ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

バグを運用しよう


「待てって、何を待つ必要があんだよ。俺は早くゲームしてーぞ!」

「まぁ、いいから。少し待って」

視界に入っているステータスに『消えろ』と念じたら、何の弊害もなく消せた。

まるで夢みたいに思えるけど、未だに響く鼻の鈍痛は消えてなく、肌に感じる風の冷たさやカビ臭い臭いなどが『これは現実だ』と突き付けてくる。

それはさておき。

さて、ここが本当に『オール・ワールド』の中だとしたら、アレが使える筈だ。
その確認をする為に、まずはタクスバーを出さなきゃならない。

タクスバーとは、画面下部にスキルアイコンや魔法アイコンがあったり、画面の右端にマップ。左端から中央にかけてにHPとMPゲージがあるものだ。

それを出さなきゃーー出た。
念じるだけで簡単に出た。

どうやら、強く思うと出来るみたいだ。

なら、次は『イベントリ』だ。
説明するなら、簡易倉庫。そこに初期装備やら何やらが入ってるはず。

『イベントリ』を開くと予測通り、初期装備の『皮の鎧』と『鈍の剣』と『HPポーション (N)』が入っていた。

それらを全部取り出して、『HPポーション(N)だけを再び拾って『イベントリ』に。それから、また取り出して、また入れてーー。

何度も何度も同じ事を繰り返す。

ミミルは驚いた表情を浮かべて固まって、リョウは『何してんだ?』と言いたげな訝しみの籠められた眼差しを向けて来てるけど、周りの目なんて気にせずに何度も繰り返す。

その内、『イベントリ』に入れたアイテム名がバグり始め、アイテムアイコンが表示されなくなり始めた頃。

『HPポーション』の中身を無駄に消費してから、『空の瓶』だけを『イベントリ』に入れる。

そして、『イベントリ』を開くと、『空の瓶』は999個に。

ーー今、俺がやったのは、『オール・ワールド』でかなりお世話になったバグ。イベントリ統合と言うもの。

このバグの仕様は、『イベントリ』を『倉庫』と一体化する。

その際、なぜか空の瓶が999個と個数がバグるが、1個でも取り出すと消えてなくなる。

ちなみに『倉庫』って言うのは、『イベントリ』の容量が多くなったもの。
ただ、『倉庫』から物を出し入れするには、専用の固定されたオブジェクトを使用しなきゃならないけど、これはそれを解消するためのバグだ。

