異世界冒険EX

たぬきち

リッチ討伐

「あ、ユウトさん。パーティーへのお誘いと参加申請がたくさん来てますよ」

 フロリアの家に泊まった翌日。

 今日も今日とてギルドでのランク上げ、それから属性魔法の習得に励もうと向かったギルド。

 そのギルドの受付の女性は開口一番、俺にそう言った。

「まじですか」

「ええ、それもたくさんです」

 面倒臭そうにそう告げる受付の女性。

 フロリアの予想は当たっていたようだ。

 それはそれとして今日はギルドかどこかの宿に泊まりたい。

 疲れた。精神的に。特に夜は。

「えーと、とりあえず今ギルドにいる人から紹介しますね」

「ああ、よろしく」

 受付の女性は立ち上がると、テープル席に座っていた冒険者達に声を掛けていく。

 二人の少年少女と、四人の男女がこちらに向かい、歩いてくる。

「まずはFランク……というか、昨日冒険者になったばかりのアルフさんとエレナさん。ユウトさんとは同期ですね」

「よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします……」

 元気よく挨拶する栗色の髪の少年と、その陰に隠れている同じ色の髪をした少女……兄妹かな。多分。
 
「そして、こちらの四人がBランクパーティー、泥の涙の方々です」

「リーダーのサンだ。よろしく」

「え? Bランク?」

 ランクを上げたい下のランクの奴ならわかるけど、わざわざ上のランクから誘ってくる意味がわからない。

 人数が増えればポイントは人数で割られる訳だし。

「前衛職がいないとクリアできない依頼とかもあるからな。それに優秀な前衛は数か少ないからな、他のパーティーからも誘いがあると思うぜ」

「なるほど……」

 つまりこいつらは全員後衛って事か。……俺より筋肉あるのに。
 
 男二人と女性二人のパーティーのようだが、Bランクなだけあってどちらも良く鍛えられている。

「この場にいるのはこの二組だけですね」

「わかった。……メアリー、どうしようか?」

 受付の女性に返事をし、後ろのメアリーに尋ねる。

「そうですね……とりあえず能力を確認したい所ですし、全員で一つ依頼を受けてみましょうか」

「……気になってたんだけど、君は?」

 泥の涙のリーダー、サンがメアリーに尋ねる。

「私はメアリーと申します。フロリア様の命により、ユウトさんをサポートしています」

「フロリア様……そうか。そうだよな、勘違いか。何か見覚えがある気がしたんだけど」

「同じ街ですからね、それはそうでしょう」

「いや、もっと違う場所で……」

「とにかく、一番高ランクの依頼を受けれるのは泥の涙の方々なのでさっさとお願いします」

 ……サンのナンパは失敗したようだ。

 納得がいっていないのか、首を捻りながらも依頼の一つを手に取り、受付の女性に渡すサン。

 にしても、昨日冒険者になったばかりのアルフとエレナにはBランクは厳しいのではないだろうか。

 まぁ俺も昨日なったばかりだけれど。

「今回は討伐の依頼だ。北の戦場跡の荒れ地でリッチが目撃されているらしい。証明部位は奴の持つ指輪だ」

 流石にリーダーなだけあってサンは慣れた様子でスラスラと説明を始める。

 一般的なリッチの情報から、状況に応じた合図など、口を挟む必要も隙もない。

「えっとメアリーとアルフとエレナはどんな魔法が使えるんだ?」

 戦略を詰める段階で、サンは三人に尋ねる。

「私は今回は見学させて貰います。ですが、自分の身は自分で守れるので、気にせずどうぞ」

「僕は剣術と簡単な炎魔法です」

「……わ、私は闇と光の魔法を……」

 三人の答えを聞いたサンは少し顎に手を当て考える。

「とりあえず、アルフはユウトについてくれ」

「わかりました! ユウトさん、よろしくお願いします!」

「あ、うん。よろしく」

 サラリとこちらに押し付けて来たなぁ。まあいいけど。多分同い年位だし。

「エレナは俺達と、だ。だが、指示を出すまでは魔法は使わないでくれ」

「え、わ、わかりました……」

 一瞬だけアルフを見たエレナだったが、すぐに目線を下に向け、頷いた。

「油断せずにやれば大したことない敵だ。みんな、頑張ろう」

「おー!」

「うん」「了解」「わかった」

 なんとなく雰囲気で勢い良く手を上げた俺を置いて、サン以外の泥の涙の連中は軽く返事をし、ギルドから出て行く。

 なんてノリの悪い奴らだ。

「……頑張ろうな」

 サンは俺の肩をポンと軽く叩き、出口へと向かう。

「え、えーと……」

 アルフは困ったように出口と俺の間で視線を泳がせている。

「俺たちも行こうか」

「あ、はい!」

 俺もまたアルフと黙ったままのエレナとメアリーを連れて、ギルドから出ていった。

 こんなんで大丈夫なんだろうか。


◆◇◆ 


「……え、何あれは?」

「? さっき説明しただろ? リッチだ。姿は少し変だけどな」

 北の戦場跡の荒れ地に到着した俺達は、離れた地点にうつ伏せで隠れ、敵の様子を見ていた。

「死者を統率っては聞いてたけど、あんなレベルで統率出来るのかよ」

