ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

散々な一日(4)


この草原に生息する魔物は『グリーンウルフ』『ビッグアント』『一角兎』『地下ゴブリン』『擬態植物』『ジャイアント・サイクロプス』が居る。

しかし、とある条件をクリアした場合のみ、迷宮の最深部のボスとして登場するような魔物が現れる。

とある条件とは、普通ではクリアは非常に困難なもの。

なぜなら、聖剣を装備した状態でこの草原で総計数日間居続けなければならないと言うものだから。
ゲームだと一日の経過は3時間で済み、キャラクターは食事や睡眠などを取らなくても済んだ。
放置していれば良いだけだった。

でも、現実は違う。

放置なんて出来ないし、食事や睡眠。暇な時間の使い方。色々な弊害がある。
それに、聖剣なんて持ってない。いや、あるのはあるのだけれど、ゲームをしていた頃に、中盤辺りに世界樹を救い、入手してからずっと倉庫に眠ったままだ。

どれだけ手放したかった事か。何度売ろうと思った事か。
装備した所で、格闘家だった俺には無用の長物。ジョブの違いによって威力は落ちるし、聖剣に付属されているスキルすら使用できなかった。

売却不可。廃棄不可じゃなければ、倉庫内を圧迫するだけで邪魔だったのだ。

そんな聖剣を装備しながらここで数日間の野宿。街の近くなのに、この草原で待ち続けるなんて事をする奴なんているはずがない。

なのに、今、現在。

俺達の視界には、その魔物が映っていた。

マップ表示では、大きな羽の付いたトカゲのようなシルエットの他、それと同等の大きさをした人型の魔物のシルエット。
その脇には、蟻のようなシルエットに、蟻と同程度の小さな人型の魔物と犬のシルエットがある。

それらが僅かに重なるようにしてこちらに向かって来ていた。

これは、一つの塊と見るのが正しいのかもしれない。
四体の魔物のシルエットが重なり、とても分かり易い配列となって映っている。

こう言う並びなのか、それともマップ表示が見やすいような配列にしたのか…。
実際に見てみないと分からないな。

そんな考え事をしていると、リーリが口煩く喚いてきた。

「何アレ…何よアレっ!」

この辺りは凹凸が激しくて周囲を見渡し難いけど、それでも尚、巨大な空中に浮かぶ影が見える。

アレの名前は覚えてないけど、黒いドラゴンと言えば誰にでも伝わると思う。
ソイツの力量は中の上辺り。強いけど、それほど強くない感じ。俺だと数回殴れば倒せる。

「どうして…どうしていつもこうなるのよっ!!」

さっきまでの勇んだ雰囲気はどこ行ったのか、今は絶望的な感情を怒りに変換して地団駄を踏んでいる。

「いいわっ!やってやろうじゃないっ!この、リーリィ・ランスロットが相手してやろうじゃないのっ!」

そして、絶望的な雰囲気から一転。キッと眉を吊り上げて強者へ挑む挑戦者のようにいて、どこかヤケクソ気味にも思える表情で二振りの剣を抜いた。

そして、俺はその剣を見て色々と納得がいった。

リーリがさっきまでグリーンウルフを倒すのに使っていた剣は、その辺に少し高めで売ってそうな剣だ。

俺の目が行ったのは、もう一本。

『聖剣フラガラッハ』。ゲーム時代にて教国の聖騎士長が所持していた入手不可の武器。

戦い方としては、聖騎士長自身の力は低くて物凄く弱かったけど、剣が独りでに動いたり、自由自在に動いていた。まるで目に見えない剣士が剣を振りながら踊っているような感じだった。

聖騎士長との戦闘は無かったものの、聖騎士長と剣を交えたら勝てる自信しかなかった。それは、ただ単に勝手に動いて襲い来る『聖剣フラガラッハ』を無視して聖騎士長を殴れば勝てると思ったからだ。

でも、どうしてリーリが『聖剣フラガラッハ』を?

