ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

まるで主人公の所業

甲冑クソ野郎の相方ーー自称、領主の私兵が案内したのは、領主の館の応接間。

「ココハ・ドコと言う名の神父様を連れて参りました!」

「入れ」

自称、私兵が部屋にノックをしてから、大声で言うと、中から声が聞こえて来た。

外からの声が通ると言う事は、壁は薄いんだろうね。

「まぁ、自分の家だと思って寛げよ。ヒビキ」

部屋に入るった瞬間の第一声がこれだ。
勿論、声の主はリョウ。

上座を陣取って、堂々とした佇まいで我が物顔で座っていた。

お前の家じゃないだろうに…。

対面には、 控えめに豪華な刺繍が施された服装の中年男性が大人の威厳もへったくれもなく、リョウの起源を損なわないようにご機嫌取りをしている。

「で?」

見知らぬ中年男の隣に座るのもなんだか躊躇いがあり、リョウの隣に座るのも何か違う気がしたから、取り敢えず立ったまま尋ねる。

「で?って何だよ」

「なんでこうなった?何をしたらこうなる?何がどうして、どうなった?」

「あー、それはだな」

リョウの話によると、昼前に目が覚めたので街を歩いていると、偶然、路地裏で女の悲鳴が聞こえた。
駆け付けてみると、子供が攫われそうになっていたから、悪漢をブチのめした。

すると、その子供は領主の娘だったそうで、お礼と言う名目で領主の館に案内された。

領主の館で紹介された床に伏せっている領主の女房を適当に魔法で治したら、領主の女房に毒を盛ったと自称する男が現れたからブチのめし、半ギレして自称悪魔を名乗る変態を召喚されたからブチのめした。

だそうで。

なんか俺の知らない短い間で主人公っぽい事をしてるなぁ〜って思ったのが俺の主な感想。
でも、そんな事を口には出さずに、大きな溜息を吐く。

「どうしてそうなる…」

「知るかよ」

まだ今回はいい方に転がったから良かったから口煩くは言わないけど、どうしてそうなったかぐらいの説明はして欲しかった。

「あのぉ、お話は終わりましたでしょうか…?」

話が一段落した所で、すっかりと忘れられていた中年男性がおずおずと声をあげた。

主にリョウに対して尋ね、リョウが顎で話を促すと、安堵したように胸を撫で下ろしてから俺へと向いた。

「私、ここの領主をさせて頂いております、マータクルでございます。この度は、タロウ・リョウ様のお力をお貸してして頂き、誠にありがとうございます。つきましてはーー」

「だああぁぁっ!グダグダと堅っ苦しいわ!ボケェ!!」

リョウが突然大声を上げてダンッと机を蹴り飛ばし、俺はそれを咄嗟に中年男性ーーいや、マータクルに直撃する前に一歩踏み出して受け止めた。

マータクルは、目の前で起きた事に思考が追い付いていないようで、瞼をパチクリと瞬かせてから、ようやく起きたことに思考が追い付くと、大きく仰け反って椅子から転げ落ちた。

反応が遅すぎる。

確かに随分と堅苦しい喋り方をしている人だとは思ったけど、リョウのその言い方は少し…いや、かなり酷いと思う。

「大丈夫?…あ、いや、大丈夫ですか?」

仮にも領主って名乗ってるんだし、一応敬語は必要だよね?

「は、はい。あ、ありがとうございます…」

全身から噴き出した汗をハンカチで拭いながら椅子に座りなおすマータクル。
下っ端の営業サラリーマンにしか見えない。

「リョウ?良い子だから少し大人しくしてようね?」

「ケッ!」

そう言いながら、人の家の中だと言うのに唾を吐いてソッポを向くリョウ。

ホント、どこかに良いバカのストッパー落ちてないかな?

取り敢えず、机を元の位置に置き直して、話を戻させる。

「で、なんでしたっけ?」

「あ、はい。えっとですね、つきましては、報奨金として白金貨一枚に加え、私の所有する屋敷の一つを譲渡しようかと…も、勿論、教会への支援額も増やさせて頂きます!」

なぜか、リョウの顔色を伺いながら言葉を述べる領主。

それで良いのか領主…。

「それは大変ありがたいんですけど、お金はまだ沢山あるし、旅をしてるから屋敷なんて貰っても困ると言うか、維持が大変と言うか…それに、教会の支援って言われても、俺が崇めてるのは混沌の女神『カオスト』様なんです。なので、ごめんなさい。全部いりません」

お金はあっても困るモノじゃないけど、なんて言うか、この人の必死さを見てると受け取るのもはばかられると言うか…。

だから断ったんだけど、絶望的な表情で食い下がってきた。

「そ、そんな…せめて!せめて一つだけでも受け取って下さい!」

でも、だからって、リョウの顔色を伺いながら聴かないでよ。
まるでリョウが報酬を寄越せって言ったみたいじゃん。

……もしかして、要求したの?

