ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

装備を整えよう


ーーコンコン。

「は、はーい」

ノックをすると、すぐに扉の向こう側から返事が聴こえてきた。

ガチャリと開かれる扉。

そして、扉の奥から現れた小さな女の子ーーミミル。
会うのは2日ぶりだ。

「や、やあ?」

なんて言えばいいかなんて分からなくて、こんな言葉しか出てこなかった。

「………」

それが悪かったのか、ミミルが顔を俯かせてしまった。

ただでさえ目元が髪で隠れて顔の全容が見えないのに、余計に見えなくなってしまっている。

よく見ると、別れる前と全く変わらないツギハギだらけの服装…汚いな。

だけど、少し肌の色が良くなってる…ように見える。

「も、もう来ないかと…っ!」

「…?」

彼女の言葉の意味が分からなくて首を傾げる俺を他所に、ミミルは小さな身体をプルプルと震わせると、不意に動きを止めて目元をグジグジと拭ってから花が咲いたような笑顔を見せてくれた。

「お帰りなさい」

「お、おう」

どうして『お帰りなさい』なんだ?
分からない。

「おじゃまじゃまー」

などと思っていると、リョウが俺達の横を抜けて勝手に家に上がり込んでしまった。

「あ…なんか、ごめん」

「い、いえ。前回もそうだったので…」

前回もって…アイツ、俺が気を失っている時に何したんだ?
ミミルも苦笑いだぞ。

「その、俺も入って良いかな?」

「あ、はい。ごめんなさい。気付かなくて。…あ、そのマフラー…」

「暖かかったよ。ありがとうね」

マフラー。凄く助かった。
今となっては必要ないけど、敢えて着けておいたのだ。

礼を言うと、またもやミミルは俯いてしまった。

「い、いえ…」

俯きながら謙遜するミミル。
女心は分からない。

でも、落ち込んでるとかそう言う感じじゃなさそうだし、問題ないでしょ。

さて、俺もそろそろ入らせてもらおう。

例えレベルがMAXで、全スキルを取得していようと、肌寒さは感じるんだ。

まぁ、ここが極寒の地だとしても肌寒いだけになると思うけど。

「お邪魔しまーす」

家の中は相変わらずオンボロだ。

カビ臭いし、埃っぽい。
あの教会みたいに今にも崩れそうって感じじゃないけど…余り長居したいとは思わないほど汚い。

掃除をするべきだと思う。

それはそうと、この家の間取りは玄関から入ってすぐ左手に俺が寝かされていた部屋があって、廊下の突き当たりにリビングがある小さな家だ。

リビングにキッチンがくっ付いている。

1LDKな感じに近い。

水は外にある共同の井戸まで汲みに行かなきゃならないらしく、トイレも外に建てられた小部屋で用を足さなきゃならないらしい。

しかも、驚いた事に用を足す先はバケツでの汲み取り式だったらしい。

トイレに行ったリョウがそう愚痴っていた。

そして、現在。俺達はリビングに居る。
ボロボロだけど案外しっかりとした机を挟んで、この世界の事をミミルに教えてもらっている最中だ。

しかし、ミミルの話してくれる内容は俺の知っている『オール・ワールド』とほとんど同じ。
全部じゃない。ほとんど、だ。

まず、俺が知ってる範囲では、この世界の国は東西南北に国があり、小さな国が多数ある。

でも今聴いた話じゃ、この世界の国は東西南北に四つ。これは変わらない。でも、違うらしい。

その中の一つは国同士の争いで負けて、小さな国が纏まって出来た共和国に吸い取られたって事になってる。

要するに、幾つもあった国が全四つに統合されたわけだ。

それから、五柱居た女神だけど、なぜか一柱に。
っと言うのも、ミミルの説明の中に『アルテナ』って名前の女神の名前しか出てこなかったから気になって他の女神の事を聴いたら『ごめんなさい。知りませんでした』って言われて知った。

どうやら、ずっと昔から女神は一柱だって言われてたらしい。

そして、なによりも驚いたのが、魔王が倒されたのは500年前だと言う。

俺がやっていた『オール・ワールド』で、魔王を倒したのはストーリー終盤。
その後、他の世界から乱入してきた魔神を倒すんだけど、それは一先ず置いとくとして。

それなら、俺がゲームをクリアした場面から500年も経っている事になる。
気になって魔王の名前も尋ねたけど『不死の魔王』で一致した。

と言う事はーーほんとうに500年経っちゃってる?

