ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

俺はホモじゃないっ!!



「あぁぁぁ!!もう!」

久々に声を張り上げて、ついでに飛んで来た数本の矢を掴み取りつつ、言う。

「エルタ君。君は男の子なんだから、これっしきの事で泣くなっ!あと、リーリとミミルは後で!受付嬢さんも、後!適当に近くの店に行っといて!それからーー」

さっきから変なタイミングで矢を射ってくる男と、その左右に立つ者達を睨み付けて、矢を持った腕を引く。

「これは返すっ!」

さっきまでで手に入れた矢を、全てスキル『投擲』を加えて投げ付ける。

俺が投げた矢は轟ッと音を立てて風を纏い、闇ギルドの連中に向かって行く。

致命傷を狙った訳ではなく行動不能に陥らせるのが目的だったんだけど、一人だけ心臓を射抜いて殺してしまったようだ。

『投擲』は威力が高くなるだけなのか。覚えておこう。

残りの二人の内、一人は肩を抉り取られ、もう一人は片脚を失って、全員屋根から建物の裏手に落ちて行った。

ついでに言うと、投げた矢は空の彼方まで飛んで行った。

「はぁ…」

闇ギルドに迷惑を掛けたのは俺とリョウに責任があるし、リーリとミミルがこの場に居合わせたのは俺がマップを確認していなかったからだし、エルタ君の面倒を見ることになったのは俺が神父の格好なんかしてるからだし…。

ほんと、碌でもない人間だな…俺って…。

元はと言えば全部俺の失態が原因なのに少し怒ってしまったのが、今更になって悔やまれる。

俺が突然怒鳴るものだから、みんな固まってしまっている。
でも、そんな空気を破って声を発した者がいた。

「じゃあ私達はそこの店に居るわ。ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」

「うん…。説明するよ…」

リーリだ。
随分と肝が座っている。

リーリがミミルと受付嬢を促して店に入って行くのを見届けてから、泣きそうになりつつ驚きで涙が止まって、涙目で口を半開きにさせて固まると言った妙な状態になってるエルタ君に視線を転じる。

「エルタ君。お母さん、探しに行こっか?」

「…う…ん…」

なぜか怯えられた。

まぁいいや。

あとは、エルタ君の母親を探すだけだけど…。俺、人探しとか苦手なんだよねぇ。

そんな事を思っている最中。まさかの展開が…っ。

「おっ!ヒビキじゃん!」

「リョウ…?」

声が聞こえて不意に頭上・・へ視線をやると、リョウの姿が目に入った。
なにやら背中に抱えているような。そんな姿でスタッと俺の前に降り立つ。

「何してんだ?」

「お前こそ」

鼻の下を伸ばして、何してんだ?
お子様には見せれないような下品な顔になってるぞ?

「俺はギルドの依頼をしてんだ!」

ドヤ顔で言われてもな…。
もう、顔がアウト。変質者みたいな顔して街中を出歩くべきじゃないと思う。

最悪、通報されるよ?

「ちなみに聞くけど、その依頼と、その背中の人、関係ある?」

「モチのロンだぜ!似顔絵とか見せられても分からねぇからなっ!」

リョウの背中に誰か背負われているようだけど、顔は見えない。辛うじて髪色と服装が分かるぐらいだ。

「似顔絵って事は…誰か探してたり?」

「おう!ちょうど、そこに居るガキみたいなヤツだなっ!」

って事は…もしかして…?

