ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた
宿屋での騒動
「お主…いや、お主達はなぜそこまで強いのじゃ?」
上手く話を逸らしたつもりだったんだけど、やっぱりその疑問が来たか…。
仕方ない。話しても良い部分だけ。当たり障りのない事だけ話そうか。
「あー…ジーサン…じゃなかった。アルトリウスは俺のジョブは知ってるよね?」
「ああ。失われた伝説のジョブ。狂戦士じゃろ?」
今は混沌の神父らしいが、気持ち的に狂戦士だ。
それにしても、失われた?伝説?
何の事だ?
まぁ、その話は後にしよう。
「そう。それじゃあーー」
「ちょっと待つのじゃ。狂戦士は魔法を使えぬ筈じゃ。なぜお主は魔法を使える」
そう言えばそうだった。
狂戦士のジョブになると、これまで使えていた魔法やらスキルが全部無くなり、スキル『狂戦士』が追加される。
たった一つしかないスキルだけど、そのたった一つは他のスキルと比べても余りある力があるのだ。
そして、魔法を使える理由は、今は今は狂戦士だ。ではないから。
あと、バグで魔法とスキルの全取得をしている。
自分でも把握しきれてないけど…。
しかし、それを話すのも色々と面倒なわけで。
「それは…アレだ。そう、アレ」
どうやって誤魔化そうかと一瞬悩んだものの、俺にはアレがあったのを思い出した。
そう。こんな時こそ『魔法の書 (EX)』の出番だ。
「この『魔導の書』の力とでも言っておくよ」
大穴を開けた場から退避する間際に回収しておいた『魔法の書(EX)』をアルトリウスに一瞬だけチラリと見せて納得してもらう。
さすがに凝視されるとバレる可能性があるから、その一瞬しか見せない。
「ほう。そんな物があるのか」
などと口では言っているが、アルトリウスの目は何かに気が付いたように細められ、それでも深くは聞かずに黙っていてるようだ。
「話を戻すよ?俺のジョブは狂戦士。なら、リョウのジョブは何だと思う?」
「む?魔法剣士ではないのか?」
ああ、あの中途半端なジョブね。
魔法も使えて剣も使える。一見すれば強そうに見えるけど、その実、凄く中途半端。
あのジョブでは、どうやっても強者の類いーーアルトリウスや俺のジョブの部類には入る事が出来ない。
その事を理解しているからこそ、アルトリウスは「いや、違うな」と首を振って否定した。
「剣を使う者であれば、あれほどお粗末な剣技はない。せめて、自分なりの型を身に付けている筈じゃ。それに、魔法の試し撃ちなんかで災害魔獣を屠る程の猛者…魔法を極めて尚、高みに登る者にしか出来ぬ所業…」
あ、災害魔獣の話、覚えてたんだ。
「ズバリッ!大魔導士じゃなっ!?」
残念。ハズレ。
「観点は良かったと思う。でも、違う。アイツは魔術師として最高峰に位置するジョブ『賢者』だよ」
「んなっ!?あ、ありえん!ありえんぞっ!!」
「いや、でも本当に賢者だしなぁ」
魔法職を極めたら、最後には絶対に賢者に行き着く。
ちなみに、剣士を極めたら剣豪に行き着く。なぜか剣聖まで辿り着けない。
「そ、そんなバカな…。賢者は大昔に神々によってジョブ諸共消え去った筈じゃ!」
「……ん?」
どゆこと?
「もしかして…知らぬのか?いや、無理もない。儂が生まれるよりも昔の話じゃ。まだ神が五柱居た頃、賢者を名乗る者が神々の神域を侵した。神の領域に踏み込んだ賢者を危険視した神々は、賢者と酷く争ったそうじゃ。そして、神々の内の四柱を犠牲に賢者のジョブを消し去ったのじゃ」
え?そんな設定知らないんだけど?
アルトリウスが生まれるずっと昔って…ゲーム時代の500年前にも賢者になれたんだけど?
本当にどゆこと?
