ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

一悶着


「あの〜、お取り込み中失礼します」

「あ、はいはい?」

リョウと手と手を取り合って力比べをしている所で、受付嬢が戻って来たようだ。

「ギルドタグの発行が出来たのですけど…」

チラリと俺とリョウを交互に見遣る受付嬢。

彼女からすれば、神父と頭のイカれたツレが何故か戻ってくると取っ組み合いをしている現場を見せられ、混乱してしまいそうになって居るはずだ。

でも、大丈夫。

俺も…どうしてこうなっているか分からない。

「リョウ?そろそろ力を弱めてくれないかな?受付嬢さんが戻って来たよ?」

「………」

「ギルドタグ、持って来てくれたんだよ?」

「………」

何その無言!?
顔は笑っているのに、目は全く笑ってない表情。これまでで一番怖いよ!

けれど、徐々に俺が力を弱めていくと、リョウも緩めてくれている。

このままいけば、押し合い問答は終わるーー筈だった。

ほんの僅かに気を抜いただけだった。その瞬間を突いて、リョウは俺の手から腕を引っぺがすと、拳を握り締めて俺の顔面目掛けて振り抜いてきた。

それに反応しきれなかった俺は、迫り来る拳に逃げる事も防御する事も出来ずーー。

「ふガッ!?」

俺の顔面にリョウの左ストレートが炸裂した。

当たる瞬間、ギリギリで後方に飛び退く事で衝撃を逃し、辺りの物を壊さないようする為、大袈裟に身体を何度かクルクルと回転させて力を逃し、上手く着地する。

「「「おぉー!…おぉ?」」」

酒場で成り行きを眺めていた冒険者達から感嘆の声を頂いた。

おそらく、大会などに出たら今の動きは満点間違いなしだ。
自分でも上手くいったと思う。

冒険者達が俺とリョウのどちらが勝つかを賭けていたみたいで、賭けに勝った者達の喜びの声や負けた者の悲しみの声を耳にしながら、何食わぬ顔で受付へと戻る。

「あの、大丈夫ですか?」

「はひ、はいひょーふへふ」

あれ?
ちゃんと喋ってるはずなのに、発せられる声がおかしいな?

隣のリョウは俺の顔を見るなりガッツポーズを取ってるし、周りの冒険者達も俺の顔を見るなり笑い出したり、心配そうな顔をするなりしている。

ちなみに、受付嬢も心配そうな表情を浮かべている。

……なぜ?

受付嬢が心配そうな顔をしながら、カウンターの裏から良く磨かれた鉄板を取り出して見せつけてくる。

そこには、見覚えのある老け顔がシッカリと写っていた。
天然パーマなのか、ボサボサの髪型。薄く見開かれた元気のない瞳。胡散臭そうな笑み。

俺自身を映しているように見えなくはない。

でも、違う。だって、髪が真っ白じゃないか。
俺の髪は白髪混じりなだけで、ここまで真っ白じゃない。

って言う事は別人だな。

鼻がへし折れ、歯抜けになり、頬が異様な程膨らんだ俺と良く似た顔をした人物。

哀れな奴だ。

ホント、哀れな奴だ…。

……なぜだろう。この鉄板に映っているのは別人の筈で俺じゃないのに、なぜか心と顔が痛むんだ。

「良ければ、医務室にご案内致しますが…」

受付嬢が慈愛に満ちた声を掛けてくる。

どうして俺に言うんだよ…。
あぁ。涙が出てきそう…。

ああ、クソ。泣いちゃいけない。

「ひ、必要ないっ!」

すぐに『イベントリ』から最上級ポーションを取り出して、一気に飲み干す。

仄かな苦味と後に残る甘み…。初めて飲んだけど、お茶に似た味をしている。

一滴残らず飲み干すと、顔の痛みが引いて行き、心の痛みも少しは和らいだ。
なぜか驚いた顔をしている受付嬢が持ってる鉄板に視線を向ければ、その向こう側にいる俺と良く似た人物の顔も復活していた。

…にしても、鉄板に写ってる奴は本当に俺に良く似ている。薄く開かれた瞳とか、ヘラヘラと胡散臭い笑みばかり浮かべてる口元とか、若干涙目な所とか、本当に似ている。
俺と言われても疑いを持たない程だ。

