ゲームと良く似た異世界に来たんだけど、取り敢えずバグで強くなってみた
開始ボタンを押せば、そこはーー。
ゲームの中での俺の名前は『スマイル』。
種族は定番の人間。性別は男。
キャラはガン黒ガチムチ神父。両頬に赤丸があるのがキモ。
神父服を着させて魔道書を片手に持たせ、昔のゲームよろしく、棺桶を常に引き摺って移動する姿。そりゃもう、傑作の出来栄え。
面白すぎて作った当初は笑い転げた程だ。
それから、職業は魔法職ーーに見せかけた格闘家。それで何度か上位職に転職して、現在は狂戦士。
ちなみに、これでジョブは打ち止め。
基本、俺のゲームスタイルはソロプレイで、たまにその辺にいるプレイヤー相手に回復魔法で神父らしく回復させたり復活させたりしていた。
回復魔法は普通のモンスターにも効果があり、他プレイヤーが敵モンスターとの戦闘中に敵モンスターに回復魔法を掛けまくってプレイヤーを何度か間接的に倒すような嫌がらせもした事もある。
チャットは煩いから閉じ、誰かも分からない友達申請は拒否。いや、相手が目の前にいたとしても拒否。
そして、ストーリーを終わらせた時には、既に『オール・ワールド』の人気は無くなってて、新しく販売されたゲームに皆の人気は移ってた。
で、俺もこのゲームには気分的に満足したから、攻略サイトを見ながらスキルや魔法を出来うる限りで鍛え上げ、面倒くさくなったから、バグでカンスト。
レベルもジョブもバグでカンスト。
んでもって、ジョブの違いで取れないスキルや魔法も取得&スキルレベルカンスト。
攻略サイトを見ながらバグ技を何度も行い、慣れてきてからは例によってバグでレアアイテム全て集めて、遂にはやる事を失った。
だから、新しいキャラを作って初めから行う事にした。
勿論、今度は趣向を変えてリアルで一番親しい友達も誘って一緒にゲームを始める事に。
友人と事前に相談し合い、決めた結果。
ワールド…サーバーの設定を誰もプレイしていないと表記されている【アナザー】に。
所属国を『無し』にして、開始地点の村を『バマルツ』に選択。
名前は迷った挙句に『ココハ・ドコ』にした。
キャラ設定を適当にランダムで確認もせずに決定。
まぁ、ぶっちゃけ、これもネタに走った。
今度はキャラじゃなくて、名前で。
さてさて、それじゃあ始めよう。
ーーっと思った所で、今から一緒にプレイする予定の友達から連絡が一通届いた。
『どうせなら同時に始めよーぜ』
それもそれで面白そうだ。
それで何かが変わる訳でもないけど、俺は同意の返信を送り返す。
すると、数秒もしない内に電話が掛かってきた。
「そんじゃ、『いっせーの』で始めんぞ」
「はいほー」
二人一緒に声を合わせて『いっせーのーせっ!』で、開始ボタンをポチッと。
そこで、俺の意識は途切れた。
ーーー
ここに空はない。
なぜなら、建物の中だから。
今の今まで、辺り一面が眩い光に満ちていた巨大な空間。
いや、大空洞と言った方が正しいのかもしれない。
ここは、建物の地下に造られた特殊な儀式のための大部屋。
床には意味ありげな呪文が描かれた石壁で埋め尽くされ、そこには大量の血痕が残っている。
中央部は一段低くなっており、そこは血みどろの真っ赤なプールが出来上がっている。
そんな部屋内に男の声が響き渡る。
「なぜだ!?なぜ何も起こらないっ!?召喚の儀は完璧だったはずだ!!」
男は叫び、片手持っている水晶を睨みつける。
水晶内は黒く淀み、先を見通す事すら出来ない。
しかし、黒い淀みは水晶内を蠢くと形となって二人の男性の存在を映し出し、それだけ映すとビシリッとヒビ割れができた。
「クソォォォ!!」
怒りを露わに、男は地面に水晶を叩きつける。
ーー男は知らない。
召喚されるはずだった人物は、既に他の者の手によって召喚されてしまっていた事に。
男は知らない。
その召喚の儀によって時空に綻びを作ってしまい、無関係な者を巻き込んでしまったことに。
男は知らない。
巻き込んでしまった無関係者が一人ならば、男が行った召喚の儀は成功していたことに。
男は知らない。
彼等は一人ではなく、二人同時に時空の綻びに飛び込んで来たことに。
そして、彼等を呼び寄せてしまった事を、男は後に酷く後悔することにーー。
ーーー
真っ暗な空間…とでも言えばいいのか。
まるで天にも登ってるかのように意識が浮上していく感覚を味わいながら、全身に掛かる重みで目が覚めた。
って言っても、どのみち目の前は真っ暗。何も見えない。
顔を動かそうとしても全く動かない。
足や腕。指の一本ですら動かせない。
ーーえ?もしかして俺…死んだ?
ゲーム始めるのと同時に死んだの?
なに?隕石でも落ちた?
それとも大地震?
なんらかの大災厄?
今から考えても死因は分かんないけど…この状況から察するに、死んだ…んだよね?
って事は…あれか?
『今から転成しますー』とか言って女神様とか神様が出てくるちょっと前な感じかな?
そう考えると…あ、ちょっとワクワクしてきた。
残してきた家族達には悪いけど、明日の仕事の事とか考えなくて良いし、苦労を押し付けられる事もないし、何よりまだ見ぬ世界って想像するだけ楽しそうじゃん?
期待しちゃうよねー。
心の準備は万端よ!さぁ!さぁ!!いつでもカモーンヌッ!!
………………。
……………。
…………。
………。
……。
…。
うん?
いつまで経っても来ないね。
あっれー?おかしーなー?
ここは女神様か神様が現れる所じゃないのー?
っと、まぁ、冗談はさておき。
状況把握する限り、俺はまだ死んでなさそうだ。
「ア゛ーー」
声は出る。シワ枯れた声が。
まるでゾンビみたいな声で笑えた。
指先は動かないって言ったけど、ほんの僅かになら動くし、瞼や眼球も動かせる。
まぁ、動かす度に目に何か入って痛いんだけどね。
涙が自然に出てきちゃう。
さて、ここがどこだか分からないけど、取り敢えず脱出しますか。
どのぐらい時間が掛かるか分からないけど、指先に当たる場所をホジホジ。
徐々に指を動かせる範囲が大きくなって行き、遂に手が動かせるようになった。
この調子で、手の周辺を掘り掘り。
腕が辛うじて動くようになったら、取り敢えず、上に…重力に逆らう方向へとホジホジ。掘り掘り。
そうして、数時間くらいが経ったような気がする。
時間なんて分からないけど。
指先がどこかに出た。それと同時に、新鮮な空気が一気に入り込んできた。
そして、指先が冷たい何かに触れた。
「ア゛ーー」
ん?ちょっと待って。今の、俺の声じゃない。
「オ゛ーー」
「ア゛ーー」
「ウブブブブブ」
「ゴキュゴキュゴキュ」
「ィエ゛ーー」
……これって…いやいや、そんな訳…ないよな?
俺の予想が正しければーー。
「ーーー『ホーリーボール』!」
ゾンビじゃね?
そう思った途端。突如、可憐な鈴の鳴るような声が聞こえたと共に、視界は真っ白に染まり、俺はまたもや意識を失った。
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