そして、俺の『倉庫』はバグを使ってフル拡張済み。その中には前キャラで集めたアイテムの数々。

普通じゃ手に入れる事の出来ないキーアイテムすらもMAXの999個で入ってる。

「ヒビキ…自慢したいのは分かったからさ、俺にもその何もない所から物を取り出す方法教えてくれよ」

「え?あ、いや、自慢じゃないんだけど…」

「良いから。早く」

リョウから途轍もない威圧感が発せられる。相当イライラしてるみたい。

性格はこんな訳の分からない事になってもリアルと変わりないのね。いや、髪と瞳の色以外は本人とほとんど変わってないか。

「あ、うん。『イベントリ』って言ってみて」

「『イベントリ』!。おぉっ!なんか出た!すげぇ!」

リョウが興奮しながら『イベントリ』の中にある初期アイテムを出し入れするのを横目に、俺はある物を『倉庫』から探し始める。

「あの…今のは…もしかして『イベントリ』…ですか…?」

ある物を見つけて取り出そうとした時、ハッと我に返ったかのような反応をしたミミルが躊躇いがちに話し掛けてきた。

「あー、うん。そうだね」

「は、初めて見ました。これが『イベントリ』…ですか…。お伽話と同じ…」

何やらミミルも興奮し始めた様子。
頬を赤らめて、どこか遠い目をし始めた。

そんな彼女は一先ず置いといてーー。

「リョウ。はいコレ」

『イベントリ』から取り出した例のアレーーポーチを渡す。

これは、ストーリー初期で一つしか手に入らない補助アイテム。タクスバーアイコンの下部に簡易アイテム欄を出現させるアイテムだ。

ストーリーを進めていけば必ず貰えるけど、バグを失敗した際に多数出現してしまった。

捨てるのも勿体なくて捨てず置いていたんだけど…まさかこんな所で役に立つとは思わなかった。

ポーチは革製で作られてて、瓶サイズの深いポケットが5つ。小物入れとして使えそうな大きめのポケットが1つ。ナイフなどを刺しておけそうな穴が3つある。

装着すると、右側に瓶サイズのポケット。左側に大きめのポケット。腰側にナイフ用の穴が来る形になる。

視界下部にもアイテム欄が表示された。
ポーション類5つをストックできる欄と、その為アイテム5つストックできる欄だ。

「あと、コレとコレも渡しとくね」

『回復ポーション(R)』を5つと『鋭いナイフ(HR)』3つをリョウに手渡し、同じ物を俺のポーチにセットする。

それを真似て、リョウもポーチにポーションとナイフをセットした。

ちなみに、ポーション系は全てバグによって減らないようにしているから際限なく無限に出せる。
ナイフは無理だ。自力で集めたもので、6本取り出したから残り58本しかない。

「あとは…」

あと何が要るかな?

あ、そうだ。アレが要る。
これからする事も考えれば、絶対に必要になる。

「リョウ。コレを呑んでから空の瓶をポーチに入れて、出し入れして」

『エリクサー』。どんな状態異常でも治す霊薬。
いざ出してみると、アイコン通りに中身の液が虹色をしてて不味そうに見える。

「なんでだ?」

「疑問はあと。俺もやるから」

「分かった」

リョウに一本渡してから俺の分も用意して、同時に飲み干す……余り美味しくはない。
少し変わった味で、もう一度飲みたいとも思わない味だった。

「おえっ、まっず」

でしょうね。

舌を出して『エリクサー』の不味さを顔全体でアピールしてくるのをリョウを軽く受け流しつつ、空になった瓶をポーチの口の大きな方に入れて、出す。入れて、出す。

それを何度も繰り返す。

視界の下にある簡易アイテム欄に『空の瓶』が消えたり現れたり。何度も何度も繰り返して行くと、徐々に名前がバグり始め、遂にはアイコンが消える。

「アイコンが消えたら、空の瓶を取り出して、代わりに中身の入ってる瓶を入れて」

軽い説明をしながら、アイコンが消えてから空の瓶を取り出して、『回復ポーション(R)』を投入。

これで、ポーチ内の拡張は完了。

視界下部にあるアイテム欄が5個から12個に増えた。
これは、ストーリー中盤で手に入る上位ポーチになった証だ。

でも、それはオマケ程度。

ポーション類の欄は変化なし。
強いて言うなら、アイテム欄にさっき入れた回復ポーションが追加されたぐらい。

試しに『イベントリ』から取り出した鉄のインゴットをポーチに詰め込んでみると、明らかにポーチに入りきらない量を入れても重さや形ともに変化なし。

うん。ゲームだと何とも思わなかったけど、これは便利だ。

許容量であるはずの5種類を超え、表示されている12枠を超えても幾らでも入れる事が可能になり、本来なら1種類につき3個までの制限が掛かるんだけど、これをしたお陰で1種類に9999個まで入れる事が可能になった。
要は、際限がなくなった。

これは、かなり便利だ。

「ま、魔法袋…。あなた方は一体…」

「お?これで良いのか?」

よし。リョウの方も問題なく出来たみたいだね。

「オケよ。それじゃあ、限界までポーション入れとこっか」

何が便利なのかと言うと、9999個のポーションを見える範囲で12種類ストックしておく事が出来ると言う点だ。
わざわざ『イベントリ』から引っ張りださなくても、すぐに取り出して使えるって言う点が便利なんだよね。

