異世界冒険EX
ギルドといえば
「すごいな……」
街に入るなり、思わずそう漏らしてしまった。
石畳の路地を走る馬車、軒下にぶら下がるアンティーク調の看板、木造のおしゃれな家が並ぶ住宅地。
まるで絵本の世界にでも入ったかのように見慣れないものばかりだ。
いや、海外であれば見ることもできたのかも知れないけれど、残念ながら海外旅行は行ったことないからなぁ。
テレビでチラッと見た位だ。ただ、見たのはこんな街じゃなくビルが建ち並ぶ、現代都市だったけれど。
道行く人達も武器を持ち、動きやすさを重視した服装の人が多く、戦闘が身近にあることを意識してしまう。
「着いたわ。……久々に来たけれどあまり変わってはいないようね……」
「うわあ……」
街に入って何度目かわからない言葉を漏らしてしまう。
だってまた、ギルドは石造りの二階建ての巨大な建物なんだもの。
それも純白としか言えないほど真っ白の石で作られていて、何というか教会と言われた方がしっくりと来る。
扉は何故かそこそこボロい木製のようで、そこはマジで謎なんだが。
「入るわよ」
フロリアは建物を見上げる俺を置いて、さっさと中へと入っていく。慌てて俺もその後を追い、扉を開け、中へと入る。
「うわあ……」
そしてまた同じセリフを漏らし、立ち止まる。
だって中に入ってもまたファンタジー一色なんだもの。
剣を背負った男性や杖を持った女性、何故か特に多いのが盾持ちだ。まあ、中には身軽さを取ってか、何も持ってない人も多い。
「……あ、美味しそう。食べ物はそんなに違いはないみたいだなぁ……」
冒険者達が座って談笑している場所は、飲み物と軽食が食べれるようになっているみたいだ。
冒険者の一人がおいしそうなサンドイッチを食べている。ちょっと食べたい。
他の冒険者も酒を飲み、つまみのようなものを食べながら騒いでいる。
酒場とギルドが一緒になってるのか。まあ、仲間集めといえば酒場だからね。都合が良さそう。
というか、よく考えたらまだ昼間だ。こんな時間から酒飲んでるなんて、ろくな冒険者達じゃなさそうだ。
「なにしてんのよ! 受付はこっち!」
ギルド内を見物していると、フロリアから呼び出しがかかった。
「まったく……」
慌ててフロリアの所へ向かうと、呆れたようにため息をつかれた。
「ごめん、ごめん。ちょっと珍しい物だらけでさ……」
「まあいいけれど、あまり時間を無駄にしないで貰えるかしら」
「こちらがユウトさんですか?」
目の前のテーブルの奥の女性が、座ったままそう言って、こちらを見上げている。
上目遣いはやめて欲しい。あまり可愛くもないし。この女性のようなクールな見た目なら、やっぱりジト目が……。
「そうよ。こいつの冒険者登録をお願いするわ」
「わかりました。では、ユウトさんこのカードに魔力を流してください」
「え、あ、はい」
何がなにやらわからないが、言われたままに魔力を流してみる。
どうせ逆らったところでなんにもならないし。
「出来ました。これで今日からあなたもFランク冒険者です」
「あ、はい。……何かあまり嬉しくはないですけど……」
Fランクて。何かこう……ね。いや、誰でも最初はそうなんだろうけど……。
「…………」
渡されたカードを見ると名前とランク、それからポイントとやらが刻まれている。
「このポイントって何ですか?」
「クエストや依頼などを受けて、達成すると貰えるものです。一定のポイントを溜めることでランクアップが可能となります。また、それ以外にもギルド加盟店での商品の購入にも使えます」
スラスラと答える受付の女性。どうやらこの質問はQ&A集に載っているようだ。
電話番号でも聞いてみようか。……いや、あるかわからないし、フロリアに殺されそうだ。やめておこう。
「ランクアップ、ですか……」
「はい。ユウトさんは今、Fランクなので受けられる依頼やクエストにも制限がかかってしまいます。また、一ヶ月後に開かれる大会に出場できるのもAランクからになります」
ああ。フロリアが言っていた勇闘会とかいうやつか。
そういえば俺も当然参加することになるんだよなぁ。
「……魔法の習得と平行して、さっさとAランクまで上がりなさい」
