ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

散々な一日(5)


『魔法の書』を使用するだけに一日を使い切ってしまった俺は、現在ーー。

「さて、どうしよう…」

悪漢に絡まれていた。

「よぅ、神父様よぉ。ちーと俺達に神の恩恵を分けてくれねぇか?取り敢えず、身包み全部寄越してくれれば、俺達は恵まれるからよぉ」

人数は5人。
中には子供みたいなナリをしているヤツもいるけど、全員が武装しており、もうカツアゲのレベルじゃない。これは、脅しだ。脅して金品を巻き上げようとしている。

「はぁ…」

まさか、一人で夜道を歩く事がここまで危険だとは思わなかった。
治安が維持され、表面上とは言え平和だった日本に住んでいた俺にとって、初めての経験だ。

恐怖よりも、物珍しさしか感じない。
内心で興奮しているのは秘密だ。

「なぁにボサッとしてんだぁ?さっさと脱げよぉ」

「俺、神父だよ?神父襲うの?だって神父だよ?神様に仕えてるんだよ?バチとか当たっちゃうよ?」

「襲うぅ?何を人聞きの悪い事を言ってるんだぁ?俺達は、神の恩恵に授かりたいだけなんだがよぉ?」

神の恩恵が欲しくて、神父様を襲うのか?それがこの世界のルール?

そんなわけないでしょ。

やべぇ。コイツら面白すぎる。

「ガハハハハッ!コイツはダメだ!やっぱり殺して奪おうぜ!その方が手っ取り早いんだからよ!」

俺と対話していたヒョロヒョロの男に変わって、その後ろからノッソリと出てきたガタイのゴツい男が言った。

血気盛んな事で。

でも、俺が一人の時に絡んでくるなんて、なんて不幸な輩な事か。

それに…リアルでこう言う目に合うなんて、マジで面白いんだけど。

「やめた方が良いよ。俺に関わると碌な事が起きないよ?今なら間に合うけど、どうする?」

一応、ワザとらしくやれやれと首をすくめて教えてやる。

これは忠告だ。
言外に、今なら見逃してあげるって言ったんだ。

俺の趣味に付き合わせるからには、それだけの事ぐらいしてあげなきゃ可哀想だ。

「ゲハハっ。神様の教えを伝える筈の神父様が『俺には関わるな』って言うか?笑える話だな」

「だなぁ。まっ、俺たちゃ関わるつもりも一切ないんだけどねぇ。ただ、有り金全部置いてってほしいだけなんだよねぇ。だからさ、早く全裸になってくれよぉ」

はぁ…なんて…面白い奴等なんだ!

ここで俺の言っている言葉を深読みすれば神父が『関わるな』って言っている違和感に気が付く筈なんだけど、なにコイツ等。頭悪すぎて笑えるんだけど。

見るからに悪人だと分かる輩に絡まれてるのに、平然と笑って『関わるな』だよ?
おかしな点しかなくない?

取り敢えず、チラリとマップを確認すると、コイツ等の仲間はいないのは確認できた。

代わりに、近くの建物の陰に青丸がいる。
誰かは分からないけど、俺の味方がいるようだ。
俺が絡まれている姿を見れば…そうだね、リョウなら迷う事なく助けてくれる。っと言うか、楽しげに笑いながら乱入する。

アルトなら…少し様子見をしてから状況次第で助けてくれるかな?

俺を兄貴と慕う奴等は3人で行動してる事が多いし、俺を見たら忠犬のように駆け寄って来る。

それらを考慮して、青マークはアルトの可能性が高い。
故に俺が手を出す必要性はないと判断した。

そして、趣味に没頭する事も出来なくなった。

まぁ、リョウは居ないし、別の所で全力で楽しんじゃおー。

「もうやっちゃおっ!早く!早くやっちゃおうよっ!」

「まぁ、待てってぇ。話し合いで済むなら、それに越した事はないだろぉ?」

「もう話し合いは十分だ!コイツを殺して死体を適当に捨てりゃ良い話だろうが!」

「そうだぜ、おい。これ以上時間掛けてっと、衛兵が来ちまう。さっさと済ませようぜ、おい」

あぁ、衛兵か。
そう言えば居たな。

たぶん、大穴の近くの門付近を重点的に警備してて来ないだろうけど。

「仕方ないなぁ。死体を運ぶのはお前等がやれよぉ?俺は手を貸さねぇぞぉ?」

「ゲハハっ!神父の金持ちの良さは別格だからなっ!そんぐらいなら俺様が請け負ってやるぜ!」

「それじぁ決まりだねっ!行っくよぉ!」

子供みたいなヤツがそう言いうと、小柄な体系を生かして素早く仲間達の間を縫って駆けてきた。
そして、腰からナイフのような短剣を取り出して俺の首筋目掛けて振り被ってーー。

ーーガキンッ!

