異世界冒険EX
悠斗と茜③
翌日、病院に行き検査してもらったが特に異常はなく、一応安静にしておくよう言われ、一安心といったところだ。
その帰り道、お母さんに茜の両親について聞いた。
どちらも、もうお亡くなりになっているらしい。
……色々と複雑なようだ。この話題は避けないと。
「ただいまー!」
「誰もいないけどね」
家に着いたのは十二時だった。
途中で買ったハンバーガーを食べながら俺は宿題、お母さんは掃除を始めた。
「とはいえ、間違ってたらまたやり直しだからなあ……。うーん」
二年の時、どうせ間に合わないなら……と思いテキトーに書いて提出したところ、後からやり直しをさせられた。ゆとり教育はどうした。って……もう終わったか。
にしても、あの先生、俺にだけ当たりが強かった気がするんだよなあ。
担任が変わってほっとしたよ。
まあ、今度は今度でヒステリックババアな訳だが。毎週一回は授業放棄だもんなあ。
みんな慣れすぎて、またかよって空気にしかならないのによくやるわ。面倒くさそうに学級委員が謝りに行くまでが定番イベントだもんなあ。
「神木ー! 野球……じゃなかった秘密基地行こうぜー!」
大きな声で秘密基地言うなよ。まったく。
てか早いわ。まだ三十分前だぞ。
「ちょっと待ってて! 今行くから!」
「わかったー!」
確かアイスがまだあったはず。ミル○ックとブラックモン○ランとトラキ○くんが。
俺は冷凍庫の中から、アイスを取り、玄関脇に立てかけておいたバットも持ち、外へと向かう。
当然、ボイスレコーダーも持っている。
「はい。これアイス。それとバット」
「お、ありがと。って……あれ? なんで神木が俺のバット持ってるんだ?」
「あー、昨日俺が返しとくからって、茜から預かったんだよ」
「茜? 誰だそれ?」
「お前からバット借りた子だよ」
「……あー、なるほど。借りたというよりはひったくりに近かったけど」
頭を掻きながら微妙な表情で、バットとアイスを受け取る中島。
「そりゃまたどんまい。で、今日その子も誘ってるんだけど」
「……いいけど、あんまり広めるなよ? あの秘密基地、上級生に見つかって取られるのは嫌だぞ? それでどこの子なんだ?」
「隣」
「へー。じゃあ、学校も同じになるのかな」
「たぶんな。クラスまではわからないけど。じゃあ、呼んでくる」
茜の家の呼び鈴を押すと、すぐに返事があり、茜のお姉さんが出てきた。
茜も成長したらこうなるのか……。イイね。
「あ、こんにちわ。茜ちゃんはいますか?」
「いるわよ。ちょっと待っててね。茜ー! 悠斗君よ!」
……。
…………。
………………。
返事が無いまま数秒経過し、気まずい空気が流れる。
「……おはよー。悠斗くん。お姉ちゃん」
沈黙に耐えきれず、何か言おうとしたところで、二階からのそのそとパジャマ姿の茜が降りてきた。
今まで寝ていたのか、髪はふわふわと綿毛の様に跳ねている。可愛いけれど、もう昼過ぎてるんだよなぁ。
「あ、うん。おはよう」
「茜。もうお昼よ」
「……えー……うそー」
「あ、アイスあるけど……」
手に持ったアイスを見せると、ジッと細目で見てくる茜。
「……ちょっと待ってて……。顔を洗って、歯も磨いてくるから……」
そして、またのそのそとおそらく洗面台に姿を消した茜。
「ごめんねー。あ、アイス大丈夫? 溶けない? 冷凍庫に入れとく?」
「あ。お願いします」
お姉さんにアイスを渡し、ふと家の中を見ると女性二人しかいないからなのか、何だか可愛らしいものが多い。
やっぱりうちとは違うなあ。それに、なんだかいい匂いがする。
「……アイス」
「冷凍庫」
「……ありがと」
「茜、中島待たせてるからさ、なるはやでよろしく」
「……じゃあ行く。行ってきます」
冷凍庫からアイスを取り出した茜はそのまま俺のところへ向かう。
何か食べてからの方がいいんじゃ……っとその前にパジャマじゃん。
……めちゃくちゃダボダボだし、グレーの無地って渋すぎるだろ。
「………」
まあ、そんなことよりかがんでくれないかなあ……なんか落としてみるか? よし。
「あ! 小銭が……!」
あれだけダボダボなら見えるは
<<カットを行いました>>
◆◇◆
「悠斗くん、ちょっとお話しが」
俺の記憶を見ていた茜が立ち上がる。
その顔には穏やかな笑みが浮かんでいるが、その場にいる全員に寒気が走った。
「茜、落ち着こう。今は続きを見ないと……あ、はい、ごめんなさい。そうです。あの時、小銭を落としたのはわざとです。はい」
説得が不可能と判断した俺は、慌てて茜に向けて綺麗に土下座する。
嫌な汗が流れる。
そんな俺に茜が近づき、肩に手を乗せ、口を開く。
「……悠斗くんの気持ちはわかるよ。悠斗くんだって男の子だもんね。そういうエッチなことに興味があるのはしょうがないと思うよ? でもね、ボクも悠斗くんもまだまだ子どもなんだからさ……」
それから地球時間で一時間が経過した。周囲も口を挟めぬまま、ただ茜の説教が続く。
「……大体手段が良くないよ、悠斗くん。そんなに見たいんだったら見せてって素直に言えばいいじゃな――」
ここだ!