「アンタはここで大人しく見てなさいっ!私の全力を見せてあげるわっ!」

まぁ、その疑問は全部終わってからでいいか。
どうせ、すぐに終わる。

「意気込んでるとこ悪いけどさ、もう終わるみたいだよ?」

魔物達の群れ。一体どれだけ居るのか定かではないけど、1000は下らない数の魔物達の大進行の先。俺達よりも前方の丘の上に、ある人物が立っていた。

その人物とはーー。

「フォッフォッフォッ。腕がなるわい!久々の狩りじゃっ!」

ーーアルトが居た。

街の方角から物凄い勢いで俺達の上空を飛翔して降り立ったのだ。
俺もマップが無ければ気付かなかった程だ。

ちなみに、魔物の数はリーリが言っていた『気配察知』を使えば簡単に分かった。
ただ、膨大な情報量で頭が痛くなるから、余り多用はしたくないと思った。

俺が指差してリーリに教えてあげると「へ?」と間抜けな声を出してアルトを見やった。

「もし時間が掛かりそうなら俺も参戦するけど……その必要もなさそうだしね」

アルトがどこからともなく一振りの刀を取り出せば、瞬きをする瞬間程の素早さで一閃。
一体どれほど修行したのか想像も付かない剣撃だ。刀を振るう動作すら見せずにチンッと刀を鞘に納めると、上空を支配していた黒いドラゴンは身体が真っ二つにズレてから、一拍置いて落下していった。

