ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた
混沌の女神の教会
ミミルの家ーーボロボロで今にも崩れそうな建物から出た俺達は、真っ先に視界に入った景色に圧巻された。
右を見ても左を見ても、全てが真っ白。雪化粧でマバツル村全てが染められていた。
チラホラと雪が降り積もり、装備が『村人の服』だと寒さが直に感じる。
「ぶえっくしょんっ!!」
背後から盛大なクシャミが聞こえた。
おそらく、と言うか、絶対にリョウのクシャミだ。
「確か、教会はあっちだっけ?」
教会に行きさいすれば、この寒さを凌げるようにはなる筈だ。
ゲームでは、この辺りに雪が降る事なんてなかったけど、なんとなく教会の位置は分かる。
このバマルツ村は、ここでしか出来ないバグがある場所だから何度も足を運んだ経験がある。だから、忘れられる筈もない。
「ま、待ってくださいっ!」
教会に向かって歩き始めてすぐ、何者かに呼び止められた。
何者かと言っても、この声はついさっきまで会話していた人の声だから、すぐに誰なのか分かった。
足を止めて振り返ると、寒そうなツギハギだらけの服を着て、口から白い吐息を吐くミミルが両手に赤と黒の布を持って急ぎ足で歩いて来ていた。
「あの、こんな物でしかお礼出来ませんけど…良かったら使って下さい」
お礼?一体何の事を言ってるんだろう?
リョウと俺は彼女にお世話になったから、俺達がお礼をする立場で、お礼をされるような事をした覚えはないんだけど。
「おっ!マフラーじゃん!丁度寒いなーって思ってたんだよ。センキューなっ!」
そう言いながら、リョウは赤と黒の布の内、黒の布ーー黒いマフラーを受け取った。
まぁ、確かに寒いし、貰える物なら貰っておきたいけど…。
「どうぞ。受け取って下さい」
悶々と貸し借りの事を考えていると、いつの間にかミミルは俺の目の前にいて、残った赤のマフラーを差し出してきた。
受け取らないって言う選択肢もあるけど、教会まで少し距離がある。
その間でも寒さを凌げるなら、ここは貰っといた得策かな?
「う、うん。ありがとう」
マフラーを受け取ると、嬉しそうに頬を緩めて喜んでくれた。
ミミルはNPCの筈なのに…なのに、なんでだろう。
こう見ると、全然NPCには見えない。知性があり自分で考える知能を持っている。
こんなの、まるでーー人間みたいじゃん。
でも、ここは『オール・ワールド』のゲーム内で…俺達はなぜか『オール・ワールド』の中に居て…。
……あれ?
もしかして…いや、もしかしなくても、俺達ってゲームの中に閉じ込められてしまってる?
それに、ただ『オール・ワールド』のゲーム内に閉じ込められた訳じゃなくて、異世界みたいな感じの所に来ちゃったの…?
そう考えると、今までの事柄の全てに辻褄が合う。
う、うそーん…。
「あ、あの…大丈夫ですか?わたし、何かしましたでしょうか…?」
「いや、ごめん。ちょっと現実が受け入れれなくて混乱してるだけだから…」
ミミルを不安にさせてしまったみたいだけど、少し考える時間が欲しい。
「その…ごめんなさい。やっぱり、ご迷惑だったでしょうか…」
「あ、いや、違うんだ。そう言う意味じゃなくて…」
俺の態度の所為でミミルを落ち込ませてしまっている。
どうしよ…マジでどうしよ…。
「うーわ。女の子を泣かすなんてサイテーだなヒビキ」
「リョウはちょっと黙ってて」
横から野次を飛ばしてくるリョウを一睨みして黙らせてから、ミミルの身長に合わせてしまったるように屈んで、正面で向き直る。
「いや、ホントごめん。マフラーはすごく嬉しいよ。ありがとう。それと、良かったらでいいんだけど、後で色々と話も聞きたいし、またすぐに戻ってくるから、その…待っててくれるかな?」
「は、はいっ」
ふぅ〜。無事に泣かせなくて済んだ。
俺は女性との関わりが少ないし、少し…と言うよりも、かなり苦手意識があるから余り関わりたくなかったんだけど、まぁ、今更言っても仕方ないか。
