ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

散々な一日(2)


街を出てから30分程。
遠くの方にグリーンウルフの姿が見えた。

「ヒビキ!ヒビキ!居たぞ!緑の犬だ!」

…グリーンウルフ、ね?

「よっしゃあぁ!!これで試せるぞ!」

「ん?何を?」

「魔法に決まってんだろ!」

そっか。リョウは賢者だし、オリジナル魔法ぐらい幾らでも作れるもんね。
それで、オリジナル魔法が作れたから、試したくて仕方がなかったんだね。

だから朝からあんなに元気だったんだ。納得。

でも、どんなの作ったんだろ?

「刮目しやがれっ!俺様が一晩頑張って考えた魔法!」

遠目に見えるグリーンウルフをリョウが指差したから、吊られて俺は視線をグリーンウルフに向けた途端。それが発動された。

「『ビーーム』ッ!!」

リョウが魔法名を唱えると同時に突如現れた光線。
俺ですら視認するのがやっとの速度で放たれたソレは、一瞬の内にグリーンウルフを包み込み、地面もろとも何もかもを消し去った。

………消し去った。

「……は?」

「ふぇ?」

俺の背後から他の人の声が聞こえてきたけど、彼女に対応できる冷静さを俺は失っている。

見たままを伝えるなら、リョウの居る辺りから一直線にグリーンウルフ目掛けて極大の光線が突き抜けた。

そして、そのまま逸れる事もなく直進し続け、忽然と何事もなかったのかのように光線は消え去った。

後に残ったのは、黒く焦げた大きなわだちがグリーンウルフが居た辺りに続き、丘だった場所は大地が綺麗に半円を描いて抉れ、表面はガラス化してしまっている。

名前から察するに、極太レーザー光線とでも言えばいいのか?
いや、あれはレーザーのように電気や電磁波と言ったものは扱っていない。

光のように見えたが、アレは熱の塊だ。なにせ、後からムワッと押し寄せてくる余波が妙に温かいんだもん。
それに、レーザーは光。電磁波を増幅して放射されるものだ。そりゃあ、光も寄せ集めれば熱となるが、リョウが放ったのは、それとはまた違った感じだった。

おそらく、アレは極太の超高熱光線だ。

兎も角、エゲツない攻撃魔法を創り出しやがった。

「あれ?なんかデケェな。もっとこう、指先から細いビームが出るもんだと思ってたんだが…ま、いっか。出来たし」

リョウ本人は、どんな危険な魔法を創ったのか理解していないようだ。
今もホクホク顔で満足気に頷いている。

その新魔法は、おそらく、俺が狂戦士バーサーカースキルを使ってギリギリ耐えきれるぐらいの力が秘められている筈だ。

威力自体は余り高くはないだろうけど、超高熱による貫通力と焼却性があり、触れた先から一瞬で消し炭にしてしまう事が予測できる。

なんて魔法を創ったんだ…コイツは…。

ゲームでも、こんな魔法を創る奴は居なかっ…いや、訂正。居たけど、これほど威力はなかった。

所詮、遊び程度で創られたモノだったからか、飛距離も短く、威力も低く、リョウの呟いていたぐらい細いものだった。
でも、発動から着弾まで一瞬で、持続性が高くて中距離から嫌がらせとして使っていた奴がいた。

なのに、リョウはそれをいとも容易く超えてしまい、トンデモな魔法を創り上げたようだ。

おそらく目に見える限り超長距離まで届く攻撃範囲。威力は見ての通り莫大。攻撃してから着弾までの時間はほぼ0.1秒。
貫通力が異様に高く、障害物全てを溶かし、焼き尽くしながら一直線に突き進む。

ゲームで最強だと謳わ続けた、超ゼロ距離爆撃魔法の『エクスプロージョン・カスタム』と同等程の威力…それに加えて目に見える範囲全てが攻撃可能範囲で、逸れる事なく一直線に進むから命中率が凄く高い。
 
こんな魔法、他の奴に使われたら対処のしようがない。

気が付いた時には光の津波に呑まれているだろう…。

「ちょ、ちょっと…い、今の…なによ…」

俺がリョウの魔法を見て茫然としていると、背後にいた青丸がいつの間にか俺の側に来て、声を掛けてきやがった。

ずっと無視してたのに…。

兎にも角にも、その声によって俺は思考の渦から強制的に弾き出された。

「はぁ…」

溜息を吐きつつ背後を嫌そうな顔をしながら見やると、やっぱり予測通りと言うべきか、ずっと付いて来ていた女の子ーー『災禍の剣姫』がいた。

「な、何よ。べ、別に、私はこっちに用事があったから!アンタ達に興味があって付いて来た訳じゃないわよ!?そんな事より今のは何よっ!」

全部ゲロってるじゃん。ついでに逆ギレまでされたし。
まぁ良いや。悪い子じゃなさそうだし教えてやろう。
俺の考察をな。

「今のは部類としては火の派生属性の炎だね。レーザーとか言っておきながら、眼球のダメージはなかったし、おそらく超高熱化した熱を圧縮して指向性を持たせて放っただけの熱光線。なんちゃってレーザーって言った方が良いかも。熱量を収縮して熱圧力を倍増させ、それによって貫通力と焼却性が上がり、指向性を持たせることによって直線となって突き進むレーザー光線のようなモノになったんじゃないかな?」

