死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~

八神

ファイナルエピソード.世界の選択を



 「よう、十七年ぶりか」

 <クリスさん……>

 鉄格子の内と外で対峙する俺とオルコス。昔、転生する前に見た時よりも幾分疲れて見えるのは気のせいだろうか。

 <申し訳ありません。私の失態で再び死ぬことになってしまい……セルナさんは?>

 『クリス以外は無事よ。あんたのミスで丈夫になった体に感謝することね?』

 <ルア様……>

 「で、これからどうなるんだ?」

 『黒幕、とは言い難いけど主任の尋問で事態が収束に向かうでしょうね。私も関わるけど、ポイント制度の見直しや新しい進級制度を話し合う必要があるからね』

 「……こいつはどうなる?」

 俺はオルコスを親指で指すとルアは困った顔をして手を上げ、檻を解放した。

 『オルコスは自分の野望と欲望でクリスさんを苦しめ、さらに二級神でありながら記憶を持たせたまま送り込むといった所業があるからこのまま刑を受けてもらうわ。まあ重罪人とまでは行かないけど、軽くは無いわね」

 <……>

 オルコスは黙ってルアの話を聞いていた。表情は……微妙だった。

 『ハイジア、あなたもしばらく進級はないわ。主任じゃないけど、雑用で頑張りなさい』

 <は、はい……! 申し訳ありませんでした……>

 <その罪を私が代わりに受けることは可能ですか>

 『え? うーん……それはちょっと無理ね、気持ちは分かるけど諦めなさい』

 <そう、ですか。すいませんね、私が片棒を担がせてしまったせいで……>

 <オルコス……>

 さっきオルコスを告発したと言っていたハイジアは複雑な表情でうつむいた。元々恋人かなんかだったのだろう。オルコスのアホが暴走しなければこんなことにはならなかったのだと思う。

 「だいたいお前のせいか。でも、しおらしくなりやがって……次に会ったら絶対ぶん殴るつもりだったんだが失せちまったな」

 <……>

 辛気臭いなまったく……と思っていたけど、よく考えたら俺はどうなるんだ!?

 「おい、ルア! そういや俺はどうなるんだ? ここまで来たのも別に俺が居なくても良かったんじゃねえ?」

 『まあね』

 「まあね!? ……なら何で呼んだんだよ……」

 『そりゃ、クリスさんが当事者だからよ? 後、オルコスを殴りたいって言ってたじゃない』

 「それだけ!?」

 シレっと言うルアに俺は脱力する。

 「いや、もういいよ。こいつはここで罪を償うんだろ? こんな疲弊したヤツを殴ってもなあ……」

 すると、オルコスが急に笑い出した。

 <フフフ……相変わらず甘いですね! まあおかげで? ここに来るまではいい思いをさせてもらいました!>

 「あん?」

 <それに良かったじゃないですか、セルナさんと結婚できたんですし。これも私のおかげといえるでしょう! あのまま過ごしていたら結婚など夢のまた夢。童貞をこじらせて犯罪者になっていたのはもしかしたらクリスさんの方だったかもしれませんね? ああ、その現場も面白かったかもしれませんね!>

 「お前……!」

 <けしかけた私が言うのも何ですが、セルナさんも同じ転生者だからと言って安易にクリスさんを選ぶとはね。ああ、そうかクリスさんは何だかんだで私のおかげで大金持ちでしたから、やはりお金目当て……>

 「歯ぁ食いしばれオルコス!!」

 ゴシャ!

 ペラペラと喋るオルコス。俺に対してのことなら別段いつものことなので怒鳴りつけるくらいで済むが、セルナのことを悪く言うのは許せない。丈夫な体では無くなっていたけど、角材を扱っていたりゴブリンと戦ったりしていた成長は無くならない。

 渾身の一撃がオルコスの顔面をクリーンヒットしていた!

 <ぶべら!? そ、それでいいのです……わ、私は貴方たちに取り返しのつかないことをしてしまいました……これで許されるとは思っていませんが、げほ……せめてもの……>

 ドサ……

 壁にぶつかって倒れたオルコスはそのまま気絶し、動かなくなった。凄い鼻血を流して。

 「オルコス……」

 『最後のけじめだったのかしら。元は真面目だったらしいしね? 後は任せるわ』

 <はい……オルコス……馬鹿な人……>

 ハイジアがオルコスを抱きかかえ、ルアが外にいた看守に何かを話した後、俺の手を引いて重罪人の檻を後にした。

 これで、全てのカタがついたのだ。

 最後にもう一度、オルコスのいた檻を見て、なんとなくやるせない気持ちを抱えて俺は歩き出した。

 




