異世界冒険EX

たぬきち

非日常

「よく来ましたね、勇者悠斗」

「そういうのいいです」

 目の前には銀髪の美しい女性が立っている。背中には白い翼が生えており、見るからに天使か女神といった姿をしている。
 
 そう。この女性こそが、地球の創造主にして各異世界の女神を束ねる女神長アイギスだ。

 まあ、簡単に言えばエリアマネージャーといった所だな。

「ノリが悪いでやんすね」

「どんなキャラだよ」

「手下キャラなのじゃ!」

「わかったから口調統一しろよ」

「悠斗、お前はどんなキャラが好きなんだ?」

「どれでもいい」

「ボクは悠斗くんが好きだな……なんて」

「……殺すぞ」

 アイギスがわざとらしくぶりっ子しながら、茜の口調を真似た瞬間、手に刀を召喚する。

 俺が持つ神器の一つ、概念刀、破断の太刀。

 切断の概念が刀となった俺の切り札の一つだ。

 どんな防具、武器、肉体でもこの刀の前では切断されてしまう。

「じ、冗談だって。この位で怒るなんて器が小さいぞ☆」

「…………」

 震えながら媚びた笑顔のアイギスを見て、昂ぶった心が少し落ち着いてくる。

 ……確かにちょっと口調を真似られただけで怒るのも大人気ないな。
 
 まあ、アイギスの方が圧倒的に年上の筈だけれど。

「ついでに身長とチン長も小さいぞ☆」

「よろしい。戦争だ」

 その言葉と同時にアイギスの背後へと転移する。

 俺が持つ二つ目の神器、瞬神の靴。その能力は相手の背後に一瞬で回り込むというものだ。

 相手の背後にしか移動出来なくなるが、常に相手の背後を取れる為、単体同士での戦いでも非常に効果的である。
 
 決してネタ装備ではないのだ。残像は残せないしな。

 アイギスに反応はない。気づいていないはずがないが……とりあえず破断の太刀を振り下ろす。狙いは羽だ。

 さすがに美人の体を切断するほど鬼ではない。まあ、翼も相当だが。

 防御不可能の斬撃。更に瞬神の靴で常に回り込む為、回避も不可能。

 だが、俺はここでアイギスに勝てるとは考えていない。だけれども一撃は入った。

 そう思った。

「っ!?」

 アイギスの翼の羽一つ一つが、謎の光の玉へと変化していく。

 その光は振り下ろした俺の腕に当たると、小規模の爆発を起こした。

「ぐっ……!?」

 振り下ろした右腕がはじけ飛び、破断の太刀が音を立てて地面へと転がる。

「ちっ……」

「昔みたいに叫んでもいいんだぞよ?」

 アイギスがふざけた口調で、挑発してくる。だぞよってなんだよ。

 ……背後への攻撃を予想していなかった訳ではないけれど、防げなかった。

 魔力無効。魔力による攻撃も、防御も、起こる事象全てを無効化する魔法。

 俺はこれを使っていた。

 だが、今回の攻撃は……いや、爆発は、魔力を伴っていないただの化学反応だった。

 俺の体を破壊できるほどの威力を羽一つ一つに閉じ込めるのは通常では不可能。

 だがその不可能を可能にする。その為に魔法が使われていた。

 外装である光の玉を見て俺は魔法による攻撃だと判断してしまった。

 結果、無効化された外装が消え、爆発が起きてしまった。

 そして避けようにも瞬神の靴の効果で動けない。

 ……やっぱりネタ装備かもしれない……。

 慌てて瞬神の靴を戻し逃げたが、右手は駄目だった。

「悠斗殿は強い。だが、拙者はもっと強い!」

「誰だよ……」

「悠斗さんが本気を出したなら……いえ、それでもこの場所では負ける気がしません」

「……わかったから。そろそろ本題に入ろう」

 ふざけたアイギスに付き合っている時間はない。早く終わらせて茜の所に戻らないと。

 茜の事を思えば、不思議と怒りも収まってくる。

「……そうだな。遊びはこれくらいにしておくか」

「…………」

 遊びで俺の右腕は吹き飛ばされたのか。

 理不尽なアイギスにもう何百回目かの憤りを覚えながらも、とりあえず話を聞くことにした。

 この空間では勝てるわけもないし。

「私が目を掛けていた女神のニルギリからの連絡が途絶えた。そして、そのニルギリが担当していた世界に他の世界からの転移者が多い」

「…………?」

 それが何か不味いのか? 
 
 と、疑問を浮かべた俺にアイギスはため息をつく。

 しょうがないだろ。俺はあまり頭が良くないのだ。

「昔、説明した筈だけど、各世界には決められた容量がある」

「…………」

「人を増やし過ぎたり、能力が高くなり過ぎたりしてしまうと、世界の容量を越えてしまい、世界が壊れる」

「…………」

 あー、何か思い出してきたかも。修行中にそんな説明受けたような……気もする。

「そして、一つの世界が壊れると中のエネルギーが他の世界へ向かい、連鎖的に世界が崩壊していく可能性があるのだ」

「……聞いたことがあるようなないような」

「あるんだよ。基本的には魔王や魔族、魔物といった敵性存在を生み出してバランスを取っているが、稀に特殊過ぎる存在が生まれたりするんだ」

「ふむふむ……」

 俺が頷くと、アイギスは顔を顰める。その表情からは、ふむふむじゃねーよ、言ったはずだぞ、といった言葉が読み取れる。

 ……いや、もう少しで思い出せそうなんだけど。

「……そういった存在は多くの容量を使う。その代わり私達の目的に大きく貢献する事もあるんだけれど、逆に邪魔となる場合も多い」

「その邪魔な奴を排除するのが俺達、女神の手駒だったな。うん。そういえば、そんな感じだった」

 再び頷く俺をアイギスが呆れたような目で見る。
 
「そうだよ。で、今回の話なんだが、ニルギリの管理してた世界は比較的容量が大きく、余裕のある世界だった。だが、他の世界からの転移者が増え、今現在容量ギリギリの状況だ」