「見せて!」
「いやちょっ……今は……それに……」
「見せてよ!」
「わ、わかったよ……あ、あとでね」
「っ! や、約束!」
いよっし! 思わず満面の笑みだ。ガッツポーズまでしてしまった。
逆に隙を突かれた茜は顔を真っ赤にして俯いている。
ぐふふ。後でもっと真っ赤になるだろう。俺も茜も。
「楽しみだなぁ! 早く地球に帰りたいぜよ!」
思わずよく知らない偉人の声真似をしてしまう。まあその役をしていた歌手の人だけど。
「……うぅ……どーしよ……」
俺は悩む茜の髪を弄りながら、再び記憶の再生を始めた。
◆◇◆
「待ちなさい、茜。服だけでも着替えてからにしなさい」
お姉さんが茜の服の裾を掴み、二階を指差す。
俺だけならいいけれど、中島もいるしなぁ。というか、ヤバイ。顔に熱が集まり過ぎてる。
まあ……いいか。俺、子供だし。お姉さんも気づいても何も思わないでしょ。
「あ、山に行くから動きやすい格好がいいと思うよ」
「……わかったー」
適当に茜に声を掛けると、のそのそとまた上に上がっていく茜。朝弱いのかな。
「ごめんね。何だか疲れが溜まってたみたいで……」
「いえいえ。本来の約束は一時でしたし、中島のヤツが早く来すぎたのが一番悪いですよ」
「いつもならちゃんと起きてるんだけどね……」
「……着替えたよ」
お姉さんと何気ない話をしていると、のそのそと階段を降りてくる茜。
……Tシャツにショートパンツか。……アリだな。夏らしいし。今は真っ白な茜の手足が、焼けた所も見てみたい。
「じゃあ行こうか」
「……うん。行ってきます」
さりげなく手を出してみると、少しだけ躊躇ったあと掴んできた。思ったよりも力強く。
よし。嫌われてはいない。むしろ好かれてるか? まあ焦らず行こう。うん。
「あ、ちょっと待って、悠斗君。帰ってくる時は一度ここに戻って来て欲しいの。ちょっと話したいことがあるから」
「え? あ、わかりました」
何だろう……。何だか真剣な表情だったし、気になるな。
しかし、中島をこれ以上待たせるのも悪いしな。俺はそう考え、茜と二人で外に出る。
「中島。お隣の森羅茜ちゃん」
「……よろしく」
「ああ、よろし……」
ん?
中島が固まって動かない。なんだこいつ?
