ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

散々な一日(3)


「んじゃ、後頼むな」

戯れ合いを唐突に切り上げ、「疲れた」と言って座り込んだリョウが、いきなり何やらほざき始めた。

「何が?」

少し顔がヒリヒリして痛いんだけど?

「依頼受けたろ?残りはヒビキに全部やる」

全部って…。

人任せだなぁ。

「少しは自分でやろうとは思わないの?」

「やった」

「………」

それは、アレか?
初っ端にオリジナル魔法をぶっ放して消し炭にしたグリーンウルフの事か?

「アレはやった事にはならないよ。討伐証明が要るって説明されたじゃん」

「んなもん初耳だし、知らね。俺はここで休憩しとくから、元気のある若者が頑張るべきだ」

「お前も若者の一人でしょ…」

俺のツッコミを軽く受け流して仰向けに寝転がるリョウ。
そして、手をヒラヒラと動かして。

「任せた」

「この野郎…」

イラッとしたけど、内側から湧き出す燃えるような苛立ちに冷静と言う名の水をぶっかけて落ち着きを取り戻す。

「はぁ…ったく。分かったよ。行ってくるけど、リョウはここで大人しくしといてね?」

手をヒラヒラと動かして無言の返事を返すリョウ。

いつまで経ってもヤル気と無気力の差が激しく、人任せな奴だ。
どうせ俺の事なんて便利なヤツ程度に思ってるんだろうな。

俺、悲しいぞ…。

まぁ、リョウに文句を幾ら言っても仕方ないから諦めるけど。

「あれだけ争っておきながら行くのね。これが男の友情ってやつ?心底呆れるわ」

あ、まだ居たのか『災禍の剣姫』。

「まだ居たんだ『災禍の剣姫』」

思った事がそのまま口に出てしまった。
後悔はしてない。

「居るわよ!って言うか、その名前で呼ばないでって言ったじゃないのっ!私にはリーリィって名前がちゃんとあるのよっ!」

「リーリー?」

「リーリィよっ!それよりも、私を置いてどこに行こうって言うのよっ!ここに連れて来たのはアンタ達よ!?私を元の場所に返しなさいよっ!」

キッと目を吊り上げて怒鳴ってくるリーリ。
今すぐにでもリリースしたい気持ちで一杯になる。

「あっちに歩いて行ったら街があるから、そのまま通り抜けたら元の場所に着くよ」

「勝手に連れて来た癖になんて言い草よっ!それに、そんな言葉を信じれる訳ないじゃないっ!」

凄く正直に話したんだけどなぁ。
転移で元の場所に連れて行こうにも、向こう側にはまだ兵士達がワンサカと居るだろうし…。

勝手に帰ってくれないかな?

リーリが転移の話とかリョウのやらかし話とかしても、どうせこんな残念な子の話なんて誰も聞きやしないだろうし、良い経験が出来たと思って帰ってくれないかなぁ?

「もう良いわっ!アンタに付いてくからっ!言っておくけど、私はAランク冒険者!アンタ達よりも何倍も強いんだから、変な気は起こさないでよねっ!」

チラチラとリョウに視線を向けながら言われたけど、彼女の瞳には好意的な物は一切感じない。
ただただ『コイツやべぇ』と、リョウを危険物を見るような目で見ている。

そりゃ、リョウは危険になるような事を考えなしにしてしまう事もあるけど、これでも、俺みたいな無茶はしないんだよなぁ。

例えるなら、俺は火の中に大切な物を落とせば慌てて手を突っ込んで拾い上げるタイプだけど、リョウは木の枝とかを上手く使って何事もなかったかのように拾うタイプの人間なんだ。

だから、そんな目で見ないでやって欲しい。さすがに可哀想だ。

「誰が子供相手に変な気なんて起こすんだよ…」

「こ、子供…っ!?私は17よっ!?もう子供って年齢じゃないわっ!」

まだ子供じゃん。
いや、子供と大人の中間地点って所かな?

どっちでも良いや。

「はいはい。それじゃあ、お兄さんと一緒に行動しようか。逸れないようにちゃんと付いて来ようね?」

「子供扱いしないでよっ!」

キィーッ!と地団駄を踏んで怒りを露わにするリーリ。
この反応、やっぱり見てて面白いな。

でも、『災禍の剣姫』って言うぐらいだ。何かあるに決まっている。面倒事はゴメンだ。

だから、とことん子供扱いしてやる。俺達の側に居たくないって思わせてやる。

ちなみに、リーリは最後までリョウを避けていた。


〜〜〜


この辺り一帯に生息する魔物は『グリーンウルフ』『ビッグアント』『一角兎』。その他に、『地下ゴブリン』『擬態植物』『ジャイアント・サイクロプス』だ。

サイクロプスに関しては遠くからでも姿が確認できるから、気にする必要はない。

俺達はリョウの居る地点を起点として動き回ることにした。
ちなみに、マップには念じるだけでピンを設置できた。これで、何かあっても迷う事なくすぐに戻って来れるだろう。

マップを確認しながら無駄に広い平和な草原を歩き回る事、数分。

すぐに一体目の魔物を見つける事ができた。

とは言え、目視での確認はできない。
マップに魔物の表記が出たから分かった。

ただ、これはゲームには無かったシステムだ。

ゲームでは、赤丸が敵。その中には魔物も含まれていた。そして、仲間。所謂、パーティーメンバーは青矢印。青丸は味方。緑丸は無関係。灰丸は死者。

黄丸の信者に連なる新システム。
魔物のシルエットを赤枠で囲んだマーク。

これが魔物の新表記となっていた。

今までは赤丸だったのに、随分と突然な話だ。まぁ、便利だから良いけど。

で、だ。現在表示されているシルエットは狼のような形をしている。この辺りに生息する魔物と照らし合わせるとグリーンウルフだと推測ができる。

「あぁ…最悪だ…」

「突然なによ」

おっと。前置きなしに喋り始めたからリーリを変なやつだと誤解されそうになっている。

これは弁解せねばっ。

「この先に魔物がいて危ないからお兄さんの背中に隠れててね?」

「だから、子供扱いしないでよっ!」

リーリの頭をヨシヨシと撫でてやると、怒って叩き落とされた。

それにしても、グリーンウルフか…。
動物は好きだけど…動物アレルギーだし…。
俺、大丈夫かな?

