ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた
違うんだ…
ゲームでは絶対に当てがわれない大部屋と小部屋。
301号室の大部屋と302号室の小部屋。
俺はその内の302号室の鍵をリョウに渡した。
そこは何も起きない。
なぜ、俺はその2部屋が絶対に空いてると確信していたのか。それは、301号室が曰く付きだからだ。
そして、302号室の中は何も起きないものの、廊下は301号室の範囲内だから、誰も泊めれないと踏んだ。
そして、その予想は見事に的中してたわけだ。
302号室のある三階の廊下には『夜は絶対に廊下に出てはいけない』と注意書きの書かれた張り紙があちこちに貼り付けられている。
ゲームでは宿屋で泊まった時に夜に外出する事は出来なかったけど、今は違う。
自分の意思で外に出れてしまう。
まぁ、もし部屋から出てしまえばゲーム時代ですら悪夢と呼ばれるアレを見てしまう事になるから、出ない方が良いのは変わらない。
ちなみに、ゲームでは宿屋には泊まらず、夜間に移動しなければならなかった。
夜間に移動しなければならない理由は、どこの宿屋も昼夜関係なく受付から先には進む事は出来ないからだ。
しかし、なぜか、この宿屋だけ夜間ならば受付から先に進む事ができた。
そして、知らずに入ってしまうとトラウマ級のアレと遭遇してしまうんだ。
だが、今回、俺は301号室に泊まれた。廊下のアレを見なくて済む。
ちなみに、リョウを302号室にした理由は、アイツを隣に置いておかないと俺の気が済まないからだ。
勝手にどこかに行かれても困るから、外に出れない302号室にした。
要は、閉じ込めるつもりだ。
まぁ、出れないってのは比喩で、出ようと思ったら出れるんだけどね。
だけど、何も言わずに部屋に送り出すほど俺は冷酷じゃない。ちゃんと説明してやるつもりだ。
302号室の部屋の中。ゲーム通りの普通の部屋だ。ボロくはないけど、綺麗でもない。本当に普通の部屋。
その部屋の壁に一枚だけペタンっと分かりやすく貼られている羊皮紙が一枚。
俺はそこの前に立って説明する。
「リョウ。一応注意しとくけど、絶対に夜は部屋から出ないようにね?別にリョウが後悔しても良いって言うんなら止めはしないけど、興味本位で行くのは辞めといた方がいいよ。もし廊下に出てしまったら、その時は俺も助けには来れないから、自力で逃げ切ってね。たぶん、ゲームと一緒なら街の外に出ても朝になるまで追いかけて来るから…」
思い出したら鳥肌が…。
でも、全部言っておかないと、リョウの場合は興味本位でやりかねないから、対処法も全部教えておかないといけない。
「取り敢えず、絶対に安全なのは部屋の中から出ない事。もし出てしまってアレに見つかったら絶対に戦ったらダメ。無限に増えるから」
アレはもう増殖するってレベルじゃない。
あれこそがバグだって言い切れる。
「追いかけられたら、朝になるまで逃げ続けなきゃならないから。そこんところ、肝に銘じとくように。絶対に『勝てるかも?』とか甘い考えで挑んじゃダメだから。忠告はしたからね?」
うんうん、と頷いて、聴いているようで聴いていなさそうなリョウに一通り説明したので、さっさと事前準備を済ませる為に301号室に移動する。
301号室の中は大部屋と言うだけあって、左に大きく膨らむ形で広々としている。
元は貴族とか、そう言う類の人達を泊める為の部屋なんだろうけど、どこか薄暗い雰囲気がある。
入ってすぐに向かい合う形で置かれた赤いソファとそれに挟まれた長机が目に入る。窓は木窓じゃなく全てが古臭いデコボコだらけのガラス張り。全て開閉不可な窓で、一番右側である入ってすぐの正面に扉があり、外はテラスに繋がっている。
左奥には大きな天蓋付きベッドがドンっと置かれており、その他には何も入れられていない本棚やクローゼットなどが置かれている。
兎に角さっさと準備をしなきゃ、もう少しで夜の時間だ。
視界端にある時刻表記が午後6時50分となっている。
このイベントは7時キッカリに始まるから、本当に急がなければならない。
まず『イベントリ』から取り出した最高級ポーションを扉を塞ぐ形で置く。
次に、ソファの周りもグルリと最高級ポーションで囲み、机の上に水晶を置く。
ガラス張りの窓はカーテンを締め切って外を見えないように。テラスと繋がる扉の前にも最高級ポーションで塞ぐ。
あとは、空いた空間に最高級ポーションを決まった位置に置いて、ソファに座って時間になるのを待つだけ。
6時58分。
ゲーム時代では『ビックリした』とかで済んでたけど、今は現実だ。
実際に体感するなんて…怖い…。
6時59分。
やっぱり辞めようかな?
今から店員の女の子に謝って、部屋を変えてもらおうかな?
