異世界冒険EX
悠斗と茜⑧
「あ、中島? 明日なんだけどさぁ……」
俺は帰宅後すぐに中島に電話をかけた。
実は中島と一緒に夏祭りに行く約束をしていたからだ。前日にドタキャンなんて申し訳ないけどね……。
「そうそう。明日の花火大会なんだけど……茜と二人で行こうと思うんだよ。だから、悪いけど一緒には……」
『……何となく予想してたから俺はいいけど……沙織ちゃんとか志保ちゃんとか由紀ちゃんは知ってるのか?』
「え?」
『お前、七月の祭りの時に約束してただろ。あと、香織ちゃんもか』
「…………」
やっべー。忘れてた……。あぶねー。
『……お前、いつか刺されても知らないぞ?』
「あー……ちょっと待っててね」
俺は一旦電話を切ると、今度は別の番号にかけなおす。
「……あ、夜分遅くにすみません。沙織さんのクラスメイトの神木悠斗と申します。沙織さんはご在宅でしょうか? ……あ、沙織ちゃん?」
『そうだけど……どしたの?』
「明日の花火大会なんだけどさ、ちょっと色々あってさー、行けなくなったんだよねー」
『……まじ? 悠斗に見せる為に、新しい浴衣買って貰ったんですけどー』
「えー、それは見たかったなぁ……。マジで残念だよ。あ、そうだ、学校に着てくれば?」
『それただの馬鹿じゃん』
「アハハ。でも、見たかったなぁ。本当。沙織ちゃん可愛いからなぁ、前の浴衣も綺麗だったけど、今度はもっと綺麗なんだろうなぁ。残念だよー。でさ、そんな訳だから志保ちゃんと香織ちゃんと由紀ちゃんにも伝えといて。本当ごめんって」
『……しょうがないなぁ。わかったよ』
「ありがとー! やっぱり沙織ちゃんは頼りになるよー! じゃあ本当ごめんね? また学校で」
これでよしっと。
沙織ちゃんは俺からじゃないと怒るだろうからね、他はそんなに気性荒くないから大丈夫だろう。
「明日だ。明日こそ俺は茜に……」
大丈夫だろうか……。保護者同伴はやっぱり不味いよなぁ。……仕方ない。念の為に中島に頼んでおくか。
◆◇◆
そして、翌日。
「おはようございます」
「おはよう。悠斗君」
茜の家に向かうと、お姉さんが出迎えてくれた。
茜はまだ寝ているようだ。
「早速、悠斗君の能力の事だけど……まず質問に答えて欲しいの」
「はい」
「茜と手を繋いでる時って、やけに疲れたりしない?」
「そうですね……ちょっと疲れてる気はします」
「ふむふむ。やっぱり、何らかの能力は発動してるみたいね。私もそうだもの。茜はまた別みたいだけれど」
なるほど……体力消費技なのか。ただ俺もそんなに疲れてる気はしないんだよなぁ。
ちょっと疲れたって位で。
お姉さんはサラサラとメモ帳に記入すると、また顔を上げる。
「悠斗君の能力は大雑把に分けて、回復系か、無効化系だと思うのよ」
「そうですね。俺もそう思います」
「だから、ね」
お姉さんはそう言うと小さな針を取り出した。
「……まさか、それで刺してみろと?」
「うん。お願い」
「いや、それはちょっと……」
針程度でもちょっと痛いし、怖い。お姉さんには悪いけどそこまでやるのは……。
「……お願い。それが終わったら美味しいケーキもあるから。あ、それに茜を起こしに行ってもいいわよ?」
「っ! やりましょう!」
あの美味しいチョコの件があることだし、きっとケーキも相当だろう。
……加えて、茜の部屋に突入出来る権利と寝顔を見る権利が手に入るならやらない訳にはいかない。
ていうかバレてたのね。そうなのね。ならもう隠す必要もない。
「…………」
俺は覚悟を決めて、人差し指を少しだけ刺してみる。
プクッと赤い球体が出来上がり、血が一筋流れる。
「じゃあ、悠斗君。治れって思ってみて」
「わかりました」
治れ……治れ……治れ。
一分程度、そう考えてみたが結果は……。
「……なるほど」
治らずそのままだ。
お姉さんはそれをメモする。
「じゃあ、今度は私の手を握って?」
「あ、はい」
