ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

分かります。お・は・な・し、ですね?


「次は私ですね」

どうやら、次の順番はミミルのようだ。

もしかして、この順番って席順で決まってるのかな?

窓際にリョウ、俺が通路側。
対面にアリサ、リーリ、ミミルの順だ。

男女で別れていているから、リョウのスペースは広々としている。
俺はちんまりと肩身狭くミミルの対面に座っている。

「まずは、ドコさん。リョウさん。私を奴隷商から助けて頂いただけでなく、こんな高そうな宿に泊めてくれてありがとうございます」

「良いってことよ!フハハハハッ!」

ミミルのお礼にリョウはご機嫌な笑い声を上げた。
俺はニッコリと笑っておく。

「話は数日前…ドコさん達がマバルツ村に訪れた時の事です」

かなり前の話…いや、そう感じるだけで、この世界に来てから一週間ぐらいしか経っていなかったんだったっけ?
随分と一日が長く感じる。これが充実してるって事なのかな?

それはともかく、なぜかリーリが生唾を呑み込んで、真剣な表情になった。

「私達の村は近くに災害魔獣が住み着いてしまって悪天候が続き、太陽の光すら浴びる事ができず凶作続きでした。その日に食べる物を探すのも精一杯で、それでも村のみんなで力を合わせて数少ない食料を分け合って、毎日をなんとか生き長らえていました」

アリサが涙ぐみ始めた。
……って、リョウもかよ!?

こんなリョウ、初めて見た!貴重だ!レアだ!写メ!写メ!って、スマホなかったんだった…。残念…。

「そんなある日…近くの森でその日分の食料を探している時、森の奥から魔獣のような雄叫びが聞こえて来たんです。いつもならすぐに逃げ帰って村の人達に知らせるんですけど、その時は一週間近く水しか飲んでなかったから逃げる事が出来ず、近くの木に隠れる事にしました。ただ、魔獣が私に気付かずにどこかに行ってくれるのを祈って、ただ待ちました」

心配そうな表情をしたリーリがミミルを見やる。

リーリはリョウみたいに感情が表に出やすいから、なんとなくリーリの感じている想いが分かる。

たぶん、この後の展開にハラハラしているんだろう。

「一体どれほど待ったのか分かりません。ただ、それ以降魔獣の雄叫びは聞こえなくて、もう魔獣は去ったのかと思い始めてた頃。すぐ背後の草を踏む音が聞こえたんです。もうダメだって思いました。でも、いざ振り返ってみると…」

「俺だなっ!」

おい、良い所で話を割り込んでやるな。
リーリとアリサに睨まれてるぞ。

「はい。リョウさんがドコさんを背負って私の前に現れたんです。そして、私に『ちーと休ませてくれ』って言って倒れてしまいました。あの時のことは忘れられません…」

森で出会ったの?
俺達はバマルツ村に出現したんじゃなくて、森の中に出たの?

そんな事、リョウの口からは一言も聴いてないんだけど?

チラリと横目でリョウを確認してみれば、恥ずかしそうに頬を掻いていた。

「取り敢えず、私はドコさん達を家まで運ぼうと思いました。でも、二人とも私よりも大きくて、重たくて、私じゃ持ち上げれなくて…村の人を呼ぼうかと迷ったんですけど、そのまま置いておくと魔獣の餌になってしまいそうでしたし、私が居ても変わらないと思いますけど…けれど、私はドコさん達が起きるのをずっと待ちました。近くの草むらに隠して、一晩ずっと待ち続けました」

リーリからの冷たい視線が突き刺さる。
これはアレだな。きっと『女の子一人に何させてるのよっ!』って言いたいんだな。

うん、俺も思った。

「そして、朝になるとリョウさんだけが目を覚ましました。リョウさんは私を見るなり凄く怖い顔をして私に村まで案内を頼みました」

あ、リーリの冷たい眼差しがリョウに移った。
リョウは気まずそうに視線を逸らした。

「マバルツ村は何もありませんけど、井戸の水はあるので、身体を休ませるぐらいはできます。だから、てっきりリョウさんはドコさんを私の家で休ませようとしているんだと思ってたのですけど…」