簡単に言ってくれるけれど、結構大変な気がするんだけど……。
期待されているのか、無茶振りされているのか……。
「ちなみにフロリアはランクはなんなの?」
「……Sランクよ」
「え? Sランクまであるの?」
確かに昨今のランクシステムは、もはやSだのZだのSSだの留まる事を知らないが、異世界でもそうなのか……。
俺の驚きをどう勘違いしたのか、受付の女性は淡々と言った。
「フロリア様は前大会の優勝パーティーの一人です。彼らは勇者パーティーへの挑戦権と共に、Sランクの称号が与えられます」
「え、凄いじゃん!」
「まあ、ね……」
思わず感嘆の声を上げたが、フロリアと、ついでに受付の女性は暗い表情をしている。
「え? どうしたの?」
「別になんでもないわ……」
何でも無いわけないと思うんだけれど……まあ重い話っぽいし、聞きたくないからスルーするか。
「ま、お前にとっちゃ思い出したくは無いよなあ?」
スルーすると決めたというのに、後ろから空気の読めない声が掛けられる。
その声に振り返ると一人の大きな体格の男が立っていた。
スキンヘッドだ。いいよなぁ、外人の顔は。ハゲでもカッコよくて。空気を読めないのは残念だけれど。
「優勝したはいいものの、その時点で全員カードはギリギリ。そんな状況で勇者パーティーとの戦いだ」
「黙りなさい。ゴード」
フロリアは振り返ることなく告げる。腹の底から冷えるような声だったが、空気の読めない男は続ける。
「他の仲間は始まってすぐ棄権した。お前ら一家も棄権しておけば、あんな目にあわずに済んだのになぁ……王族の誇りか何か知らねぇが」
「黙れって言ってるでしょ!」
フロリアの周囲にいくつものカードが生成される。えーと……十二枚か。
その十二枚のどれもが、並々ならぬ魔力を放っている。巻き込まれる前に逃げるべきだろうか。
いや、それこそ殺されてしまいそうだ。
「どんな気分だったんだ? 目の前で両親を殺された時は?」
「…………」
フロリアの指がカードへと向かう、その時。
「フロリア様、ギルド内での戦闘は禁止です」
ギルド職員の女性が冷静に制止する。
その声にピタリと指を止めたフロリアだが、こめかみには青筋が立っている。
……ていうか、そういう話は聞きたくなかった。マジでふざけんなよ。もう。
「……表に出なさい。ゴート」
「嫌だね。こっちは戦う理由なんてないし」
これだけ挑発しておいて、ふてぶてしく首を振るゴートとやら。この距離なら恐らく瞬殺出来るな……。
やってしまおうか……。そして、何食わぬ顔で、聞かなかったていでフロリアと魔法の習得に移ろう……。
よし……!
「あら? 負けるのが怖いのかしら?」
俺が刀を生み出し、斬りかかろうとした瞬間、さり気なくフロリアの手で制止されてしまう。
何か狙いがあるのか……?
「勝っても得しない以上、やる気が出ないだけだ」
「はいはい。欲しいのはコレでしょ?」
フロリアは呆れたようにため息をつくと、首にかけていたネックレスを外す。
それを見てゴートはにやりと嫌な笑みを浮かべている。
「察しがいいな。それを賭けるってんなら勝負してやらんことも無いが?」
「いいわよ。さっさと表に出なさい」
フロリアは乱暴にギルドの扉を開き、出て行く。
ゴードと、その大きな体の後ろに隠れていた三人も同じように出て行く。
ああ、いい扉をつけてもああやって乱暴に開けられるからボロいのをつけてるのか。
俺はとりあえずその場に残り、静まり返っていた酒場内を見渡す。
「おい! 今のSランクのフロリアと、Aランクのゴートだよな?」「ああ! どうやら戦うみたいだぜ!」「そりゃ面白いことになりそうだ! 見に行こうぜ! あ、お前らもどうだ!?」「もちろん行くぜぇ!」
ギルド内の冒険者の何人かが、フロリアたちの後を追った。
それに釣られるように一人、また一人と後を追っていく。
やれやれ……気付いていたらいいけど。
「……しょうがないなぁ」
受付の女性とお酒を持ったままのメイドさんを除いて、全員が後を追ったようだ。
あまり手伝う気も必要もない気がするけれど。一応、同じ女神の手下だからね。
「暇人共め……」
そう言いながらも当然俺も、二人を追うしかなかった。
街に入るなり、思わずそう漏らしてしまった。
