ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた

九九 零

名前とステータスの確認!



「汚い天井…」

こういう時は『知らない天井だ』って言うのがセオリーだと思うけど、敢えて言わせてもらった。
だって、本当に汚かったから。

目が覚めると、シミだらけの薄汚い天井が目に入った。
思わず、顔をしかめたくなったほどだ。

体を起こす前に、体をブルリッと震わす。

冷たい風と、はたまた冷たい空気。
体は冷え切ってて、とても寒い。

どうやら寝起きは最悪のようだ。

「よっ!ようやっと起きたみたいだな」

「ア゛?」

声の聴こえた方へと視線を転じてみれば、バカが居た。

髪は金色の長髪。かと言って、長すぎず、狼の毛並みを思い浮かべるような髪型をしている。
普通にしてても威圧感のある鋭い目付きに、スラリとしたイケメン寄りの顔。

活気溢れる表情に若々しさが満ち溢れていて、羨ましく感じる。

俺なんて、30超えた辺りのオッサンみたいって良く言われるのに…。
タバコ辞めても歳食ってるように見えるのは変わらないらしい。

コイツは俺と同じ25歳の筈なのに、こうも違うものかと憤慨を抱いてしまう。
同じ時期にタバコをやめたって言うのに…。

それはそうと。

コイツの名前はリョウ。俺の古くからの友達だ。
なぜか髪が外人みたいな金色になってて、目の紅色になってるけど、間違いない。

俺の友人ダチだ。

なんだかんだでウマがあって、なんだかんだで友達の中で一番仲が良い。
そんでもって、ついさっきまで一緒にゲームをする予定だったーー。

「ア゛レ゛?」

「水か?それとも俺か?後は…飯か?」

…『俺か?』ってなんだ?
それ選んだらどうなるんだ?

怖いからやらないけど。

「セ゛ツ゛メ゛イ゛」

「説明?あーね。まっ、簡単に言うと、お前、墓場に埋まってたぞ」

クハハッと笑って意味の分からない事を抜かすリョウ。

説明にすらなってない。

「まぁ、埋めたのは俺だけどなっ!」

お前かよっ!

「これでも苦労したんだぞ?ゾンビが出てきたばかりの穴に放り込んで土を埋めるの。アイツが居なきゃ、今頃俺もお前と一緒に墓の穴だったぜ!」

なぜかサムズアップ。そして、ドヤ顔で言ってきた。

何してんだよっ!
苦労の仕方が違うだろ!?

…って、ちょっと待て。

「…ゾ…ビ?」

「おう!にしても、このゲームすげぇな!まるでゲームの中に入ってきたみたいだぜ!こんなゲームがあんなら、もっと前に誘えよなっ!」

『憎いね、この野郎』とでも言いたげな笑みを浮かべて肘で突いてくるバカ。

でも、その前に一つ疑問がある。

ーーゲームの中?は?何言ってんだコイツ?
遂に、頭だけでなく、目までおかしくなったのか?

そう思っていると、バカの背後にある扉が開いて、布を縫い合わせて作ったようなツギハギだらけの服を着た女性が入ってきた。

薄汚れたライトブルーのボサボサの髪。手入れしてない事が見てわかる。
瞳は前髪で隠れて見えないけど、第一印象は根暗な感じ。

身体は痩せ細っていて、頬も痩けてる。身長は小さい。140センチぐらいだろうか?見るからに子供だ。
天井のように薄汚れた顔や髪。見るからに不潔で、何日もお風呂に入ってなさそう。ついでに言うと、ご飯も碌に食べてなさそうな感じ。

小さな女の子が両手に鉄製の桶とボロ切れを持って部屋に入ってきた。

ちなみに、俺の身長は180ジャスト。
リョウは170ちょっとだ。

「…え…?あっ、あ、えっと…お、お友達の目が覚めたんですか?タロウ・リョーさん」

「おう!」

なぜか女の子は俺を見るなり驚いて桶を落としそうになっていたけど、その桶を見る限り、俺が寝込んでいる間の世話でもしてくれたんだと思う。

リョウがしてくれるとは思えないし。

汚い子だと思った事は謝ろう。
ごめんなさい。

元気のない微笑みを浮かべる女の子に対して、屈託のない笑みを浮かべて答えるリョウ。

笑みの度合いが対照的だ。

ところで、『タロウ・リョー』ってなんだ?コイツの本名『マツオカ リョウ』じゃなかったっけ?