よし、試してみるか。
もしアレルギーが発症しても『エリクサー』で治った前例があるし、近寄れなかったら魔法で遠距離から倒せば良い話だもんね。

そうと決まれば、さっさと行って依頼を済ませてしまおう。

この辺り一帯に隠れる事が出来そうな場所はないので、堂々と歩いて行く事にする。
そして、少し小高くなっている丘を越えようとした時。マップ表記に変化があった。

ここからグリーンウルフ達の場所まで100メートル程。そこで、グリーンウルフのマークが三体に増えた。

どうして?

幾ら考えても、ヒントが少な過ぎて答えなんて分からない。だから、この疑問は後に置いておくとして、取り敢えず丘を越えて周囲を見渡す。

マップと見比べると……あ、居た。

思ったよりも大きい。
大型犬より一回り大きいんじゃないかな?

それに、人間で例えるとゴリマッチョのように筋肉隆々だ。
なんだアイツ等。もはや犬とかのレベルじゃねぇぞ…。

「グル?」

あ、気付かれた。

と思えた瞬間には、グリーンウルフ達は脇目も振らずに俺の居る方向に猛スピードで駆けてきた。

確か、猟犬が時速70キロで走るって言われてるから…グリーンウルフ達は何キロで走ってるんだろう?

兎に角、速い。速すぎて笑えた。

スタートダッシュから3秒ほどで俺の元に辿り着いたグリーンウルフ達。皆、顎門を全開にして噛み付く気満々だ。

計算すると、約時速100キロ程度か。やっぱり速いな。

えーっと、確か、グリーンウルフの説明で言われた討伐証明は牙だっけ?

黄ばんでて触りたくないけど、そんなワガママを言っても仕方ないか。
倒してから手袋して回収しよう。

取り敢えず、一番近くに居たグリーンウルフの頭を鷲掴みにしようと手を伸ばした瞬間ーー。

「なにボサッとしてるのよっ!退いてっ!」

俺の背後から飛び出したリーリに押し退けられて一歩後退ってしまった。

その間に、リーリは腰から一本の剣を抜いて、一太刀で一番近くのグリーンウルフを切り裂き、返す手で側面から迫っていたグリーンウルフを切り伏せた。

アルトの斬撃を見た後だと、動きに無駄が多いし、キレがない。それに、スパッと『斬る』じゃなくて力付くで『叩き切る』感じがある。

ハッキリ言ってしまうと、ダメダメすぎる。

「敵を前にボサッとしてるなんて、なに考えてるのよっ!」

最後に残った一体と向き合いながら叱責してきた。

でもさ、そう言われても、俺が行動しようとしたのを邪魔したのはリーリの方なんだよ?
それ、分かってるのかな?

別にとやかく言うつもりはないけど。

「ふんっ。まぁ、Aランクの私にかかればこんな魔物一瞬で倒せるわ!」

俺も一瞬で倒せるよ。

最後に残った一体は一番出遅れた個体だから、俺の元に辿り着くのも一番遅くて、先陣を切った仲間が切り伏せられるのを見て襲い掛かるのを躊躇っている様子。
咄嗟に止まってバックステップで距離を取る姿は、かなりシュールだった。

内心で大笑いしている俺がいる。
口角が釣り上がるのを、顔に張り付いた愛想笑いで誤魔化しながら、現状を軽く説明する。

「それじゃ、リーリにはその残ったのを頼むよ。俺はコッチに向かって来てるのを相手するから」

「アンタ気配察知持ちなの?良いわっ!それも私が倒してあげる!感謝しなさいっ!」

言うと共に最後の一体を切り伏せたリーリ。

でもさ、どう考えてもリーリ一人で相手出来るような相手じゃないんだよなぁ。

「まぁ、俺の代わりに倒してくれるのなら是非頼みたいけど…大丈夫?無理だったらいつでも言ってね?頼ってくれたら、お兄さんがいつでも助けてあげるからね?」

「だから、子供扱いしないでよっ!!雑魚が幾ら来ようと私はAランクなのよっ!?私の相手になる訳がないじゃない!」

「そっか。それじゃあ、お兄さんは見ていてあげるから、頑張ってね?」

「もうっ!なんなのよっ!」

キィーッと怒りに任せて地団駄を踏むリーリ。見ていて飽きないな。

「いいわっ!私が子供じゃないって今から証明してあげるから、ちゃんと見てなさいよっ!」

キッと吊り上げた瞳で睨め付けながら指差して宣言して来た。

保護者気分でニッコリと微笑んで頷くと、またもやリーリは怒りながら地団駄を踏む。

「いいわっ!もういいわよっ!ギャフンと言わせてやるんだからっ!」

ギャフンって…いつの時代の言葉だよ。

そんな戯れ合いをしている間に、そろそろ魔物達との距離が400メートルを切りそうになっていた。

っと言う事は、そろそろ見えるか?

俺にもよく理解できなかったシルエットを持つ魔物がーー。



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