ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

望んでない結末


俺、どうやら死ななくなったみたいだ。

試しに指先をナイフで切ってみればーーナイフが折れた。

そりゃそうか。俺のレベルは1だけど、防御とかバグってるんだもん。そこらのナイフじゃ傷すら付けられないのは当然だ。

だから、新たにレア度の高いナイフを取り出し、指先の力を抜いて軽く切ってみる。
すると、血は出るけどすぐに傷口は塞がり、跡形もなく完治した。

痛みはなかった。

物が当たった感覚はあったものの、痛みがないと言うのはまた怖いものがある。
だからと言うべきか、不安に駆られて俺の自傷行為は徐々にエスカレートして行く。

指先に軽く傷を付ける所から始まり、次に深く傷付ける。その次には指を切り落とした。

さすがに指を切り落とすと僅かに痛みがあった。

でも、痒い程度の痛み。そして、それすらもすぐに治った。
それがまた、違和感と原因の分からない恐怖を煽る。

だから、俺はーーひと思いに心臓を突き刺してみた。

一瞬、意識が途切れた。でも、すぐに意識は戻り、気が付けばナイフは胸から抜けて地面に落ちており、傷口も塞がっていた。

……俺は本当に人間じゃなくなってしまったようだ。

ここまで求めてなかったよ…。












暫くの間、自分の身体の異常性に向き合う事が出来ず現実逃避をしていたが、それだと何も始まらないと、あれから1時間経ってから気が付いた。

取り敢えず、気を取り直してリョウを起こしに行く事にしよう。

リョウは隣の302号室に泊まっている。

今の時刻はAM7時52分。
そろそろ起きてても不思議じゃない時間だ。

そう思って部屋の扉を開くとーーそこには、この世の終わりでも見たかのような顔をして佇むリョウが居た。

それだけで、リョウに何があったのかを察する事が出来た。

「……見た?」

「……ああ…」

「どうだった?」

「死ぬかと…死ぬかと思った…」

リョウにここまで言わせるとは…やはり、アレの存在はおそるべし。

例え、不死になった俺であってもアレとは対面したくない。

あの、Gを見に纏ったゾンビとは…。

しかも、攻撃すると増えるんだ。
幾らでも増殖するんだ。
一発当てれば、十倍近くに増える。
アレを悪夢と言わずしてなんになるって話だ。

まぁ、俺はあれだけ忠告したのに、忠告を無視して部屋から出たリョウも悪いんだけどね。

「はぁ…取り敢えず、リョウ。今日は休もっか?」

「ああ…でも、頼む…。宿屋を変えてくれ…」

やっぱりトラウマになるよね。
ここまでリョウが真剣に頼んでくるなんて、本当に珍しい事だ。

そんな頼みを無下にするほど俺は冷酷じゃないし、酷いやつでもないから、勿論、その答えは『OK』だ。

その事を頷いて示すと、リョウは安堵し切った表情のまま背後に倒れた。

その有様を見る限りだと、相当逃げ回ったんだと分かる。それも、本気で。

ちなみに、俺が301号室で儀式っぽい事を始めた7時00分丁度に部屋の扉や窓が振動したのは、ゴキが体当たりしていたからだったりする。

死神の出現とは全く関係のないゴキの集団。
謂わば、部屋の番人みたいな扱いだ。
窓や扉を締め切っていれば、絶対に入ってこない。

ついでに言うと、窓や扉の前にポーションを設置したのは、部屋内の死神がどこかに行かないようにだ。

そんな面倒の多い301号室だが、ゲームでは室内に入るだけで大変だった。
ゴキ集団を倒す事は不可能なので、逃げ回ってから301号室に再び戻って、部屋に飛び込むしか術はなかったのだから。

