ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

新手の移動手段


リョウのレベルが999から1000になった事が判明してから、数分後。

リビングにリョウとミミルを集めて、机を挟んで向かい合って座っていた。
ちなみに、席はリョウとミミルが向かい合う形で、そして、二人が座ってる場所を左右とするなら、俺は上の方に座っている。

所謂、偉い人が座る位置に座っているのだ。
エッヘンっ!

「では、第一回緊急会議を始めようと思う」

「え?わ、私も…?」

「めんどくせー」

誰の所為でこうなったと思ってるんだ。

いつかは分かる事だったとは思うけど、今回はリョウが勝手な事をやらかした所為でこうなったんだよ。

全くもう…。

「ミミル。一応、君の知ってる範囲でいいから、レベルの概念を教えてくれない?」

「え…あ、はい。えっと、私も人聞きで詳しくは知りませんけど、魔王を倒した勇者様のレベルが500。過去最高がハイエルフで、713だと…」

713って…ストーリーを全部クリアしても500に届くか届かないで、ましてや、普通に生活していたらって考えると、そんなに上がる筈ないのに…一体、何をしたのやら。
まぁ、その疑問は一先ず置いておこう。

「うん。で、レベルの限界は999だった筈なんだ。それはゲームで確認済み。それ以上はないって運営も言っていた」

「ゲーム…?運営…?」

ミミルが何か聞きたそうな顔をしてるけど、その質問には答えない。

「なのに、今回、リョウが魔物を倒してレベル1000になった」

「せん…?ふえ?ふえええぇぇぇぇぇ!?」

俺の言葉でミミルが気絶しそうな勢いで驚いた。
まぁ、それも無理はないと思う。

だって、過去最高で長寿で有名なハイエルフが713だったんだもん。驚かない方が不思議だ。

でもーー。

「後で説明するから、少し落ち着いて」

話を進めたいから、ミミルに一杯の水を出してやる。

「で、リョウ?言い分は?」

「んなもん知るかよ。なっちまったもんは仕方ねぇだろ。それに、レベルが上がった方が強ぇんだし、別に良いだろ」

「そうだけど、そうじゃないんだ」

「ならどう言う事だよ」

ムスッとして『まどろっこしい事はいらねぇぞ』と瞳で訴えかけてくる。
そう言う反応するのは予測済みで、言葉を焦らす事もなく俺は答える。

「ここは俺の知ってる『オール・ワールド』じゃないって事。厄災魔獣とかレベル1000だとか、俺の知らない事が多すぎる。ここはもっと安全マージンを取ってだな…」

「は?ンなこと知るかよ。つか、ただのゲームにマジになりすぎだろ?ヒビキ」

え?

「…え?」

「あ?」

「これ、ゲームって…まだ思ってる…の…?」

「ゲームだろ?お前の頭沸いてんじゃねぇのか?」

えぇ…。

「リョウ。あのね……メニューから『ログアウト』探してみて」

一瞬、どうやって説明しようか考えて、思い付いた言葉がこれだった。

「あ?……あぁ?ねぇぞ?」

「そりゃそうだろうね。だって、これーーゲームじゃないもん」

「………は?」

何言ってやがんだ?と言いたげな表情。
この顔は信じてないな。

「初めから。…そう、初めから、違和感はなかった?妙に生々しい風景とか、肌触りとか、そんな感じの」

「………ああ」

やっぱり、思い当たる節があるのか、僅かな時間差の後、深々と頷いた。

「俺も初めは、かなり動揺してたよね?俺のやってたゲームの筈なのに」

「……おぅ」

「で、それらを含めて聞く。リョウの至った結論は?」

「……本当にゲームじゃねぇのか…?」

コクリッと頷くと、リョウはその場で頭を抱えて声にならない声を上げて椅子から転げ落ち、それでも尚、心の内側から来る衝撃を受け止めきれずに床をゴロゴロと転がり始めた。