石畳の路地を走る馬車、軒下にぶら下がるアンティーク調の看板、木造のおしゃれな家が並ぶ住宅地。
まるで絵本の世界にでも入ったかのように見慣れないものばかりだ。
いや、海外であれば見ることもできたのかも知れないけれど、残念ながら海外旅行は行ったことないからなぁ。
テレビでチラッと見た位だ。ただ、見たのはこんな街じゃなくビルが建ち並ぶ、現代都市だったけれど。
道行く人達も武器を持ち、動きやすさを重視した服装の人が多く、戦闘が身近にあることを意識してしまう。
「着いたわ。……久々に来たけれどあまり変わってはいないようね……」
「うわあ……」
街に入って何度目かわからない言葉を漏らしてしまう。
だってまた、ギルドは石造りの二階建ての巨大な建物なんだもの。
それも純白としか言えないほど真っ白の石で作られていて、何というか教会と言われた方がしっくりと来る。
扉は何故かそこそこボロい木製のようで、そこはマジで謎なんだが。
「入るわよ」
フロリアは建物を見上げる俺を置いて、さっさと中へと入っていく。慌てて俺もその後を追い、扉を開け、中へと入る。
「うわあ……」
そしてまた同じセリフを漏らし、立ち止まる。
だって中に入ってもまたファンタジー一色なんだもの。
剣を背負った男性や杖を持った女性、何故か特に多いのが盾持ちだ。まあ、中には身軽さを取ってか、何も持ってない人も多い。
「……あ、美味しそう。食べ物はそんなに違いはないみたいだなぁ……」
冒険者達が座って談笑している場所は、飲み物と軽食が食べれるようになっているみたいだ。
冒険者の一人がおいしそうなサンドイッチを食べている。ちょっと食べたい。
他の冒険者も酒を飲み、つまみのようなものを食べながら騒いでいる。
酒場とギルドが一緒になってるのか。まあ、仲間集めといえば酒場だからね。都合が良さそう。
というか、よく考えたらまだ昼間だ。こんな時間から酒飲んでるなんて、ろくな冒険者達じゃなさそうだ。
「なにしてんのよ! 受付はこっち!」
ギルド内を見物していると、フロリアから呼び出しがかかった。
「まったく……」
慌ててフロリアの所へ向かうと、呆れたようにため息をつかれた。
「ごめん、ごめん。ちょっと珍しい物だらけでさ……」
「まあいいけれど、あまり時間を無駄にしないで貰えるかしら」
「こちらがユウトさんですか?」
目の前のテーブルの奥の女性が、座ったままそう言って、こちらを見上げている。
上目遣いはやめて欲しい。あまり可愛くもないし。この女性のようなクールな見た目なら、やっぱりジト目が……。
「そうよ。こいつの冒険者登録をお願いするわ」
「わかりました。では、ユウトさんこのカードに魔力を流してください」
「え、あ、はい」
何がなにやらわからないが、言われたままに魔力を流してみる。
どうせ逆らったところでなんにもならないし。
「出来ました。これで今日からあなたもFランク冒険者です」
「あ、はい。……何かあまり嬉しくはないですけど……」
Fランクて。何かこう……ね。いや、誰でも最初はそうなんだろうけど……。
「…………」
渡されたカードを見ると名前とランク、それからポイントとやらが刻まれている。
「このポイントって何ですか?」
「クエストや依頼などを受けて、達成すると貰えるものです。一定のポイントを溜めることでランクアップが可能となります。また、それ以外にもギルド加盟店での商品の購入にも使えます」
スラスラと答える受付の女性。どうやらこの質問はQ&A集に載っているようだ。
電話番号でも聞いてみようか。……いや、あるかわからないし、フロリアに殺されそうだ。やめておこう。
「ランクアップ、ですか……」
「はい。ユウトさんは今、Fランクなので受けられる依頼やクエストにも制限がかかってしまいます。また、一ヶ月後に開かれる大会に出場できるのもAランクからになります」
ああ。フロリアが言っていた勇闘会とかいうやつか。
そういえば俺も当然参加することになるんだよなぁ。
「……魔法の習得と平行して、さっさとAランクまで上がりなさい」
簡単に言ってくれるけれど、結構大変な気がするんだけど……。
期待されているのか、無茶振りされているのか……。