「じゃあ、賢者のジョブはーー」
「ない!」
言い切られちゃった。
まぁ、別にいいや。
この人は俺達のジョブを言いふらす人じゃなさそうだし、俺個人でも広げるつもりもないし。
「それじゃあ、リョウは大魔導士って事で」
アルトリウスは納得いかなさそうな、でも自分で言い切った手前、反論できずに難しい表情をして頷いた。
「じゃが、彼奴が大魔導士だとして、お主が狂戦士だとする。とすると、お主達の強さの秘密は何じゃ?まさか、ジョブに起因するとは言わぬよのぉ?」
「それはおいおい分かるさ。アルトリウス、アンタは俺達に付いてくる気でしょ?」
「む?愚問じゃな。当たり前じゃ!こんな面白…いや、更なる剣の真髄を追う為にも、新たな世界を見せるお主達を放っておける訳がなかろうっ!無理にでも付いて行くに決まっておろうが!」
「おーい、誤魔化せてないぞー」
軽いツッコミを入れてやると、視線を逸らされた。
「じゃ、じゃが、更なる剣の真髄を求めているのは本当じゃぞ?」
そんなに心配そうな表情をしなくても…。
「別に付いてきたければ付いてこれば良いよ」
「ほ、本当じゃな?言ったぞ?儂は本当に付いて行くぞ?」
「ああ。けど、リョウと一緒になって問題を起こさないでね?そうなったら、即座に見捨てるから」
「むっ…う、うむ…善処するのじゃ…」
俺が本気だと感じ取ったのか、神妙な顔をして頷いた。
でも、発言は曖昧だ。信用性にイマイチ欠ける。
「それじゃあ、宿に戻ろうか。そろそろリョウも起きてる頃だし」
アイツは一度寝ると中々起きない。
今の時刻は昼過ぎ。朝に寝た事を考えれば、普通の人の場合は起きてる。
アイツが普通かと問われれば、悩んでしまうけど。
〜〜〜
宿屋にアルトリウスと一緒に来た俺は、店員にリョウが部屋に居るかを尋ねたーーだけど、店員の一言がよく聞こえずに聞き直した。
「…え?今なんて…?」
「タロウ・リョウ様はお出掛けになられました。外出の際、何も言わずに出て行ったので、すぐに戻られるかと思いますが、戻って来られましたらお部屋に伝えに行きましょうか?」
え…。
いや、え?
リョウが何処かに行った?
あの問題児が?
それは困る。凄く困る。
なにせ、後始末は全て俺に来るんだから。
「い、いや、探しに行く。アイツが問題を抱えて戻ってくる前に…っ!」
あのバカがやりそうな事を予測すると、本当に…あぁ、頭が痛くなってきた。
いつも冷静な俺が不安で焦りを覚えるほどだ。
愛想笑いをし続けるにも限度がある。歯を食いしばって、拳をプルプルと震わせている俺は…周りから見ればどんな風に見えるのか…。
「お主、ちと怖い顔をしとるぞ?もう少し肩の力を抜いたらどうじゃ?」
アルトリウスの提案を聞き入れ、一度大きく息を吸い込んでから吐き出す。
「ふぅ…。アルトリウス…アルトって呼んでもいい?」
「うむ。懐かしい響きじゃ」
「それじゃあ、アルトはここで、ゆっくり、じっくり、コトコトと、大人しくしといてね?」
「ヒビキ、お主、大丈夫かの?」
「い・い・か・ら。分かった?」
「む…うむ。分かったのじゃ」
よし、ちゃんと聞き分けてくれた。
もしそうでなければ、今すぐにでもケツを蹴っ飛ばして街の外に吹き飛ばすつもりだったよ。
「ぅっ…悪寒が…」
アルトが何か言ってるけど、それを無視してアルトの宿代を店員の手に握らせて早口でまくし立てるように言う。
「このジーサンを適当な部屋にぶち込んで、絶対に出られないようにしといて。もし部屋から出てたら俺に教えて。あとで街の外までブッ飛ばす」
「は、はい」
「じゃ、頼んだよ」
さっさとあの問題児を見つけなければ…っ!