でも、まぁ、俺じゃないだろうけど。

だって、俺は白髪じゃないもん。

「せっこ。もう治しやがった」

「ポーションをナメるなよ?致命傷になっても復活できるからな?」

ゲームの場合はレベルMAXの狂戦士でHPがギリギリだったとしても、最上級ポーション一本でHPを半分ほど回復できるんだ。

この程度の痛みぐらい治せなきゃポーションとは言えない。

とは言え、今のは痛い程度・・・・で激痛とまでは行かなかった。だから、どの程度の効果があるのかはハッキリとは分からない。
骨折した場合や四肢が欠損した場合などにも有効か。流れ出た血は戻るのかなど、良い実験体でも見つけて試してみるべきだろう。

「それじゃ、受付嬢さん?ギルドタグを貰えますか?」

「…は、はひっ!」

あ、今噛んだ。

顔を赤く染め上げて、受付嬢は一瞬だけ視線を下に向けると、何事もなかったかのように向き直って言う。

「……はい。どうぞ」

どうやら、無かったことにしたようだ。

受付嬢からギルドタグを受け取り、片方をリョウに渡す。

「…説明致します。お渡ししたギルドタグは、冒険者ギルドでの身分証の他にも、通行証にもなり、ギルドにお金を預ける際の証明書となります」

ふむふむ。成る程。
詰所で兵士さんが教えてくれたのはこの事か。

ちなみに、兵士さんから『仮身分証』と言う物を渡されている。それが有効な期限は一週間で、それを過ぎて滞在すれば違法滞在となるらしい。
滞在延期を望むなら、どこかのギルドに登録しなきゃならない。ギルドに登録していれば、どれだけ滞在しても問題ない。

あと、住民登録ってのもあるらしい。
その場合は、その街の出入り口にしか使えないらしい。

まぁ、どちらにしろ税金は取られるらしいけど。

冒険者ギルドに登録している場合は、依頼の報酬から差し引かれるって教えられた。

「その他にも、ランクを上げていただくと当ギルドが管理する商店などの割引が効き、中堅…DやCランクになると宿屋の割引も効き、高収入な依頼の斡旋も優先的にさせて頂くようになります」

中堅クラスがDやCって事は、それ以下は駆け出しで、それ以上は上級冒険者になるって事か。

「レベルが高く、まだ若い貴方方なら、中堅の良い所まで行けるでしょう。ですが、決して無理はせず、危険だと思ったら逃げる事も大事ですよ?命あっての物種ですからね」

確かに、死んでしまっては元も子もないからね。
でも、俺達にはほぼほぼ関係ない話だとも思う。なにせ、レベル999とレベル1000なんだよ?

自分で言うのもなんだけど、魔王ですらワンパンで倒せる規格外な人間だ。
そうそう危機に陥る事はない。

でも、一つ彼女の言葉の中に聞き捨てならない言葉があった。

「…若い?」

「はい?」

「受付嬢さんの歳って幾つですか?」

「今年で20になります」

「…俺らって…若い?」

「え?はい。15、6ぐらいに見えますが…違いましたでしょうか?」

そっか。

「いや、良いよ、それで」

若く見られるって事は、何もかもに対して未熟として見られる事が大半だ。
若いってだけでバカにされたり、足元を見られたり、未熟者と決めつけられるんだ。

俺はそれを嫌ってほど仕事や私事で経験したから、若いと言われて余り良い思いはしない。

受付嬢さんが不思議そうに可愛らしく首を傾げているけど、俺はそんな彼女に対して素っ気ない態度で返しておいた。

「なぁ、ヒビキ?」

「ん?」

「今、ちょっとアリかもって思った?」

「…は?」

突然何を言い出すの?
アリってどう言う意味なのか…うん、分からない。

「なぁ、あんたの名前は?」

「え?サリィーナですけど…?」

「不束者だが、ヒビキを宜しく」

「ちょっ!ちょっと待って!?いきなり何言ってるんだよ!どうしてそうなるっ!?」

アリって、そう言う意味のアリだったの!?
突然過ぎて訳がわからなかったよ!

って、受付嬢さん…じゃなかった。サリィーナさんも顔を真っ赤にして満更でもなさそうに…。いや!そうじゃなくて、なんでそうなるっ!?