「…………」

「そこで、悠斗にはその転移者を元の世界に戻すか、始末して来てくれ。出来れば原因の究明も頼みたいが……」

「んー、人数がいるのはちょっとキツいな。何人処理すればいい?」

「二十人だな。まあ、あくまで大体の目安だがな。同じ転移者でも使う容量が違うからな」

「ちなみにそのニルギリ? の方はどうするんだ? 連絡が取れないんだろ?」

「とりあえず私の方で調べておこう。だが、転移者が増えていたのは結構前からだ。一応、ニルギリからはちょっとした実験と聞いていたんだが……」

 あー、なんだか厄介なことになりそうだなあ。

 連絡がつかないということは単純に裏切ったか、連絡が取れない状況下にあるか、だ。

 どちらにしても、女神クラスの相手がいる可能性が高い。

 うーん……。

「これって断れる?」

「……チート、アイテム、ステータス補正の没収」

 ……ちょっと残念だけれど死ぬよりは……いや……どうしようかな。

「それに各異世界に彼女作ってるの茜ちゃんにバラす」

「いや、彼女じゃないって。仲間だって」

「茜ちゃんもそう思ってくれるといいね」

「ぐ…………」

 ちゃんと話せばわかってくれるとは思うが……。

 しょうが……ないか。

「あと、悠斗の筆下ろしをし「やります! やらせてください!」

 気の迷いだったんだ。本当に。俺が愛してるのは茜。これは本当の本当なんだ。

 あれは若さゆえの過ちといいますか……。
 
 だってアイギス見た目はめちゃくちゃ好みなんだよ。そのアイギスと修行として何十年も一緒に居たら……そりゃ。

 一生の不覚。

 流石に茜も許してはくれない可能性がある。となれば俺に待っているのはデッドでバッドなエンド……。

「悠斗……いつからそんなケダモノになったんだ? 時間が無いというのに。変態だなあ」

「そういう意味じゃない!」

 いそいそと服を脱ぎ始めるアイギスの腕を掴み、止める。

 同じ過ちを繰り返すつもりは無い。既に下着姿になっているアイギスはそれを気にも留めず続ける。

「冗談はともかく、今回は結構きついと思うよ。だから、戻すか始末するかして容量が空いたら仲間を呼ぶことをお勧めするよ」

「いいのか? それじゃいつまでも容量ギリギリで危ないんじゃないか?」

「まあ、それはそうだね。だからそこは私のほうで選定して、調整してから送り出すよ。君の自慢のハーレムからね」

「……調整?」

 ハーレムじゃない、と言いたいところだが、実際女の子ばかりな以上、反論しにくい。

 それに、これ以上話が脱線するのはなるべく避けたい。

「ああ。悠斗もだけど、具体的に言うとステータス及びスキル及びアイテムの調整だね。補正値はなるべくそのままにするけど、容量が足りなかったらそこもいじるかも知れない。全体的に下げないと悠斗一人でも私が追加する容量じゃ足りないから」

「うげえ……」

 マジか……敵は厄介な上にステータスとかも下げていかないといけないのか。

 これは死ぬかもしれんね。

「なるべく通常のスキルは残すけど、チート系は軒並みレベル下げるよ。まあ、今度の世界で貰える固有魔法の容量は空けとくからそれに期待して」

 というか、空けておかないと追加された固有魔法で世界崩壊なんだけどね、と笑うアイギス。

「やっぱり選べないのか?」

 俺にとって残念な事に手に入る固有魔法はランダムだ。使えるものもあれば、使えないものもある。

「基本的に各世界の基礎となる部分は、私も変えられないからね。追加で容量を付け足したり、空いた所に押し込むぐらいは出来るけど、各世界で貰える魔法に関しては、私たち女神には全く弄れない」

「……わかった。じゃあ、腕の修復と向かう世界の基本的な情報、異世界者をここに送る為のアイテムを頼む。あとこの前頼んだこともよろしく」

「……わかった。可能性は低いけど上に話してみるよ。アイテムはいつもの指輪に入れとくから、向こうで取り出して。転移結晶ってやつね。それじゃ、気をつけて」

 アイギスが俺に手を向けると俺の体から光が溢れ出す。
 
 やっぱりちょっと気持ち悪い。六回目とはいえまだ慣れない。光の余りの眩しさに思わず目を閉じる。

 瞼の奥から感じていた光がなくなったのに気づき、目を開く。

 目を開いた先に見えたのはただひたすらに鬱蒼と生い茂った木。

 つまりは森の中だった。

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