死んで神を殴りたいのに死ねない体 ~転生者は転生先で死を願う!?~

八神

37. あっちもこっちも予想外


 
 カチッ


 「……まさかフィアに聞かれていたとはな」

 「その様子ですとクロミア様はご存じのようですね。それで、先程の答えをお聞かせください」

 セルナさんについての事を聞いてくるフィア。正直な所、転生者というのが気持ち悪いというなら話は分かるが……。

 「落ち着けフィア。転生者ってのは父さんたちも知っているのか?」

 「は……」

 「うむ、さっきフィアが言っていった」

 口を開こうとしたフィアの代わりに、クロミアが答えてくれた。え、何? お前知ってたの?

 「お・ま・え~……知っていたなら教えろよ……!」

 「い、いひゃいのひゃ!? らっへ、ふぉのひはいがなふぁっふぁし!」

 翻訳:い、痛いのじゃ!? だって、その機会が無かったし。という所だろう。まあ、温泉と食事で浮かれていたからクロミアを攻めるのも可哀相か。

 「まあいい、とりあえずどいてくれ。セルナさんと助けたらその件についてみんなに話す」

 「いいえ、先程の答えを聞くまでは……」

 と、言いかけたところで……。

 <ク、クリスさん!? あのあのあの娘がががが、ゆゆゆ誘拐されれれれ!?>

 「うるせぇえぇ!」

 「え……」

 俺の叫びでフィアがビクッと身を震わせた。しかし、今はそれどころではない。オルコスのアホの声が頭にガンガン響いていたので怒鳴りつけてやる。

 「いきなりなんだ!?」

 <ですから! あの娘が誘拐されたんですよ! 早く助けに行ってください私の為に!>

 「クリス様?」

 「今から行こうとしている所だよ! 邪魔するなよ! 後、お前の都合など知らん」

 「そ、そうですよね……メイド如きが……せ、詮索など、申し訳ありま、せん……」

 <そうですそうです、それでいいんですよ……ほら、早く。馬鹿でかいホテルの一階奥にある部屋へ連れていかれましたよ。早くしないとあーんなことやこんなことをされるかもしれませんよ。いやらしそうなハゲでしたし>

 「開き直るな、だいたいなんでセルナさんの事をお前が心配するんだ? お前の担当は俺のはずだろ?」

 「そ、それは……わ、私は、その……クリス様をお慕いしています……転生者と聞き、あの方とお知り合い……それに仲も良さそうでした……クリス様を……取られたく、無かったんです……」

 <私ほどの神になるとこれくらいは余裕ですよ? あなたがいつまでも結婚をしないからお膳立てをさせてもらいました、ふっふーん。ほら、大事な人を早く助けにいかないと>

 「そういう事か……セルナさんは同じ転生者だけど、今の所大事な人って訳じゃないぞ? 確かに転生前は同郷だったから借金問題は解決してやりたいな、とは思っていたけどな。というか何を考えていたか分からんが、お前の思っているような事にはならんと思うぞ」

 「え!? そ、それは私にもチャンスを頂けるという事ですか! 分かりました……では私はあの娘さんとライバルという事ですね! そして勝った方を嫁にする、そう言う事ですね! では、このままだとフェアではありませんのでどうぞ助けに行ってください!」

 <負け惜しみを……! (しかし今あれこれ言うのは得策ではありませんね……下がりましょうか)まあ、いいでしょう、ではこれで>

 カチッ

 「ふん、負け惜しみはどっちだってんだ……あれ? フィア?」

 気づくと目の前ですごい目をして睨んでいたフィアが産まれてから見たことも無い笑顔でニコニコして道を譲ってくれていた。

 「ど、どうしたんだ? 行って、いいのか?」

 「はい。話したい事があるので無事に連れて帰ってきてくださいませ」

 一体どういう風の吹き回しだ? だけど、オルコスのせいで時間が無くなってしまったから僥倖だ。俺はクロミアを見ると……クロミア?

 「どうした?」

 クロミアはどんよりした目で俺とフィアを交互に見ていた。

 「……いや、クリスよ、もしかして今は例の神とやらと話しておらんかったか?」

 「お、おお……よく気付いたな。そうなんだよ、あの野郎……あ、これは後でいい。すまんがクロミア、ホテルまで乗せてくれないか?」

 「……うん……」

 「テンション低いな!? マジでどうしたんだよ」

 「この後の事を考えると、ちょっと怖くて……」

 「口調!?」

 何かよく分からんがクロミアはすでにライフがゼロのようだ。だけど、仕事はきちんとしてくれる。

 「ええい! 秘技、伸縮自在の術!」

 パァァァっとクロミアが右手を掲げ叫ぶと、いつもの大きさではなく俺一人が乗れるくらいの大きさのドラゴンが目の前に現れた。

 「おお、すごいな! 大きさを変えられるようになったのか!」

 「そうじゃ、アモルを乗せて飛んでおるとどうしても注目を浴びるので覚えたのじゃ! では乗れ、行くぞ!」

 「おう!」

 「行ってらっしゃいませクリス様~」

 やっぱり笑顔のフィアに見送られ俺達はホテルへと向かった。無事で居てくれよ!