あぁ。本当にダメだ。怖すぎる。
準備は万端。でも、不安しかない。
そうこうしていると、時刻が7時00分となった。
刹那ーーブワッとどこからともなく噴き出す黒いモヤ。
まるで激しい風が打ち付けているかのようにガラス張りの窓がガタガタッ、ドンドンッと音を立て始め、廊下とテラスに繋がる扉にズダンッ!ズダンッ!と何かが激しく打ち付けるような音が響き始めた。
ーー始まってしまった。
『死の時間』だ。
もう取り消しは出来ない。逃げる事も出来ない。俺が自分で選んだ事だけど、本当に嫌になってくる。
っと、後悔していると、ふと、周囲の音が静かになった。
ーーそう思った瞬間。ゾワリッと背中に氷を突っ込まれたかのような感覚に陥った。
振り返ってはダメだと俺の中の何かが叫ぶ。
ゲームだと普通に振り返って正体を確認できたものの、これが現実であり、小心者の俺じゃ無理だ。
背後からジッと何者かの冷たい視線を受けている感覚に、今すぐに逃げ出して、どこかに隠れたくなる。
でも、理性でそれを押し留める。
例え逃げ出しても、どこに隠れていようとも、俺の背後にいるヤツからは逃げられない。
ゲームで何度か面白半分で試したけど、逃げてもすぐに追いつかれて死ぬ。隠れても見つけられて死ぬ。戦っても、死ぬ。
どうやっても、コイツには勝てない。
例え、レベルをカンストさせていようと、ジョブを極めていようと、全てのスキルや魔法を使えたとしても、コイツには勝つ事が出来ない。
だって俺の背後にいるのーー死神なんだもん。
そりゃ、勝てないよ。バグをどれだけ利用しようとも勝てない相手ぐらい居るよ。
コイツに勝てるやつなんてチートを使って死なないようにしてる奴ぐらいだよ。
でも、ここに居る限り俺は大丈夫。
この最高級ポーション達が俺を守ってくれる。
ゲーム時代はそうだった。
どんな安物のポーションでも、ポーションで囲んだ場所にコイツは入ってこれなかった。
謂わば、俺はポーションで作られた結界に守られている状況だ。
そう。今の俺は大丈夫。ここは安全なんだ。
何度も自分自身に言い聞かせて、俺は目の前に置いた水晶をジッと見つめ続ける。
何も見えない。ただの水晶だ。
それでも、俺はジッと水晶を見続ける。そうする事に意味があるのだ。
いや、本当にそうなのかは分からないけど、ゲームだと『水晶を覗く』の選択を連打してたから、合ってるはずだ。
何分。はたまた何時間そうしていたか。水晶の中に小さな光が集まり、徐々に光が広がって水晶全体を照らし始めた。
そして、ようやく映った。
俺とリョウ。そして、あの老人とミミルと、誰だか知らない女の子2名が楽しげに焚き火を囲んで談笑している姿が。
水晶はそれだけ映すとプツリと途切れ、ついでに俺の意識もプツリと途切れた。
意識が戻ると、そこは何もなかった。
全てが真っ黒で、遠くの方に所々小さく色取り取りな光が見える。
まるで、宇宙にいるようだ。そう例えた方がシックリと来る。
ゲームでもこれを行なった後はブラックアウトして、この場所に飛ばされていたけど…本当の意味でブラックアウトしていたとは…。
「ヨクキタ、ニンゲン。ココハ、ハザマノセカイ。…ニンゲン。ナニヲノゾミ、ココヘキタ」
声が聞こえて上を向くと、そこには巨大な骨の化物ーードラゴンが居た。
…っと、思えば重力の向きがゴロリと変わり、足元に感じていた目に見えない床は消え、前面に床のような感覚を感じた。
要するに、俺はうつ伏せに寝転がる姿となってドラゴンと相対する事となった。
それにしても…ゲーム時代と同じセリフを聴かされるとは思いもよらなかった。
少し笑いそうになるのを心の内側で抑え込む。
「ナニガオカシイ。ニンゲン」
訂正。笑ってしまっていたようだ。
睨まれてる。目の前のドラゴンに眼球なんてないのに、そんな感じがする。
でも、俺の背後に居た死神の視線を受けていた身からすると、アレなんかよりずっと気が楽だ。
あの、死を体現したような冷たい感覚を味わった今なら、このドラゴンとも普通に話せる自信がある。
「ハハッ。ごめん。思い出し笑いだよ。そんな事よりも、聞きたい事があるんだけど」
「ノゾミヲイエ」
そこまで同じだとは。
俺の言葉に返答すらせずにゲーム通りのセリフを吐くなんて…。
…まぁ、いいや。
深く考えたって答えなんて出やしないんだから。
えーっと、ゲームだとこの場合の選択肢は三つだ。
『武器』
『防具』
『不死の妙薬』
ちなみに、『不死の妙薬』は『神聖水』の事だ。
武器は『死神の鎌』
防具は『死神のローブ』
そして、俺は全部持ってる。
全部持ってるのに、なぜ来たのか。
その理由は単純だ。
「鎌、ローブ、不死の妙薬」
「…ドコデソレヲシッタ」
また睨まれてるような感じがした。