正直、ホコリが舞うからやめて欲しい。

「あ、あの…さっきから言ってるゲームって…?」

「あー、気にしなくて良いよ。コッチの話だから。それよりさ、ミミル。この世界の事をもう少し教えて欲しいんだけどーー」


ーーー


俺は、ヒビキに誘われてこのゲームを始めた。

ゲームカセットとかもヒビキが譲ってくれたし、俺は何も用意せずにゲームを始める事が出来た。

『オール・ワールド』。それが、このゲームの名前。

ヒビキが大絶賛し、俺に勧めた。
だから、やってみた訳だが…。

「ふぅ…」

真実をヒビキに告げられた時、俺は胸の内側に広がる葛藤で地面を転げ回っていた。

ついさっきまでな。

今は家の裏手から外に出て、青空を眺めてる。

あー、空はいいな。
綺麗だし、何もないし、溶岩のように煮え滾る心が鎮まっていく感じがする。

なにより、今、心を埋め尽くしてる興奮・・を何とか抑えてくれる。

「やべぇ…やべぇよ…。俺、来ちゃった…。俺、異世界に来ちゃったよ…。やべぇよ……最高ヤバ過ぎだろ…」

頬が緩みきって、口元が自然とニヤケてしまう。

レベルが最高の999を超えて、1000になった。要は、俺最強な訳だ。
そして、ヒビキからは最強装備を貰ってるし、よく分からんアイテムもアホほど貰った。

魔法も使い放題で、山と思った魔物を消し飛ばした時も、全力で撃ったのに少し疲れてフラついたぐらいだった。

あの時撃ったのはメニューの魔法欄にあった、一番最高威力の魔法だ。
それを全力でぶっ放しても余裕があった。

何これ。ヤバ過ぎ。

「俺、最強だな…フ、フハ、フハハハハッ」

最高過ぎて、ヤバ過ぎて、笑いが止まんねーよ。

こんな所に連れてきてくれたんだ。ヒビキには感謝しなきゃならねぇーな。

この世界なら、向こうの世界のシガラミに囚われずに、思いっきり暴れられる。思いっきり楽しめて、思いっきり好き放題できる。

最高すぎた…。

もう、死んでもいい…。


ーーー


リョウが落ち込んだ様子で外に出て行ってしまった。

やっぱり、ゲームじゃないって現実を直視出来なかったのか。それとも、受け止めたからこその、あの様子なのか…。

俺もショックを受けたんだ。アイツだって家族や仲のいい友達と会えなくなってショックを受けてるに違いない。

後で様子を見に行ってやろう。

それはそうと、ミミルから新たに手に入れた情報によると、どうやら、レベルと言う概念はあるものの、自分で確認する事は出来ないらしい。

ステータスも同様で、教会で確認するしか術がないらしいとの事で。

それ以外の事は分からないって言われたから、取り敢えず、この世界を見て回って、実際に見た方が早いと感じた。

「ふえっ!?も、もう、行ってしまうのですか…?」

「今すぐって訳じゃないけど、明日には。ちょっと調べたい事があるからね」

その事を話すと、驚かれてしまった。

「………」

そして、なぜかミミルは表情を曇らせて下を向いてしまった。

女心はやっぱり分からない。

おそらく、アレだろ。
飯を出してくれる俺達が居なくなると思って悲しんでるんだろう。

でも、安心していい。

災害魔獣が居なくなったんだ。これからはちゃんと自給自足できる生活に戻るさ。
これで、彼女の生活もいつも通りに戻るし、この村の人達も笑顔で毎日過ごせるだろう。

だから、そんなに不安がる必要はない。

「少し…少し風に当たって…きます…」

うん。そうした方がいい。
今頃、外ではホクホク顔の村人達が笑顔で俺の渡した食料をやりとりをして、笑って食事を始めているだろう。

それを見て安心すると良い。

俺達は、もうこの村に用はない。
教会ではもうレベルを上げれない事は確認済みだ。そして、今の俺達にとって素材やらアイテムやらも必要ない。

だからこそ、俺は知らない世界を見て回って、楽しく過ごしたい。
俺は楽しく毎日を過ごせたら、それで良い。ここがゲームの中であろうと、異世界であろうと全く関係ない。楽しければそれで良いと思ってる自分が居るんだ。