 ◆ ◇ ◆


 クリス達が飛び立って数刻……フィアが部屋に戻った後、宿に不審な影が複数現れた。そして暗闇に乗じてハンマーや斧で宿を破壊しながらぞろぞろと中へ入って行く。その音に気付かないはずもなく、セルナの親父さんが慌てて飛び起きてきた。

 「な、何だあんた達は!?」

 「見ての通り不審者よ! 見つける手間が省けたな、あんたに恨みはねぇが……消えてもらうぜ?」

 「な、どうしてワシが……!?」

 「娘が手に入れば父親は用済み……そして娘が居ればこの土地はあのお方の物ということだ……分かるな?」

 「ば、馬鹿な……言うとおりにしたというのに……」

 自分たちを不審者という頭の悪い物言いをし、覆面を被った男達がにやにやと笑いながら親父さんを取り囲む。その中の一人が数名に声をかけた。

 「おい、貴族の方もおさえておけ。他に宿泊客はいないから、金品を奪ってこい」

 「奥さんと娘、メイドはどうするね?」

 「そりゃ、それこそ分かってるだろ?」

 いひひ、と嫌らしい笑いを浮かべて階段を登って行く男達。また親父さんに向き直ると、一歩、また一歩とナイフをチラつかせながら迫っていく。親父さんも後ずさりしながら、裏口のある方向を確認する。しかし貴族がまだ残っている……自分だけ逃げる訳には、と逡巡したところで先頭の男が叫んだ!

 「とりあえず息の根を止めて火山にでも放り込むか! 捕まえろ!」

 「ヒャッハー!」

 「血だ! 血をみせろぉ!」

 「ひい!? 仲間なのにこいつ怖い!?」


 「ぎゃあああああ!?」

 男達が一気に迫った所で、階段から男が降ってきた。奥の通路からゆらり、と顔の赤いマーチェス(パパ)とシャルロッテ(ママ)が現れた。

 「な、何だ!? おい、どうした!?」

 「あ、赤いパンツ……ガクッ……」

 
 謎の言葉を残し、気絶する男。階段の上からシャルロッテの不機嫌な声が聞こえてきた。

 「何? 強盗? それともいやらしい事でも狙ってたのかしら……? せっかく気持ちよく眠っていたのにドタドタドタドタ……」

 「うぃー……お、何だい……ナイフに斧……物騒なものを……」

 不機嫌なシャルロッテに引き換え、マーチェスは杖をついて歩くのがやっと、という感じで完全に酔っ払いだった。ぼやっとした目をしながら二人で階段を降り、男達は後ずさる。

 「へ、へへ……貴族様がお高くとまりやがって! 丸腰で俺達の前に出てくるたぁ殺してくれって言ってるものだぜ、女は殺すな? たっぷり調教してやる。いけ!」

 ウォォォ!

 総勢二十名は居るであろう男達が雄たけびを上げ襲いかかる。しかし次の瞬間、その喧騒はすべて悲鳴に変わる。

 ドゴン!

 「……え?」

 「誰が誰を調教するのかしら……?」

 ヒュン……! チン……

 「やれやれ、ひとを見かけで判断するからこうなる、ひっく……」

 一瞬、刹那、どうとってもらっても構わない。それくらいあっという間に一人は壁にめり込み、一人は髪の毛から下着まで斬り裂かれ文字通り丸裸になっていた。
 一人はシャルロッテの蹴りで。もう一人はマーチェスの杖に仕込まれた剣でやられた結果だった。蹴りを放った足の先には赤い下着が見えていた。

 「こ、こいつら……!? き、貴族じゃなかったのか!?」

 「貴族だけど? ひっく……ルーベイン領のマーチェスは私の事だよ、ひっく」

 マーチェスが名乗ると、顎に手を当てて男が考え込み、すぐに閃く。

 「ルーベイン……あ!?」

 「知っているのか?」

 「あ、ああ……まだ俺が若かった頃、『剣武豪宴祭』という大会に『武王:シャルロッテ』という無敵を誇った格闘家が居たんだ……その強さと美しさに惚れた当時のルーベインの領主の息子が惚れ、何度も何度も何度も結婚をかけて戦い、ついに一度だけ武王が負けた、という話がある……それ以降、武王を見たものは居ないとされている……」

 その言葉を聞き、男達の目は一斉にシャルロッテに向けられる。

 「ま、まさか……」

 「あらー、当時の私を知っている人がいるなんてね? 懐かしいわねパパ♪ 油断はしてなかったんだけどねえ、パパの気迫に押されちゃったわ」

 「ひっく……今でも最高の女だよママは……ひっく」

 ノロケを見てポカーンとしていたが、やがて我に返り、怒りを露わにして男が叫んだ。

 「び、びびるこたぁねぇ! 昔はどうだったかわからねぇが、今更ババアがそんなに強い訳がねぇ! おっさんも一回しか勝ったことがねぇんだろ? やっちまえ!」

 ピクっと眉を動かしたシャルロッテが、親父さんに向かって問う。

 「ちょっと暴れるけどいいかしら? 建物が壊れたらウチが責任を持って修理するから。ね♪」

 「……」

 親父さんはコクコクと笑顔のシャルロットに頷くと、机の下に隠れた。あの笑顔はマズイ。死んだ妻が怒った時がああだった、と目を瞑った。

 「参考人だから、殺しちゃいかんぞ? ひっく……」

 「一人残ればいいでしょ? ……キル・ゼム・オールよ」

 二人の殺気が宿全体を包み込んだ。


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 フィアに勘違いされたまま飛び立つクリス。

 さあ行けクリス、いざゆけクリス、お前の未来は……

 そして宿のゴロツキ達の運命やいかに

 次回『テンプレって怖い』

 ご期待ください。

 ※次回予告の内容とサブタイトルは変更になる可能性があります。  

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