でも、アレを見やずに部屋に居れたのは、良かった。

アレは精神的に悪すぎる。

そんな訳で、朝も昨晩と同じ店番している女の子に部屋を血で汚した掃除の手間賃などのお金を握らせて、その宿屋を後にした。

ちなみに、女の子の喋り方は治っていた。

今度はなぜか元気な喋り方をする京都弁っぽいのになっていたけど。


〜〜〜


リョウを高級宿の一室まで運んだ後、俺は再び賑わいを見せる街に舞い戻って来た。

特にこれと言った用事はないけど、俺は安全と安定を求める人間だ。…人間だ。

だからこそ、俺達に降り掛かりそうな火の粉を今の内に払い、降り掛かるかもしれない不確定要素の多い火元の情報を集めておこうと思った訳だ。

あと、少し足を運びたい場所がある。

とは言え、情報を集めるにはそれなりの人脈が必要となる。

だから、地道にコツコツと情報収集と人脈作りだ。

露店で買い物をしながら。喫茶店で紅茶を飲みながら。ギルドの酒場で昼ご飯を食べながら。

周囲の声に耳を傾けて、新たな情報の一雫でも得ようとする。

その際に色々と情報が手に入った。
噂程度の情報だが、火のないところに煙は立たないと言う。

何か関与をしているだろう情報が沢山入ってきた。

その中で一番俺達に近い情報が。
『黒い全身鎧が夜中に街を徘徊しているらしい』と言う噂話と『街の子供が攫われる頻度が増えた』と言う噂話だった。

全身鎧は出没したからと言って現状では何が起きてるわけでもなく、夜遅くに街の中を徘徊する姿を目撃されているだけらしい。

あと、子供が攫われるのは、おおよその予測で帝国関係だろう。実験やらなんやらと余り良い噂はきかない。

ゲーム時代にはなかったから、どう対処すれば良いかなんて分からないが、なるようにはなるだろう。

でも、早めに対処しておかないと後々面倒になりそうだと思ったので、その情報を重点的に集める事にした。

そうだな…手始めに聞くのは、そうだね。アイツ等で良いや…。









「あっ!兄貴じゃないですかっ!ちわッス!」

「「ちわッス!!」」

俺が訪れたのは、コイツ等が良く来ていると自分から言っていた酒場だ。
人気が少なく、カウンター席と机席があって、灯りは薄暗く、されど雰囲気は明るい。
バーとでも言えば良いのか。そんな感じを受ける場所だ。

そして、俺を兄貴と呼ぶ者達。
彼等の名前は覚えていないが、以前、俺達の後を尾行して、痛い目を見た冒険者達だ。

実験と称して散々酷い目にあったはずなのに、なぜか、やけに彼等に慕われてる。

不思議でたまらない。

それは兎も角。

「最近の噂話で調べて欲しい事があって来たんだけど、今時間は空いてるかな?」

「はい!兄貴の為なら、どんな状況にあっても駆け付けます!」

いや、そこまでの忠誠はいらないから。

取り敢えず、彼等の座ってる机席に混ぜてもらい、調べて欲しい話を手短に説明した。

「黒い全身鎧と子供達の失踪事件ですか?それと兄貴がどう言った関係が…?いえ、なんでもありませんっ!兄貴が求めるその情報!全力で集めさせていただきます!」

俺が尋ねた内容に一瞬だけ訝しみを覚えたようだけど、なぜか自己解決。深くは聞かずに瞳に炎を宿してヤル気に満ち溢れた表情をした。

コイツ等の考えが分からん…。

「まぁ、そこまで急いでないし、そんなに気張らなくても良いよ。不安要素を少しでも減らしておきたいだけだし」

「そうなんですねっ!さすが我等の兄貴です!」

誰がお前等の兄貴だ。
っていうか、コイツ等、絶対意味を理解してないだろ。

まぁ良いや。

「別に、絶対に欲しいって訳でもないし、比較的に新しい情報が入って来たら教えて。それがどんな噂でも、眉唾だったとしても、俺は別に構わないから。どうせなら情報にあった報酬も払うよ」

「滅相もない!兄貴から報酬なんて貰える訳ないですよ!僕達は兄貴の舎弟なんですから!」

いつから俺は舎弟なんか取ったんだ?

「兄貴はズッシリと構えていてください!このアンガスっ!兄貴の為とあらば地獄の果てにでも使いを果たしてみせます!」

「そ、そっか。それは頼もしいね…」

「はい!なので、兄貴は僕等の帰りを待っていてください!必ず兄貴の望む情報を持って戻りますのでっ!」

「あ、うん」

「よしっ!行くぞっ!!」

「「「おう!!」」」

ダダダダダッと、俺の使いっ走りとなった冒険者達が酒場を立ち去って行くのを最後まで見届け、立ち上がる。その際、ふと、思った。

机の上には幾つか木製のコップが置かれており、中には中途半端に中身が残ったものもある。
アイツ等、酒飲んでたのか?

