死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~

八神 凪

46. お気楽女神


 あの光はマズイ。

 そう思った俺は風呂敷の中身である黒い箱に覆いかぶさった。

 予想は当たっていたようで、この世界に産まれてから感じたことの無かった『痛み』を体に受けた。

 「あなた!? あなた!」

 「クリスーーー!」

 「クリス様っ!?」

 嫁達が俺に声をかけてくる声が聞こえてきた。ああ……心配するな、俺は死なないんだ……これくらいどうってことは、ない。いつものことじゃないか。

 「ヒュー……ヒュー……」

 おかしいな……声が出ない……。

 俺はごろんと仰向けになって痛みを感じるお腹のあたりに目をやると、そこはぽっかりとあなが開いたようにえぐり取られていた。

 「――……――……!」

 セルナ達が何か言っているようだけどもう何も聞こえない……眠い……この感覚は……覚えているな……徹夜して倒れた時に、似て、いる……。

 

 その時、俺は死んだのだということに思い至った。




 ◆ ◇ ◆



 <あの世>


 <主任、現地は大丈夫でしょうか>

 <あの一帯は吹き飛ぶかもしれんが、それ以外は問題あるまい。まあ一緒に居た現地人には悪いとは思うがな>

 主任と呼ばれた男が廊下を歩きながら事務室へと戻って行く。

 オルコスは拘束され、すでに移送が完了しており、後は尋問と刑罰を行うだけとなっていた。とはいえ、ほぼ証拠は固まり、状況証拠も先程手に入れたので消滅は免れない。

 
 <しかしあの男、よくもまあこれだけのポイントを稼ぎましたね>

 <ああ。まさか完全な記憶を残したまま異世界へ送り込むとは……>

 <ハイジアを含めて、何やらスライドショーを見せて異世界に興味を持たせる、ということも行っていたようで、何人か関与の疑いがありますが……>

 <もはや今更だろう。オルコスを主犯として見せしめで消す。それで効果はあるだろう>

 デスクで頬杖をつきながらため息を吐く主任は考える。

 ポイント制度は別に昨日今日始まった制度ではなく、異世界に送った後でふとした切っ掛けで思い出す発明に対して付与されるものだが、基本的には通常業務で増やしていくのが当たり前なのだ。ただ、異世界の発展に貢献した場合の上り幅は大きいのでオルコスはそちらを重要視し、異世界人の記憶を持たせたまま送ったのだろうと推測した。

 <大人の記憶をもったまま赤子になるなど不幸でしかないがな……>

 それは、利用されたクリスのことだが、同時にその記憶のせいで死ぬことになったことも示していた。

 <オルコスの審判は明日行うと伝えてくれ>

 <かしこまりました。では自分はこれで>

 <ああ、ご苦労だった>

 部下を下がらせながら目を瞑る主任。考えることはオルコスのことだが……。

 <(あのずる賢さを他に活かせないものか……上級神を出し抜く胆力といい、うまく使えば……)> 



 ◆ ◇ ◆



 「ハッ!?」


 『おや、目が覚めたみたいね』

 俺が目を次に目を覚ました時、そこは真っ白い空間だった。

 『調子はどう? 痛いところとかない?』

 セミロングの赤い髪に、白い布のような服をまとった女の子が俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。

 顔はいわゆるかわいい系の顔立ちだが胸は残念だった。

 「……ここはあの世か?」

 『おっと、正解よ! 正解者には賞品として私の世界へ転生することになりますー!」

 どこから出したのかラッパをプープー吹きながら俺の肩を叩く、が、すぐに真顔に戻り話し出す。

 『……という茶番はここまでにして、ここの世界を知っているのは分かっていたの。本来なら通常の二級業務神に送られるからね。私は特別な事情がある人しかこの部屋に招かないの』

 「特別……? あのメロディから貰った箱のせいで死んだんじゃ……あ! そうだ、セルナ達は無事なのか!」

 『そこは貴方が身を挺して守ったから大丈夫よ』

 ピッっとリモコンのようなものを使って壁に映像を出すと、泣きじゃくる三人の姿が目に移った。

 「……ここに来たから分かっていたけど、やっぱり死んだんだな……」

 『ええ。本来、あの贈り物は無害……というよりも発展に貢献できる機械技術が詰まった箱だったんだけど、ウチの特捜神がマイクロブラックホールに組み換えたの」

 な!?

 「マイクロブラックホールだと!? どうしてそんなものを!」

 『そこは後でね。で、本来ならあの一帯をすべて吹き飛ばして、貴方……クリスさんとセルナさんを消滅させるつもりだったのよ。クリスさんの身体が丈夫だったおかげで収縮したブラックホールが成長しきれずクリスさんのお腹を抉る程度済んだってわけ』

 一応、俺の身体は仕事をしていたのか……というかブラックホールを抑え込むとかやばいな。だが、おかげでセルナ達を守るこができたのは僥倖だったといえるか。

 「しかし、何でまた俺達が殺されなきゃならんのだ?」

 『それはね――』

 赤い髪の女の子は語る。

 色々はしょった結論を言うと。

 「オルコスのアホがぁぁぁぁぁ! やっぱりアイツが逐一話しかけてくるのはおかしかったんだな」

 『そうね。記憶を持ったまま送っても問題ないケースはあるんだけどね、さっき少しだけ言ったけど自分の作った世界に送り込むのはいいのよ。ほぼそのまま送り込むことになるから赤ちゃんからスタートすることも無い。だけどオルコスは二級神で自分の世界は無いから違法ってやつなの。で、内通者の存在からオルコスの行いが明るみになったのよ。そのとばっちりを受けたのは申し訳ないわ、主任も相談なしでいきなりやっちゃうから、慌てて魂をここに引き寄せたのよ』

 どこに送られても死んだことに変わりはないと思うんだが。それはそうと、オルコスはもうすでに檻のなからしい。

 「むう……となると、あの馬鹿を殴ることはもうできないのか……」

 『まあ、通常なら無理ね』

 「やっぱそうだよな。くそ! 死に損かよ! ……ん? ちょっと待て今何て言った?」

 『通常なら、無理。そう言ったのよ』

 「……あいつを殴る手段があるってのか?」

 すると、赤い髪の女神はニヤリと笑って俺に告げる。

 『勿論よ。久々に面白いことになりそうね。私に任せておきなさい!』

 凄く不安になる笑顔と高笑いを聞きながら、楽しんでいるようなことを言うお気楽なこいつに少しだけイラついていた。だが、このまま死んでしまうのも納得がいかない……この女神が何を企んでいるのか分からないが、ひとまず協力することにした。

 ……壁のスクリーンを見ると、まだ三人は泣いていた。

 あれほど死にたいと思っていたのに、いざ死んでしまうととても寂しく感じる。幸せってのは長続きしないんだな……。





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 あの世へと再び送られたクリスは謎の女神の言葉と共にオルコスの元へと向かうことになる。

 クリスの運命はいかに? そして現地のクリスの身体は火葬できるのか?


 そして赤い髪の女神の目的とは?


 次回『フリーパス』


 ご期待ください。

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