いや、いやいや…うん。ここは一度冷静になろう。

「……ふぅ…。なぁ、リョウ?どうしてそうなった?」

「あ?仲好さそう話してるから、お似合いだなぁ〜って思っただけだが?」

「思っただけって…だからって、相手の気持ちも考えずにそんな事を言うのはどうかと思うよ?」

「私はオッケーです」

えっ!?

いや、ちょっと待って。

…えっ!?

「若くて将来性もあって有能なご友人もいて、登録手数料を渋る事なく出す…最良物件じゃないですかっ!」

「玉の輿狙いですかっ!?」

「はいっ!」

肯定されたああぁぁぁ!!

「いやいや、俺なんてクズで間抜けで裏で何してるか分かんないような胡散臭い男だよっ!?」

「確かに…で、でも、早く結婚しろって実家から催促ばっかり来てるし、貴方は神父様ですし、もう貴方でも良いやって思いました」

「適当すぎるよっ!」

「俺はな、ヒビキ。そろそろお前に腰を落ち着けてもらいたいんだわ」

「うるせぇ!」

元はと言えばお前の所為だ!
この問題児め!

したり顔で頷くリョウの頭にゴツンッとゲンコツを落として、俺はすぐに頭を下げる。

「ごめんなさいっ!そして、さようならっ!」

「あっ…」

リョウの首根っこを掴んで、俺はその場から脱兎の如く逃げ出した。


〜〜〜


「はぁ〜……」

冒険者ギルドで登録するだけでなく、なぜか受付嬢のサリィーナさんとお見合い的な事をさせられる羽目になり、俺はそこからリョウを連れて逃げ出した。

そして、現在は路地裏で暴れるリョウを眺めている所だ。

相手は、冒険者ギルドに入って初っ端にガンの飛ばし合いをしていた冒険者数名。

まぁ、こうなった経緯を説明するなら、冒険者ギルドを出た後に付けられている事に気が付いたので、リョウを誘導しながら路地裏に移動して、後を付けていた冒険者達を待ち構えて返り討ちにしただけ。

とは言え、俺はほとんど上の空。

上の空だったからこそ、偶然視界に入ったマップ表示にピッタリと後を付ける彼等の存在に気が付けたんだけど。

「はぁ…」

にしても、どうしよう。
あの時。咄嗟に逃げてしまったけど、あれは人として最低だったと思う。

一応断りの言葉は入れたけど、向こうは多少なりとも俺に好意を抱いてくれていて、俺はそんな彼女から逃げ出した。

人として最低…なのかもしれない行動を取った…かも…。

「はぁ…」

溜息が尽きない。
ホント、リョウはいつも要らない事をする。

俺は、あの娘が気になるかと聞かれれば、正直に言ってしまうとーー気にならない。

うん。好きでもなんでもない。

自分の心に正直になるなら、俺は興味の一つも抱いていなかった。
でも、相手は…内心でどう思ってるのか分からない。

俺は人であるが故に、人を全く信用できない。

口ではああ言っていたけど、その言葉が真実かなんて分からない。
まだ雰囲気とか、思った事をどストレートに言ってくれるリョウの方が付き合いやすくて良い。
勿論、友達としての意味だ。

だからこそ、俺は断ったし、謝った。

でも、あんな行動を取らなくても良かったんじゃないか?あんな態度を取らなくてもやりようは幾らでもあったんじゃないか?