「はぁ…じゃあ、俺の要望に応えてくれます?」

「は、はい!なんなりとお申し付けください!このマータクル!全力を持ってご助力させて頂きます!」

そこまで言わせるなんて…ホント、リョウはこの人に何したんだ?

まぁ、問い詰めるのは後にしよう。

「それじゃあ、混沌の女神『カオスト』様の教会を建てて欲しいです。バマルツの村にも『カオスト』様の教会があるので、そこを参考に。それから、この街には子供の浮浪者を良く見かけるので、孤児院を作って下さい」

「ケッ!偽善ぶりやがって」

リョウが何か言ってるけど、無視。

「俺は綺麗好きなんです。だから、清潔感のある教会と孤児院を所望します」

「そう言う事なら任せて下さい!このマータクル!謹んでお受けさせて頂きます!」

この領主…本当に領主かよ…。

まぁいいや。それで本人は納得してるんだし。
勝手に頑張ってもらって、勝手に自己満足してもらっておこう。

「じゃ、俺達はそう言う事で。帰るよ、リョウ」

「へーい」

俺はアータクルに背を向けて、この部屋。いや、屋敷から退散しようとする。
背後からリョウの返事も聞こえてきたから、俺が去った後でも勝手に追い付いてくるでしょ。

そう思ったのも束の間。背後から焦るように席を立つ音と共に俺を呼び止める声が聞こえた。

「ま、待って下さい!」

その声からは、とても必死さが滲み出している。彼は一体全体なにに突き動かされているのか。不思議でたまらない。

ドアノブに触れそうになっていた手を止めて、振り返ると、ガバッと頭を下げて言われた。

「せめて!せめてお昼ご飯だけでも食べて行って下さい!そうでなければ…私…娘と女房に殺されてしまいます…」

徐々に尻すぼみになる言葉。

停止する俺の思考。

「……ん?」

娘と女房に殺される…?
どういう…。

あ、成る程。

さっきからリョウをチラチラと見ていたのも、ご機嫌取りをしていたのも、全ては彼の家族の為だったんだ。
それなら、今までの彼の不可思議なほど遜った言動の意味が理解できる…かもしれない。

「あー、うん。それぐらいなら…」

いいかな?

うーん……リョウ!決断は任せた!

「リョウはどうしたい?」

「あ?別に良いんじゃね?」

鼻をホジホジしながらどうでも良さげに答えられた。

これは全く何も考えてない表情だ。

リョウに聞いたの俺が間違いだった…。

「そ、そうですかっ!ありがとうございます!で、では、娘と女房は既に食堂にて貴方方を心待ちにしておりますので!どうぞ!ご案内させて頂きます!!」

不安そうな表情から一転。今にも歓喜で雄叫びを上げそうな明るい表情を浮かべて、俺達の前に立って道案内をし始めた。

アータクルが開けてくれた扉を潜って応接間から出ると、そこにはメイドっぽい服装をした女の人が二人控えていた。

っていうか、どう見たってメイドだな。派手さもフリフリも付いてない地味な服装だけど…うん。メイドって雰囲気だ。

メイド…居たのか。

じゃあ、なぜアータクルがリョウの接待をしていたんだ…?
分からない。分からないが、なんとなく納得はできた。

結論。リョウだからだ。

分からなければ、取り敢えずリョウの責任にすれば全て納得が行く。
だって、リョウなんだもん。コイツに取る行動にはほぼほぼ全てに意味がなく、色々と深く考えていたら俺の身が保たないぐらい破綻した思考回路の持ち主。

考えたら負けだと思う。

だから、俺はリョウの事を考えるのは既に諦めていて、思考放棄している状態だ。
あぁ、なんて簡単な答えなんだろう。

そんなどうでも良いようで重要そうな事を考えながら、アータクルの後を付いて行くと、大広間のような部屋に出た。
反対側の席付近。中座辺りには15.6歳ぐらいかな?中学生ぐらいに見える子供と20歳後半ぐらいに見える綺麗な女性がいた。