 リッチは演習か何かのつもりなのか、死者達を魚鱗の陣に変えたり、鶴翼の陣に変えたりしている。

 それも声を出すことなく。

 それにしてもリッチなだけあって、指輪だけじゃなく、杖やマント、それに王冠と中々お金持ちのようだ。姿自体はただの白骨体だが。

「それに数も多い」

「戦場跡だからな」

 死者の中には骨だけの奴もいれば、所々に肉のついた奴もいる。

 気持ち悪い。しかもそれが数百程度、ずらりと並んでいる。

「ギルドで説明した通り、まずは魔法で死者の集団を攻撃し、パニックになっている隙にユウトとアルフがリッチを攻撃」

「大丈夫か? アルフ」

「は、はい!」

 緊張しているのか、アルフの手はガタガタと震えている。

 ……まだ子供だもんなぁ。って俺もか。見た目だけは。

「いくらリッチでも攻撃を受けながら、死者達を指揮する事は難しいはずだ。残りの死者達を殲滅したら、俺たちも加わり、リッチを倒す」

 サンの戦略は聞いた限り、問題なさそうだ。

 リッチとやらは俺は知らないし、ここはベテランに任せよう。

「じゃあ三つ数えたら行こう」

 そう言うと同時に、泥の涙のパーティーはカードを生成し、俺も非殺傷ではない普通の刀を創造する。

「1、2、3!」

 サンの合図と同時に俺とアルフは飛び出し、泥の涙の面々による魔法爆撃が開始される。

「……!?」

 突然の攻撃に、表情はわからないが驚いた様子のリッチ。

 だが素早く反応し、攻撃の及ばない地点へと移動する。

 当然、死者達もその後を追う。おかげで、泥の涙の面々の魔法はほとんど当たっていない。

「死者のくせに結構速いな。……仕方ない」

「やる! やってやる!」

 俺の斜め後ろで、緊張した面持ちで叫ぶアルフ。

 そんなアルフと自分自身に、強化魔法を発動する。

「<<SPEED UP LV.2>>」

 脚力を強化し、ぐんぐんとリッチへと近づいていく。

 しかし、敵は既に陣形を整え、こちらを待ち構えている。

「ちっ。全然パニックになってないじゃん」

「は、速い!」

 慣れない速度にアルフが戸惑い、転びそうになっている。

 しかし何とか踏ん張り、俺の後についてくる。……いい子だなぁ。

「<<ストーム>>」

 自身を中央に置き、周囲を死者で囲ませているリッチの周囲に、荒れ狂う竜巻が巻き起こる。

 方円の陣なんて、魔法がある時点で意味ないっての。

「す、凄い! リッチが浮かされてる……」

「アルフ! 左に!」

「え? わ、わかりました!」

 アルフを左方向に走らせ、自身は更に速度を上げ正面に突っ込む。

「よいしょっと!」

 そして死者の集団を前に飛び上がり、リッチの首目掛けて、右から左へと刀を振る。

「……っ。そう簡単にはいかないか」

 しかしリッチは持っていた杖で俺の斬撃を防ぐ。

 見た感じ木製の杖の筈だが、俺の斬撃を防いだということはただの杖ではないのだろう。

 それに俺の速度についてきている……中々強敵のようだ。

「だけど! アルフ!」

 勢いそのままに、杖ごとリッチの体を左方向へと吹き飛ばす。

「任せてください! <<炎剣発動>>」

 待ち構えていたアルフが剣を手でなぞると、刀身が赤く染まりだす。

 なにあれかっけえ。っとそんなこと言ってる場合じゃないか。

「<<POWER UP LV.3 >>」

「っ!? く、喰らえ!」

 俺の強化魔法に一瞬だけ驚いた顔をしたアルフだったが、すぐに気を取り直し渾身の力を込めて炎を纏った剣をリッチに振り下ろす。

 足の筋肉から腕の筋肉まで、攻撃に使うあらゆる筋力の全てを底上げした一撃は、リッチをやすやすと真っ二つに切り裂いた。

「よし! 凄いじゃん! アルフ!」

「ユウトさんのアシストのおかげです!」

 自由落下しながらアルフに向かい、親指を立てると向こうも同じように立ててくる。

 この文化は一緒なのか。

「あとは……」

 統率するリッチを倒しても、死者の集団は消えていない。

 漫画のようにはいかないようだ。

 遠くから泥の涙の面々による攻撃魔法が続いているが、大規模な魔法は最初の一撃だけで、チマチマと数体程度を吹き飛ばすのが、せいぜいのようだ。

 Bランク使えないなぁ。

 いや、最初の一撃に対しリッチが素晴らしい反応を見せたせいだろうか。

「あ、ユウトさん! すぐその場から離れてください!」

「え?」

 アルフの声に思考を中断し、周囲の状況を把握する。

 上空に高密度の魔力を感じ、見上げると死者の集団の広がりと同じ大きさの魔法陣が浮かんでいた。

「か、風!」

 もはや魔法名の詠唱もせず、俺は風魔法で体を魔法陣の外へと吹き飛ばす。

 しかし、

「間に合わないか!」

 降り注ぐは光の剣。その一つ一つに高濃度の魔力が込められており、覚えたての属性魔法では歯が立たないだろう。

 ……やるしかないか。まさかこんなところで使う事になるなんて。

 光の剣が降り注ぐ轟音の中、手を上空に向け、異能を発動する。

「<<――――>>」

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