予測できない事ばかりして問題を起こすリョウ。
だからか、なぜか言いようのない大きな不安に駆られる。
俺はすぐにでもリョウを探そうと、急ぎ足で俺は宿屋から出ーー。
ーーバンッ!
「ここにココハ・ドコと言う神父は居るかっ!?」
ここで余談だが、宿屋の扉は内開き式だ。
そして、俺は扉を開こうとしていた。ドアノブに手を掛けた所までいっていた。
そんな時に、勢い良く扉を開かれると、どうなるか?
そんなの決まっている。
ーー激突する。
「フアァァァァァクッ!」
焦ってる状況でこんな事をされたら、相手が不可抗力だとは言え怒るのは当然だ。
マップがあるのに確認してなかった俺にも責任はある。でも、相手も相手だ。
『向こう側に誰かいるかも?』と考えて扉を開くのが常識だろ。
なんて乱暴な開け方だ。
だからこそ、俺は扉が勢い良く開くとは思わず、顔面を強打。
そのまま、扉と壁に板挟みにされた。
「うおっ!?な、なんだ貴様は!?」
俺の事を見て驚く甲冑クソ野郎。
どこか兵士の着ている鎧と似てる気がするけど、この際どうだっていい。
「一発…」
「な、なんだ?なんて言ったんだ?」
「むっ!?お主等!逃げろ!逃げるんじゃ!でないとーー」
「一発殴らせろやゴラァ!!」
言うや否や、俺は甲冑クソ野郎の懐に飛び込んで、かなり加減して殴った。
怒っているとは言え、理性は残っている。加減ぐらいは出来る。
「がっ…!?」
それでも、力の差というものがあり、それなりのダメージがあるわけで。
殴られた甲冑クソ野郎は、天井に身体を打ち付けてから、床に激突。そこから更にバウンドして壁に突っ込んだ。
天井と床と壁が少し遅れて崩れた。
「んなっ!?ブルック!?」
どうやら、甲冑クソ野郎がもう一人居たみたいだ。
扉の外。宿屋の外から、声が聞こえて横目で見てみると、甲冑クソ野郎と同じ姿をした者が立っていた。
だけど、ソイツには罪はない。俺を扉で挟んだりしてないんだから。
「貴様!ブルックに何をした!?」
「や、やめるのじゃ!此奴はーー」
「あ゛ぁ?」
「「………」」
二人を睨み付けてやると、黙り込んだ。
……っと、ちょっと怒りで暴れてしまった。反省、反省。
冷静沈着で物凄く心優しい人な俺は、怒って冷静さを失ってしまっても、すぐに我に返るのだ。
「はぁ…ごめんね?少しカッときてヤっちゃったんだ」
『倉庫』から幾らかお金を取り出して、近くのカウンターに置く。
それは、修繕費だ。
宿屋の店員は、先程から固まってしまっててるし、カウンターに置くことにした。
「ブルック…お、おま…大丈夫か?」
「ハッ!そ、そうだ!俺はココハ・ドコと言う神父を捜しにここへ来たのだっ!」
どうやら、甲冑クソ野郎はお仲間の声で起きたようだ。
あれだけバウンドしたのに…随分と頑丈なものだ。
鎧が頑丈なのかな?
「お、おいっ!貴様!この私を誰だと思っている!?私はこの街の…神父?」
何言ってるんだ?
頭でも強く打って気が狂ったか?
