Will you marry me?

有賀尋

Wedding gift 〜From 1 month ago to the previous day〜

「パパー?どうしたのー?」

叶多と優陽に声をかけられて我に返る。

「あ、あぁ、ごめん、行こっか」
「...あ、アイス...」
「アイス食べたーい!」
「...はいはい、ママには内緒だぞ?」
『うん!』

アイスを買って食べながら歩いて、休憩しながら散歩する。家に着くと疲れたのかお昼寝タイムだ。寝かしつけていたらいつの間にか俺も寝ていて、夜になっていた。急いでご飯を作り、起こして食べさせて風呂に入れて寝かせる。よほど疲れたのか昼寝をしてもそのまま朝までぐっすりだった。
翌日の昼過ぎ、俺は子どもたちと亜貴さんと裕貴と千里を連れて事務所に向かった。

「失礼します」
「紫おねーさん!」
「やぁ、皆待ってた、座ってー」
「あ、はい...」

ソファーに座ると、叶多と優陽は俺の膝の上に、千里は亜貴さんの膝の上に乗った。

「こんなのしかないけど、よければ食べてよ」

と、子どもたちにお菓子をくれた。
そして、大人達は話し合いを始める。
紫さんが提案してきたのは、「遥貴さんと司に結婚式をプレゼントしよう」、「ドレスとタキシードは紫さんがデザインして、子どもたちにもお揃いのを用意する」、「中園さん達にも協力をしていただきたい」との事だった。

「で、俺達にも協力しろってことですけど、何をすれば?」
「そうですね、撮影的にも教会がいいかなと思っていて。なので、神父とベール持ちをしてもらおうと。あと、カメラマンですかね」
「カメラマンなら俺やりますよ、カメラ得意だし!」

そう言うと裕貴が真っ先に手を上げた。確かに、こいつのカメラの腕はいい。

「確かに、写真撮るの上手いもんな」
「カメラはうちで使ってるハイスペックなのをお貸しします、なるだけたくさん撮ってください」
「裏側から何から全部撮りますね!」
「じゃあ俺は神父か?」
「そうですね、衣装は準備しますね」
「千里君はベール持ちかな。じゃあそれで決まりで。千里君にも衣装準備しますね、それで、ドレスのデザインなんだけど…」

そう言って見せてくれたのはドレスとタキシードのデザイン画。
ワインレッドを基調として、背中が大きく開いていて後ろに長くなっている、いかにも司が着たら映えそうなドレスだった。
大して俺のタキシードはというと、全面的に白を押し出して、ベストがグレーのロングタキシード。

「こんなのどうかな?」
「あ、似合いそう!ふたりに似合いそうですね!」
「確かに、これなら遥貴似合うな。司も似合いそうだし、子どもたちも似合いそうだ」
「うん、すごく似合いそうだよ、流石紫さんですね」
「神父とベール持ちの衣装はこんな感じで...」

と、神父の衣装とベール持ちの衣装までバッチリ仕上げているあたりが流石だ。
場所は予定通りに教会、完全に俺達しかいない小さな小さな結婚式。俺はそれで全然いいと思った。盛大に祝ってもらわなくてもいい。俺は身内で祝ってもらえればそれで。

そこから1ヶ月、俺や子どもたち、亜貴さんや裕貴、千里は秘密裏に準備を進めた。と言っても、衣装の採寸をしたり、俺は結婚指輪を子どもたちと選び直し、裕貴はカメラの使い方を教わり、亜貴さんは聖書の読み方を覚え、千里はベール持ちの事を教わったりと、普段はいつも通り過ごし、見えないところでバレることなく進んでこれた。

「遥貴さん、テレビ局にこの企画売り込んでいいかな、遥貴さんが発起人としてさ」

と、実行まで半分をすぎた頃に思わぬ提案をされた。

「え、俺がですか?でも元々これ紫さんが...」
「いーのいーの、これは遥貴さんがやる事自体意味があるから。それにこれなら司も断れないよ、事後承諾だからね」
「はぁ...」

こんなわけで何故か俺が発起人になって企むという筋書きに変わってしまったこの企画が、後に本当に通ったと聞かされた時は本当に驚いた。
 そして本当にテレビの取材がつくと聞いて子どもたちは興味津々で、何かをしでかさないか心配だったけど、大人しく過ごしてくれたし、何かと子どもが好きな人が多くて助かった。
俺達には少し前からカメラがついていて、衣装合わせや、普段の様子が撮影された。家の中で無駄にカメラを回していて司に1度怪しまれたことがあるが、何とか誤魔化した。

前日になり、いつも通り散歩に出かける。

「明日たのしみだね!」
「...僕もたのしみ...」
「そうだな、きっと2人もかわいいしかっこよくなるぞー?」

そんな会話をしながら歩いていると、司の姿を見つけた。撮影が終わって帰るところだったんだろう。

「お、ほらママがいる」
「ママだ!」
「...行ってきていい?」
「よーし、ママに突撃だ!」

2人の背中を押して司めがけて走らせる。
司は少し驚いて後ろを振り返り、それが子どもたちだと分かると顔を綻ばせた。実は俺の少し後ろにはカメラがある。
わざと遅れて司に近寄った。

「おかえり、司。お疲れ様」
「ただいま、遥貴」

そしていつもの家族の時間が始まる。
優陽と叶多は司に今日何があったかを話している。仕事に出ている間のことを聞くのが司にとっては楽しいらしい。

「遥貴、紫から聞いてるだろうけど...」
「あぁ、密着取材の話でしょ?聞いてるよ、紫さんから連絡来たよ」
「なんでいきなりなんだ...」
「さぁ...?なんか紫さん曰く、いい宣伝だって言ってたよ?」
「いい宣伝、なぁ…」

俺は恰も聞いている体を装った。

...本当は俺が発起人なんだけど。

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