異世界冒険EX

たぬきち

マーカー



 ドルゲの手下共は元々、ドルゲの前の頭の手下だった。

 その時の非道を俺は許すつもりはない。本人の口から面白話として聞かされてはなおさらね。

 その上、ドルゲによって前の頭が殺されてからも、手下の一部が町へと向かい、町に入ってきた旅人を襲っている。

 今は金品を奪うだけだからマシと言えばマシだが……それにも理由がある。

 署長の存在だ。

 誰も能力や姿を正確に覚えていない事から記憶操作系の能力と推測できる。

 そしてその署長が、見逃す代わりにそうさせているのだ。

 署長の狙いは戦力の吸収。襲われたところを警察の者に助けさせ、警察署へ連れて行く。

 もしも、盗賊共が返り討ちにあった場合もそいつを警察の一員に加え、戦力の増加を図る。

 どちらにしても警察署に連れて行かれたが最後、記憶を消されるか、洗脳されるかみたいだな。

(アイギス、他の世界の人間を一人戻したんだし、手下共も二十人位は居ただろ? ちゃんとその分の容量はこっちで確保できてるんだよな?)

(んー……一応その分の空きはこっち側に引っ張れたけど、それでも制限かけて一人ぐらいしか送れないかなー)

(そうか。なら……いや、駄目だな。限界だ。茜成分が足りない。地球に戻してくれ)

(悠斗? まだ一人目だよ? ていうか、茜成分って何?)

(わからないのか? 俺が生きる上で必要な主要成分の1つだぞ? アイギスが一日の内に二回も呼び出すから足りなくなったんだ。デスゲームの世界か何か知らないけど、世界創造とかいうチート中のチートをあんな奴に与えやがって……めっちゃ苦労したわ)

(残りの成分が気になるんだけど……ていうかあんな固有魔法があるなんて私も知らなかったし? お陰でそこの女神からチート魔法貰えたんだからいいじゃん? ていうか地球に戻るのはまだ駄目でしょ。まだ一人目だよ?)

(大丈夫だって。余裕、余裕。まあ確定未来の制限さえ解除出来れば、だけど)

(あー……そういうことか。ドルゲの固有魔法を使うんだね?)

(そそ。てな訳で俺が戻ってる間に確定未来の制限が解除出来るか計算しててくれよ)

(仕方無いなぁ。じゃあ、三十秒だけね)

 アイギスからの通信が途切れると共に、俺の体から光が溢れる。アイギスが言うには別に光に意味は無いらしい。

 ふざけてる。

 相変わらずの眩しさだが今度は耐えてみる。

 が、急に視界が暗転し、次に見えた景色はアイギスに呼び出される前の住宅街、そして、隣に茜がいる幸せな景色に戻っていた。

「茜!」

「なにー?」

 振り向いた茜を抱き締め、俺は茜成分を補充する。

 あー幸せだ。あんな殺伐とした世界、本当に行きたくないよ。

「うわっ!? な、なに? 事案!? 事案発生なの!?」

 混乱して訳のわからない事を叫ぶ茜だが、しっかりと俺の背中に腕を回してくれている。

「やっぱり幸せだよ。俺は」

 そう言うと同時に、視界が暗転し、糞みたいな景色に変わる。

 具体的に言うと崩れた洞窟と森。

「絶望って言葉がぴったりだな」

 躁鬱になりそうだわ。何だっけ高低差激しすぎて耳がなんちゃららって奴だね。

 ま、確定未来が使えるようになればすぐ解決だ。頑張るしかあるまい。

(悪いニュースと更に悪いニュースがある。どっちから聞きたい?)

(……良いニュースかな)

 アイギスの声が暗い、これは面倒な予感がする。

(そんなものはない。しいて言うなら、さっき食べていたパンを落としたんだが、チョコを塗った方がカーペットにつかなかった位だ)

(めちゃくちゃどうでもいいな。悪いニュースは?)

(……空いてた容量使われちった)

(……まじで?)

 そんな……こんな一瞬で……馬鹿な。

(だから、私言ったじゃん。そしてしかも呼び出されたのは悠斗のクラスメイトです! デデーン!)

(……えー)

 マジか……本当に面倒な事になってきたな。最悪だ。もう帰りたい。とりあえず、そのクラスメイトとやらをどうにかしとかないと……って待てよ。

「ん……? 良く考えたら茜以外ならどうでもいいな。署長の方を探してみよう」

 クラスメイトと言われても殆ど顔すら覚えていない。なら、優先すべきは自分の事だ。

 異世界人を元の世界に戻し、女神の確保。ここまでやれば任務完了だろ。

 お仕事終了である。うん。あとはクラスメイトが残ってようと知ったことではない。

(アイギス、ケイトの方を見てくれ)

(りょーかい。そうなると、しばらくは私と話せないけど寂しくて泣くんじゃないぞ)

(はいはい。今にも泣きそうだよ。嬉しくてな)

 ケイトにはすでにアイギスのマーカーが付いている。そこからケイトの方を探って貰う。

 俺だけ働くのは割に合わないからな。パンを食べてる暇があるのなら手伝ってもらわないと。

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