「背中の人、少し降ろしてくれないかな?」

「………」

そんなに嫌そうな顔するなよ。

「はぁ…リョウ?」

「……ちっ」

舌打ちするなよなぁ。
でも、素直に従うから強くは咎められないんだよねー。

リョウが背中に背負っていた人物を降ろして、彼女の姿が露わとなった瞬間。

「おかあさんっ!」

「エルタっ!?」

俺の予想通りの展開になった。

そして、『大きな胸だな』っと思った。
胸の大きさを見て測る術は俺にはないけど、ただただ大きいと思った。それはもう、メロンサイズと言えるぐらいに。

あぁ、だから、リョウは彼女を降ろすのを渋ったのか。

背中にあんなモノを押し付けられたら、男なら鼻の下ぐらい伸ばしたくなるだろう。

納得。

リョウに親の仇を見るような眼差しを向けられつつ、俺は微笑みを浮かべたまま二人に話しかける。

「良かったね、エルタ君。もう迷子になったらダメだよ?それから、男なら…」

「泣くなっ!だよね?」

セリフを取られた。
まぁ良いや。分かってくれてるみたいだし。

そんな彼を見ていたエルタ君の母親は、瞳を潤ませて感激していた。
おそらく、相当な泣き虫だったんだろう。

ニッコリと笑って頷くと、エルタ君はビクッと震えた。

どうして?

「男は強く、逞しく。誰かを守ってやれる力と、根性。そして、立ち向かう勇気。それがあってこその漢。忘れちゃダメだよ?」

「うん!」

リョウの視線が痛い。
『お前が言うか?』と言ってるような意思がビシビシと伝わってくる。

まぁ、見ての通り、俺はヒョロヒョロだし?この世界に来る前なんて力はそれなりにあるものの、怪力と言うほどじゃなかった。

全力で軽車両を少し持ち上げれるのが関の山だった。

でも今じゃ違う。
大型トラックですら片手で軽く持ち上げられる力はある。
誰かを守るだけじゃなく、幸せ一杯な平和な世界を力強くで作り上げる事も可能な程だ。

文字通りの『力強く』だけど。

「ありがとうございます。神父様。この子ったら、初めて家の外に連れ出したものだから、興奮で周りが見えなくなって、少し目を離した隙に居なくなっていたもので…冒険者のリョウ様も本当に感謝致します。こんなにすぐに見つかるなんて…依頼の報酬額には色を付けさせて頂きます。本当にありがとうございました」

俺とリョウに深いお辞儀をして礼を伝えるエルタ君の母。
その整った優雅な礼を見る限り、そこらの一般人じゃないのは確かだろう。

おそらく、貴族か、それに準ずる位を持った人だと思う。

喋り方も俺とリョウで変えてるみたいだし、切り替えの上手い人だ。
俺には真似できない。

何度もお礼を口にしてから、エルタを連れて彼女達は去って行った。

その際「あの神父様こわかった…」と言うエルタ君の声が耳に入ってきたけど、俺は聞かなかった事にした。

「あーあ。俺の至福の時間が」

どうして俺を親の仇みたいな目で見る。
そんな眼差しで見るのはやめて欲しい。俺は善い行いをしたはずなのに、そんな目で見られる謂れはないはずだ。

「そんな事より、そこの店に入らない?リーリとミミルと受付嬢さんが居るんだけど」

「ハッ!?まさか、お前…っ!三股かっ!?」

「どうしてそうなる。話がややこしくなりそうだったから、店に入ってて貰ったんだよ」

「とか言いつつ〜?」

「そんなんじゃないよ」

しつこいんだけど。

「ほれほれ、正直に話してみな?ぜーんぶ聴いたるぞ?」

「違うって言ってるでしょ?俺は女性が苦手なんだよ」

「そんじゃ…ホモかっ!?」

俺から一歩身を引いて、両手で自分の体を抱いて嫌悪感を醸し出し始めるリョウ。

そのオーバーリアクションはなんだよ。
分かってるくせに、わざわざ言わせるなよ…。

「ホモじゃないよ。まったく…。一体何度言えば分かるの?昔のトラウマが原因で、苦手意識があるんだよ…。そりゃ、以前と比べたら、二人っきりで喋ったり出来るようになったりしてマシにはなってるけど、やっぱり無理なものは無理。苦手なのは変わらないよ」

口では言えないけど、俺の特殊性癖も関係していたりするけど…恋なんて感情はどこかに置き忘れてしまったから関係ない。

人に恋を抱く。その感情が俺には分からなくなってしまった。
少し前…数年前までは、見かけただけで胸がドキドキする人が居たんだけど…最近では、そんな動悸すらしなくなった。

