SCP版 エンジェル・オーバードーズ

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暴走 2

 フェルナンドは辺りを見渡すと、バグダット空港の方角へと激走した。

『くそ! センサーでもついてるわけ?』

 人の多い場所へ。何かを感じ取っているのか勘なのか。どちらにしても彼を近づけさせるわけにはいかない。

 道の先では装甲車によって塞がれ大勢の兵士で待ちかまえていた。ここが最終防衛ラインだ。ここを抜ければ空港まで一直線、遮るものはない。

「ウヲオオオ!」

 フェルナンドは道路の真ん中を走り乗用車を退かしながら直進する。置き捨てられた車がフェルナンドの腕に払われ豪快に飛んでいく様は恐ろしい。

「撃てぇ!」

 フェルナンドを止めるため多国籍軍も攻撃を開始した。この怪物をこの先にいかせるわけにはいかない。

 世間が彼らを知るのはまだ早すぎる。なによりこいつは殺しすぎる。

 ここを死守するために、兵士たちは果敢に挑んでいった。

 そのころ守人はまだ公園で倒れていた。ひびの入ったヘルメットに傷だらけのエフェクトスーツ。守人の肉体にも多大なダメージがあった。

 だが事態はさらに深刻だ。このままでは大変なことになる。麗華は叫んだ。

『ファースト! フェルナンドがバグダット空港に向かってる。お願い、起きあがって! あいつを止めて!』

「…………」

『ファースト!』

 必死に呼びかけるが彼からの返事はない。まるで眠っているように、返事がない。

 沈黙していた。彼の負った怪我は重傷で、また目を覚ますのかさえ不確かだ。彼はもう、傷だらけだった。

 麗華ははじめ歯噛みしたが、しばらくして力を抜いた。顔は俯き、意識を失っている弟へぽつりとつぶやいた。

『ごめんね……』

「…………」

 それはここで言うにはあまりにも場違いな謝罪だった。けれど、だからこそ彼女の本音だったのかもしれない。

 今の彼には聞こえていない。だからだろうか、口は素直に心を代弁していく。

『君を巻き込んでしまった。それは、私にも責任がある。こんな場所に送り込んで、こんなにも傷つけて』

 彼は十分戦った。なのに自分はまだ戦わせようとしている。一緒に戦っているなんて口にしておいてなんてひどい様だろう。彼は、こんなにも苦しんでいるのに。

『ひどいよね。なんでこんなことになっているんだろうって、正直に言うと今でも分からないんだ。だってそうでしょう?』

 自分が情けなくて、みっともなくて、なにより悔しかった。

『君が、いったいなにをしたというの?』

 言っていて、声が震えているのが分かった。理不尽だと悔しくて、不甲斐なくて悔しかった。

『なんで、君が戦わないといけないの? なんで辛い思いをしないといけないの?』

 彼はなにも悪いことなどしていない。こんな目に遭う非などない。なのになぜ巻き込まれなければならない? 本当なら、今も普通に暮らしているはずなのに。

 感情は、いつしか涙に変わっていた。

『君はもう、人一倍辛い思いをしたよ。なら、これからは幸せになればいい。それでいいじゃない。なのに……なんで……』

 昔から、守人は不幸の真っ直中にいた。それは今も変わっていない。

 その理不尽さに、麗華は一粒の涙を流した。

 守人はどこか、暗い場所にいた。冷たくて体全体が固い壁に阻まれている。

 行く手を阻まれて立ち尽くす。そんな守人に、それは明瞭な声となって聞こえてきた。

「おまえのせいだ」

 心の底の底。深い暗がりから、それは聞こえてきた。

「お前のせいで」

 激しい怒りと憎しみをたぎらせ守人を睨みつけるように言われる言葉。自分を決して許しはしない、それは断罪の声だった。

(俺は)

 聞き覚えのある声で、何度も聞かされる声に守人は肩をすくめる気持ちだった。でも否定しようとはしない。むしろまたかと思ったくらいだ。

 自分はまだ、この声から逃げられないらしい。

(俺は、変わっていないのか? あの時と同じなのか?)

 変わろうと自分なりに努力はしてきたが、実際はどうだろう。今と昔で自分はなにが変わった?

 無力だったころとなにが違う? 

 今の自分は、彼女の死に値するのか?

(俺は、なんのために生きている? なんのために生まれてきたんだ?)

 自分のこれまではなんだった? 自分の人生は無意味だったのか? 自分を糾弾する声に空虚な思いが広がっていく。

「守人君はね、私にとって憧れの人なんだ」

 そんな時、彼女が話しかけてきた。不意に思い出された彼女の光景が脳裏に広がる。

「守人君、昔はもっと明るかったのに」

 こんな時でさえ、思い出されるのは彼女の顔だった。

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