だから、せめてリョウを家に帰す為に、旅をしながら帰る方法でも探そうかと思ってる。

それが俺の出した結論。

「さて、リョウの様子でも見に行くとするか」

椅子から立ち上がって、ミミルが出て行った方の逆。建物の裏手の扉へと向かう。


〜〜〜


翌日。
俺達は村人達に盛大に見送られながら、村の出入り口に立っていた。

ちなみに、そこにミミルの姿はない。
昨日別れてから、ずっと見てない。
気になって探してみれば、視界の右端にあるマップで部屋に居る事が確認できた。

一人になりたい時期は誰にでもある。だから、一応声だけは掛けて出てきた。

「それじゃーー」

「行こうぜ!」

ああ、セリフ取られた…。

でも、これが俺達の門出だ。
この世界の地図は全て頭の中に入っているから、どんな街に行っても迷う心配はない。

レベルMAXの俺達は魔物にも怯えなくても良いし、なんなら無防備な状態で魔物に襲われたって無傷の自信がある。

もしもの時のためのポーションもあるし、言ってしまえば怖いもの無しだ。

強いて言うなら、ここから街までの距離がゲームだとワープなしで1時間も掛かり、ミミルから得た情報によると徒歩で1週間近く掛かるので、移動の乗り物が問題となるけどーーアレを出して良いものかと迷う。