何やら躊躇いを見せるミミル。顔を伏せって言い辛そうに口を何度か開け閉めし、そして、覚悟を決めたかのように顔を上げて言った。

「どうしてか分からないんですけど、リョウさんが墓地に案内して欲しいって言って…それで…」

あぁ、結末が見えた。
案内したんだね、ミミル…。

「リョウさん、墓地に着くとお墓を掘り返してドコさんを埋めてしまいました…」

この場にいるリョウと俺と喋り手のミミル以外ーーアリサとリーリが愕然とした。
そして、俺に疑問と同情を入り混じらせたような眼差しを向けてきた。

…なんて言うか、その…同情しないで欲しかった。
なぜか心が無性に痛むんだ。

「それから、穴を埋めた直後、まるで天からの啓示が指し示されたかのようにーーゾンビ達が蘇り、墓地を闊歩し始めました」

アリサとリーリが向けてくる視線から同情が消え去り、疑いだけが残って俺に突き刺さる。

「私には何の力もなかったのですけど、少しだけ魔法を使う事が出来ました。だから、襲ってくるゾンビだけを浄化していると…ドコさんを埋めた場所が盛り上がり始めてゾンビが飛び出してきました。突然の事で驚いた私は攻撃魔法を撃ってしまい、ゾンビの背後にいたドコさんまで巻き添いにしてしまって…」

え…?
あの時、俺が気を失ったのにはそんな経緯があったの?

「ゾンビが盾になったお陰で威力は削がれたんですけど、穴から出したドコさんの姿は…その…」

言い辛そうに言葉を濁すミミル。
リョウも顔を歪めて俺から視線を逸らしている。

リョウがそんな反応をする程って…その続きが凄く気になるんだけど。

「…酷かったです」

酷かった?え?それで終わり?

「兎に角、そのままにしているとドコさんが死んでしまいそうだったので、私とリョウさんは急いで家に戻ってドコさんを回復させようとしました。でも…上手くいかなくて…」

え?なに?どうなったの!?
俺、一体どうなってたのっ!?

「薬草を煎じた傷薬も途中で切らしてしまって…私は急いで森に取りに向かいました。そして、戻って来た時には…」

ゴクリと生唾を呑み込み、話に集中するリーリとアリサ。
リョウは視線を逸らし、俺は自分の事だから内心ヒヤヒヤしている。

「ほとんど治りかけていて、起き上がってリョウさんと楽しげに会話してました。私が『ヒール』を掛けると、全て治ってしまう程に…」

え?治ってたの?
謎の怪我が謎の現象で治ったの?

訳が分からないんだけど?
そりゃ、ゲームだと時間経過でHPが回復するけど、ここはゲームじゃない。リアルだ。
そんな都合の良い話がある筈がない。

なら、どうして?

チラリとリョウに視線を向けると、目が合った。そして、物凄く良い笑顔でニカっと笑い返して来た。

なにそれ、怖いんだけど…。

「その後、お二人は笑って私の家から出て行きました。ドコさんはすぐに戻ってくるって言ってたんですけど、私にとってお二人は何年か振りに家に入れた人で…もう戻って来ないような感じがして…少し寂しかったです…」

なんだか話手のミミルが悲しそうに目を伏せているような気がする。
まぁ、そんな雰囲気がするだけで、彼女の目は髪で隠れてしまってるから実際は分からないんだけど。

「でも、数日で本当に戻ってきました。お二人が戻ってきて私は心からホッとしました。それから、どこで手に入れたのか分かりませんが、ドコさんがバスケット一杯に入った白パンを分け与えてくれました。次の日には、調理されたパンも出してくれて…ちゃんとした物を何年も口にしてなかった私にとって、ご馳走でした。とても美味しかったです…」

また食べたい。そんな意思がミミルの言葉から伝わってくる。

そうだね。また出してやろう。
俺も食べたくなってきたし。

「そして、その日。村を脅かしていた厄災魔獣が倒されていました。詳しい事は分からないのですけど、村長が『カオスト様が助けて下さった』と言ってました。それに、それだけじゃなく、『カオスト』様のお遣い様が食材まで分け与えてくれたそうです。『カオスト』様のお陰で数年振りに村の皆に笑顔が戻りました」

嬉しげにニッコリと微笑むミミル。
その隣のリーリは嗚咽を漏らして泣き始め、アリサさんがハンカチを渡している。

「ぶーっ!」

あ、鼻かんだ。
アリサさん、笑顔を浮かべてるけど若干引いてる。

「次の日。ドコさん達が旅立ってしまいました。私の勝手な話をすると…一緒に村で暮らして欲しかった…でも、ドコさん達は旅をすると言ってて…お恥ずかしい話ですけど、お二人が村から出て行くまで私は部屋で篭ってて、何も出来ませんでした」

おおう。そんな事情があったのか。
見送りが村人だけで、ミミルは居なかったから、てっきり俺達が去って精々してるのかと思っていたよ。

「でも、私は決意を固めて村を出る事にしました。村長にも話をして、私はお二人の後を追いかけました。駆けて、駆けて、駆け続けて…そして、ようやくお二人の背中が見えた時。ドコさんが、どこからともなく大きな鉄の箱を取り出して、お二人はそれに乗って凄い速さで去って行きました…」

リーリがジト目を俺とリョウに向けて来る。

でもさ、言い訳を許してくれるなら、俺、知らなかったんだもん。まさかミミルが背後から追いかけてきていたなんて、全く知らなかったんだ。仕方ないじゃん?

