Will you marry me?

有賀尋

Wedding gift 〜And on that day〜

そして、当日。
司には普段通りの仕事を入れてもらった。というか、紫さんがマネージャーをしてくれているから日程の調整はバッチリだ。

「じゃあ、行ってくる」
「うん、気をつけて」
「ママいってらっしゃい!」

これから何が起こるかなんて知らないまま、司は家を出て行った。
片付けを終えて、子どもたちと、亜貴さん、裕貴、千里を連れ先に教会へ向かう。

「いやー、天気よくてよかったね」
「まぁな」
「おやおや、遥貴緊張してる?」
「してません」

教会に着くと教会のスタッフに化けたカメラマンやテレビ局のスタッフが待ち構えていた。

「今日はよろしくお願いします」

挨拶をしてから、衣装に着替えてメイクをしてもらう。
俺のサイズぴったりに作られたタキシードに着替えると、いきなり裕貴に写真を撮られた。

「へっへー、1枚いただきやしたー」
「...お前...」
「写真撮っていいって言われたもんね、バッチリ撮るから!」
「...期待しとくよ」

そんな会話をしつつ、子どもたちが来るのを待つ。

「...ひー君かっこいい...」
「...叶ちゃんかわいい...」

着替え終わって初めてお互いを見た2人がお互いを褒めていた。

「...かっこよくない...叶多の方が可愛い...」
「そんなことないよ!優陽かっこいいよ!」

そんな会話も全てカメラに収められていたし、ベール持ちの衣装を着た千里と3人で裕貴が写真を撮ったり、スタッフの人に遊んでもらったりしていた。
俺達は司が来る前に1度だけリハーサルをした。
神父の亜貴さんがあまりにも似合いすぎて胡散臭くて笑ってしまった。
紫さんは司と一緒に来ることになっていて、移動する時に連絡をくれた。到着すると司をメイク室に閉じ込め、俺達のところに来た。

「お、似合ってる」
「紫おねーさん!」
「3人とも似合ってるよー、かわいいしかっこいい!」
「ほんと?似合う?」
「似合う似合う。...遥貴さんも中園さんも似合ってる」
「紫さんのデザインですから。...ありがとうございます」

俺は紫さんに頭を下げた。

「そんなことないですよ」
「紫さんの一言がなかったらすることなかったと思うので...」
「それはそうかもしれませんけど、でもこれは遥貴さんが発起人ですから、俺はただ乗っただけですよ」

じゃあ俺は司の様子見てきますね、と紫さんは去っていった。
しばらくして、俺は先に祭壇の前で待つことになった。そして何故かポージングを迫られた。なんでも、カタログに使いたいという紫さんからの注文で、プロのカメラマンさんに教わりながら写真を撮る。
全員が持ち場についた頃。ちょうど祭壇の後ろにあるステンドグラスに太陽の光が差し込み始め、逆光になる。それを合図に扉が開く。
俺は息を飲んだ。司のドレスが想像以上に似合っていて、綺麗だったからだ。
少し紫さんと会話を交わした司が1歩1歩バージンロードを歩いて近づいてくる。祭壇の近くまで来てはっきりと俺の顔が見えて驚いていた。

「...遥貴...?」

司はあからさまに混乱していた。
それもそのはずだ、撮影と言われて連れてこられた教会にどうして自分の夫がいるのか、子どもたちはどうしたのか。聞きたいことは山ほどあるだろう。

「どうしてここに...?」
「どうしてだと思う?」
「子どもたちは?」
「そのうちちゃんと来るよ」
「...そのうち?」

神父に扮した亜貴さんが出てきて、聖書を読み上げる。と言ってもそんなに長いことを読むわけでもない。

「加藤遥貴、あなたはここにいる妻加藤司のことを病める時も健やかなる時も愛すると誓いますか?」
「...はい、誓います」
「加藤司、あなたはここにいる夫加藤遥貴の事を病める時も健やかなる時も愛すると誓いますか?」
「...はい、誓います」
「では、リングの交換を」

そう言うと扉が開き、子どもたちがリングを持って現れる。子どもたちは俺たちを見て目をキラキラさせていた。

「...ママきれい...!」
「パパかっこいい...」
「叶多、優陽、指輪ちょうだい?」
『どーぞ!』

リングを受け取って、司と向かい合う。

「...ねぇ司、覚えてる?花火大会の時のこと」

真剣にプロポーズしたのにあの時は流されたんだよな。

そう思いながら俺は司に問いかけた。

「当たり前だろ、忘れるわけない」
「...俺さ、あの時精一杯プロポーズしたんだけど流されたんだよね」
「...え...」

司は自然と涙を零していた。

「あの時流されちゃったから、もう一度言うね?
…これからも、俺と一緒にいてよ。
夏の花火だけじゃなく…春の桜、秋の紅葉、冬の雪景色…巡る季節全てを君と、今度は子どもたちとも一緒に見たいんだ。」

...一生一緒にいてくれますか

司は泣きながら頷いた。俺はそっと涙を拭うと左の薬指に指輪を嵌める。
司からとめどなく涙が零れる。それは多分、いや、絶対嬉し涙だ。

そんなに泣いたらメイク崩れるだろうに。

「でも...どうしてこんな...?」

司から絶対に来るだろうと思っていた疑問がぶつけられた。

「俺達、結婚式上げてないだろ?
2人してそんな話題にもならなかったから、いいかなって思ったんだけど、やっぱりやりたいじゃん、子どもたちにも見せてあげたかったんだ。だから、今回は色んな人にお願いして、司に結婚式をプレゼントしようってことになったってわけ。
ちなみに、密着取材なんてのは嘘だよ、ドキュメンタリーで使うかもとかっては言ってたけどね。紫さんも仕掛け人で、カメラマンと神父も知ってる人だよ」

紫さんと考えた答えを述べてやっとネタばらしをする。
カメラマンは裕貴、神父は亜貴さん、ベール持ちは千里とバラしていく。司は目を白黒させて驚いていた。
裕貴とカメラマンさんが撮った写真は全てアルバムにしてプレゼントしてくれるという話と、カメラマンさんが撮った写真は雑誌やカタログに使うということで承諾すると、紫さんから細かに指示が出された。メイクを直して、撮影していく。
祭壇が少し高いところにあり、俺は祭壇のある所に足をかけて司を見下ろして微笑んで手を差し伸べ、司はそれを見上げて差し伸べられた手を伸ばしてお互いを見つめ合うというアングル。
司は俺にしか見せない家での笑顔を向けてくれた。その笑顔を見て俺も自然と笑顔になる。子どもたちも一緒に撮った写真は本当に自然な家族写真となった。
これはもちろん雑誌に使われて、その月の売上が急激に伸びたりSNSでトレンドワードになったことは言うまでもない。

その後全てネタばらしをする。
本当は1ヶ月前から司以外にはカメラがついていたこと、コソコソ準備を進めていたことなど、全てをバラすと家でカメラを回していた理由にも納得していた。
小さくても祝ってもらえた結婚式。
ネット上では結構盛大に祝われていたと後から司に聞いて驚いた。
しばらくしてからアルバムが届いた。そこには表側も裏側も全ての写真があって、それを見ながら司に話をする。
こんなことがあった、こんなことに苦労した、裏側の話は尽きない。
子どもたちが何かあるごとにアルバムを見ていたのはただの余談に過ぎない。

話題にすら出なかった結婚式を挙げて良かったと思っている。
関わってくれた人にも感謝している。
だからこそ、俺はこれからも司を、子どもたちを愛して守っていこう。

そう改めて決意したのだった。

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