あぁ…頭痛くなってきちゃった…。


〜〜〜


冷たい隙間風によって頭が冷えてきたのを感じつつ、『イベントリ』から取り出した人数分のコップと『清浄の水』が入った水筒を取り出して全員に振舞い、自分の分をグイッと一気に飲み干す。

リョウは渡した水にすぐに口を付けていたけど、ミミルは恐縮しきって水を飲もうとしない。

まぁ、別にいいけど。

「ふぅ。大体はわかった。ありがとう、ミミル」

「い、いえ。余りお力になれずにすみません…」

「いやいや、すっげぇ役立ったから。だから、そんなに自分を下卑しなくていいよ」

彼女が教えてくれた情報はかなり役に立つ。
ゲームの内容と現在俺たちの置かれている状況の相違性の確認に十分すぎるほど役立った。

ミミルの教えてくれた内容を簡単にすると。

この世界には四つの国がある。

女神は四柱ではなく、一柱だけ。

ゲーム時代から500年ほどの年月が経っている可能性がある。

と言う事だ。

「所でさ、500年前の言い伝えとか、伝説とか伝承とか、何か残ってない?」

「……あ、それなら…少し待っていて下さい」

何か思い当たる節があったのか、リビングから出て行った。

そして、すぐに一冊の古びた本を片手に持って戻ってきた。

「それは?」

「勇者様の本…です」

ミミルの言葉に若干の恥じらいを感じられたんだけど、なぜか別の含みも感じられた…気の所為?

若干、上目遣いに、本で口元を隠して俺を見てくる。

「ちょっと読んでもいい?」

「はい。どうぞ」

ミミルが渡してくれた本を開き、1ページ目でーー。

「読めねぇ…」

何が書いてあるのかサッパリ分からなかった。
確かにゲームの中じゃ文字は分からなかった。でも、下に翻訳が書いてあったし、何の問題もなかーー。

「あ、翻訳か…」

気が付いてからは早かった。

今の今まで消していたタクスバーやHPやMPゲージなどを全て視界に表示すると、文字が翻訳されて表示された。

ふむふむ。どうやら、この本は本当に勇者の話らしい。
ゲームの時のメインストーリーに沿った話が書かれている。少し脚色されている気がするし、主人公が超絶美形のイケメンだってのもあるけど…まぁ、間違いなくゲーム時代の名残だね。

ただ、最後に魔王を倒して、そこで終わりになっている。
魔神との戦闘は描かれていない。

そして、読んでいる途中で気が付いたんだけど、勇者の持ってる武器…これって、初回特典で入手可能な『聖剣エクスカリパー』だ。

装備品としての能力はクソなのに、『投擲』はバグを超える攻撃力があって、レベル1の村人ですら『聖剣エクスカリパー』を投擲すれば魔王を一撃で倒せるほど強いとかなんとか。

まさしく、これこそが本物のバグだと声を大にして叫んだほどだ。

装備品としては『ひのきの棒』にすら劣るのに…。

「あの、どうかしましたか?」

「あ、いや、なんでもないよ。ただ、勇者の武器がカッコいいなぁ〜って思っただけ」

「私はあなたの方が…」

「ん?何か言った?」

「い、いえっ。そ、それより暑くないですか?少し風に当たって来ますねっ」

口早にそう言って本当に外に出て行ってしまった。

なぜ?

「で、話は終わったか?」

「うん。お待たせ」

「おせーよ」

リョウはぶーぶーとブーたれながらリラックスしきった体勢から体をムクリと起こして、真剣な表情を浮かべて口を開いた。

「じゃ、さっさと武器と防具くれ。あと、魔法の使い方教えろ」

やけに珍しく真剣な顔をしてると思っていたら、そんな事を考えてたんだ…。

「はいはい」

若干の呆れを覚えながら、『イベントリ』を開いてリョウの武器と防具となる魔法職最強装備を取り出そうとしてーー俺は手を止めて尋ねる。

「レベルMAXで魔王すらワンパンで倒せるぐらい強いのに魔法職最強装備を出しても意味ないよね?」

「なんでもいいから、早く!」

外で遊びたくてウズウズする子供かっ!

