魂送りの神様

野間屋心乙

第1話 あめのひに①

 僕の津々楽朝陽つづらあさひの……休日の朝は遅い。

 昼近くまで惰眠を貪ること、それは僕の小さな幸せだった。

「津々楽さーん、回覧板でーす」

 そんな至福の一時も玄関から聞こえる一声で壊されてしまった。

「んー……」

 寝返りをうちほんの少し、「幻聴」という可能性にかけてみる。

「津々楽さーん! すみませーん」

 やっぱり諦めて、郵便受けに入れて帰ってはくれないのか。

「はーい! 今行きまーす!」

 そう返事をして、僕は布団をはね除けタッタッと廊下を走った。

「あら! おはよう。朝陽ちゃん」

「おはようございます、渡邉わたなべのおばさん」

「あらあら、すごい寝癖ねぇ」

 片手で口許を隠し彼女はクスクスと上品に笑った。

「これ、回覧板。ラグビー部の全国大会の支援金袋もも一緒だから次の人には手渡しでね」


「はい」
 
 だから回覧板をおいて帰ってくれなかったのか。納得した。

 僕は頷いて回覧板を受け取った。

「強いわね、ラグビー部は」

「そうですね。うちの高校は強いみたいですね」

 他のラグビー部を知らないから他に答えようがない。

「ああ、いけない!!」

 突然の彼女の大声に僕の肩は大きく跳ねた。彼女は口許を抑え、目を見開いたまま固まっている。

「どうされました?」

 僕は首を傾げながら尋ねた。

「味噌汁を火にかけっぱなしだったわ!! じゃ、朝陽ちゃん朝御飯はしっかりね」

 彼女は小走りで帰って行った。

 味噌汁が焦げたり、溢れていないことを祈っておこう。
 
 彼女を見送りながらもう一眠りしようかとも思ったけれど、すっかり目が覚めてしまっていたので朝御飯を食べることにした。


 そうだ、たまには贅沢をすることにしよう。

 喫茶店『ミケネコ』のモーニングセット。

 行けば運気が上がると町ではパワースポット的な場所として知られている。

 これも良い機会かもしれない。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

こんがりと焼かれたバタートースト。

 ベーコンとスクランブルエッグ。

 トマトとレタスのサラダ。

 梨のコンポート。

 豆から挽いたブラックコーヒー。

 それらの良い臭いが僕の鼻腔をくすぐる。

「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」

 女の声がそう尋ねてきた。

 僕はその時初めて彼女の姿をみた。

「……三毛猫」

 思わず僕は呟いた。

 彼女の髪が白、茶、黒の三色だったのだ。そんな髪がポニーテールでまとめられている。瞳の色も明るいイエローをしていた。そんな異様な髪色も瞳も彼女によく似合っていた。

「確かにうちの店名は『ミケネコ』ですけど……?」

 彼女は首を傾げながら答えた。

「いや、あなたが三毛猫みたいだなと……」

 僕がそう答えると、彼女は驚いた顔をした後にっこりと微笑んだ。

「わかるんですね、お客様」

 一体何がわかるんだろう。いかに、猫が可愛いかについてとかだろうか。

「どうぞ今日はゆっくりとしていってください。コーヒーのお代わりは自由ですよ」

 彼女はペコリと頭を下げると、自分の業務に戻って行った。

「いただきます」

 僕は彼女を見送ると合掌してからトーストを口に運んだ。



 

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