mei

街を回る ー1

「なんとか日が暮れる前には到着したな……」
 俺達はファルン王国の門の前に来ており今から入ろうかというところだ。幸い門の前には日が暮れる前ということもあり、数人程度しか並んでいなかった。門の前には衛兵がおり、門を通過する人は、皆水晶に手を#翳__かざ__#している。あの水晶は"クーリア"と呼ばれるもので、犯罪歴の有無を調べたりするものである。非常に高価な代物で、一般市民が五年は働き続けてようやく得られるような物だ。だが、その分品質は保証されており、どの国でも門に入る前には必ずあの水晶に手を翳さなければならない。因みに、犯罪を犯した者は手を翳した瞬間赤色に光り、犯罪をおかした者でなければ青色に光る。
 やがて、俺達の番がやって来る。
「よし、次の者。この水晶に手を翳してくれ」
 俺達は衛兵にそう言われ、水晶に手を翳す。俺、魔王だけど……大丈夫だろうか? もし、赤色に光ったりなんかしたら……。それこそ街を回るとか以前に、街中から衛兵だのが飛んできて大騒ぎになること間違いなしだ。それだけは避けたい。
 俺の心配を他所に衛兵は、
「よし。二人とも、通っていいぞ~」
と気の抜けたような声でそう言う。水晶もきちんと青く光ったようだ。良かった、良かった。レヴィアに野宿何てさせられないからな。可愛い子には旅をさせろなんて聞いたことがあるが、あんなもんはまやかしだ。うん、きっとそうなんだろう。レヴィアも現に可愛いが旅なんてさせられない。て言うか、俺がさせない!
 俺達が門に入ると、そこには沢山の店が並んでおり、馬車や荷物を背負った商人らしき人達がよく目立つ。そう。ここ、ブロス街はファルン王国でもきっての商業中心のところだ。各国に商品を運んだり、店で商品を売ったり、時には商人が自ら出歩いて商品を売ったりする。この街の商業の方法は実に様々だ。今も日暮れ前であるにも関わらず、街は活気に溢れていた。
「パパ~、あれ食べたいなの」
 レヴィアが俺の袖をクイクイ引っ張りながらある方向を指差してそう言う。俺もそれにつられてレヴィアが指を指している方向を向く。すると、そこでは肉を焼いておりもわもわと煙が漂っている。
「よし、レヴィア。あの店に行ってみるか」
「うん! なの!」
 レヴィアはタタタターと走って肉を焼いている店へ向かう。俺もその後を追いかける。レヴィアはその途中何人かぶつかりそうになったが、俺が重力魔法の応用である"反重力アンチグラビティ"を使い、その人達を遠ざけたので、レヴィアもぶつからずに済んだ。要は磁石のような物だと思ってもらっていい。
「おやおや……。いらっしゃいお嬢ちゃん」
 店の人は優しそうな雰囲気のおじさんだった。肉を焼いてる人は大抵「へ~い! らっしゃい、いらっしゃい!」みたいな人かと思ったがそうでも無かったようだ。まあ、今はレヴィアもいるのでそちらの方が有り難かったりするのだが。
「すいません、この肉は何の肉でしょうか?」
 俺は、このうまそうな匂いのする肉に興味をそそられ、おじさんにそう尋ねる。
「ああ……。これはオークの肉を使った物でね……。君はまだ食べたことないのかい?」
 俺はおじさんの問に対し「ええ」と短く答えを返す。そもそも俺は、魔物を倒して素材を剥ぎ取るという発想には至っても、その肉を食うなどと言う発想には至らなかったのだ。第一どんな味がするかもわからないし、万一お腹を壊したら洒落にならないからな。
「なら、一度食べてみるといい。オークの肉は他の魔物と違って余り毒素は含まれてないからね……。安心して食べるといい。この肉は結構美味しいからね……」
 あのエロモンスターからそんなうまい肉がとれるのか。だったらこれから定期的に狩りに行こうかな。まあ、取り敢えず買って食べてみてから検討しよう。
「じゃあ、6本下さい」
「一本銅貨4枚だから、銅貨24枚ね~」
 俺は魔法のポーチから銅貨の入っている袋を取りだし、そこから銅貨24枚を取り出しておじさんに渡す。
「はい、丁度ね~。有り難う、また来てね~」
 俺はおじさんから袋に6本まとめて入っているオークの肉の串焼きを受け取り、その店を後にした。
「よし、レヴィア。あそこに座って食おう」
「分かったなの!」
 俺はレヴィアの手を握り、近くのベンチまで行き、腰を掛ける。レヴィアもその隣にポスンと腰を掛ける。
「はい、レヴィア」
 俺は、オークの肉の串焼きが入っている袋の中から一本取り出し、レヴィアに渡す。レヴィアはそれを受け取ってすぐにかぶりついた。
「美味しいなの!」
 レヴィアはそう言うと食べるスピードが段々速くなる。
「よし、俺も一本食べるかな……」
 俺はオークの肉の串焼きが入った袋からもう一本取りだし、かぶりつく。瞬間、口の中一杯に肉汁が溢れ出す。肉汁に仄かな甘味もあり、絶妙な味になっている。
「うん……。これは確かに絶品だ……! 病み付きになってしまうかもしれないな……」
 俺はレヴィアとは対照的に一口一口を味わって食べる。
「パパ! もう一本なの!」
「はいよ」
 俺とレヴィアはオークの肉の串焼きの美味さの虜になり、その味を堪能したのだった。

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