「………?」

何言ってるの、コイツ?的な目で見られた。
要は、理解できなかったのね。

大丈夫。これはあくまで考察の域であって、確証的根拠はないから、そうだとは断言できないもん。

「なぁ、なぁ!ヒビキ!なんか見っけたぞ!」

俺が『災禍の剣姫』に構っている間で、放置していたリョウが何やら見つけたようだ。
妙にハイテンションだ。

一体何を見つけたんだろ?

そう思いつつ視線をリョウに転じようとした瞬間ーー。

「『ファイアー』」

リョウの居る場所からボソリと呟くようなリョウの声が聞こえた。

いや、リョウが言ってるんだからリョウで間違いないんだろうけど…眼前に起きた惨劇に脳が現実を拒否して理解しようとしてくれなかった。

「うぼぁ…」

隣にいる『災禍の剣姫』が女の子が出しちゃいけない声を発した。

でも、その反応も仕方ない。

俺もその光景に呆然としか出来なかった。『レーザー』よりも驚いて、開いた口が塞がらない。

右も、左も、前も、背後もーー火柱。

視界に入る全てから天にも届くような巨大な火柱が轟々と立ち昇って、平和一色だった青々とした草原から一転。まるで、地獄のような景色と化した。

なにした…リョウ…。

「うおー!すげぇー!」

そんなリョウの興奮気味な声が聞こえている最中、俺は足元がゴゴゴッと震え始めている事に気が付いた。

まさか…。

そう思った時には既に遅かった。
咄嗟に近くにいた『災禍の剣姫』を壊さないように優しく突き飛ばすだけで俺が取れる行動は終わってしまったのだ。

一瞬にして俺の視界は真っ赤に埋め尽くされてしまった。

「ーーアッツ!?」

熱湯をぶっ掛けられたような熱さが全身に襲い掛かってきた。

まぁ、こうやって声が出せるぐらいには余裕があるんだけど…うん、間違いなく、あの火柱が直撃したね。

でも、突然40℃程のお湯をぶっ掛けられたぐらいの痛みで済むって事は…特殊スキルのお陰か、それとも俺のレベルが高いからか…どっちだろう?