「どうした中島?」
「いや、また早くも手を出したのかと思って……知らないぞ、俺は」
中島の目は俺と茜の繋がれた手に向かっている。
「とりあえずよろしく。俺は中島弘」
中島は手を差し出すが、茜は少し困った顔で俺と中島を交互に見る。
「…………」
何かを察した様子の中島が手を引っ込めると、茜はおずおずと口を開く。
「えーと……ヒロムくん? ちょっと珍しい名前だよ、ね?」
「まあね」
中島はよく言われると、苦笑する。でも逆に覚えやすいからいいと思うけれど俺は。
「それじゃ、茜。着いて来て」
「……うん」
さあ、行こう。男のロマンの秘密基地へ。
その帰り道、お母さんに茜の両親について聞いた。
どちらも、もうお亡くなりになっているらしい。
……色々と複雑なようだ。この話題は避けないと。
「ただいまー!」
「誰もいないけどね」
家に着いたのは十二時だった。
途中で買ったハンバーガーを食べながら俺は宿題、お母さんは掃除を始めた。
「とはいえ、間違ってたらまたやり直しだからなあ……。うーん」
二年の時、どうせ間に合わないなら……と思いテキトーに書いて提出したところ、後からやり直しをさせられた。ゆとり教育はどうした。って……もう終わったか。
にしても、あの先生、俺にだけ当たりが強かった気がするんだよなあ。
担任が変わってほっとしたよ。
まあ、今度は今度でヒステリックババアな訳だが。毎週一回は授業放棄だもんなあ。
みんな慣れすぎて、またかよって空気にしかならないのによくやるわ。面倒くさそうに学級委員が謝りに行くまでが定番イベントだもんなあ。
「神木ー! 野球……じゃなかった秘密基地行こうぜー!」
大きな声で秘密基地言うなよ。まったく。
てか早いわ。まだ三十分前だぞ。
「ちょっと待ってて! 今行くから!」
「わかったー!」
確かアイスがまだあったはず。ミル○ックとブラックモン○ランとトラキ○くんが。
俺は冷凍庫の中から、アイスを取り、玄関脇に立てかけておいたバットも持ち、外へと向かう。
当然、ボイスレコーダーも持っている。
「はい。これアイス。それとバット」
「お、ありがと。って……あれ? なんで神木が俺のバット持ってるんだ?」
「あー、昨日俺が返しとくからって、茜から預かったんだよ」
「茜? 誰だそれ?」
「お前からバット借りた子だよ」
「……あー、なるほど。借りたというよりはひったくりに近かったけど」
頭を掻きながら微妙な表情で、バットとアイスを受け取る中島。
「そりゃまたどんまい。で、今日その子も誘ってるんだけど」
「……いいけど、あんまり広めるなよ? あの秘密基地、上級生に見つかって取られるのは嫌だぞ? それでどこの子なんだ?」
「隣」
「へー。じゃあ、学校も同じになるのかな」
「たぶんな。クラスまではわからないけど。じゃあ、呼んでくる」
茜の家の呼び鈴を押すと、すぐに返事があり、茜のお姉さんが出てきた。
茜も成長したらこうなるのか……。イイね。
「あ、こんにちわ。茜ちゃんはいますか?」
「いるわよ。ちょっと待っててね。茜ー! 悠斗君よ!」
……。
…………。
………………。
返事が無いまま数秒経過し、気まずい空気が流れる。
「……おはよー。悠斗くん。お姉ちゃん」
沈黙に耐えきれず、何か言おうとしたところで、二階からのそのそとパジャマ姿の茜が降りてきた。
今まで寝ていたのか、髪はふわふわと綿毛の様に跳ねている。可愛いけれど、もう昼過ぎてるんだよなぁ。
「あ、うん。おはよう」
「茜。もうお昼よ」
「……えー……うそー」
「あ、アイスあるけど……」
手に持ったアイスを見せると、ジッと細目で見てくる茜。
「……ちょっと待ってて……。顔を洗って、歯も磨いてくるから……」
そして、またのそのそとおそらく洗面台に姿を消した茜。
「ごめんねー。あ、アイス大丈夫? 溶けない? 冷凍庫に入れとく?」
「あ。お願いします」
お姉さんにアイスを渡し、ふと家の中を見ると女性二人しかいないからなのか、何だか可愛らしいものが多い。
やっぱりうちとは違うなあ。それに、なんだかいい匂いがする。
「……アイス」
「冷凍庫」
「……ありがと」
「茜、中島待たせてるからさ、なるはやでよろしく」
「……じゃあ行く。行ってきます」
冷凍庫からアイスを取り出した茜はそのまま俺のところへ向かう。
何か食べてからの方がいいんじゃ……っとその前にパジャマじゃん。
……めちゃくちゃダボダボだし、グレーの無地って渋すぎるだろ。
「………」
まあ、そんなことよりかがんでくれないかなあ……なんか落としてみるか? よし。
「あ! 小銭が……!」
あれだけダボダボなら見えるは
<<カットを行いました>>
◆◇◆
「悠斗くん、ちょっとお話しが」
俺の記憶を見ていた茜が立ち上がる。
その顔には穏やかな笑みが浮かんでいるが、その場にいる全員に寒気が走った。
「茜、落ち着こう。今は続きを見ないと……あ、はい、ごめんなさい。そうです。あの時、小銭を落としたのはわざとです。はい」
説得が不可能と判断した俺は、慌てて茜に向けて綺麗に土下座する。
嫌な汗が流れる。
そんな俺に茜が近づき、肩に手を乗せ、口を開く。
「……悠斗くんの気持ちはわかるよ。悠斗くんだって男の子だもんね。そういうエッチなことに興味があるのはしょうがないと思うよ? でもね、ボクも悠斗くんもまだまだ子どもなんだからさ……」
それから地球時間で一時間が経過した。周囲も口を挟めぬまま、ただ茜の説教が続く。
「……大体手段が良くないよ、悠斗くん。そんなに見たいんだったら見せてって素直に言えばいいじゃな――」
ここだ!