「少し失礼します…」

そんな事を考えていると、女の子が桶を近くの机に置いて、俺の手を握ってきた。

どうして俺の手を握るんだ?
汚いから、あまり触って欲しくないってのが本心なんだけど…もしかして、今から診察か?

こんな貧相で成人もしてない少女が?

…出来るの?

「癒しの神よ。傷付く者に癒しを与え給え『ヒール』」

ーーは?何言ってるの?

そう思ったのも束の間。

少女の手が仄かな純白の光を放つと、その手から温かい感覚が流れ込んできて喉の痛みやら体の節々の痛みが和らいだ…ような気がした。

たぶん気の所為。

「なぁ!なぁ!ヒビキ!俺も早くこんな魔法使ってみてーんだ!なぁ!どうやったら出来るんだ!?ヒビキ!」

コイツは何言ってんだか…。
魔法なんてありもしない戯言を…。現実逃避も程々にしなきゃ、この世は生きてけねぇーぞ。

ちなみに、俺の名前はヒビキ。『サトウ ヒビキ』だ。

「……へッ、ヘックショイッ!うー、さぶ…」

あ、声出た。
ようやく喉が戻ったみたいだね。

でも、ちょっと枯れてるか?

「水、持ってきますね」

そう言って女の子が部屋から出て行くのを横目に、俺は身体を起こしてリョウと向き合い、現実を突き付けてやる事にする。

「あのな、リョウ。魔法なんてあるわけないでしょ?現実を見ようよ。ゾンビだの魔法だのと…」

「は?お前何言ってんだ?お前が誘ったゲームだろーが」

「誘った…?ゲーム…?」

一体なにを…。

「これが『オール・ワールド』っつーゲームだろ?ほれ、早よ立って案内しろや。お前がそんなんだと、俺は今から何すりゃ良いか分からねーだろうがよ」

「『オール・ワールド』…?」

言われて、気が付いた。

リョウが着てる服装は、『オール・ワールド』の初期装備である『村人の服』とソックリって事に。

ふと気になって、自分の両手をーー腕を見つめる。
そこには、俺の腕がある。

けど、着ている服はリョウと同じ初期装備の『村人の服』だってすぐに分かった。

……でも、どうして?
悪戯にしてはクリオリティが高すぎる。
いや、ちょっと待てよ…。

俺は少し前の事を思い返す。

俺はついさっきまでゲームをしていたはずだ。
リョウを誘って、一緒にゲームを始める所だった。

そんな時、リョウから一本の電話が掛かってきて『どうせなら同時に始めようぜ』って言われて、断る理由もなかったから『いっせーのーせっ』で同時に開始ボタンを押したーー筈だった。

ところが、気が付けば墓地に埋められてて、起きたら汚い天井が目に入って、ついでにバカが居た。

「なにアホヅラしてんだよ」

「………」

「なぁ…ココハドコ?」

「…へ?」

「ん?」

このタイミングでボケるなんて…場所を聞いてどうするって……いや、いや違う。違うぞ。これは…そう…これは、俺がゲームのキャラに付けた名前…。

でも、俺のキャラ名リョウに教えてない筈なんだけど…。

「どうして俺の名前…」

「え?だって、頭の上にあるじゃん。それがお前のキャラの名前だろ?」

そう言いながらリュウは自分の頭の上を指差した。

「…は?」

その指を辿って視線を向けるとーーそこには『タロウ・リョー』の名前が……。

うそん。

「………」

「ん?おーい」

「………」

「おーい!」

「………」

「おーい!って、言ってるやろがっ!」

ーーガツンッ。
そんな音がして、視界にチカチカとした火花が飛び散った。

「んガッ!?」

殴られたんだと、後から襲って来た鼻頭の痛みで気が付く。

でも、これでハッキリした。

これは夢じゃない。
ーー現実だ。

「あの…水、持ってきましたよ。…って、大丈夫ですか?」

俺が涙目になって鼻を抑えている所に例の女の子が戻ってきたみたい。

戻ってくると同時に俺の現状を見て心配の声を上げてくれた。

「布どうぞ」

「あ、どうも…」

桶に掛けられていた濡れた布を絞って渡してくれる。
でも、どうして布を?