ちなみに、綺麗って言うのは顔じゃなくて、服装に対してだ。ちゃんと清潔だって言いたい。

顔も普通の人から判断すれば綺麗な部類に入ると思うけど、残念。俺にはその感性がゴッソリ抜け落ちている。

それが本当に綺麗な部類の人なのか、俺には判別がつかない。

「ここが食堂です。お好きな席に座って下さい」

おいおい、そんな事言ったら…。

「んじゃ、俺はーー」

俺が何か言う前にリョウはいきなり奥の席に座ろうと歩き出した。

「いや、こっちに座ろうね?」

だから、即座に襟首を掴んで引きずってでも目の前の席に運ぶ。

アータクルに遠慮した訳ではない。
本来、奥の席ーー上座は家主か地位の高い人が座る席だ。俺達が座るような場所ではない。

常識人であり、普通の人なら『好きな席に座って良い』と言われて『はい、そうですか』と迷わず上座に座らないはずだ。

だから、俺の選択は間違っていなかった筈だ。

「す、凄い…お母様!あの神父様凄いです!タロウ様を引きずってます!」

「そ、そうね…。彼、大丈夫なのかしら…?いきなり殴られたりされないのかしら?やっぱり、ご友人だからリョウ様も急に殴り掛かったりしないのかしら?」

椅子の前までリョウを運んでいると、目の前の二人の会話が聞こえてきた。

リョウ、本当に何したの?

「ご紹介させて頂きます。私の女房のマリアンナと、娘のココットです」

紹介された順で頭を下げる二人。

普通に考えると、俺も挨拶を返さなきゃいけない感じだよね?

相手に合わせて、軽く会釈しながら俺も名乗っておく。

「あ、えっと、俺の名前は、ココハ・ドコって名前で…あ、いや、場所を聞いてる訳じゃなくて、名前だから。そこのところ間違えないようにお願いしますね?」

「ぷっ。ココハドコ…プフフッ」

「コラッ!ココット!人様の名前を聞いて笑ってはいけません!申し訳ございません!ドコ様。まだ娘は16歳なもので、教育が行き届いておらず…」

いや、ごめん。
笑いの要素を求めて付けた名前だから何とも言えないんだよ、これが…。

「あー、いや、良いんですよ。別に。気にしてませんし」

「なぁ、それより飯はまだ?俺、腹減って死にそうなんだけどー?」

そんな声が聞こえて斜め右隣へと視線を向けてみれば、既にリョウは席に着いてナイフを左手に。フォークを右手に持って、いつ料理が出てきても問題ない程に準備万端の態勢に入っていた。

「あーもう。リョウ?ナイフは右手でフォークは左手に持つんだよ?」

「知るかよ。こっちの方が食いやすいから別に良いだろうが」

「まぁ、食べ易さで言ったら否定できないけど…」

「な?」

同意を求めるなよ。

「やっぱり、タロウ様のご友人だけあって、ココハ神父様も変わってますね!」

「ココットっ!そのような事は思っても大きな声で言ってはいけません!」

あの、お二人さん?
残念ながら全部聞こえてますよ?

奥さんの方は小声で怒鳴ると言う妙技を見せてくれて俺的にも珍しくて参考になる技だけど…ね?
こんな俺でも傷付くんだよ?

そんな俺の意図が伝わったのか、それとも白い目で見ていたからか、二人…と言うか、領主の女房のマリアンナだけ気まずそうに視線を逸らした。

まぁ、後々になって気が付いたんだけど、俺の指摘する箇所がおかしかった。
ここは、挨拶をせずに先に席に着きいて食器を持っている事を指摘するべきだったのだ。

後悔先に立たず、だけど。

自己紹介を終えた後、ココットは何食わぬ顔でリョウの対面の席をわざわざ選んでから座った。
続いてマリアンナがココットの隣に座ったのを確認してから、俺もリョウの隣の席に座る。

場所的には俺の右隣にリョウ。その対面にココット。そして、俺の前にはマリアンナと言う感じだ。

で、肝心の領主だが。

「料理をお出ししろ!」

パンパンッと両手を叩いてメイド達に指示を出してる領主なのだが…。

俺達が座るのを待ってから、なぜか下座に座っていた。

本当になんでだ?





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