両手を胸の前で握り締めて見送ってくれるミミルから視線を逸らし、ウザいぐらい茶化してくるリョウを連れて俺はマバツル村の外れにある教会へと向かう為に足を再び動かした。
〜〜〜
マバツル村の郊外にある廃れた教会。
世界各地にある教会には、この世界を創り出した五柱の女神のうちどれか一柱をそれぞれ祀っているらしい。
女神の名前とか役割とかは憶えてないけど、この教会に関しては覚えている。
この教会に祀られているのは、混沌の女神。
魔物の先祖を創り出したり、迷宮を創り出したりした女神だ。
それだけだと邪神扱いされそうな女神だけど、その実、降り掛かる厄災を食い止めたりと、この世界に住む人々を助けたりもしている。
その内容はストーリー最後にチラッと女神本人に語られて判明する。
それまでは、ただ混沌の女神と呼ばれるだけで、何をしたかすら分からない女神なのだ。
それはともかく。
「これが教会?」
「そだね」
「…これが、教会?」
「うん。そうだよ?」
「これがっ!?教会かっ!?」
「だから、そうだって言ってるじゃん」
「これが教会って成りかよ…」
まぁ、リョウがそこまで言うのも分からなくもない。
背後を振り返れば、俺の身長よりも高い雑草が頭に雪を載せて辺りを覆い隠しており、俺が切り拓いた道が一本だけ村に繋がっている。
それを除けば、どこにも道はなく、誰もここに近寄っていない事が分かる。
それに、教会も人の手が長い間加わってなさそうで、雑草などは結界的なアレで境界線から生えていないものの、ゴロゴロとした石が雑多に転がり、その上から雪が積もり石畳はヒビ割れ放題。教会自体も今にも崩壊してしまいそうなほどにオンボロだ。
元は純白色をしていただろうに、今となっては埃や老朽によって見るも無惨と化している。
ゲームをしていた頃も初めはここが教会だとは思えず本当の教会を探し回った程だ。
ちなみに、ゲーム時代。俺はここに居座りすぎてこの教会の神父だと何度も間違われたりした。
それはそれで面白かったけど。
それにしても、改めて見ると本当にここが教会かと疑いたくなるような光景だ。
変な形をした廃屋って言われた方がシックリとくる。
「…さて、行こっか」
少し過去を思い返すと、本当にこの教会には世話になった覚えしかない。
暇な時にでも人を雇って綺麗にしてやろう。
でも、神父の座は譲らん。
俺がここの神父だ。
顔を顰めるリョウを連れて教会に入ると、外から見た外観から易々と想像が出来る光景が広がっていた。
これもゲーム通りだ。
何かのイベントの予兆にしか見えない程に荒れ放題の教会内。長椅子は無事な物が一つもなく、全てが朽ち果てて天井は幾つか穴が空いてしまっている。
床なんて、朽ちてるとか生易しいものじゃない。
一歩踏み入れただけで床が抜けた。
あー、これ…成る程。
仕様だったんだ。
……だから、ゲームの時は教会に入ると動きが遅くなっていたんだ。
掲示板じゃ教会内は何かの呪いにかけられて鈍足になるとか言われてたけど、そりゃ、ここまでボロボロだったら先に進むのも大変だよね。
床に突き刺さった足を引っこ抜きながら、視線を足元から教会の最奥へと向ける。
「ふおぉー」
その光景に呆気に取られて変な声が出てしまった。
だって、際奥には絶世の美女とも言えよう女神像が両手を天に掲げるように聳え立っていたから。
胸は絶壁だけど。
その背後の天井が崩れてて、うまい具合に光が女神像を照らし、神々しく見える。
今まさに女神が降臨したかのように見えなくはない。
胸は絶壁だけど。
ーーゴホンッ。
実は、ゲーム内では女神像は見る事ができない。
『オール・ワールド』は基本的に一人称視点なんだけど、なぜか教会に入ると視点が天井に移ってしまい、四人称視点になってしまう。
それで、女神像だけは頭上から見下げる形になってしまって全体像を見る事は出来なくなっていたのだ。
だからこそ、今まさに始めて女神像を真正面から観ることが出来て僅かに興奮を覚えた。
まぁ、その興奮も一瞬で終わるんだけどーー。
「なにボサッとしとんじゃ。足抜けたのならさっさと先に行きやがれ。後ろがツッかえてんじゃ」
