ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

盗人で暗殺者の猫耳娘


夜。グッスリとお休みタイムに入っている時刻。
昨夜と同じように、理由は分からないけど、不意に意識が浮上し、俺は夢から醒めた。

もしかして、不眠症?

最悪なんだけど…。

そんな事を考えつつ、目を瞑ったままマップでリョウが隣の部屋に居るのを確認し、ついでに他の青マークも定位置に居るかを確認する。

昨夜の事もあって、間違っても誰かさんが街中を歩き回ってないか。問題を起こしてはないかを素早く確認する。

……問題なさそうだ。

でも、なんだかモヤモヤする。
不安が心を支配して、このまま寝てしまうのはダメなような気がする。

なのに、その不安の原因が分からない。だからモヤモヤする。

この街一帯をマップを使って見渡しても対して変わった事はない。唯一気になるのは、闇ギルド辺りに赤マークが大量にあるのだけだ。

それ以外は本当に何もない。

この時間帯…深夜とも言えようAM2時3分で歩き回ってる人がチラホラと見受けられるだけだ。

そう。本当に変わった事なんてーー。

ーーカチャ。

……鍵、開いた?
今の音は…この部屋?

ーーキィィィ…。

小さなヒンジの軋み音。

コツ、コツと耳を澄ませてないと聞こえない程に小さな足音が部屋に入ってきた。

……うん。マップを見る限り、緑マークが俺が借りてる部屋に侵入してきたようだ。
この宿屋の店員…じゃなさそう。そんな匂いじゃない。鉄と油の匂いだ。

おそらく、物盗りか何かだろう。

よし、やり過ごそう。
この部屋には盗られて困る物はない…あ、あった。
バグポーチ。中身は入ってないし、幾らでも作れるけど…見知らぬ他人には渡したくはないな。

俺が集めた情報的に、この世界でのバグポーチの価値はかなり高い。
そんなものを他人に渡したくないんだ。

例え、物盗りにも深い事情があったとしても、俺は慈悲深い人間じゃないし、なによりも独占欲が非常に強い。
相手が幾ら貧しくて貧困に喘いでいようと俺の私有物を無断で盗られるのは気に食わない。

まぁ、バグポーチは俺の枕元にあるし?盗られそうになったら、改めて起きたらいい話だ。

それまでは自由にさせてやろう。このまま去ってくれるなら何も問題ないし、バグポーチを盗らなければ俺は何もしない。

盗人は部屋を物色する事なく、入り口で少しだけ立ち止まってから俺の元に迷わず歩み寄ってきた。

おそらく、部屋を見渡しても何もなく、俺の近くにあるバグポーチに目が付いたのだろう。

だけど、バグポーチは俺の枕元。俺を起こさないように盗るのは気合と根性がいる。

それが分かっているからか、俺の寝ている側で盗人は立ち止まった。

そしてーー。

「うっ…!?」

俺は死んだ。

殺されたのだ。

意識が途切れーー即座に意識が戻った。
どうやら、不死の効果が発揮されたようだ。

それにしても、意識戻るの早くない?前回はもう少し遅かった筈なんだけど…。

そんな事を考えていると、視界端のマップに俺を殺した物盗りがこの場を後にしようとしているのが目に入った。

おそらく、俺の予測が正しければ、次の目的地は隣の部屋。リョウの部屋だ。

……はぁ。仕方ないなぁ。

「隣の部屋に行くんでしょ?あまりオススメはしないかな?アイツなら起きてるし」

「ーーっ!?」

おぉ〜。ビックリしてるぅ。

そりゃそうか。殺した相手が生きてるんだ。驚かないわけがないよね。

それはそうとーー。

「目的は俺達の暗殺。雇い主は闇ギルドって所かな?」

ちょっとカマをかけてみたけど、反応なしっと。
まぁ、ほぼほぼ確信してるからカマなんて掛ける必要なんてないんだけどね。

「あ、別に警戒しなくても俺は何もしないよ?それよりも、早く戻って報告した方がいいんじゃないかな?俺達の暗殺は失敗。二人共起きていて、知らぬ間に幻覚を掛けられていたって」

「ーーっ」

驚いてばっかだな。
でも、その反応が面白い。

「でも、君も運がいい。もし真っ先にリョウを狙ってたら今頃襲われてたよ?アイツ最近は興奮気味だし、女の子が部屋に入ってきたりなんてしたら間違いなく狼に変身しちゃうからね」

「………」

言い回しが悪かったのかな?
どうやら俺の伝えたい事が伝わっていないように見える。

まぁ、別に良いけど。

「さて、話はこれぐらいにして、出て行くのなら窓から出て行ってね。痕跡を残されると処理が面倒だからさ」

俺はニッコリと笑って、立ち去る事をお勧めした。


ーーー


〜???視点〜

ここは、どこかの建物の地下にある牢獄のような場所。

「…失敗したのか?」

そこには無精髭を生やした男と布で顔を覆った黒装束の女性がいる。

男の格好は、そこらで歩いている人々と大差はない。しかし、歴戦を思わせる風貌に、身体中に付いた傷や腰にぶら下げられている真っ黒な剣が、そこらの人間でない事を伝えてくる。