更に、数度の斬撃を放つ事で丘の向こう側が爆ぜ、空中にバラバラになった魔物の死骸が舞う。

さすが剣聖だ。
俺には到底及ばない領域の剣の使い手。彼にはレベルやステータスの概念に嵌らない強さがある。

「え……なに…これ…」

俺はリーリを促してアルトの側。丘の上に登った。
そして、その先に広がる光景に光景に、リーリは目を白黒とさせて心から驚いた顔を見せてくれた。

「さすがだね。俺でも数発は殴らなきゃならないドラゴンを一刀で斬り伏せるなんて」

「殴るだけでドラゴンを倒すとは相変わらずバカげた体をしとるのぉ。しかし、この程度では肩慣らしにもなりゃせんのぉ」

チラチラと横目で見てくるアルト。
何を求めてるのかは分からないけど、どうも元気が有り余っているようだ。

「それなら、後で落ちてる残骸を拾い集めるから手伝ってね?」

「むぅ…」

不服そうな顔をされた。

「俺の言いつけを破って宿屋から勝手に出たんだし、無抵抗のケツを本気で一発ーー」

「分かった!分かったのじゃ!だから、それは許してくれっ!」

必死だな。
まぁ、手伝ってくれそうだから、これ以上言わないけど。

俺には『イベントリ』と言う便利な収納機能が備わっている。
ゲームから引き継がれたものだ。それをバグらせて『倉庫』に合体させた。

要は、『倉庫』分の所持数に『イベントリ』の所持数が追加された状態だ。

だから、『倉庫』と『イベントリ』の空きはまだある。あるけれどーー。

「それじゃ、これに入れてって」

無駄に作ったバグポーチをアルトに渡した。

理由は、汚物みたいな残骸に触りたくないからだ。『クリーン』の魔法を使えば綺麗にはなるけれど、気持ち的に嫌だ。

風呂にすら入れない生活で、ただでさえ不衛生で気持ち悪いのに、そこから更に汚い物に触りたいとは思えない。

アルトがバグポーチを持って渋々と歩いて行くのを見送っていると、ようやくリーリが現実に戻ってきた。

「ねぇ、あの人、何者なのよ…」

横目で睨みつけながら尋ねてきた。

これらの状況を見ても尚、強気の態度を崩さないとは、随分と肝が座っているようだ。

さてさて、この質問にはどう答えようか…。

「アルトは…見た目通りの老人だよ?」

「………」

そんなに睨んでも本当の事なんて言わないよ?
でも、教えてもいい事だけ言って、後は自分で考えてもらおう。

「ただ、剣の道を歩む者って自称してるんだし、そうなんじゃないの?」

「なによそれ…」

呟きながらリーリは細切れにされた魔物の残骸を拾い集めるアルトの姿を見やった。
今のアルトは、まるで田舎のお爺さんが畑の野菜をセッセと採取しているように見える。

「アンタ、神父らしくないわよね」

ボソリと言われた。
ちょっと傷付くんだけど。

「アンタは何者なのよ」

アルトの事は諦めたみたいで、標的が俺に移っちゃった。
よし、嘘を吐きまくるぞー。

「俺は見たまんまの神父だよ?」

ニッコリと微笑む俺。
おそらく、神父らしさが醸し出されているはずだ。

「どこがよ。途轍もない魔法を使う仲間に、途轍もない剣技を使うあの人…。どう考えても普通じゃないわ」

アホな子だと思っていたら、そこまで頭を回せれるんだ。前言撤回しなきゃね。

まぁ、嘘は貫き通させてもらうけど。

「俺は普通の神父だよ?守ってもらわなきゃ生きていく事も出来ないヒ弱な神父さ。だから、強ーい用心棒を雇ってるんだよ」

「用心棒…ねぇ?」

疑いの眼差しをアルトに向けた。
これはかなり疑っているな。

「用心棒だよ。報酬はお金じゃないけど、俺が仕えてる神様を信行してる数少ない信者さんだよ」

アルトはどうだか知らないけど、リョウは何も信行してないはずだ。
勿論、俺もだ。

前に使っていたキャラに着せていたのが神父服で、尚且つ、一番着心地の良いのがコレなんだ。
だから、成り行き上、仕方ない事なんだ。

リョウはどこかで服を調達してたみたいだけどね。

「ふーん」

リーリが俺に向ける瞳には疑いしかない。

俺って、そんなに信用できないように見えるのかな?
ちょっと傷付くけど、実際に嘘ばっかり言ってるから何とも言えない。

「あ、リョウが起きた。ちょっと待っててね?」

「………」

返事は無かったけど、了承したと判断して俺はリョウの元に『転移』を使って向かった。


〜〜〜


「ーーっと言う訳で、創って欲しいんだけど?」

「えー、めんどくせぇ」

俺はさっきまでの事を包み隠さず全てをリョウに話して頼み事をしていた。

その頼み事と言うのはーー。

「ハァァァ。しゃーなしで創ってやる。だから、詳しく」

「ありがとう。えーっとね、範囲を指定できて、それを望んだ場所に纏めて移動させる事の出来るやつなんだけど…転移の広範囲バージョンって言った方が分かりやすいかな?そんな感じで、触らなくても纏めて『イベントリ』に収納できるようにしたい訳なんだよ」

「オケ。分かった」

一拍置いて。

「出来た」

「はやっ!?でも、ありがとっ!」

賢者は魔法を創る事が出来る。
だけど、魔法を創らなければ魔法を使えないのが賢者だ。

だとすれば、魔法を創る行程が面倒。だけど、あの人が使ってる魔法を使ってみたい。
そう思った賢者。又は、他の魔法使いが居たとする。

なら、どうする?

その答えは簡単。貰うんだ。
厳密に言えばコピーしてもらう。

その手順はと言うとーー。

「じゃあ、この本に手を置いて…そうだね、魔法を本に写す感じでペーストって言ってみて?」

「ん?こうか?『ペースト』」

途端、本が光輝き、題名から中身まで。何から何まで全てにギッシリと魔法陣が描かれた『魔法の書』が出来上がった。

これこそが、賢者から魔法を貰う手段である。
とても簡単だ。

まぁ、『オール・ワールド』では賢者の作った本は高値で売られていて、ゲーム内マネーだとしても大金を使うものだから、あんまり欲しいとは思わなかったけど…。

でも、こうして友人から貰えるなら話は別だ。
便利だし、欲しい時に欲しい物を要求すれば即座に創ってくれる。最高の魔法作成機だ。

そんな訳で、これでアルトの頑張りは無駄になり、色々と倒した後の魔物の対処とかの手間が省ける訳だ。

俺はホクホク顔で本を開いたーー。

「………」

しかし、本に変化はなかった。
いつまで経っても変化はない。

「……?」

どうして?

取り敢えず、本と睨めっこをしながらリョウを促してリーリ達の居る場所へと足を向ける。

やっぱり、俺が武器として使っている『魔法の書(EX)』と同様に、本を開くだけじゃ魔法を習得できない?

なら、どうすれば良いんだろう?

どうすれば使用した事になるんだろう?

本は読む物だ。だとすれば、ページを開けば良いのだと思ってたけど、それも違う。
ペラペラと全部のページをめくって内容に軽く目を通してみたけど、変化はない。

どうすれば良いんだろう?