理由は分からない。その人が好きだったって事も理解しているつもりだった。だけど、なぜか興味が失くなった。

どうしてか、誰に対してもなんとも思わなくなった。ゲームキャラにも、アニメキャラにも、何も思わなくなった。

もう末期だ。そうとしか思えない。

それに、俺には問題が多すぎて人を好きになる権利なんてない。だから、丁度良かったのかもしれない。

なんて考えながら、茶化してくるリョウを適当にあしらいつつ近くの店に入る。

この店は一見、普通の喫茶店のように見えたんだけど、中に入ってみればバーのような洒落た酒場だった。

なぜ酒場かと分かったか。

それは、単純に臭いだ。
酒場特有の酒の臭い。客は少ないものの、みんながみんな酒を煽って口から意味不明な言葉を垂れ流している。

ただ、ここ最近、俺の鼻がおかしい。

いや、鼻に限った話ではなく、目も耳も五感全て。ただ、今回に限っては鼻だったという話だ。

そして、俺の鼻がおかしい所為で、次に俺が取る事になった行為は必然的だった。

「うっ…おえっ…」

えずいた。

吐きはしなかったが、吐瀉物が喉元までせり上がってきた。

なぜか。そんなのは分かりきっている。
鼻が良くなり過ぎているからだ。

この店に漂う酒の臭いは、普段なら気にする事はなく気付かない程の僅かな臭い。
なのに、俺は店に入った途端にえずいた。

それは、店の外へ臭いが僅かしか漏れ出ておらず、隣の店がいかにもな酒場だったから、そこからだと思い込んでいたからだ。

結論を言うと、全部俺のミスだ。

俺のミスが原因で、こんな事になってしまった。
あと、今すぐにでも、この店から退出したくなった。

たぶん、今の俺の表情は、顔に張り付いた笑みと嫌そうな顔が相まって醜悪に歪んでいると思う。

「よ、よし、帰ろうか」

だから踵を返して帰ろうとしたんだけど。

「おいおい、連れねぇこと言うなよな。折角の休みだぜ?楽しむべきだろ?」

リョウが、帰ろうとした俺の肩を掴んで止めてきた。

休みじゃないし、こんな悪臭の充満する場所で楽しめるわけない。

そんな俺の気持ちなどそっちのけでリョウは俺の肩から襟首に手を移して首元の襟を掴むと、嫌がる俺を引き摺って奥へと。リーリ達が待つ机席へと臆すことなく歩いて行った。


〜〜〜


その後、終始俺が笑顔を浮かべたまま固まっていたため場所を移す事となり、俺達が借りてる宿屋の一階にある食事処に移動した。

「だ、大丈夫ですか…?」

「うん。もう平気。ありがとね、ミミル」

俺の事情を知ってか、心配してくれるミミルに礼を言うと、顔を赤くして俯いてしまった。

両目が前髪で隠れているから、ミミルが何を考えているのかよく分からない。
でも、心配してくれるのは素直に嬉しい。

残りの方達は、心配の"し"の文字すらないんだもん。

「ーーでよ、降りた先にヒビキが居てな。そこにガキも居たからカリィルを降ろして確認させてみたら、ドンピシャ。カリィルのガキだったんだ。そんで、依頼は終了。後は、ヒビキとあの酒場に行ったってわけだ」

どうやら、リョウ達は自分の今までの行動を説明していたみたいだ。

そんな風に思っていると、ふと、全員の視線が俺に向けられた。

俺、何かした?

「次、お前だぞ」

「……?」

「順番だ、じゅ・ん・ば・ん。次はお前の話す番だ」

あぁ、そう言う事ね。

察するに、これまでの経緯を話す感じかな?

「えーっと、何から話したらいいのか…」

今日の話だけ?
昨日の晩の事?
それとも、俺が襲われた所から?

「昨日のあの事から、さっさと話せ。後がつっかえてんだ」

後が居るんだ。
じゃあ、どうして俺が次に回されたんだろ?