何か照れるね。うん。大人だし、茜とはそこまで似てないけれどやっぱり美人さんだし。
「治れ」
お姉さんがそう呟いた瞬間、俺の人差し指から流れていた血が止まり、元の綺麗な人差し指の状態に戻った。
「無効化でもない……?」
お姉さんはまたノートに書くと、悩まし気な顔を浮かべる。
「と、なると考えにくいけれど……蘇生?」
「え?」
「つまり、死んでは生き返りを繰り返してるんじゃないかって……」
「それはいくらなんでも……」
「茜と手を繋いでる間に一瞬でも意識がなくなったとかないわよね?」
「ええ」
俺がそう答えるとお姉さんはまた、悩ましそうに頭を抱える。
「お姉ちゃーん……ごはん」
そこに茜が入ってくる。なんてこったい。嘘だろオイ。俺の高くなり過ぎたこの期待値をどうすればいいんた。
ん? またあのパジャマ姿か……。
よし。
〈〈カットしました〉〉
◆◇◆
「……はぁ」
アイギスの空間で茜が大きなため息をつく。いや、茜だけじゃなくおっさん以外の全員がこいつは……と言った目で見て来る。
「いや、ほら……その」
慌てて、言い訳の言葉を探すが何も思いつかない。
「……とにかく神木悠斗の能力がわかるところ何だから早く続きを」
「っ! そうそう! 早く続きを!」
「…………はぁ」
アッシュがいい事を言ったので、それに乗っかるが都会の風は冷たい。
「…………」
静かに俺の記憶の再生が再び始まった。
◆◇◆
「茜、悠斗君も来てるんだから着替えて来なさい」
「あ、そっかー」
茜は素直に着替えに行ったようだ。……残念ながら。
「そういえば、悠斗君は朝ごはんはもう食べた?」
「あ、はい」
お姉さんはいそいそと冷蔵庫から卵焼きと冷奴を取りだし、味噌汁を温めなおしている。
食べてみたい気はするが、色んな意味でお腹いっぱいである。
「じゃあ、ケーキだけ準備するわね」
そう言うとお姉さんは冷蔵庫から箱に入ったケーキを持ってくる。
「好きなの選んでね」
中にはショートケーキやチョコレートケーキ、モンブランにチーズケーキなど美味しそうなケーキが並んでいる。
三人で食べるには少しだけ量が多い気がするが、まあ女性は甘いものは別腹と言うし、大丈夫だろう。
◆◇◆
「おはよう、悠斗くん」
「おはよう、茜」
お姉さんがテーブルに朝食を並べた所で、茜も着替え終わったのか、リビングにやってくる。
  相変わらず白い手足が美しい。
「いただきまーす」
「いただきます」
俺はショートケーキを、準備して貰った受け皿に取り、フォークで口へと運ぶ。
「……あ、美味しい」
やはり美味い。きめ細やかなクリームがふわふわとしたスポンジと絡み合い、雪のような柔らかな食感を演出している。
更にイチゴの適度な酸味がまたいいアクセントとなっており、いくらでも食べられそうだ。
「あ、ボクもショートケーキ食べたかったな……」
「え?」
ふと横を見ると、茜が俺の受け皿に残された一口大のショートケーキを見ている。
「食べたかったなぁ……」
「どうぞ……」
獲物を狙うハンターの様な目で呟く茜に、俺は思わずケーキをフォークで突き刺し、献上する。
俗に言うあーんと言う奴だ。
「あー……いや、自分で食べるよ……」
一度口を開けた茜はお姉さんを見て、慌てて口を閉じると、照れたように俺からフォークを奪おうとする。
「…………」
あー、でも、俺もまだ食べたりないなぁ。もう一個あればなぁ……。
いや、せめてこれが食べる前の状態に戻ればなぁ……半分に分けれるのに。
「え?」
「あれ?」
「嘘……」
フォークで突き刺していたケーキがべチャリと音を立て、受け皿に落ちる。
そのケーキは食べる前の大きさに、いや、状態に戻っている。
クリームも、先に食べてしまった乗っていたイチゴも。
「あれれ?」
「……復元? それとも……」
お姉さんが考察を始める中、茜は無言で俺の受け皿に落ちたケーキを食べていた。
どうか俺の分も残しておいて欲しいが……諦めよう。