そんな事を考えていると、リーリ達の居る場所に辿り着いた。

「うっ…」

そして、丘から見下げた光景にリョウがえずいた。

俺は本に夢中になってるけど、ちゃんと横目で確認してるのだ。

それはそうと、今思い出した。リョウはこう言う光景は苦手なんだった。忘れてたよ。いやぁ、ウッカリしちゃった。

「なんてもん見せやがんだボケェっ!」

本を読みつつ心の中でリョウに謝っていると、不意打ちでパンチが飛んできた。

当たる寸前にまで迫っているパンチ。意識すれば、それはスローモーションで視認できる。
受ける事も避ける事も出来る戯れ合い程度のパンチだ。

でも、俺は敢えて避けなかった。

その理由はーー。

本当にごめん…。
俺が本にばっかり集中してて、気付くのに遅れた。思い出すのが少し遅かった。止めるのを忘れていた。

ホント、ゴメン…。

そんな謝罪を心の中で何度もしながら、俺はリョウに自らぶん殴られた。
そして、リョウは俺を殴った後、その場で吐いた。

魔物の血は黒いしグロ要素とかは肉の断面とか、その辺りだけだと思うんだけど、おそらく、リョウにはそれが無理だったのだろう。

取り敢えず、殴り飛ばされた先で立ち上がると、首に違和感があった。

「ヒッ…」

リーリの悲鳴が聞こえたけど…あれ?どこ?
視界が斜めっているし、身体は正面を向いてる筈なのに顔が体の向きに合わない。
それに、首が思い通りに回らない。

……ああ。成る程。どうやら、首が折れてたみたい。

痛みがなくて、わからなかったよ。

でも、フレンドリーファイアで普通なら死んでしまうような攻撃を受けてるなんて…マジで笑えない。

こんな所で特殊スキルの『不死』が活躍するとは思いもしなかった。

初めての死は自殺で、二度目の死はフレンドリーファイアって…。本当に何してるんだろ、俺。

さっさと首を元の位置にグキリッと戻してから、落とした本を拾い上げようと体を屈めると、その表紙の上にポトリッと鼻血が一滴落ちてしまった。

どうやら、リョウのパンチは首を折るだけじゃなく、鼻の骨まで折っていたようだ。

本を手に取りながら、もう片方の手で鼻の骨をグキリッと無理矢理元の位置に戻しておく。
それから、吐いている最中のリョウの元に何食わぬ顔で戻り、背中をさすってやる。

「ア、アンタ…大丈夫なの…?」

「ん?なんの事?」

背後からリーリの心配するような、怖がるような、よく分からない感情が籠められた声が掛けられたけど、トボけておく。

さて、それじゃあ、リョウの背中をさすりながら本の使い方を考えようーー。


〜〜〜


『魔法の書』。それは、ゲームでは『使用する』のコマンド一つでランダムに魔法を得る事が出来た。

しかし、賢者が作った『魔法の書』には、賢者が創り出した魔法を封入する事が可能で、使用すればその魔法が確実に手に入る。

賢者が創ったオリジナル魔法を習得する事ができるのだ。それは対人戦などでは、かなりのアドバンテージになる。

でも、そこに『使用する』と言う選択がなければ?
どうすれば使用できる?

使用出来る事を知ってる身からすれば、『使用する』のコマンドを探すのが当たり前だ。
でも、『使用する』のコマンドがない場合…例えば、今の俺の現状のようになってしまえば、どうすれば『魔法の書』を使う事が出来る?

その答えはーー案外近くにあった。

「魔法の書?珍しい物を持ってるわね。それなら、血を一滴垂らしてから本を読むだけよ」

なんと、アホの子であるリーリが知っていたのだ。

俺が悩みに悩み抜いて、考え続けていた時間を返して欲しいと全力で叫びたくなった。

でも、そんな事はせず、俺は『魔法の書』を開いたーー。







ちなみに、現在の時刻は何時か知っているだろうか?

俺は『魔法の書』を使用する方法を永遠と考え続けていた。
リョウは吐き終えた後に「帰る」と一言残して帰ってしまい、アルトは持ち前の運動神経を無駄に発揮して全ての魔物の素材を採取し終えて帰ってしまった。

そしてこの場に残ったのは、俺とリーリだけとなった時刻から3時間ほど経った時刻。視界右端上部にある時刻表には23:03分と書かれている。

要するに、だ。

俺は朝からずっとここに居た事になる。

『魔法の書』の使用方法が分かったのは良いんだけど、リーリには物凄く呆れられて帰られた。

そして、俺は草原にポツンと一人で佇む事になってしまった。

うん…寂しいな。

俺も帰ろう…。

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