「それでも、私は諦めずに二人の後を追いかけましたけど…いつまで経ってもお二人に追い付く事ができず…途中で奴隷商に捕らえられてしまって…」

徐々に話の内容が暗くなって行く。
それに伴ってリーリも暗い表情を浮かべて行く。

本当にリーリはわかりやすい。

にしても、ミミルはそれで馬車に乗せられてたんだ。納得。

でもあれって闇ギルド関係の奴隷商だよね?他に奴隷商があるのかは知らないけど、あのままじゃきっと良い未来は待ってなかったと思う。

そう考えると、間違っても他の街に連れて行かなかっただけ、あの奴隷商には感謝しなきゃならない。

生かしておいて正解だった。後でキッチリとお礼をしなきゃならない。

「でも、良い事もありました!ドコさん達が助けに来てくれたんですっ。私を捕らえた奴隷商だけでなく、その関係者のような人達も、ドコさん達の前では手も足も出せずに、最後には全員を黒い影で包み込んで無力化したんです!」

暗い空気から一転。随分と明るい話になった。

話手のミミルが楽しそうに話すものだから、余計にそう感じる。
ちなみに、リーリは一瞬だけ英雄譚を聞く子供のようにキラキラと瞳を輝かせたけど、それも一瞬の話。すぐさま疑いの目で俺達を睨みつけて来た。

本当の話なんだけど…?

「そして、私はドコさん達に保護され、宿屋に泊まらせてくれました。ドコさんとリョウさんには感謝してもしきれません」

「当然の事をしたまでだぜ!」

お前は何もしてないだろうが。

これで話は終わりなのか、ミミルは「ふぅっ」と一息つくと水を口に含んで口元を緩めて天井を軽く仰いだ。

まるで、昔を思い出しているかのような、誰かを思い浮かべているかのような、そんな感じを受ける。

「次は私ね!私の名前はリーリィ!リーリィ・ランスロットよっ!」

「…別名、災禍の剣姫。プフッ」

ボソリと呟いた俺の声を耳聡く聴いたリーリが顔を鬼のように真っ赤にして怒鳴る。

「その名前で呼ばないでって言ってるじゃないのっ!」

ついでに、水の入ったコップも飛んで来た。

濡れるのは嫌だったから、水を零さないように上手く受け取って机に置いておく。

「っ…」

リーリは驚きと悔しさを噛み締め、俺を睨みつけながら話を続ける。

「私がその名前が嫌な理由を教えてあげるわっ!私の家族はね!私を産んだその日に魔物に襲われて死んだわ!それから、私を拾った孤児院も魔物の群れに襲われて私を残して全員食べられたのっ!私が立ち寄った村も街も、全部!どこに行っても、私が少しでも長居した場所は魔物に襲われて失くなったわっ!どう!?これで満足かしらっ!?」

あー、なるほど。
魔物の災害を引き寄せる者。だから災禍なのか。

それが小さい頃からって…それはそれで凄いなぁ。

「ハッ!それがどうした!?」

おい煽るな。リョウ。
リーリが凄い形相で睨んでるぞ。

「それぐらい俺等なら幾らでも相手してやる!つーか、そんな雑魚如きにやられる俺じゃねぇし、襲って来る奴は全員消し炭にしてやるぜっ!」

おー!リョウちゃんカックイー!

でもさ、それって何だか遠回しの告白に聞こえてしまうんだよねぇー。

そう思ったのは俺だけじゃなかったようで、アリサさんは慈悲深い笑みを浮かべていて、リーリはーー。

ポカーンッと間抜けな顔をしていたと思えば、顔を耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
胸の前で指先をツンツンしている。