「あ、うん。ごめん」
背後からゲシゲシと背中を蹴ってくる怖ーいお友達がいる。
いそいそとその場から離れて、建物の軸が通っている歩いても大丈夫そうな床を選んで女神像へと近付いて行く。
その後をリョウは何度も床に足を突き刺しながら付いて来ている。
それこそが、ゲームで何度も行われていた光景なんだろうけど、俺はそちらを見ないように心掛ける。
誰がとは言わないけど、足を落とすたびにイライラを募らせ、少しでも衝撃を与えてしまえば爆発しそうになっているから。
誰がとは言わないけど。
「で、こんな所に連れて来たんだ。ツマラネェ理由だったらブッ飛ばすぞ?」
女神像の足元まで辿り着いたリョウの一言がこれ。
その笑顔が今までで一番怖いよ。
「あはは…。たぶん大丈夫だよ。リョウも満足するはず…たぶん…」
笑って誤魔化したけど、本当にリョウが満足するかって聞かれたら、自信がない。
俺の予想が正しかったら満足すると思うんだけど…。
「取り敢えず、ここに来た理由は二つ。一つはジョブを取りに来た。それで、もう一つはーー」
いや、ここは言わないでおこう。
楽しみは後にとっておく方がワクワクが大きくなって、より一層愉しめるからね。
「後で分かるよ。まずは、祈ろうか」
確か、『オール・ワールド』での祈りの方法は、片膝立ちで両手を眼前で組むんだった…かな?
ストーリー中盤で出てきた聖女が祈りを捧げているのを一度しか見た事がないからうろ覚えだ。
まぁ、為せば成る…でしょ。
適当な祈りの体制をとる俺の隣で、リョウも真似して祈り始める。
すると、間も無くして『チリーンッ』と心の奥まで響く鈴の音が聴こえてきて、視界に選択可能ジョブの一覧が現れた。
「うおっ!なんか出た!なんか出たぞ!ヒビキッ!」
リョウの方にも出てきたみたいで、興奮気味に尋ねてきた。
「好きなの選んで」
ちなみに、現在の選択可能ジョブはーー。
▽▽▽
見習い戦士
見習い魔法使い
見習い商人
△△△
この三つしかない。
俺の予想だとリョウは『見習い戦士』を選ぶとーー。
「よっしゃ決めた!俺は魔法剣士になるっ!」
「…は?」
そんな項目、今は出ないはず。
そう思ってリョウの方へと視線を向けてみれば、『見習い魔法使い』を選んでいた。
どう読み間違えたら『魔法剣士』になるんだよ…全く。
一瞬、バレたかと思ってビックリしたじゃん。
ふぅ。少し焦ったけど、失敗はしていない。
これ、失敗したらジョブが消えてゲーム自体をリセットしなきゃならなくなるから、今は失敗できないんだよな。
現在進行形で俺が行なっているのは、とあるバグだ。
生憎とリョウに教えるには不安が大きすぎて、失敗すれば何が起きるか分からないから教える事は出来ない。
兎に角、ゲームを一度落さなきゃならないほど酷いバグだと言っておこう。
ポーチのアイテム欄を『酒、酒、酒、ポーション、酒」で並べてから、決まった順番で並びを入れ替える作業。
ほんの少しでもミスをすれば何が起きるか分からないけどヤバイ事になるのが間違いないバグで、これがまた難しいけど、酒とポーションを最高級の物にしておくと、成功した後の見返りが大きい。
まるでゲームそのものの仕様にも感じるバグだ。
「まだ迷ってんのか?なんなら俺が決めてやろうか?」
「いや、大丈夫。もう少し待って」
出来れば今は話しかけないで欲しい。かなり真剣なんだ。失敗は許されないから。
俺が真剣になっているのが伝わったのか、リョウは興味を俺から建物へと移した。
それを横目に留めつつ、数秒で並び替えを無事に終える事ができた。
「ふぅ…」
取り敢えず、適当に『見習い剣士』を選択して、ポーチからさっきまで入れ替えまくった最高級ソーマ酒4本とエリクサー一本を取り出して、女神像の足元に捧げる。
ーーと、酒とポーションが一瞬で消えた。
「へ?」
「あ?」
ゲームだと『捧げる』の選択肢はなく、女神像に向かって『捨てる』だったので、まさか消えるとは思ってなくて驚いた。
リョウは見てなかったのか、『何かあったのか?』って言いたげな顔をしてる。