目の前の骨のドラゴンには全身が骨だから目はないのに、不思議な感覚だ。
でも、初めて決まったセリフじゃない返答が聞けて、内心でほくそ笑む。
「知ってると言うか、もう持ってる。だから聴きたいんだ。それ以外に何があるの?」
俺の目的はこれだ。
既に持ってる物を貰っても仕方がない。だからこそ、他に何が貰えるのか知りたかった。
その中に有用性が高く、俺達の旅を安全にしてくれる物があれば、それを選ぶつもりなのだ。
「タイカヲハラエ。サスレバ、ニンゲン。キサマノノゾミヲカナエル」
対価、か。
そんな事は知っている。鎌もローブも妙薬も、全て対価があってこそ貰えるものだ。
だからこそ問う。
「対価は?」
「イノチヲヨコセ」
「じゃあ、コレは?」
そう言いながら『倉庫』から『命の雫』を取り出す。
これは、ストーリーの中盤辺りで『世界樹』を復活させる為に使われるアイテム。
その際に『聖剣エクスカリバー』が手に入る。
だけど、『世界樹』を見捨てた場合のストーリーも存在する。それが、この目の前にいるドラゴンと言う訳だ。
まぁ、ドラゴンとの対話はストーリーが終わってからでもいつでも出来るし、『世界樹』を復活させてからでも、『命の雫』さえあれば何度だって対話可能。
そして、『命の雫』は、バグで幾らでも入手できる。
なので、武器や防具など貰い放題だった。
「イノチニアタイスル。タイカトミトメヨウ」
スゥーッと音を立てずに、俺が持っていた『命の雫』は消えていった。
どうやら、パクられたらしい。
まだ何も要求を言ってないのに。
「ニンゲン。ノゾミヲイエ」
「鎌、ローブ、妙薬。全部持ってる。後は何を貰えるの?」
「………ニンゲン。ノゾミヲイエ」
……もしかして、それ以外ないの?
ちょっと吹っかけてみるか。
「じゃあ、永遠の命ってのは貰える?」
「ソノノゾミ、カナエヨウ」
あ、コイツ、全く話聞かないやつだ。
「ちょっーー」
ちょっと待って。そう言おうとしたけど少し遅かった。
いや、遅いも何もないか。ただ、骨ドラゴンがせっかち過ぎた。
俺が停止の声を上げている最中にも関わらず、ドラゴンのせっかちの所為で俺の意識は再び途切れた。
……気が付けば、小鳥の囀りが聞こえ、カーテンの隙間から太陽の明かりが覗く時間となっていた。
時刻はAM 06:06だ。
周囲に置かれていたポーションは全て消えており、何もなかったかのように無駄に広いだけの部屋。
その部屋に備え付けられた赤いソファの上で、俺は目を覚ました。
「どう言う寝相したらこうなるんだか…」
ソファに腰掛け、両手を伸ばし切ったまま机に突っ伏した状態で俺は目を覚ました。
ソファよりも高さが低い机に体を預けると言った、凄く寝辛そうな体勢で寝ていたみたいだ。
よく寝れた…とは言い難い。
肩は凝ってるし、背中は痛いし、首は寝違えている。正直言って最悪の寝起きだ。
取り敢えず、あちらの世界に行って手に入れてしまった『永遠の命』とやらの正体を確認するために、辺りを見渡したり、『イベントリ』の中を確認してみるけどーー。
「何もないんだけど…」
ゲームでは無かった事だから、何を得られるかなんて俺にも分からない。
だけど、身体にも変化がなく、物が何もないとなると確認のしようがない。
ふと、なんとなくメニュー画面を見てみるも、何も変化はない。
そのままステータス画面まで移動して覗いてみると……変化を見つけた。
▽▽▽
名前:ココハ・ドコ
性別:男
種族:不死者
ジョブ:混沌の使者
レベル:1
SP:9999
HP:ーー
MP:ーー
攻撃:99999
防御:99999
魔力:99999
精神:99999
速度:99999
スキル
『ーーー』
魔法
『ーーー』
称号
『ーーー』
特殊能力
『不老不死』
『再生』
『死神の力』
△△△
種族が『不死者』に変わっていたのと、ジョブが進化?退化?していた。
取り敢えず、ジョブ名が変わった反動でレベルが1に戻っていた。
今度辺り、時間を見つけたらジョブを元に戻そう。
それはそうと、記載されているステータスは余り変わってないようだ。
ジョブが変われば、レベル1に逆戻り。それに、ステータスが多少なりとも減少するのに、その変化すらないとは。
なにか理由があるのかな?
あと、特殊能力とか訳の分からん項目が追加されている。
しかも、内容が無茶苦茶だ。
俺、マジで死ななくなってるんだけど?
尋ねただけなのに、不老不死なんて怪物にされた。おまけに『死神の力』なんて使うのも怖いものまで追加されてるし。
確かに死ぬのは怖いけど、ここまで求めてなかった。まさかすぎて、開いた口が塞がらない。
これ…歳取れるのかな…?
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