「見せて!」
「いやちょっ……今は……それに……」
「見せてよ!」
「わ、わかったよ……あ、あとでね」
「っ! や、約束!」
いよっし! 思わず満面の笑みだ。ガッツポーズまでしてしまった。
逆に隙を突かれた茜は顔を真っ赤にして俯いている。
ぐふふ。後でもっと真っ赤になるだろう。俺も茜も。
「楽しみだなぁ! 早く地球に帰りたいぜよ!」
思わずよく知らない偉人の声真似をしてしまう。まあその役をしていた歌手の人だけど。
「……うぅ……どーしよ……」
俺は悩む茜の髪を弄りながら、再び記憶の再生を始めた。
◆◇◆
「待ちなさい、茜。服だけでも着替えてからにしなさい」
お姉さんが茜の服の裾を掴み、二階を指差す。
俺だけならいいけれど、中島もいるしなぁ。というか、ヤバイ。顔に熱が集まり過ぎてる。
まあ……いいか。俺、子供だし。お姉さんも気づいても何も思わないでしょ。
「あ、山に行くから動きやすい格好がいいと思うよ」
「……わかったー」
適当に茜に声を掛けると、のそのそとまた上に上がっていく茜。朝弱いのかな。
「ごめんね。何だか疲れが溜まってたみたいで……」
「いえいえ。本来の約束は一時でしたし、中島のヤツが早く来すぎたのが一番悪いですよ」
「いつもならちゃんと起きてるんだけどね……」
「……着替えたよ」
お姉さんと何気ない話をしていると、のそのそと階段を降りてくる茜。
……Tシャツにショートパンツか。……アリだな。夏らしいし。今は真っ白な茜の手足が、焼けた所も見てみたい。
「じゃあ行こうか」
「……うん。行ってきます」
さりげなく手を出してみると、少しだけ躊躇ったあと掴んできた。思ったよりも力強く。
よし。嫌われてはいない。むしろ好かれてるか? まあ焦らず行こう。うん。
「あ、ちょっと待って、悠斗君。帰ってくる時は一度ここに戻って来て欲しいの。ちょっと話したいことがあるから」
「え? あ、わかりました」
何だろう……。何だか真剣な表情だったし、気になるな。
しかし、中島をこれ以上待たせるのも悪いしな。俺はそう考え、茜と二人で外に出る。
「中島。お隣の森羅茜ちゃん」
「……よろしく」
「ああ、よろし……」
ん?
中島が固まって動かない。なんだこいつ?
「どうした中島?」
「いや、また早くも手を出したのかと思って……知らないぞ、俺は」
中島の目は俺と茜の繋がれた手に向かっている。
「とりあえずよろしく。俺は中島弘」
中島は手を差し出すが、茜は少し困った顔で俺と中島を交互に見る。
「…………」
何かを察した様子の中島が手を引っ込めると、茜はおずおずと口を開く。
「えーと……ヒロムくん? ちょっと珍しい名前だよ、ね?」
「まあね」
中島はよく言われると、苦笑する。でも逆に覚えやすいからいいと思うけれど俺は。
「それじゃ、茜。着いて来て」
「……うん」
さあ、行こう。男のロマンの秘密基地へ。
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