まぁ良いか。リョウが話し始める所を指定してくれたし、その方が話しやすい。

「えっとね、昨日の晩は、リーリと別れた後は普通に帰って寝てたんだけど…」

そこで、リーリに睨まれた。
『なんであの事を話さないのよっ!』って瞳が語っている。

それをニッコリと笑い返してスルー。

「嫌な予感がして起きたら、リョウが居なくてさ。で、探してみたら、スラム街で困ってたミミルを助けようとしてくれてたみたいで、俺の出番はなくリョウの活躍で解決」

リョウが自慢気に鼻を伸ばして笑った。
ミミルは不思議そうに首を傾げている。

「それから、受付嬢さんとの待ち合わせの時間に間に合わせるため、急いで中央広場に向かって、適当に歩き回った。以上」

説明が下手でごめんなさい。
あと、嘘だらけでごめんなさい。

「あの、私、確かに受付嬢をしているんですけど、アリサって名前があるんですが…」

「ごめん…。そう言えば、名前聞いてなかった…」

「あ…」

受付嬢ことアリサさんが何かに気付いたような顔をすると、顔を赤くして俯いてしまった。

まぁ、俺が名前聞かなかったから、アリサさんも自分の名前を言ったものだと思い込んで名乗るのを忘れていたんだろう。
そして、それに気付いて恥ずかしくなった。そんな感じかな?

「ねぇ。肝心な所が抜けてのだけど?」

「肝心?」

嘘まみれで全部話したと思うんだけどな?

「さっき私達と会った時の事よ。アンタ、誰かに狙われてたでしょ?まさか、背後から飛んできた矢を手掴みで防ぐとは思わなかったけど…なに?アンタ、背中に目でもついてるの?」

「あっ!それ、凄かったです!あんな芸当、ギルド嬢を5年近く勤めてますけど見た事ありませんよ!どうやったのですかっ!?」

おおう。恥ずかしがっていたアリサさんが復活と同時に興奮し始めた。

こう言う事に興味があるのかな?

それとも、冒険者なんて戦闘職ばかりを見る仕事柄、興味が惹かれたのかな?

まぁ、どっちでも良いか。

「あー、あれは風切り音が聞こえたからだよ。あと、視界の端に見えたし、あのままだとエルタ君に当たると思って掴んでみた」

「そんなバカな話…」

「リョウにも出来るよ?」

「お?そうなのか?」

なんで自分の事なのに知らないんだよ…。

「ゆっくり飛んできたボールは掴めるよね?」

「おう、余裕だな」

「じゃあ出来る」

「なんでよっ!?」

リーリがなぜか喚いてる。
さっきから俺に対して否定的な発言ばかりしてくる。

どうして?

「ボールと矢の速度は全然違うのよっ!?それをどうやって掴むのよっ!」

そう言われても…あれくらいの速度だったら、意識しただけで本当にそれぐらいに見えるんだもん。

でも、リーリの言いたい事はなんとなく分かった気がする。

俺達からすれば、背後から飛んでくる弾丸を目で見る事なくキャッチしてる奴を見ているような感じなんだ。
だから、リーリは驚いたり怒ったりして感情をコロコロ変えてるんだ。

……でもさ、今の俺達って…弾丸でも掴めそうなんだけど…?

「まぁ、それはさておき、俺がリーリ達と会った時の話だね」

「リーリィよっ!それと、話を逸らさないでよっ!」

「あの時、俺は用事を思い出してアリサさんと別れたばかりだったんだけど、そこで迷子の子供を押し付けられちゃって困っている所だったんだ」

俺が話し始めても暫くキーキーと喚き続けていたリーリだけど、すぐに収まって不貞腐れた顔で俺を白眼視するだけになった。

「そこからは皆んなの知っての通り、通り魔に狙われたから追い払って、エルタ君の母親もリョウが連れて来てくれてハッピーエンドって事だね」

「要するに、俺サイコーって事だなっ!」

「うん、そうだね」

あの時のタイミングはバッチリだったけど、イマイチ納得できない俺がいる。

おそらく、鼻の下を伸ばしまくっていたリョウを見てしまったからだろう。

「次は私ですね」

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