ゲームの時ではそれで愛用した。

まず始めに、俺はリョウのポーチに手を突っ込んで『イベントリ』から取り出したアイテムを放り込んで行く。

『HPポーション(SSR)』9999個。
『MPポーション(SSR)』9999個。
『エリクサー』9999個。
『神聖水』9999個。
『世界樹の雫』9999個。
『不死鳥の霊薬』9999個。

この6点セットを俺は"安全セット"と呼んでいる。

『HPポーション(SSR)』と『MPポーション(SSR)』は『オール・ワールド』内で最高を誇る回復ポーションで、ジョブの中で最も体力が多い狂戦士バーサーカーですら『HPポーション(SSR)』1つで半分以上も回復させる事が出来る優れ物。

『エリクサー』は、どんな状態異常に陥っても瞬時に治せる。

『神聖水』は死亡しても3分以内なら復活させる事が出来る。
ちなみに、3分と言うのは地点復活リスポーンまでの時間インターバル

『世界樹の雫』はHP・MP共に全回復。
ゲームだと武器や防具に使用する事も可能だったけど、使用しても何も起こらない。

『不死鳥の霊薬』は即死攻撃を一度だけ回避してHP・MPの全回復。

下4つはイベントアイテムで、NPCに使う用に用意されたアイテム。でも、プレイヤーにもゲーム内で効果はあるのは確認済み。

何度もお世話になったからね。

でも、今の俺達にちゃんと効果があるのかは判らない。おいおい使っていけば判ると思うけど、検証は必要だ。

そして、次は俺のポーチにアイテムを入れる番だけど…。

正直言うと、今の現状を考えるに、ポーチから取り出すよりも、念じるだけで瞬時に手元に出現させる事が出来る『イベントリ』の方が効率良さそうだから、入れる必要はないと思う。