女性は顔色を変える事なく小さく頷くと、男の額に血管が浮かび上がった。

「なぜだ?ソイツとは二度も顔を合わせているんだろ?ソイツの力も見た筈だ。なのに、どうして失敗したんだ?」

「………」

怒りを隠そうともせず、男性は静かに怒気を含めた声で語りかける。
それに対して、女性は顔色一つ変えないものの、視線を地面に落とす。

「……」

「あー、クソッ。喋れなくしたのは間違いだったな。取り敢えず、コイツは任務に失敗したから、廃棄だな」

無慈悲にそう告げると、男性の影からヌルリと体長2メートルを超える鎧が現れた。

その者は、全身を無骨で真っ黒な鎧で覆い隠しているので男か女かは判断が付かない。ヘルムから覗く金色の瞳には全く正気が感じられず、まるで人じゃない生き物のようにも感じられる。

男性が手を軽く振ると、黒い鎧が一歩前に出て女性の首を掴んだ。

そしてーー彼女は首をへし折られて死んでしまった。


ーーー


〜ヒビキ視点〜

「クハハッ。物の見事に殺されてんじゃん。マジ笑える。アハハハハッ」

そう。何を隠そう。
俺は、素直に窓から立ち去った暗殺者の跡を付けていたのだ。

そして、暗殺者が殺される場面を目撃した。目撃者なのだ。

気配を殺すのは得意なのだ。えっへん!

とまぁ、巫山戯るのもここまでにして、男が立ち去るのを見送ってから、殺された暗殺者の元に向かう。

何か面白い物とか持ってないかなぁ〜。

なんて思いながら死体を漁り、出てきたのは短剣だけと言う虚しいオチ。
最後に、俺を殺したんだし、顔だけでも拝んでおこうと思って、フードを剥がすとーー。

「おっ?おぉっ!こ、これはもしや…っ」

ネコのミミ…猫耳だ!

ゲーム内にも居たし、キャラとしても設定できたけど、獣人なんてこの世界に来て初めて見た。
改めて、ファンタジーって思えてくる。

やべぇ。興奮してくる。
眠気なんて吹っ飛ぶぐらい、獣人の猫耳に興奮を覚える。

いや、でも、性的な意味じゃないよ?

なんて言うか…説明できないけど、愛くるしい小動物を見てハシャぎたくなる。そんな感じだ。

この猫耳…このまま死なせるのは勿体ない気がする。
なんとかして手に入れたい…。

「よしっ。取り敢えず生き返らせてみるか」

早速、『倉庫』からバグによって無制限に増殖された『神聖水』を取り出して彼女の口に突っ込む。

ーーと。

「コフッ…」

息を吹き返した。
さすが『神聖水』だ。3分以内ならどんな傷でも、どんな状態でも完全完璧な状態に癒してしまう。

例え、死んでいようと…ね?

「おはよう。寝起きはどう?よく寝れた?」

「………っ」

少女は暫くポカーンッと抜けた表情を浮かべた後、驚いたように両目を見開いた。

でも、彼女がとった行動はそれだけ。
自分の安否を確認する事も、俺から距離を取る事も、さらに言えば、なぜ生きているのか、なぜ俺がここに居るのか。それらの事を聞いてこなかった。

いや、彼女の瞳が強く語り掛けて来ているような気がするけど、声には出しては来ない。

「うん。大丈夫そうだね」

見た目的には彼女の身体に不具合はなさそうに見える。
潰れた首も、服の裾から覗いてる古傷も、跡形もなく治っている。

これでもし大丈夫じゃなければ、『神聖水』がまだ信用できない代物だって事になるし、実験も含めて一石二鳥だ。

「さて、生き返った君に質問。俺と一緒に来る気はある?」

「………」

彼女は語らない。
だけど、何かを伝えようと俺をジッと見つめて来ている。

でも、その眼差しの意図を掴む事は俺には出来ない。
なにせ、読心術とか使えないんだもん。

「嫌なら別に良いんだよ?ただ、その耳を触らせてくれるだけで俺は満足するから」

ニッコリと笑って彼女に歩み寄って頭に手を置こうとすると、彼女は無言で頭を差し出してきた。

耳を触るのはオッケーのようだ。









猫耳を暫くの間触らせてくれて満足したので、彼女の頭から手を離す。

「………」

そしたら、彼女は無言で。かつ、何やら物寂しげな目をして見上げてきた。

ゲーム風で言うならば、猫耳少女が仲間になりたそうにコッチを見ている。的な感じかな?
いや、少し違うか?

どっちでも良いか。

「…俺と一緒に来る?」

ゆっくりとだがコクリと頷く猫耳少女。

猫耳がピクピクと動いているのが面白い。触りたい衝動に駆られるが、我慢。

取り敢えず、リョウにどう説明しようかと悩みつつ、晴れて猫耳を手に入れる事ができた。

ただし、猫耳を持ってるのが人であり女であるので…後々、よく考えて接しないいけないかもしれない。

そう言えば、この子の名前ってなんだろ?
帰ったら聞こう。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品