 ◆ ◇ ◆




 ――それから三日


 「……で、俺はどうすればいいんですかね?」

 オルコスの裁判、ポイント制の見直しとイベントに引きだされていた俺はいまだルアの居た部屋でゴロゴロしていた。
 もうさっさと消えるものだと思っていたのだが、オルコスのちょっかいを受けていたということで今後どうすれば転生者が快適に過ごすことができるか? といった議論の中で意見を求められていたりした。

 結果としてポイント制は廃止となり、転生者は一律記憶を持たせない状態で送り込む。そしてモニターも週一回、様子を見る程度にとどまった。
 進級についてはモニターしている転生人の記録を記録して報告。世界に対してその人物をどうしたいか、といったレポートや神託についての提案といった内容ではかることに。

 『いやあ、おかげでとんとん拍子に色々決まったわ! ありがとね♪』

 「そらあんたは頷くか承認するだけだしな……あのハゲたおっさんとか狼狽えまくってて見ていて可哀相だったぞ……」

 『まあまあいいじゃない。そうそう、オルコスは一旦神の資格の剥奪が決まったわ』

 「マジか……まあ消滅しなかっただけマシだってところか?」

 『まあ、一時的にだから真面目にしていれば戻れるとは思うけどね。エリートだった、ってのもあながち間違いじゃないくらいきちんと働いているらしいわ』

 最初から真面目にやっていれば良かったのに、とは思うけど、欲望には限りが無い。それは人間も神も変わらないのだろう。言ってみればここに居るのがたまたまルアやオルコスであって、もしかしたら俺がこの枠に入っていることだってあるのかもしれない。

 『さて、それじゃそろそろクリスさんの処遇を決めないとね』

 「ようやくか。文字通り待ちくたびれたぞ……自業自得だけどオルコスを殴ることもできた。ささっとやってくれ」

 『せい!』

 俺は大の字になって床に寝そべると、ルアにニードロップを決められた。

 「ぐあ!? 何すんだてめえ!?」

 『そりゃニードロップよ?』

 「技名はどうでもいいんだよ!? また転生するのか? もしかして消滅なのか?」

 するとルアは首を振ってどこから取り出したのか、テーブルセットを出し、椅子に座ると俺にも対面に座るよう促してきた。

 『……クリス=ルーベインさん。あなたはオルコスにかけられた迷惑と、世界に対する提案の功績を称え、あなたに二つ、選択肢を用意しました』

 「選択肢……? 二つ……?」

 頬杖をついて聞いていると、神妙な顔でルアが頷く。

 『ええ、一つはクリスとしてあの世界『ペンデュース』へと帰還すること』

 帰れるのか……! でも俺の体はどてっぱらに穴が空いたんじゃなかったっけ? それでも戻れる、ということに対しての期待からか心臓の鼓動が早くなる。そしてルアが二つ目の選択肢を提示してきたが、それは耳を疑うものだった。

 『もう一つは、クリスさんになる前。『折戸 真』として、亡くなる時間軸へと戻し現代に戻ること』

 「なに!? そ、そんなことが出来るのか!?」

 『かなりの力を使うけど出来なくはないわ。まあ、別の神の力を使うんだけどね。これがあなたにできる私達からの償いよ』

 戻れる? 地球に、現代に?

 俺の頭をぐるぐると色々なことが駆け抜ける。ブラック企業とはいえ、それなりに友達もいたし、趣味もあった。親は居なかったが、楽しくやれていたと思う。戻れるのなら……そう思った時、最後に浮かんだのは父さんや母さん、アモルにウェイクとデューク兄さん……

 ――そしてセルナにクロミアとフィアの顔だった。

 『地球に戻っても過労死しないようにするからそこは安心して? 帰っていきなり死にました! だと流石にこっちもバツが悪いしね』

 ルアが手をひらひらさせながら言ってくる。そこで俺はルアに訪ねた。

 「……ペンデュースでの俺はどうなるんだ? セルナ……岩瀬月菜はどうなる? 俺の記憶は?」

 『あっちの世界はもう死んだことになっているから、地球を選んだらそのままねー。そろそろお葬式が始まるんじゃない? 結婚した転生人は現地のまま。当たり前じゃない。クリスさんとしての記憶は悪いけど消させてもらうわ』

 チーズを齧りながらさも当然、という感じで肩を竦める。

 そうか……これは俺だけに許された特権、というわけなんだな。

 「分かった」

 『決めた? ゆっくり考えてもいいわよ?』

 「いや、問題ない。考える必要なんて無かった」

 『そう? なら聞かせてもらえる、あなたの選択を』

 「俺は――」








 ◆ ◇ ◆




 「まさか私より先に死んでしまうとは……何と親不孝な……」

 「死因は爆発物だったらしいわ。妻を守って死んだクリスは誇れる男だったのよ……うう……うああ……」

 お義父様とお義母様が棺の中で眠る息子、クリスさんの顔を見て涙を流す。今日は私の夫、クリス=ルーベインのお葬式。
 あの日、黒い箱をお腹を抱えたクリスさんはお腹にぽっかりと穴を空けて絶命した。何故あんなものがあったのかは分からないけど、死なないクリスさんが死んでしまったということは相当なものだったに違いない。そして、その脅威から私とクロミアちゃん、フィアを守ってくれたのだろうと推測される。

