異世界冒険EX

たぬきち

はじめてのいらい

「ん……あれ?」

 目覚めると近くにフロリアの姿がない。

 代わりにいるのはメイド服の少女。

 ……金髪に青い瞳……メイド服はないな。どうせならもっとギャップを感じる巫女服とか、この位の年齢ならセーラー服とか……っと、そんな事考えてる場合じゃないか。

「……君は……?」

「私はフロリア様のメイドです。メアリーと呼んでください」

「……メアリー。状況の説明を頼んでいいかな?」

 立ち上がり、メアリーと言う金髪メイドに尋ねる。

「フロリア様は他にやることがあるようなので、お帰りになられています。元お仲間の三人も」

 ふむふむ。計画は立てているらしいからな。それを進めにいっているのだろう。

「私は悠斗さんの魔法の修行に付き合うよう言われています。加えて、冒険者のランク上げも手伝うようにと」

「……なるほど」

 ここからは別行動という訳か。アッチも気になるが、フロリアなら心配はいらないか。

 それよりもこの世界では魔法を使えないと話にならない。頑張らないとな。

「どちらを優先しますか? 魔法を先に覚えられるか、それともランク上げを……」

「うーん、とりあえず……お腹空いたかな」

「……では、まずはギルドの方で軽食を取りに行きましょう」

 少しだけ冷たい目をしてくるメアリー。だけれど、仕方ないじゃないか。

 こっちに来てまだ何も食べていないんだから。


◆◇◆


「美味い!」

「…………それは良かったですね」

 ギルド内の食堂でハンバーガー? を頬張る。

 メアリーからは更に冷たい視線を受けているが、仕方ない。

 頼んだあとでお金を一銭も持っていない事に気づいたのだ。

 まさか女性に奢ってもらうことになるとは、俺もちょっとショックだ。

 だが、このハンバーガー? の味はとても良い。

 謎の肉の汁が、挟まれた謎の野菜にマッチしていてとてもグッドだ。

 マヨネーズがあれば更にグッド。

 この世界には調味料とか無いのだろうか。

 味○素を持ってきたらバカ売れしそうだ……ってそうか。

「<<創造魔法>>」

 赤いキャップのマヨネーズをテープルの上に創造する。

「……何ですか? それ」

「ん? ああ……」

 どことなく言葉がキツくなってる気がするメアリー。

 彼女の視線は当然マヨネーズに向けられている。

「これはマヨネーズと言って調味料の一つだよ」

「調味料?」

「あー……えーと、食べてみるとわかるよ」

 そう言って彼女の食べていた謎の野菜スティックの一本にマヨネーズを乗せる。

「ちょっと……何するんですか」

「いや、ごめん。でも食べてみてよ」

 不機嫌な表情でこちらを睨むメアリー。

「……毒ではないですよね?」

「当たり前だろ?」

 そう答えるが、それでも動かないメアリー。

 仕方ない。

 ハンバーガー? の野菜の上にマヨネーズを乗せ、かぶりつく。

「美味い、美味い」

 これはモ○にも負けない味だ。下品だなんだと言われそうだが、かぶりついてこそハンバーガーは美味しいのだ。

「…………」

 それを見ていたメアリーは恐る恐る野菜スティックをかじる。

 マヨの付いた部分を。

「…………っ!?」

「美味い、だろ?」

 俺が美味いと感じるハンバーガーを出された時点で、味覚はこの世界も変わらないと確信できた。

 なら、マヨネーズが不味いと感じるはずがない。

「…………」

 案の定メアリーは目を見開くと、黙って俺の近くに置いていたマヨネーズを奪い、使っていく。

 一言ぐらいあってもいいと思うが、食べ物代はあっち持ちだ。何も言えない。

「……なるほど。とんでもない無能がやってきたかと思いましたが、誰でも一つは良いところがあるのですね」

「完全に遠慮がなくなってきたね」

 メアリーは謎の野菜スティックを追加で二つ頼み、その全てを食べ終わった所で口を開く。

 良く言えば打ち解けられたようだ。悪く言えば舐められているようだ。

「次はどうします?」

「んー……時間も無駄にしたくないし、依頼を受けて、そのついでに修行で良いんじゃない?」

「では、そうしますか」

 俺とメアリーはそう言って席から立ち上がり、受付へと向かう。

「あ、そういえばメアリーは冒険者登録してるの?」

「していません。不要ですし」

 メアリーの話によると、冒険者同士の場合パーティーという形になり、依頼達成で貰えるポイントが等分されてしまうらしい。

 確かにそれは俺にとってもマイナスだ。
 
「すみません、何かいい依頼は無いですか?」

「あ、ユウト? さん。生きていたんですね」

 受付の女性に話しかけると、何だか物騒な返事が返ってくる。

 その上、名前のあとに疑問符があった。いや、まあ覚えているだけマシなんだろうけれど。

「見に行っていたほとんどの方が、地獄だと言っていましたので……」

「ああ……」 

 あのフロリアの魔法か。確かにあれはもしも敵側だったら地獄だった。

「依頼、ですね? Fランクですと……」

 パラパラと書類をめくる受付の女性。パソコンがあれば楽だろうになぁ。

「この辺りですね」

 そう言って見せられた依頼書は全部で三枚。

「薬草の採取にゴブリンの討伐、他の街への配達か」

「配達はナシですね。時間もかかりますし」

「そうだな……。貰えるポイントは薬草が一キロ当たり百、ゴブリンも一体当たり百か……」

「ゴブリンの方が割は良いようですが……」

「うーん……っと、すみません。薬草の採取量に上限は無いのですか?」

 依頼書には上限の説明がない。一方でゴブリンの方は十体と制限されている。

「薬草はいつも不足しているので。この依頼の回復効果の高いエツメ草は特に」

 受付の女性の説明によると、不足しているのに依頼を受ける冒険者は少ないので、取れるだけ取ってきてもらうことにしているらしい。

 なら、決まりだな。

「薬草の採取でお願いします」

「わかりました。こちらに持ち込んで頂ければその場で依頼達成となります」

「わかりました。行ってきます」

 ギルドのボロい扉を開け、外へと出る。

 初依頼は薬草、まぁベタだけれどそれはそれでいいか。

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