「いや、何でもない」
そう口では言いつつ、ステータスを確認して、そこに描かれている内容に内心でガッツポーズを取る。
「そっか。で、これで終わり?」
「いや、もう一つ。今から渡す物を、そこに置いて」
そう言って俺は女神像の足元を指差し、もう片方の手で『イベントリ』から最高級ソーマ酒を取り出す。
なぜ、お酒なのか。なぜ、お酒しか受け付けなかったのか今まで全く理解できなかった。
でも、今なら理解できる。
ーーこの女神、絶対に酒好きだ。
「おう…?」
リョウは理解出来てなさそうだけど、やれば分かる。
酒のグレードが高ければ高いほど良く、低ければ低いほど悪い。
これはそう言ったものなのだ。
「うおっ!レベル!レベル上がったぞ!?」
そう。なぜか、この女神像にお酒を捧げるだけで経験値を得られるのだ。
しかも、効果があるのは、このマバルツの教会だけ。
ここでレベルが上げれる事をリョウで確認出来たので、次々と『イベントリ』から最高級ソーマ酒を取り出し、俺の分も奉納する。
今頃はどこぞの女神様は次々と送られてくる大量のお酒にウハウハだろうな。
その分、俺達も笑えるぐらい経験値を得られてウハウハ。
まさにwin&winの関係だ。
お酒もなくなる心配はないし、最高のレベ上げマシーンだ。
ステータスを確認しつつ、どんどん奉納し続け、祈りを捧げて上位ジョブへの転職を繰り返す。
そして、二度目の朝が迎える頃、遂に至った。最高の頂に。
▽▽▽
名前:ココハ・ドコ
性別:男
種族:人間
ジョブ:狂戦士
レベル:999
SP:ーー
HP:99999
MP:99999
攻撃:99999
防御:99999
魔力:99999
精神:99999
速度:99999
スキル
『ーーー』
魔法
『ーーー』
称号
『ーーー』
△△△
俺はステータスをカンストさせる事が出来た。
ただレベルを上げるだけじゃこうはならないが、始めにコッソリ行ったバグによって全カンストした。
ジョブを決める前に行っていたバグは、スキルと魔法を全て使えるようにするバグだ。
その中には、なぜかスライムとか人間じゃない魔物が使うような魔法やスキルも入ってて実際使えたりもするけど…それは一度置いておこう。
このバグは、どう言う原理かレベル1に使うと全てのステータスがカンストするオマケが付いてくる。
前回はレベルを上げてから使ったからカンストまではいかなかったけど、今回は出来た。
ニヤニヤが止まらないぜ!
「うおぉぉぉ!!俺、最強っ!!」
リョウもジョブを最高レベルまで上げる事が出来て大喜びしてる。
奇妙なダンスを踊る程だ。
「ちなみに、リョウのジョブは?」
『魔法剣士』は中級職。その先は『剣豪』か『魔導師』に当たるはずで、これをすると必ずどちらかを選ばなきゃ最後まで進めない。
だから、どちらかを選んでる筈なんだけど…。
「俺?俺は賢者だ!魔法使いまくるぜ!あー、楽しみだなぁー!早くぶっ放してぇー!」
そう言って、リョウは肩をグルグルと回して意気込み始めた。
今にも本当にぶっ放しそうで怖いんだけど。
でも、あの攻撃タイプを迷わず選びそうなリョウが賢者に行き着くとはね。
ちょっと予想外だった。
「あ、そう言や、ヒビキは何を選んだんだ?」
「俺?俺は狂戦士だよ?」
とは言え、魔法も使える超万能型狂戦士なんだけどね。
「似合わねぇー」
「前のキャラと一緒にしただけだよ。コッチの方が慣れてるからさ」
「あっそ」
興味ないんだったら聞かないでよ。
ちょっと傷付くじゃん。
「じゃあ、ここでの用事も終わったし、一旦ミミルの家に戻ろっか?」
「その前に一発撃たせてくれよ!」
「んー…いや、ダメ。装備を揃えてからな」
「ちぇっ」
不貞腐れてはいるけど、珍しく俺の言う事を聴いてくれてる。リョウもリョウなりに装備なしで魔物に挑む意味を理解してるのかもね。
「魔法使う方法さえ分かれば、今すぐに行くのによぉ〜」
そっちかぁ〜…。
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