ゲームの時は『イベントリ』を開かなくても使用できたから愛用してたけど、今は全く必要性を感じない。

欲しい物を思いながら『イベントリ』と念じると、簡単に取り出す事が出来るんだもん。

まぁ、適当に拾った物とか入れとくのには便利かもしれないし、空のままにしとくのも悪くはない。

そんなわけで、これで安全マージンを取りまくったアイテムの準備は整った。
後は武器とか防具の装備だけど…。

「なぁ、アイテムくれるのは良いけどさ、武器とか防具はねぇのか?」

今しがた考えてた事を訊かれた。

リョウの期待を裏切る形にはなるけど、答えないわけにはいかないよね。どうせ、いつかは分かる事なんだし。

「それがさ、今の俺達じゃ装備出来ないんだよね」

「なんだよ、使えねぇー」

そこまで言わなくても良いじゃん。

俺の持ってる装備品が装備できない理由は、厳密に言うと、ほぼ全てが上級職限定でステータス要求が凄く高いから装備出来ない。

中には誰でも装備できるけど【呪い】にかかっている危なそうなやつもある。

だから、今は・・装備できない。

「しゃーねぇな。そんじゃ、これを装備しとくか」

そう言って、床に置いてた防具を拾い上げるリョウ。

『村人の服』の上から慣れない手付きで頑張って防具を着ようとし始めるリョウだけど、敢えて言わせて貰う。

「いや、それも無理。装備しても、今の俺達じゃ重量制限が掛かって動けなくなる」

「なら、どうすりゃ良いんだよ」

否定したら、ムスッとした表情で睨み付けてきた。

けど、俺に怒りの矛先を向けられても困る。ゲームの中だとレベル5で装備可能になる装備品なんだもん。
レベル1で装備出来る訳がない。

『鈍の剣』を装備するのに攻撃と防御に5必要なのに、そこに『皮の鎧』まで合わさると要求ステータスは倍に膨れ上がってしまう。

レベル1のままじゃ、いつまで経っても装備出来る訳がない。

でも、アレをすれば間違いなく装備出来る。
こんなド低級な装備よりも、もっとグレードの高いのを装備出来る筈だ。

「装備は後で解決出来るから、先に教会に行こっか」

「そんじゃ、コレは持って行った方がいいよな」

リョウは『皮の鎧』と『鈍の剣』をイベントリに仕舞った。
仕舞った所で悪いんだけどーー。

「いや、要らない。…あ、そうだ。ミミル、これ要る?要らないんだったら捨てるけど」

防具とかの初期装備は必要ない。
ランクの低いポーションも持ってても仕方ないし、捨てるならあげようと思っての提案だ。

「え…」

突然話し掛けたものだから、ミミルはワタワタと可愛らしい焦りを見せた。
そして、落ち着いた頃合いを見計らって再度尋ねる。

「俺達には必要ない物だし、売るなり使うなり好きに使ってくれないかな?」

「い、良いんですか?」

「うん」

どう見たってミミルの生活は貧乏そうだからね。

例え、ミミルがNPCーーノン・プレイヤー・キャラクターだとしても、やっぱり世話になった分は返したい。

あ、それならアレも渡しとこう。
期間限定のイベントアイテムで手に入らないからって集めたアイテムの一つ。

「あと、これらの処分をしてくれるのなら、これもオマケするよ?」

取り出すのは、黄金の小麦粉争奪戦と言うイベントで入手可能の特殊アイテム『黄金パンの詰め合わせ』。

効果は『HPポーション(N)』程の回復効果とランダムで耐性上昇。

バスケットに山盛りになった多種多様のパン。それが『イベントリ』内では999個と記載されている。
正直、全ての回復アイテムを集めた俺からすれば必要のない産物だけど、使用した時の特殊効果が面白くて雑魚と戦う時に良く使っていた。

戦闘中に使用すると、戦闘中にも関わらず操作キャラがバスケットに入ったパンに飛び付いて、無我夢中で頬張るのだ。

その間にも敵は待ってくれなくて攻撃され続ける。HPゲージは減る一方で、いざ回復しても微々たる量しか回復しない。
けど、やっぱり面白くて、バグを使って減らないようにした。

そんな使用方法がネタのアイテム。

『黄金パンの詰め合わせ』を取り出すと、芳ばしい香りが部屋中に広がり、お腹が空いてなくてもパンにかぶり付きたい衝動に駆られる。

画面越しに見る操作キャラの抱いていた気持ちが分からなくもない。

『黄金パンの詰め合わせ』を取り出すなり、ミミルの瞳が明らかに変わったのが分かった。

両目は髪で隠れてしまってて見えないけど、そんな感じがする。
だって、口から涎も垂らして、すっごい『黄金パンの詰め合わせ』を凝視してるんだもん。

雰囲気から『お腹空いてます!』と言う感じがビシビシと伝わってくる。

ーーグキュルルルッ。

彼女のお腹の音が聴こえると、ハッと我に返って涎を裾で拭い、恥ずかしそうに顔を逸らしてしまった。

「ふっ…」

少し面白いと思った。

「それーぃっ!」

バスケットから取り出したパンを1つ。宙に放り投げると、背中を見せていたミミルが素早い動きで跳び上がって宙空のパンをキャッチ。

スタッと地面に着地すると同時に、ムシャムシャとパンを貪り始めた。

「ふふっ」

なにこれ。面白い。

あっと言う間にパンを食べきってしまったミミルは物欲しげな瞳で見上げてきた。

次弾を投げようとバスケットに手を伸ばし、思い留まる。

「……(ジー)」

先程から無言の威圧がすぐ側から向けられているから。

ゴホンッと一つ咳払い。

「パンはここに置いておくね。そ、それじゃあ、行こっかリョウ?」

「チッ。やっとかよ」

雰囲気から察するに、かなりイライラしていたみたい。

リョウの視線がチラチラとバスケットに入ってるパンに向けられているけど…もしかして、リョウもパンが食べたいとか…?

いや、そんなはずないよね。

さっきまで向けられてた威圧感のおる眼差しは『早くしろ』と雄弁に語ってたし。

…後で、もう一つ『パンの詰め合わせ』を取り出してあげとこう。
ご機嫌とりのために。








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