「あっ」「え?」

俺の声が襲い掛かってきた子供みたいな男の子の声と見事に合わさった。

男の子は、おそらく自分の攻撃が防がれた事に驚いて声を上げたんだろう。

で、俺はと言えばーー予想外な人が割って入ってきたから。

「なんで逃げないのよっ!」

リーリだ。

「ホント、世話がやけるんだからっ!」

そう言いながら、短剣を受けた剣を一瞬だけ力を弱めてから強く振るう事で、バランスを崩させて、相手を強制的に後退させる。

今のは俺でも出来そう。今度練習してみよう。

「もうっ!もうもうっ!無駄話ばっかしてるから邪魔が入ったじゃんっ!」

男の子が怒りを隠す事もせずに地団駄を踏んでる。
コイツはあんまり面白くない。

なによりも、頭が悪くて我儘なガキっぽい仕草に腹立つ。

「さぁ!私が相手してやるわっ!覚悟しなさい!この悪党共!」

「悪党だなんて酷いなぁ。俺達はただ神父様に神の恩恵を貰おうと思っただけだよぉ?」

ヒョロヒョロの男が話終えると同時に、口から毒針を飛ばしてきた。
まぁ、標的はリーリだったから避ける動作すら取らないけど。

「ふんっ!この程度で私を倒せると思わないことねっ!」

スパッと飛んで来る毒針を切り落とすリーリ。
そんな芸当もできるなんて、ちょっと予想外。俺はてっきり当たって倒れるものだと思っていた。

「じゃあぁ、これはぁ?」

リーリの薄っすらと映る影から毒針が数本ほど飛来する。

それを目を向けずに切り伏せるリーリ。だったがーー。

「ぐっ…」

俺の背後から放たれた毒針にまでは気付けなかったようだ。
なにせ、味方側から攻撃が来たのだ。予測できるはずがない。

それでもリーリは両足で地面を踏ん張って、苦しみながらも戦意を途切れさせない。

ちなみに、リーリが弾いたのが飛んできて、巻き添えで一発当たったから毒針って知ってる。毒の威力は俺からしたら少し痛くて苦しかった程で、装備の効果ですぐに毒の効果が消えた。
でも、生身で普通の人間が耐えているのは凄いと思う。

「はい、これ」

取り敢えず、リーリにポーションを渡しておく。『エリクサー』だ。説明欄によると、これで治らない毒はない。

「なによ…それ…」

「解毒剤」

「ふんっ!…貰ってあげるわっ!」

素直じゃないなぁ。
リーリは俺からひったくるように『エリクサー』を受け取ると、そのまま一気に飲み干そうとした。

「ガハハハハっ!させると思うか?」

だが、ここは敵陣だ。
敵がそう簡単に回復なんてさせてくれるとは思わない。

ガッシリとした体型の男が大きく一歩を踏み出しながら大斧を振り被った。

リーリは瓶を傾けて『エリクサー』を呑んでいる最中だ。

はぁ…間抜けばっかりだな。

ーーガンッ!

「なっ!?」

リーリの背後から手を伸ばして、リーリに当たる寸前だった大斧を『魔法の書(EX)』で受け止めてやると、山賊は驚愕に目を見開いた。

そりゃ、体格は向こうの方が上だし、大斧も力がかなり篭ってたんだろうし、俺が攻撃を受ける体制が普通に立ったままだし、大斧の攻撃を受けても破れもしない本とか、色々とおかしな点ばかりだから驚くのも当然だと思うよ。

でもさーー。

「俺、こう見えても戦えるんだよ?」

そんな俺を忘れられて貰っては困る。

背後からまたもや毒針が飛んで来たけど、避ける必要はない。
これぐらいなら耐え切れる。

…やっぱ訂正。針の痛みはなかったけど、毒は効いた。吐き気とか眩暈とかした。
まぁ、一瞬だけだけど。

「あれぇ?効いてないぃ?」

「それなら僕がっ!」

「させないわっ!」

リーリ復活。
男の子が駆け出すために一歩を踏み出そうとすると、俺と男の子の間にリーリが割って入り、剣を構えた。

もう一本は使わないのね。

「ゲハハッ!ならば、俺様達は神父を狙うぞ!」

山賊みたいな格好をした男が反りの大きい海賊が持ってそうな剣を振り回しながら走って来た。

んー…普通に殴って倒したら面白くないよね…。

そうだ、魔法を使おう。

魔法はイメージが大事だから、彼等が良い練習台になってくれる事を祈るよ。

「『ウォーター・ボム』」

魔法名を唱えると、手の平に水の玉が浮かび上がった。それを間髪入れずに山賊に投げ付ける。

これは、ゲーム内にある魔法だけど、イメージとしては手榴弾だ。

その効果は言わずもがな。

「なっーー」

ボンっ。そんな音がなって、水の玉が破裂すると、男は遠くへ吹っ飛ばされていった。

「この神父『魔法使い』だぞ!気を付けろ!無詠唱を使う!」

いや、気持ち的には『狂戦士バーサーカー』ですけど?
本職は『混沌の使者』とか言う訳の分からないジョブですけど?