それで…金は…?

視線を店主に向けてみれば、肩をすくめて笑ってみせた。

どうやら、いつもの事のようだ。

「はぁ…。幾ら?」

「良いんですかい?」

「ああ。アイツ等に頼み事をしたんだ。これぐらいの事ぐらいしとかなきゃ、対価として見合わないでしょ?」

「ハハハッ。随分とカッコいい事を言う神父様だな。ついでにツケも払ってくれよ」

「値段による」

「金貨1枚と銀貨4枚だ。今回の飲み代を含めると、もう少し上がるが…。それはオマケしとくぞ?」

強面の顔をしてるくせに、商売上手だ。
まぁ、それぐらいなら払っても端た金だし、問題ないか。

「それじゃあ、それで頼むよ。金貨1枚と銀貨4枚ね」

ポケットから取り出した硬貨をカウンターに置いて支払いを済ませ、店主から感謝の言葉を背に受けながら俺も酒場を後にした。

さて、次は、街の外だ。

視界端にあるマップ表示を拡大して、この街の全体を見る限りだと、あの人はマップ範囲ギリギリに映る場所に居るのが分かったから、そちらへと足を向ける。











目的の人物の場所にはすぐに来る事が出来た。

だだっ広い草原に一人だけポツンと地面に座り込み、瞑想しているんだから。本当に見つけるのは容易かった。

それに、ここは色々と都合の良い場所だ。

その人物と会話の為に近寄って行くとーー。

「ーーッ!?強者の香り!?」

「うわっと!?」

少しビックリした。

突然、くわっ!?と両目を開いたと思うと、足元に置いていた木刀を素早く手に取って切り掛かって来たんだから。

でも、俺の持ってる『魔法の書 (EX)』の頑丈さは伊達ではない。剣撃を受け止めるだけで、木刀は砕け散った。

「この感覚は…」

そう言いながら、目の前の人物が瞑っていた目をゆっくりと開き、俺を視界に入れた途端、大きく後方へ飛び退いた。

「な、ななな、なぜ儂がここに居ると判ったのじゃ!?」

このジーサン。動揺すると言葉が素に戻るよな。初めて会話した時の喋り方は…もしかして、カッコ付けたかっただけなのかな…?

「まぁまぁ。そんな事は別に良いでしょ?それよりもさ、俺と一試合しない?」

「……どう言った心境の変化じゃ?」

「ただ、俺の力がどこまで通用するか、それを確かめたいだけ。ジーサンは剣聖って言われるぐらい強いんでしょ?だったら、試させてよ。技を極めた人相手に力しか能のない俺が勝てるかどうかを…」

この人が本当に剣聖なら、俺は負ける。
でも、この人に追い付く程の力量さえあれば、この世界に敵はいないと考えても良いぐらいだ。

なにせ、世界最高峰の頂にいる人物の一人が剣聖と言う人物なのだから。

「…ふむ。そう言う事なら…」

「じゃあ、ルールを決めるね。武器はなんでも使って良い。目潰し、金的。魔法も、なんでもあり」

「お主は一体なにを…それでは、ただの喧嘩では…」

そこまで言うと、ジーサンは何かに気が付いてニヤリと笑みを浮かべた。

何に気が付いたかは知らないけど、俺はそこまで深い意味を持たせていない。
生死を賭けた戦いの場では、ルールなんてないのが当たり前だから、それを模しただけだ。

「構わん。構わんぞ。ならば、儂は愛刀を使わせて貰うぞ?」

「うん。俺は…俺の場合は、見てのお楽しみだね。こう見えても、近接戦のジョブだからね」

「ほう。それは頼もしいのぉ。じゃが、儂の本気に耐え切れるかのぉ?」

「無理だったら、俺はそこまでの人間・・だったって事だね」

「クカカッ!言いよるな。それでは、いっちょ、若い者の胸を借りさせて貰おうかのぉ?」

「胸を借りるのは俺だけどね」

ニヤリと獰猛な笑みを浮かべるジーサンに、俺は苦笑いを返して腰に引っ掛けている『魔法の書 (EX)』を手に取って構える。

ジーサンも、どこからか黒と白が入り混じった刀を取り出して構えた。

どこまでも鋭く、一睨みで敵を射抜きそうな眼差し。それを全身で浴びつつ、一呼吸置く。

そしてーー俺達は衝突した。







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