どこからどう見たって、お前は神父じゃないだろ。
「お、お前…まさか、ココハ・ドコなんて言う変な名前の神父じゃないだろうな」
「俺だけど?で、何?喧嘩売ってるの?俺、今、すごく、すっごーく、イライラしてるんだけど?」
ポキポキっと指の骨を鳴らして軽く準備体操をする。
変な名前と言われても否定できないけど、赤の他人にだけは言われたくない。
特に、コイツには。
無性に腹が立つ。
「ヒ、ヒビキ?少し落ち着くのじゃ。そ、そうじゃ!深呼吸じゃ!深呼吸するのじゃ!そうすれば落ち着くのじゃ!」
「…俺は落ち着いてるよ?」
至って冷静だ。
今すぐに殴りかかりたい気持ちに駆られ続けているけど、それを堪えていれるほど冷静だ。
「落ち着いてないのじゃ!顔が!顔がヤバイのじゃ!笑っておるが、全く笑えていないのじゃ!だから落ち着くのじゃ!」
「だーかーらー、俺は落ち着いてるって。だからさ、少し黙ってよっか?」
「………」
俺とアルトとの会話が終わったが、まだ隣は話をしていた。
「おい、ブルック。お前は少し下がっているんだ。いいな?」
「どうしたんだよチック。お前、顔が真っ青だぞ?」
「いいから神父様から離れるんだ。神父様を刺激しないように、ゆっくりと、な?」
「おいおい、突然何を言ってるんだよ。神父様を危険人物みたいに扱えるわけないだろ?あっと、そうだった」
何かを思い出したかのように俺へと視線を向けた甲冑クソ野郎が、なぜか上から目線で言ってきた。
「確認だが、ココハ・ドコと言う変な名前の神父ってのはお前か?」
「殺すよ?」
うん。そう言ったよね?
「お主、思っとる事と言っとる事が逆じゃぞ?」
アルトが何か言ってるけど、無視だ。
「おい!貴様!例え神父と言えど、騎士を侮辱するか!不敬罪で逮ーー」
キィィィンッと部屋内に音が鳴る。
音の発生源は、甲冑クソ野郎の首のすぐ側からだ。
なにせ、そこには白銀色に輝く剣が甲冑クソ野郎の首付近を軽く傷つけつつ壁に突き刺さっているのだから。
見ようによっては、勇者とかそんな部類の人が持ってても不思議じゃなさそうな武器だけど、そこまで強くない。
遠隔操作が出来るってだけだ。
ちなみに、ゲームだと装備したキャラの周囲を勝手に動き回っていた。
「はい?」
「はぁ…」
甲冑クソ野郎の仲間が目をパチクリとさせて剣と俺を何度も見やり、アルトは大きな溜息を吐いている。
そして、張本人である甲冑クソ野郎は、何が起きたか理解できないって顔で呆然と俺を見た後、静かに視線を首元に動かして腰を抜かして尻餅をついた。
「ヒッ…」
「ブルック。お前、もう帰ってろ」
「し、しかしっ!この神父!事もあろうか、騎士に向かって…!」
「良いから帰ってろ!」
「………」
ブツクサと戯言をほざく甲冑クソ野郎を追い出した相方の甲冑は、開いたままの扉をシッカリと閉めると、俺と視線を合わせてから腰を90度に折り曲げる。
「すまなかった!この通りだ!」
謝罪された。
「いやいや、俺の方こそ怒ってゴメンね?リョウが居ないと不安と心配でイライラしちゃって…」
何か問題を起こしてないか…本当に心配だよ。
「そ、そのですね…今回ここへ赴いたのは、そのタロウ・リョウ様の事でーー」
「リョウ?何かした?アイツ、何した?何やらかした?」
相方の言葉を最後まで聞かずに問い詰めるように尋ねてしまった。
その事に言い終えてから気付いた。
俺は相当焦ってるのかもしれない。
問い詰めてしまった相方は、完全に恐縮しきった様子で恐る恐る口を開く。
「そ、その…詳しい内容までは…。兎に角、領主の館まで来て貰うように…としか聴いておらず…」
「よし行こう。すぐ行こう。あ、アルトはお留守番ね。ちゃんと大人しくお留守番しといてね?」
「わ、分かったのじゃ…」
早口に捲し立てて、俺は相方を連れて宿屋を出たーー。
あ、ちなみに、剣はきちんと回収しました。
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