 「お兄さまぁぁぁぁぁぁ!」

 「クリス兄さんが、死ぬなんて……嘘だよ……」

 アモルちゃんにウェイク君も信じられないといった感じだったけど、遺体を前にして現実を突きつけられ、呆然としていた。

 今日は生憎の雨。

 涙は雨と一緒に流れて地面へと消える。

 私は泣かない。泣いて帰って来るならいくらでも泣くけど、それは叶わない。であれば私達を守ってくれた夫をしっかりと見送るべきだ。

 「セルナ……」

 「クロミアちゃん」

 「セルナ」

 「フィア」

 喪服に身を包んだ二人が私の横へ並び立つ。棺の周りには森のゴブリンやオークの村長、港町の技術者や町の人が訪れては泣いていた。

 「あの人は色々な人に慕われていたのね」

 「そうじゃな。流石はわらわの旦那じゃ」

 「クリス様は昔から無茶をする人でしたけどね」

 思い出してフフ、と笑うフィアだけど、やはり寂しげな顔をしていた。やがて参列者全員が棺を巡り、いよいよお別れの時間になった。

 「セルナさん、そろそろ……」

 お義母様が私達の肩に手を置いてきて、私は体を強張らせる。棺のふたを閉める前にクリスさんの顔を見てお別れを言う。

 「……さようなら……」

 ダメだな、泣かないって決めたけど、やっぱり顔を見ると涙が出てしまう。クロミアちゃんとフィアも涙を流し、一緒にふたを閉じた。

 





 ◆ ◇ ◆


 パチッ

 俺は目を覚ます。

 ルアに俺の要望を告げると、すぐに足元に魔方陣が出てきて俺は飛ばされた。少し浮遊感を感じた後、目を開けたのだが……。

 「暗いな……? ここはどこだ?」

 身体を動かそうとするが狭い箱のようなものに入っているのか身動きが取りずらい。何とか腕を動かして手を突きだすとすぐにぶつかってしまう。

 「ぐぎぎ……! ダメか……これってもしかして……」

 俺があることに気付くと、なんだか焦げ臭い匂いがしてきた。

 「……何だ? 熱っ!?」

 背中が段々と熱くなってくる! 間違いない!

 「これ棺桶だ!? 火葬かもしかして!!」

 このままではあの世へ逆戻りだ! 俺は渾身の力で天板を殴りつける!


 ドン! ドンドン!


 「? 何か音がせぬか?」

 「え?」

 ドンドンドン!

 「本当だ、でもどこから……?」

 外で声が聞こえる! うおおおおおおおおお!

 バガン!!

 「熱ぃぃぃぃぃ!!!!?」

 「「「ええええええええ!?」」」

 幸い、日本のように隔離された火葬場ではなかったので、俺は辛くも脱出し、ゴロゴロと転がっていく。雨が降っているようで、熱かった背中を冷やしてくれた。

 「おお、熱かった……」

 「あ、ああ……」

 「ま、まさか……」

 「わはは……さ、流石じゃ……」

 うつぶせ状態になっている俺の頭上から声が聞こえてくる。この声は……確信をもって俺は雨の中、仰向けになり、ニカッと笑いながら決めていた言葉を口にする。

 「ただいま、セルナ、クロミア、フィア」

 凄く困った顔をした三人が泣き笑いで寝ころんでいる俺に抱きついて来た。

 「「「おかえりなさい!(なのじゃ!)」」」

  


 あの時、俺はこの世界へ戻ることに決めた。

 全てを忘れて向こうの世界に戻るのも良かったのかもしれない。

 だが、この世界で生きた16年という歳月は決して短くは無く、そして大事な人がいるこの世界を捨てることは出来なかった。
 
 でたらめな神が見守るでたらめな世界だけど、まあ、たまにはそういうのも悪くない。

 「……ま、本当に困ったら助けを請うけどな」

 「? 何?」

 俺の呟きにセルナがきょとんとした顔で目をぱちくりさせていた。

 「いんや、何でもない。腹も減ったし帰るか」

 「どこにじゃ?」

 「決まってるだろ? 俺達に家だよ!」

 「……はい!」

 
 これからも世界は続いていく。

 この先、俺とセルナの知識でこの世界はどうなってしまうのか? 俺は楽しみでならない。

 異様に発展させて驚かせるのが、記憶を持ったまま転生させたあいつらへのお返しになるに違いない。怒声を浴びるか賞賛されるか。想像しただけで笑みが出てしまう。

 

 じゃあな、オルコスにルア。

 次は寿命が尽きたら会おうぜ!

 

 

 


 ~Fin~

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