まだ頭の中は混乱してる。
混乱しながら、取り敢えず渡された布で鼻を抑えておく。
殴られた鼻を冷やすと痛みが和ら出できた。ついでに、混乱した頭も落ち着きを取り戻してきた。

「所で、君は?」

冷静を取り戻した俺は、濡れた布で鼻を抑えながら女の子に尋ねる。

彼女の頭上を見ても何も見えない。
ボロ切れを繋ぎ合わせた服装も『オール・ワールド』には存在しない服だ。

ここが本当に『オール・ワールド』の中ならNPCでも名前が見える筈。なのに彼女の名前は見えない。

じゃあ、プレイヤー?

でも、俺が選んだ『アナザー』ワールドサーバーには俺達以外にプレイヤーが居なかった。ちゃんと確認もしている。

なら、彼女は何者?

「わたし…?あっ、ごめんなさい。自己紹介ですね。わたしはミミルです」

そう名乗った途端、彼女の頭上に名前が現れた。
…そう言えば、フレンド以外の名前が出ないように設定にしてたな。

「あー、俺の方こそごめん。俺はヒビ…じゃなくて、ココハ・ドコ」

「…?ここはマバツルの町ですよ?」

なんか急に場所を聴いたみたいになってしまった。そう言う意味で言ったわけじゃないんだけどな…。

「いや、ココハ・ドコってのが俺の名前なんだ」

「……め、珍しい名前ですね」

絶対、変な名前だと思っただろ。

まぁ仕方ないか。当初は『ストーリー的に、この名前にすると面白そう』と思って付けたんだし…。
今はこんな名前にして後悔してるけど。

それにしても、やっぱり、ここはマバツル村なのか…。

じゃあ、本当にゲームの中…?

「なぁ、早く行こうぜ。ヒビキ」

「もう動いても大丈夫なんですか?もう少し休んだ方が…」

俺みたいなヤツを心配してくれるなんて優しい子だなぁ。

「あ、ああ。うん。そうしたいのは山々なんだけど…」

チラリとリョウを見やると『早くしろ』とでも言いたそうな眼差しを…いや、睨み付けてきている。

取り敢えず、鼻に当てていた布を取ってから、ベッドから降りて体をググっと伸ばしてみる。

痛みはないけど、隙間風が冷たくてすぐに身を竦ませる。

ちなみに、鼻に当ててた布には赤いシミが出来てた。
鼻血が出てたみたいだ。

「で、どこ行くんだ?」

リョウはワクワクが止まらないみたいで、瞳の奥を期待で一杯にしてキラキラ輝かせてる。

俺は先を思いやられてるってのに、呑気なものだ。

「いや、その前にステータスを確認しようか」

再びベッドに座ってステータスの開き方を考える。

「アレならもう見た。だからさっ!早く!」

リョウの態度を見てると『子供かっ!』ってツッコミを入れたくなる。

どれだけ期待に胸を膨らませてるんだよ。

…って、ちょっと待て。もう見た?
ステータスを確認したのか?

「どうやって?」

「何がだよ?」

「どうやってステータスを確認したの?」

「そんなん、『ステータス』つったら出るだろ?」

何言ってんだ?と言いたげな表情で言われた。

でも、そうか。ステータスって言えばいいのか。

「『ステータス』」

▽▽▽

名前:ココハ・ドコ
性別:男
種族:人間
ジョブ:村人
レベル:1
SP:10

HP:100
MP:50
攻撃:1
防御:1
魔力:1
精神:1
速度:1

△△△

言うと共に、視界一面に半透明の液晶が映し出された。

にしても…うん。ゲームのまんまだ。

SPを1消費して攻撃やスキルとかの数値を上げれるのも変わらない。
取り敢えず、攻撃と防御に5づつ振っておく。

「もういいだろ!早く行こうぜ!!」

「ああ…あっ、いや。ちょっと待って」

ここが本当に『オール・ワールド』の中だって言うならーーアレが出来るかも。

「ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く