「『ウィンド・ボム』」

「ぐはっ!?」

風が渦巻く球を投げつけると、叫んでいたガタイの良い男の全身が切り刻まれたようになって傷口から血を吹いて倒れた。

「二属性だとぉ?まさかぁ、魔導士かぁ!」

そう言いつつ全方位から無数に毒針を飛ばして来たけどーー。

全部受け止めて、全部ヒョロヒョロの男に投げて返却してやった。

「アピっ…」

ハリネズミの出来上がりだ。

針が全身に突き刺さった事で、毒が一瞬で全身に回ったようでヒョロヒョロの男はピクピクと痙攣しながら倒れた。

さて、アイツ等は後で回復させて情報収集に使わせてもらうとして、あと二人。その内の一人はリーリとまだ戦ってるから、最後に残った女の子に向き合う。

「君は来ないの?」

「………」

俺の声は届いてる筈なのに、問い掛けに返答はない。

「質問を変えるよ?襲ってくる気はある?」

「……」

フルフルと首を左右に振って軽く両手を挙げてみせた。
手の平を見せる辺り、敵意はない。武器も所持してないって意味かな?

彼女のマップ表示は初めから緑色。他の四人の赤色とは違い、無関係の表示だった。

それに、武器は…持ってなさそうに見える。

でも、俺はマップ表示を完全に信用してるわけじゃないし、騙す方法だって俺が知らないだけであるかもしれない。

彼女が敵意を俺に見せず武器を持っていなさそうに見えても、ゲームには暗殺者が代名詞のシーフのジョブがあったし、『暗器術』なんて技があったぐらいだ。一応、気に留めてはおこう。

思考を切り替え、「ふぅ」と息を吐いて視線を彼女から逸らしてリーリ達に向ける。

ーー刹那。

「ど、どうして…かな…」

視線を向けた先。リーリが相手をしていた男の子の背中にズップリと短剣が突き刺さっていた。

胸から刃先が覗き、血が止めどなく流れ落ちて…少年は倒れた。

短剣の刃先が飛び出てる場所は、心臓のある位置だ。これは、助からないな。

視線を女の子の方に戻すと、既にそこに女の子の姿はなかった。

改めて視線をリーリと戦っていた男の子の方へ向けると、そこに女の子が居た。

マップで確認すれば一発で分かるけれど、さすがの俺でも二度見した。
たった一瞬、俺の気が逸れた隙。
俺の意識すらも搔い潜って男の子を殺してみせたのだ。

その技は暗殺者の鏡。さすがだ。

推測するに、彼女は俺達に手を出すつもりはなかったが、仲間に対する殺意はあったのだろう。
だから、マップ表示は現在進行形で緑色のままなのか。

呆然とする俺達を他所に、女の子が姿を眩ますかのように闇の中に駆けていった。

少し経って我に帰った俺は、周囲を軽く見渡しながらマップを確認すると、俺が吹き飛ばしたりした男達は既に事切れていた。

さっきまで生きていたのを確認していたので、間違いなく彼女が殺したのだろう。

それにしても、見事な暗殺技術だ。
まさかの展開で呆気に取られてしまった。

その技術は是非とも教えて欲しいと思ってしまう。

まぁ、彼女のものであろう緑マークは家々の屋根を伝って一直線に逃げ去ってしまったけど。

でも、彼女の根城らしき場所は見つけた。

マップを拡大化して最後まで行き先を追うと、彼女はとある建物に入ってから、グルグルと建物内部を動き回り、隣の建物に移動すると、徐々にマークが薄くなって行き、遂には消えてしまった。

推測の域に過ぎないけど、マップで追えないような結界みたいな所に入ったとか?
詳しくは分からないけど、どうすればマークが薄くなるのかは確認すべきだな。

ちなみに、そこには緑マークが沢山いて動き回っている。
夜中が近いってのに、凄い人数だ。
緑マークで建物が埋め尽くされている。
あと、その中にマークが薄れてる奴も大勢いる。

何かあればその辺りから調べていけば良いだろう。

そう言う結論を出してから、俺は死んだ者達を生き返らせる為に『倉庫』から『神聖水』を取り出す。



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