「ちなみにフロリアはランクはなんなの?」
「……Sランクよ」
「え? Sランクまであるの?」
確かに昨今のランクシステムは、もはやSだのZだのSSだの留まる事を知らないが、異世界でもそうなのか……。
俺の驚きをどう勘違いしたのか、受付の女性は淡々と言った。
「フロリア様は前大会の優勝パーティーの一人です。彼らは勇者パーティーへの挑戦権と共に、Sランクの称号が与えられます」
「え、凄いじゃん!」
「まあ、ね……」
思わず感嘆の声を上げたが、フロリアと、ついでに受付の女性は暗い表情をしている。
「え? どうしたの?」
「別になんでもないわ……」
何でも無いわけないと思うんだけれど……まあ重い話っぽいし、聞きたくないからスルーするか。
「ま、お前にとっちゃ思い出したくは無いよなあ?」
スルーすると決めたというのに、後ろから空気の読めない声が掛けられる。
その声に振り返ると一人の大きな体格の男が立っていた。
スキンヘッドだ。いいよなぁ、外人の顔は。ハゲでもカッコよくて。空気を読めないのは残念だけれど。
「優勝したはいいものの、その時点で全員カードはギリギリ。そんな状況で勇者パーティーとの戦いだ」
「黙りなさい。ゴード」
フロリアは振り返ることなく告げる。腹の底から冷えるような声だったが、空気の読めない男は続ける。
「他の仲間は始まってすぐ棄権した。お前ら一家も棄権しておけば、あんな目にあわずに済んだのになぁ……王族の誇りか何か知らねぇが」
「黙れって言ってるでしょ!」
フロリアの周囲にいくつものカードが生成される。えーと……十二枚か。
その十二枚のどれもが、並々ならぬ魔力を放っている。巻き込まれる前に逃げるべきだろうか。
いや、それこそ殺されてしまいそうだ。
「どんな気分だったんだ? 目の前で両親を殺された時は?」
「…………」
フロリアの指がカードへと向かう、その時。
「フロリア様、ギルド内での戦闘は禁止です」
ギルド職員の女性が冷静に制止する。
その声にピタリと指を止めたフロリアだが、こめかみには青筋が立っている。
……ていうか、そういう話は聞きたくなかった。マジでふざけんなよ。もう。
「……表に出なさい。ゴート」
「嫌だね。こっちは戦う理由なんてないし」
これだけ挑発しておいて、ふてぶてしく首を振るゴートとやら。この距離なら恐らく瞬殺出来るな……。
やってしまおうか……。そして、何食わぬ顔で、聞かなかったていでフロリアと魔法の習得に移ろう……。
よし……!
「あら? 負けるのが怖いのかしら?」
俺が刀を生み出し、斬りかかろうとした瞬間、さり気なくフロリアの手で制止されてしまう。
何か狙いがあるのか……?
「勝っても得しない以上、やる気が出ないだけだ」
「はいはい。欲しいのはコレでしょ?」
フロリアは呆れたようにため息をつくと、首にかけていたネックレスを外す。
それを見てゴートはにやりと嫌な笑みを浮かべている。
「察しがいいな。それを賭けるってんなら勝負してやらんことも無いが?」
「いいわよ。さっさと表に出なさい」
フロリアは乱暴にギルドの扉を開き、出て行く。
ゴードと、その大きな体の後ろに隠れていた三人も同じように出て行く。
ああ、いい扉をつけてもああやって乱暴に開けられるからボロいのをつけてるのか。
俺はとりあえずその場に残り、静まり返っていた酒場内を見渡す。
「おい! 今のSランクのフロリアと、Aランクのゴートだよな?」「ああ! どうやら戦うみたいだぜ!」「そりゃ面白いことになりそうだ! 見に行こうぜ! あ、お前らもどうだ!?」「もちろん行くぜぇ!」
ギルド内の冒険者の何人かが、フロリアたちの後を追った。
それに釣られるように一人、また一人と後を追っていく。
やれやれ……気付いていたらいいけど。
「……しょうがないなぁ」
受付の女性とお酒を持ったままのメイドさんを除いて、全員が後を追ったようだ。
あまり手伝う気も必要もない気がするけれど。一応、同じ女神の手下だからね。
「暇人共め……」
そう言いながらも当然俺も、二人を追うしかなかった。
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