「ヒビキィィ!!」

近くに居る筈なのに、ヤケに遠くからリョウの悲鳴に似た呼び声が聞こえてくる。

はぁ…この問題児が…。

「『マッド』『ウォーター』」

『マッド』。泥を飛ばす魔法。魔物用。
『ウォーター』。水を飛ばす魔法。魔物用。

それを俺の魔力量で無尽蔵に近い量を出す…つまりは、火が吹き出した穴に向けて放った。

即席なんちゃってカスタム魔法『マッド・ウォーター』の完成だ。効果は泥水を飛ばすだけだけど。水3の泥7だ。少し粘性のある泥水に近い。

でも、それによって穴を泥水によって塞ぐ事が出来て、足元からの火の噴出はすぐに収まり、次々と他の火柱も鎮まり始めた。

そして遂にはーー火柱の代わりに泥水が噴水の如く噴出した。

これで全ての火柱を鎮火させる事が出来ただろう。

「はぁ…。死ぬかと思った…」

まぁ、死なないんだけど。

「ヒ、ヒビキ…お前…」

どうやら、さすがのリョウも心配してくれていたみたいだ。
初めてリョウに心配してもらった気がすーー。

「ブハっ!クハハハハハッ!おま、お前、裸っ!裸っ!アハハハハハッ!」

前言撤回。コイツ、マジでクソ野郎だ。

咄嗟に股の逸物は両手で覆い隠したものの、バッチリ二人に見られた。

『災禍の剣姫』に至っては恥ずかしそうに顔を赤くして手で両目を覆い隠してるけど、指の隙間から見てるし…。

なんでこんな目に…。

はぁ…。

取り敢えず、二人に背を向けて『倉庫』から新たな神父服を取り出して、いそいそと着変える。

俺が服を着ていると、マップ端に緑丸の出現が確認できた。

前にも同じような経験をした覚えがある。
この場合、間違いなく来たな…この惨劇に気が付いた兵士達が…。

はぁ…。

溜息を幾ら吐いても足りないよ。

兵士達が来る前にささっと着替えを終えて、振り返って二人と視線を合わせる。
『災禍の剣姫』の方は俺と視線を合わせようとしないけど…。

「リョウ。それと…『災禍の剣姫』?」

「その名前で呼ばないでよっ!私にはーー」

「それは後で聞くから、取り敢えず、早く逃げるよ」

「逃げる?何でだ?」

「説明は後。もうすぐ見える位置にまで来てるみたいだから、さっさとここを離れるよ。だから、俺の手に触れて」

俺の何気ない言葉。たったそれだけの言葉で二人は一歩後退りした。

なんでぇ?

「お前、手で触ったよな?」

「え?…あ、そう言う事…」

たったそれだけの理由かよ。
今、結構緊急事態って気が付いてないのかな?

「触ってないし。隠しただけだから」

と言っても、リョウと『災禍の剣姫』の瞳から疑いの意識は取れる気配はない。

「『クリーン』。はい、これで綺麗になった。だから、早く」

「えー。なんか嫌ー」

「わ、私も嫌よ!どうして私が男の人のチ…チ…言わせようとしないでよっ!」

勝手に一人で盛り上がらないでよっ!

「もう肩でも背中でも服でもどこでも良いから早くっ!」

そこまで言ってようやく二人は動いてくれた。

リョウは俺の顔面をアイアンクローする形で。
『災禍の剣姫』は俺の服の裾を控え目に摘む形で。

「リョウ。幾つか言いたい事があるんだけど…?」

「どこでも良いんだろ?」

ニヤケ顔で言われた。
揚げ足をとるなよ。

ハラタツ…。

でも、そうも言ってられなくなった。本当に兵士達が近くまで来ているのだ。
兵士だと言う確信はないが、このタイミングに集団で現れるのは決まって兵士達だ。

それに、小高い丘のテッペン辺りに兵士の頭らしきヘルムが確認できた。

「もうっ!説教は後!『転移』!」

なので、リョウに言いたい事は取り敢えず保留にして、俺達はその場を一瞬にして離れたーー。


〜〜〜


「のわっ!?ビ、ビックリしたのじゃっ!」

「え?」

「あ、ジジイ」

転移先を間違えた。


〜〜〜


転移する際、アルトの事を思い出してしまって転移先を間違えたりしたけど、なんとか無事に兵士達に見つからずに逃げ切る事が出来た。

「え?」

現在は俺が開けた大穴の遥か上空。

周囲の景色を一望できる場所だ。それで人がいない場所を一瞬で記憶してリストアップ。

またもや転移。


〜〜〜


さっきまで俺達が居た場所の真逆。街の反対側の草原に転移を完了した。
周囲に人の気配はなく、マップを確認しても人らしき表記はない。

問題なしっと。

「……え?」

『災禍の剣姫』は未だに混乱中みたいだ。

やっぱり、転移は珍しい魔法扱いなのかな?
アルトも驚いてたし。

取り敢えず、そんな事よりも、リョウが俺の顔から手を離してくれない。

「ねぇ、リョウ?そろそろ離してくれないかな?」

「嫌だ」

…ん?

「離してよ」

「嫌」

……んん?

「離せって!」

「やなこったー」

ハラタツゥゥゥッ!!

リョウの腕を掴み、無理にでも引き剥がそうとするけど、どこにそんな力があるのか、俺の力に対抗してきやがる。

ついでに言うと、手に力を込めて俺の顔面を締め付け始めて来た。

コイツ…ヤル気だ。

「離せえぇぇぇぇ!!」

「嫌じゃボケェェ!!」

グググッ!と何時いつぞやのギルドでの如く再開される押し問答。

俺の顔面をアイアンクロー擬きで掴んで離そうとしないリョウ。
リョウの腕を掴んで引き剥がそうとする俺。

さすがに全力でやると周囲一帯が悲惨な事になるので、自重。リョウもそれが分かっているから、戯れ合い程度の力しか篭ってない。

だからこそ、俺もその力に合わせた力を使って対抗する。

ミシミシと頭蓋から嫌な音が聞こえて来る。

「アンタ達何してるのよ…。男って…本当に訳が分からないわね…」

『災禍の剣姫』が心底呆れたような声を出しているが、俺だって分からない。
どうしてこうなるのか説明して欲しいぐらいだ。

リョウにもリョウなりの考えがあっての行動なんだろうけど…いや、それはないか。
考えなしの行動だからこそ、こんな事をするに違いない。

少しでもリョウが大人しくしてくれれば良いんだけどなぁ…。


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