「一応聴くけど、どんな装備がいい?」

「まず、何があるんだ?」

「なんでも」

「剣使えるか?」

「うん。なんでも使える」

『オール・ワールド』の変なところを一つ。
なぜか、ジョブが違ってもステータスを一定値以上満たしてたら他のジョブの武器や防具でも装備できる。

「じゃあ、俺に似合う剣と杖とイカしてる鎧で!」

言われてすぐに頭の中で武器と防具のリストアップをする。

『フルンティング』
敵を倒す度に攻撃力が上がる魔剣。

『木の杖』
ただの木の杖。

『撃滅のドラグ』
黒龍の素材を使用した軽装鎧のセット装備。
防御と魔防が凄く高く、魔法攻撃をたまに反射する。

『魔力反転の指輪』
魔法攻撃が激減する反面、攻撃力が大きく上昇する指輪。

この四点で大丈夫でしょ。

なにが大丈夫かと言うと、もしリョウが暴走して魔法を手当たり次第に放っても大丈夫だと言う意味だ。

ゲーム内でレベルMAXの賢者が魔法を使ってる姿を見た事がある。
そして、その威力は反則だと思った事があるのだ。

ほぼほぼ敵はワンパン。例えレベルMAX同士のプレイヤーが相手だとしても、数発で倒してしまう程の超火力。

正直、無茶苦茶だった。

だから、装備で上手い具合にパワーバランスを整えてみたけど…それでも、やり過ぎないか心配だ。

思えば、『オール・ワールド』の最強職は賢者だったんじゃないだろうか?

「で、魔法の使い方は?」

「さぁ?適当に『出ろー』って念じたら出るんじゃないかな?」

「は?ちゃんと説明しやーーあ、出たわ」

マジで出しやがった…。
杖の先にポッと火が灯ってる。

自分でも相当適当だって思ってたのに、まさかそんな説明で出せるとか凄すぎんだろ。

でも、少しホッとした。

いきなり魔法を放って全部消し飛ばされたりしたらシャレにならないからーー。

「よしっ!呪文は…」

「って、コラっ!やめなさいっ!こんな所で撃とうとしないのっ!撃つなら外で人とか物のない方向に向かって撃て!」

「チッ。しゃーなしな」

舌打ちすると、フラフラと家から出て行った。

はぁ…。
まさか、本当にここで撃とうとするとは…。
アイツのバカさ加減を甘く見てた。

こんな所で撃ったら、いくら制限をかけていようと大惨事になるぞ…。

この家だけで被害が済めば良いけど、ゲーム内のあの威力…そこから予測するに、この村全体が滅びる可能性の方が大きい。

例え、魔法威力を下げるアイテムやらを渡していようと、レベルMAXだと気休めにしかならないだろうね…。

心配だ…。

本当に何もない方へ向かって撃ってくれてたら良いんだけど…アイツに関しては全てに不安しか覚えない。

……さて、取り敢えず、不安は残るけども、部屋には俺一人になってしまった事だし…俺も装備を整えるか。

『魔法の書 (EX)』
読むと魔法をランダムで覚えられる本。ランクによって覚えられる魔法のレア度が変わる。
なぜか武器として装備すると物理・魔法攻撃判定がある。

『神父服』
イベントで入手可能な服。
能力値は村人の服と大差なく、ただ見た目が変わるだけの装備。

『天翔靴』
迷宮の宝箱から取れた靴。アイコンが『神父服』に似合いそうな靴だったから選んだ。
ゲームでは回避力が上昇していた。

『不死の魔王のブレスレット』
魔王を倒した後に確率で入手可能の装備。
効果は、死亡時にHP1を残して復活。

『悪神のイヤリング』
状態異常無効化。全魔法無効化。
魔法職泣かせのチート級アイテム。
ちなみに、ドロップは異界の邪神を倒すと超が付くほど低確率で入手可能。

こればかりはバグを使っても増やせないし、再度手に入れる事も出来なかった。
ネットを使っても情報は『導入されているかも?』だけで、手に入れたって情報は入って来ていない。

だから、戦闘開始前にドロップ率上昇アイテムを惜しまず使いまくった。
ドロップ率上昇アイテムもバグで増やせない。イベントでのみ入手可能。

そうして一発で手に入れる事が出来た超レア装備なったりする。

よしっ、俺の装備はこんなもので良いでしょ。

ーーーぐうぅぅ。

装備が決まると同時にお腹の虫が鳴いた。
そう言えば、丸二日間、レベル上げを励みすぎて飯を食べてなかった事に今更気が付いた。

……お腹空いたな。

所で、『イベントリ』に入ってるアレは食べれるのかな…?

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