そんな悶々とした思考の渦にはまり込んでしまっていた。

「気になるんなら行ってこいよ」

「いや、そう言うんじゃないんだけど…」

俺の気持ちや考えをリョウに説明した所で分かってくれないのが目に見えている。

それに、気持ちや考えを伝える術を口下手な俺は持ち合わせていないない。
故に、リョウの勘違いを促進させてしまう。

「じゃあ、なんだってんだよ。好きなんだろ?」

「いや、違うけど…」

「もう正直になってゲロっちまいな。楽になるぜ?」

いえ、貴方が俺を苦しませているんです。
気付いてください。

取り敢えず、このままこの話題を続けていると俺が辛いだけなので、話を変える。

「それで…終わったの?」

「あ?おう。一瞬で片付いたぞ」

リョウが親指で背後を指し示す。
そこには、見事にワンパンでノックダウンされた男達。総勢で5名が転がっていた。

「お疲れ。言った通りにした?」

「楽勝〜」

エッヘンと胸を張って自慢気な顔をしてるけど、残念。
一人死んじゃってる。

マップ表示にある彼等。緑マーク5つの内、一つが灰色になってしまっている。

ちなみに、マップ表示には青が味方。赤が敵。緑がその他だ。そして、灰色が死者。

要するに、表記が灰色になってしまった一名は死亡してしまったわけだ。
その他は、足の骨や腕の骨が砕けてたりしてる。

その他の外傷はない。

まぁ、ただのパンチでそこまでの被害が出ていたら洒落にならないんだけど。

「さて、じゃあリョウはその辺でブラブラしといて。俺は少しこの人達とオハナシをしたいから」

「おう」

リョウに幾らかこの世界のお金を渡して路地を出るのを見送った後、俺達を襲ってきた冒険者達に視線を転じる。

「さて、それじゃあ、少し実験とオハナシに付き合ってもらおうかな?」

「ヒッ…」

この後、彼等がどんな目に合うのか。
そんな事ぐらい言わなくても分かる筈だ。

それに…この後のことを考えると心の内側から湧き出してくる興奮を抑えきれない俺がいる。

俺はニコニコと微笑みを浮かべながら、怯える冒険者達の元に歩み寄るーー。


〜〜〜


「そっか。復唱する事になるかもしれないけど、確認ね。帝国の実験で他国から人攫いが頻繁に起きてる。王国は教国から聖女を借りて何かを企んでいる。教国は金を集めて何かをしようとしている。獣国は次期国王の座を狙ってあちこちで争ってる…と。あってる?」

「は、はいっ兄貴!ほとんど噂ですけど、今は獣国に行かない方が宜しいかと思います!」

「忠告どーも」

やっぱり、冒険者って情報を沢山持ってて便利だな。

それに、力の差を思い知らしてやれば、今目の前にいる5人・・も忠犬のように忠実になるし、本当に使い勝手がいい。

この世界=弱肉強食なら。

冒険者=力のある者が正義と言う考えが出来るかもしれない。

ちなみに、俺が彼等にやったのは洗脳に近いもの。

手始めに怪我を最上級ポーションで治し、そこから実験をした。

ポーションで怪我を治せるか試しただけだけど。
そして、これは成功。

致命傷まで痛め付けて瀕死の状態からどれだけ回復するかを試した。
万全まで回復した。成功。

骨を砕いたり、腕を引き千切ったりした。
これも最上級ポーション一つで内側から肉が湧き出すかのように再生し、骨も肉も全て元通り。

死んでしまった者は、手始めに最上級ポーションで生き返るか試した。
これは失敗。神聖水によって息を取り戻したのを確認。

ただし、3分以上経った場合に神聖水で生き返るかは試していない。死んでしまった者の蘇生は一番目に行ったから。

今度辺り襲ってくる悪者にでも、殺した後に試してみるつもりだ。

「それじゃ、もう行っていいよ。また何か新しい情報があったらお願いね」

「はい!ありがとうございますっ!これからも兄貴に尽くさせて頂きます!ご用がありましたらいつでも言ってくださいっ!」

「うん。その時は頼むよ」

「失礼します!!」

「「「失礼します!!」」」

腰を90度に傾けて頭を下げてから、そそくさと俺の視界の邪魔にならないように路地から出て行く冒険者達。

その対応は悪い気はしないけど、居心地は悪いな。

彼等の立ち去る背中を見ていると、なぜかヤンキー映画の下っ端を思い出した。

ちなみに、彼等は俺より歳下だった。
あの中で一番歳食ってそうでオッサン面をしてるガタイのゴツいラァク君。彼、実は一番あの中で歳下で18歳なんだとさ。

ビックリだよ。
俺より老け顔だもん。

見た目と反して弓使いで繊細な性格をしている…なんて、そんな情報は要らなかった。

「さて…」

俺もリョウの元に戻るか。

リョウは少し目を離したら何をしでかすか分からないけど、今回は結構な額になる金貨を渡してるし、外には露店が沢山あるし暇は潰せるはず。

こんな短時間で問題を起こせるとは思えないけど、早く戻った方がいい筈だ。

冒険者達が去って行った逆方向へ俺も足を向けて路地から出る。

「ホッホッホ。どうしたリョウとやら?この程度で終わりかのぉ?」

「こんクソがああぁぁっ!!」

………はい。問題、起こしてましたね。

コイツは…よくこんな短時間で問題を起こすものだ…。

で、一体、何がどうなってこうなっているんだ?