俺は帰宅後すぐに中島に電話をかけた。
実は中島と一緒に夏祭りに行く約束をしていたからだ。前日にドタキャンなんて申し訳ないけどね……。
「そうそう。明日の花火大会なんだけど……茜と二人で行こうと思うんだよ。だから、悪いけど一緒には……」
『……何となく予想してたから俺はいいけど……沙織ちゃんとか志保ちゃんとか由紀ちゃんは知ってるのか?』
「え?」
『お前、七月の祭りの時に約束してただろ。あと、香織ちゃんもか』
「…………」
やっべー。忘れてた……。あぶねー。
『……お前、いつか刺されても知らないぞ?』
「あー……ちょっと待っててね」
俺は一旦電話を切ると、今度は別の番号にかけなおす。
「……あ、夜分遅くにすみません。沙織さんのクラスメイトの神木悠斗と申します。沙織さんはご在宅でしょうか? ……あ、沙織ちゃん?」
『そうだけど……どしたの?』
「明日の花火大会なんだけどさ、ちょっと色々あってさー、行けなくなったんだよねー」
『……まじ? 悠斗に見せる為に、新しい浴衣買って貰ったんですけどー』
「えー、それは見たかったなぁ……。マジで残念だよ。あ、そうだ、学校に着てくれば?」
『それただの馬鹿じゃん』
「アハハ。でも、見たかったなぁ。本当。沙織ちゃん可愛いからなぁ、前の浴衣も綺麗だったけど、今度はもっと綺麗なんだろうなぁ。残念だよー。でさ、そんな訳だから志保ちゃんと香織ちゃんと由紀ちゃんにも伝えといて。本当ごめんって」
『……しょうがないなぁ。わかったよ』
「ありがとー! やっぱり沙織ちゃんは頼りになるよー! じゃあ本当ごめんね? また学校で」
これでよしっと。
沙織ちゃんは俺からじゃないと怒るだろうからね、他はそんなに気性荒くないから大丈夫だろう。
「明日だ。明日こそ俺は茜に……」
大丈夫だろうか……。保護者同伴はやっぱり不味いよなぁ。……仕方ない。念の為に中島に頼んでおくか。
◆◇◆
そして、翌日。
「おはようございます」
「おはよう。悠斗君」
茜の家に向かうと、お姉さんが出迎えてくれた。
茜はまだ寝ているようだ。
「早速、悠斗君の能力の事だけど……まず質問に答えて欲しいの」
「はい」
「茜と手を繋いでる時って、やけに疲れたりしない?」
「そうですね……ちょっと疲れてる気はします」
「ふむふむ。やっぱり、何らかの能力は発動してるみたいね。私もそうだもの。茜はまた別みたいだけれど」
なるほど……体力消費技なのか。ただ俺もそんなに疲れてる気はしないんだよなぁ。
ちょっと疲れたって位で。
お姉さんはサラサラとメモ帳に記入すると、また顔を上げる。
「悠斗君の能力は大雑把に分けて、回復系か、無効化系だと思うのよ」
「そうですね。俺もそう思います」
「だから、ね」
お姉さんはそう言うと小さな針を取り出した。
「……まさか、それで刺してみろと?」
「うん。お願い」
「いや、それはちょっと……」
針程度でもちょっと痛いし、怖い。お姉さんには悪いけどそこまでやるのは……。
「……お願い。それが終わったら美味しいケーキもあるから。あ、それに茜を起こしに行ってもいいわよ?」
「っ! やりましょう!」
あの美味しいチョコの件があることだし、きっとケーキも相当だろう。
……加えて、茜の部屋に突入出来る権利と寝顔を見る権利が手に入るならやらない訳にはいかない。
ていうかバレてたのね。そうなのね。ならもう隠す必要もない。
「…………」
俺は覚悟を決めて、人差し指を少しだけ刺してみる。
プクッと赤い球体が出来上がり、血が一筋流れる。
「じゃあ、悠斗君。治れって思ってみて」
「わかりました」
治れ……治れ……治れ。
一分程度、そう考えてみたが結果は……。
「……なるほど」
治らずそのままだ。
お姉さんはそれをメモする。
「じゃあ、今度は私の手を握って?」
「あ、はい」
何か照れるね。うん。大人だし、茜とはそこまで似てないけれどやっぱり美人さんだし。
「治れ」