相当、恥ずかしいセリフを言われて、どう反応すれば良いのか分からない。っと言った風を受ける。

「ん?なんだ?」

彼女達の反応がイマイチだったからか、リョウが不思議そうに首を傾げて俺を見て来た。

…うん。自覚なさそうだし、俺は何も言わないでおこう。

決して、脈ありなんじゃ…?なんて野暮な事は言わない。
だって俺は紳士なのだから。こんな面白そうな事は後にとっておくに限る。

「それは兎も角さ、リーリの話はそれで終わり?」

「そ、そんなわけないでしょ!まだまだ話し足りないわよっ!」

俺的に終わってくれたら良かったんだけど…。

「でも、今日はここまでにするわ!私は帰る!」

まるで顔を隠すように椅子を引いて俺達に背中を見せるリーリ。
後ろ姿からでも耳が赤いのが分かる。

それでも、余程、顔を見せたくないのか、そのまま近くの窓から去っていった。

そんなに顔を見せたくなかったのか。

「うん。じゃあ、俺達も解散しよっか?」

リーリが開けた窓から見える外の世界は、暗くなっていた。
どうやら、いつのまにか夜になっていたようだ。この店に入ったのが夕方だから…時間が経つのは早いものだ。

「私の話も聞いて欲しかったんですけど…残念です。では、また明日ギルドで会いましょう。ドコさん」

「うん。また明日」

次に退出したのはアリサ。
ニッコリと笑みを残して帰って行った。

「俺は今日も部屋で最強の魔法を考えてるから、何かあっても呼ぶなよ!」

その次はリョウ。

……って、ちょっと待って。今日も?今日もって事は…もしかして、昨日も、その前も起きてたの?

確かに言われてみれば、リョウの目の下に薄っすらとクマが出来ている。

…コイツ…バカだ…。

もしかすると、理由は分からないけど、変にテンションが上がって夜も寝れない日々が続いてる。そんな感じかな?
俺の勝手な憶測だけど。

そんな事を考えていると、リョウはさっさと借りている自室へと戻る為に宿屋の階段を上がって行った。

残されたのは、ミミルと俺だけ。
暫くミミルと無言で見つめ合う。

とは言え、ミミルは前髪で両目が隠れているから俺の目を見てるかどうかも分からない。
そして、俺はミミルの目を見てるわけじゃなくて、少し上の…頭のテッペン辺りを見ていたりする。

それは兎も角…うん。……俺も寝るか。
っていうか、寝たい。すごく寝たい。
布団が恋しい。あ、違った。ベッドが恋しい。

そんなわけで、俺も寝ようと立ち上がると、ミミルも同時に立って呼び止めてきた。

「あ、あのっ!ドコさんっ!」

「ん?」

「そ、その…私も旅に連れて行ってくれませんか…?」

「んー、そうだね…。今からマバルツ村に送るのもアレだしね…。とは言っても、俺には誰かを守れるような力はないし…俺達に付いてきたら嫌な事とか、 面倒事ばかり起こるよ?それでも良いの?」

「はい!」

間髪入れず気合の入った返事が返ってきた。
言った後にオドオドとし始めたけど…そうか。それだけ覚悟が決まっているのか…。

いや、覚悟を決めたからこそ、この場にいるんだよね。

それなら、無碍にするわけにもいかない。

「良いよ。まぁ、俺が決める事じゃないんだけど、ミミルが付いて来たいのなら好きにすると良いんじゃないかな?あ、でも、ミミルが俺達の元を去る時は一言だけでもいいから言って欲しい。そうじゃなきゃ、俺達は本気でミミルを探す事になるから」

旅立つ時とかに居てくれなきゃ困るしね。
報告・連絡・相談であるホウレンソウの三原則は大切。これ、絶対。

「わ、分かりましたっ」

元気があって大変よろしい。

「あと、ずっと気になってたんだけど、その前髪…切らないの?」

「…へ?」

「いや、それがダメって訳じゃないんだけど、周りが見えにくくないかな〜って思ってさ」

髪が視界を邪魔してる気しかしない。
ミミル的にはそれが丁度いいのかな?それとも、問題なく見れてたりするのかな?

「そう…ですね。お母さんが居なくなってから髪を切らなくなったから…。部屋に戻ったら切ってみる事にします」

「え…いや、そんなつもりで言ったわけじゃ…」

そんな事情があったなんて知らなかったんだけど…。
いや、言われてみれば、前髪だけじゃなくて、他の…全体的に髪が長いけどさ…。
まさか、そんな重たい話だなんて思わなかった。

「やっぱり、髪を切らない方が良いですか…?」

髪の隙間から覗くつぶらな瞳を潤わせて俺を見上げてくる。

まるで小動物が小首を傾げて見上げてきているようにも思える。
ちょっとカワイイと思っちゃった。

「俺的に、どっちかって言うと切った方が周りが見えやすくなるし、視界の邪魔にもならないから切った方が良いと思うんだけど…。嫌なら別に…」

今でも十分ミミルらしいから、どっちでも良いと思うんだけど。

「切ります!」

あ、はい。そうですか。

「うん。それじゃ、俺は部屋にいるから何かあったら呼んでね」

「はいっ」

何やら決意に燃え始めたミミルを目の端に、俺も部屋へと向かい始めた。

「ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く