目の前には木刀を持ったリョウと同じく木刀を持った老人。

老人の体格は、俺よりも身長はないものの、老いても尚、衰えてなさそうな良く鍛え込まれた身体付き。年寄りの癖して元気そうだ。
って言うか、元気すぎる。

白髪混じりの燻んだ金色の髪に、昔はイケメンだっただろう皺だらけの顔。
優しげに細められている瞳の奥には、全てを見通してそうな鋭さがある。

雰囲気や見た目からして、只者ではないのは確かだ。

周囲は野次馬で囲まれており、見ようによっては決闘をしているようにも見えなくはない。

「ほれ!ここが隙だらけじゃぞ?」

「ぬおおぉぉぉっ!!」

ベシッと木刀で膝の裏を叩かれてバランスを崩しそうになるリョウだが、レベルによって底上げした力で態勢を立て直して老人に斬りかかる。

しかし、リョウの持つ木刀の剣筋から老人はヒュルリと軽い足取りで避け、リョウと一定の間合いを取りながら悪い箇所を指摘して行く。

老人の足捌き。視線や身体の動き。木刀でありながら鋭い剣筋。

素人の俺でも分かる…かなりの手練れだ。
動きだけで判断するなら、剣士に近い。それも、日本の武士を連想する技を極めた剣士だ。

「ほれほれぇ、この程度で終わりじゃなかろう?」

「ったりめぇだろうが!!」

リョウの動きが前よりも特段と良くなっているのが目に見えて分かる。

この老人…できるっ。

ただまぁ、しかし。リョウの雑な剣筋までは直せていないようだ。
いや、直せないのが当たり前か。

だって、俺達は平和な日本から来たわけで、剣とか握る事はなかった。武器と言ったら銃で、触ったりする機会があるのは包丁。特殊な場合だとサバイバルナイフなど安易に購入できてしまう代物だけだ。

そんな事を考えつつ目の前の成り行きを眺めていると、ふと老人が足を止めて俺の方を向いて指差して来た。

「おや?…リョウとやらよ。そこの者は知り合いか?」

「隙ありっ!」

「まだまだ甘いのっ!」

老人の視線が俺に向いてるからと、リョウが老人の背後から斬りかかったけど、瞬く間にリョウの持ってる木刀が細切れにされた。

す、すげぇ…。

「ヒビキだ、こんちくしょぅ…」

仰向けに倒れ、完全に脱力しきりながらも俺の名前を老人に教えるリョウ。

仲が良さそうで何よりだ。

「そうかそうか。お主からもコヤツと同じ匂いがするのぉ」

老人は、俺の名を聞いて満足気に頷くと、どこから取り出したのか一本の木刀を投げ渡して来た。

咄嗟の事だったので反射的に受け取ってしまうと、老人はより一層満足気に頷いた。

「よしよし。では、ヒビキとやら。この儂と一戦交えてもらおうかのぉ」

「…へ?」

気が付いた時には既に老人は俺の目の前にいて、木刀で横薙ぎを振るっていた。

当然、余りにも唐突の事で俺の思考は追い付いていない。木刀を受け取ったのはいいけど、慣れない物を即座に振るう事も出来ない。

したがって、俺の取った行動はーー。

ーーパンッ。

そんな音がして、老人の振るった剣が木っ端微塵になった。

咄嗟に木刀ーーではなく、手元にあった『魔法の書 (EX)』で受け止めたら、老人の木刀の方が打ち負けたのだ。

「ほう。その本…ただの本ではないのぉ?」

そう。ただの本ではない。
『魔法の書 (EX)』だ。

物理・魔法、共に攻撃判定があり、なぜか壊れたり、曲がったりしない優れものなのだ。
そして、使用すれば、ランダムで魔法を覚える事が出来る。

最高の武器じゃないか。

装飾に鉄のような物で本を覆っているからだとは思うけど、それにしても頑丈だ。

岩をも叩き砕く程に頑丈なのだ。

欠点は、水に濡れると攻撃力が下がる事ぐらいで、木刀なんぞに負けるほどヤワではない。

だからこそ言える。

老人の木刀が砕けたのは、兎に角、本が頑丈だったからなのだ。

そんな考察は置いとくとしてーー。

「…誰?」

この老人、誰なんだろう?

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