まぁ、人が見えなくなってから出せば良い話だし、その後の事はその後に考えたら良いでしょ。

そんな適当な考えを持って、俺達はバマルツ村からの旅立ちの一歩を踏み出した。












バマルツ村を出て、半日。

「ああぁあぁぁぁぁ!!なんもねえぇぇぇ!!」

遂にリョウが吠えた。

確かに、バマルツ村を出た先は雑木林で、暫く進むと何もない草原に出た。

その間、本当に何もないし、何も起きなかった。

魔物もチラホラと居るけど、こちらから近寄らない限りは向こうも反応しないので、戦闘すら始まらない。

そんなこんなで歩き続けても楽しさなんて一切ない。

だから、暇つぶしとしてレベル999の強さを図ったりしていたけど、それも全部試してしまった。

少し強めにジャンプすれば雲を突き抜け、軽く地面を蹴って走ってみれば1秒も満たずに100mを駆け抜け、岩を軽く小突いただけでミキサーにかけたかの様に木っ端微塵に。

挙げ句の果てには、デコピン一発で全長10mはあるだろう大岩を粉砕した。

そんな事をした後の惨劇はかなり酷い物だったが、それでも、なんとなく力の加減の仕方は理解した。

要は、意識次第だ。

攻撃するぞっ。と思って触ると、触ったものが砕ける。普通に何も考えずに触ったところで何も起きない。

ただ、拳ほどの石を軽く握っただけで砕く事が出来てしまったので、注意が必要だとは思った。

ちなみに、リョウは無茶苦茶だった。

魔法の『火球ファイアーボール』を一発放てば、大災害。
着弾地点から半径10mは綺麗さっぱり吹き飛んでいた。

コイツに魔法を使わせてはいけないと強く思ったぐらいだ。
当分は剣での戦闘を主にしてもらう事になりそうだ。

「暇だ!暇だ!暇だ!暇だ!暇だ!暇だ!暇だ!暇だ!暇だ!暇だ!暇だ!暇だあぁぁぁぁっ!!」

リョウが子供が駄々を捏ねるかのように叫び散らし、地団駄を踏み始めた。

「もう、リョウ?もう少しの辛抱だから、我慢しよ?」

「ぐああぁぁぁあぁぁ!!暇なんじゃああぁぁ!!」

「だからって叫んでも仕方ないよ?」

「じゃあ何しろって言うんじゃ!?ボケェ!!」

んーー。難しい質問だなぁ。

仕方ない。これ以上出し惜しみをしてもリョウが吠えるだけだし、そろそろアレを出すとするか。

「じゃあ、ドライブでもする?」

「あ゛ぁ?何言ってんだ?暇すぎて頭おかしくなったんじゃねぇのか?なぁ?ど突いて治してやろうか?なぁ?」

近い。近いよ顔が。
メンチを切らないで。普通に怖いから。

殴られても俺のステータスとジョブなら怪我はしないと思うけど、同じレベルに殴られると痛いのは変わりないし、出来ればやめて欲しい。

いや、リョウの方が1レベ高いか。

「実物見てから文句言ってよね」

言いつつ、『倉庫』から四角い鋼鉄製の箱のようなシルエットをした物を取り出す。

箱には左右に二つづつ扉があり、前面は少し飛び出しており、上部には吹き抜けの穴がある。
極め付けに、タイヤが四つ。

ーー名称:『魔導駆動式装甲車』だ。

中世ファンタジー世界が売りのゲームなのに、なぜこんな物があるのか。
その答えは至って簡単。運営とプレイヤーがやらかした。

一時期、『オール・ワールド』内で流行った工房システムがあった。
それは、素材を集めて部品を作り、それらを組み合わせて物を作り上げると言った物だ。

しかし、中には天才も居るもので、作りやがったのだ。

ーー車を。

普通に考えたら作れないような物をソイツ等は本気で作りやがった。

そして、設計図を無料配布しやがったのだ。

『どうしてファンタジー世界をぶち壊す物を作り出すんだ!』って憤慨の気持ちを抱きつつも、同時に『お前らよくやった!これぞ男のロマンだ!』と褒め称えた記憶がある。

「うおっ!?すっげっ!すっげっ!マジで車じゃん!すっげっ!」

『すっげっ』しか言ってないぞ、リョウ。
でも、いつ見ても思う。

マジでスゲェーっと。

ゲームの中じゃなく、こう、実際に目で見たら、その凄さがビシバシと伝わってくる。

まぁ、設計者は別として、作ったのは俺だけど。

「どうする?運転する?」

「当たり前だろが!運転は任せろ!!」

そう言うと思った。

ちなみに、この装甲車は左ハンドルになっている。どうも設計者達の一致団結した拘りらしい。

リョウが飛び込むように車に乗り込んだのを横目に、そそくさと俺も助手席側から乗り込む。

驚いた事に、車内の広さは日本車の一回り大きいサイズ。過去に外車を乗った経験があるから言えるけど、それと同サイズだ。

細かい所まで作り込まれている。

エンジンを掛けるには鍵を回さなきゃいけないし、スピードメーターやタコメーターもある。
さすがにオートマ車を作るのは出来なかったのか、造りがまだ簡単なミッション車で、このファンタジー世界には必要なさすぎる無線機やナビなどが設置されていた。

本当に、どうしてこんな物があるのか。
作成したのは俺だけど、こんな物を作った覚えなんて一つもない。

取り敢えず、凄すぎて何も言えない。

後部座席は壁際にベンチのような椅子がペッタリと貼り付けられて中央が広々とした作りになっている。窓ガラスは薄暗くなっててスモークが貼られているのだと一目で分かる。

本当に、どうしてここまで精密に軍事車両を模造出来たのか。設計者に問い質したいほどだ。

「うおっしゃー!いくぜぇ!!」

エンジンが始動する軽快な音の後、重低の感じられるエンジン音が草原に響き渡る。

音の大きさやリズムから察するに、ディーゼルのV8エンジンが搭載されているようだ。

なんて整備性の悪い…。

「ーーーっ!!」

車が走り始めると、タイヤの他にサスペンションやショックが衝撃を吸収して、座り心地は悪くはない。
ソファーも普通車のを取り入れたのか、凄く座り心地が良い。

敢えて悪い点を挙げるならーー。

「ちょっ!飛ばしすぎ!転ぶ!転ぶからっ!」

「のー!ぷろぐらむっ!!」

「それを言うなら、ノープロブレムッ!!」

リョウの運転が荒すぎた。

ただでさえ舗装されていない道なのに、バカみたいに飛ばしたら、そりゃもう、どれだけ良いソファーで、どれだけ良い振動減衰装置が付いていようとも、尻が痛くなるってものだ。

ガタガタと車が跳ねるたびに何度も椅子で身体が跳ねて、何度も天井に頭を打ち付ける。

これほど酷い運転になるなんて予想外だった。

それでもリョウが喜んでいられるのは、おそらく、コイツの頭のネジが吹っ飛んでるからに違いない。

椅子に着地すると同時に、椅子にしがみついて急いでシートベルトを着用する。
それでも、車体は激しく跳ねるし、ガタガタとした振動がお尻に直に伝わってくる。

最悪だ。

進む速度は徐々に上がる。乗り心地も良くて最高の乗り物だとは思うのだけど、運転手が最悪すぎた。

運転手の所為で全てが台無しだ。

こんな事になるって分かってたら、初めから出さなかったよ…。

……そう言えば、さっき誰かの声が聞こえたような…。気の所為かな?



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