お姉さんがそう呟いた瞬間、俺の人差し指から流れていた血が止まり、元の綺麗な人差し指の状態に戻った。
「無効化でもない……?」
お姉さんはまたノートに書くと、悩まし気な顔を浮かべる。
「と、なると考えにくいけれど……蘇生?」
「え?」
「つまり、死んでは生き返りを繰り返してるんじゃないかって……」
「それはいくらなんでも……」
「茜と手を繋いでる間に一瞬でも意識がなくなったとかないわよね?」
「ええ」
俺がそう答えるとお姉さんはまた、悩ましそうに頭を抱える。
「お姉ちゃーん……ごはん」
そこに茜が入ってくる。なんてこったい。嘘だろオイ。俺の高くなり過ぎたこの期待値をどうすればいいんた。
ん? またあのパジャマ姿か……。
よし。
〈〈カットしました〉〉
◆◇◆
「……はぁ」
アイギスの空間で茜が大きなため息をつく。いや、茜だけじゃなくおっさん以外の全員がこいつは……と言った目で見て来る。
「いや、ほら……その」
慌てて、言い訳の言葉を探すが何も思いつかない。
「……とにかく神木悠斗の能力がわかるところ何だから早く続きを」
「っ! そうそう! 早く続きを!」
「…………はぁ」
アッシュがいい事を言ったので、それに乗っかるが都会の風は冷たい。
「…………」
静かに俺の記憶の再生が再び始まった。
◆◇◆
「茜、悠斗君も来てるんだから着替えて来なさい」
「あ、そっかー」
茜は素直に着替えに行ったようだ。……残念ながら。
「そういえば、悠斗君は朝ごはんはもう食べた?」
「あ、はい」
お姉さんはいそいそと冷蔵庫から卵焼きと冷奴を取りだし、味噌汁を温めなおしている。
食べてみたい気はするが、色んな意味でお腹いっぱいである。
「じゃあ、ケーキだけ準備するわね」
そう言うとお姉さんは冷蔵庫から箱に入ったケーキを持ってくる。
「好きなの選んでね」
中にはショートケーキやチョコレートケーキ、モンブランにチーズケーキなど美味しそうなケーキが並んでいる。
三人で食べるには少しだけ量が多い気がするが、まあ女性は甘いものは別腹と言うし、大丈夫だろう。
◆◇◆
「おはよう、悠斗くん」
「おはよう、茜」
お姉さんがテーブルに朝食を並べた所で、茜も着替え終わったのか、リビングにやってくる。
  相変わらず白い手足が美しい。
「いただきまーす」
「いただきます」
俺はショートケーキを、準備して貰った受け皿に取り、フォークで口へと運ぶ。
「……あ、美味しい」
やはり美味い。きめ細やかなクリームがふわふわとしたスポンジと絡み合い、雪のような柔らかな食感を演出している。
更にイチゴの適度な酸味がまたいいアクセントとなっており、いくらでも食べられそうだ。
「あ、ボクもショートケーキ食べたかったな……」
「え?」
ふと横を見ると、茜が俺の受け皿に残された一口大のショートケーキを見ている。
「食べたかったなぁ……」
「どうぞ……」
獲物を狙うハンターの様な目で呟く茜に、俺は思わずケーキをフォークで突き刺し、献上する。
俗に言うあーんと言う奴だ。
「あー……いや、自分で食べるよ……」
一度口を開けた茜はお姉さんを見て、慌てて口を閉じると、照れたように俺からフォークを奪おうとする。
「…………」
あー、でも、俺もまだ食べたりないなぁ。もう一個あればなぁ……。
いや、せめてこれが食べる前の状態に戻ればなぁ……半分に分けれるのに。
「え?」
「あれ?」
「嘘……」
フォークで突き刺していたケーキがべチャリと音を立て、受け皿に落ちる。
そのケーキは食べる前の大きさに、いや、状態に戻っている。
クリームも、先に食べてしまった乗っていたイチゴも。
「あれれ?」
「……復元? それとも……」
お姉さんが考察を始める中、茜は無言で俺の受け皿に落ちたケーキを食べていた。
どうか俺の分も残しておいて欲しいが……諦めよう。
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