デスゲームは異世界で

鳥もち

1章 8話 マリア、頑張る

 
「ん、マリアちゃん、そこから少し離れた方がええ。
 …何か…くる」
「え?」
 マザーツリーの根元までくる間、透明になり
    無言だった大賢者様が突然現れた。
 かと思うと、いつになく真剣な口調だった。

(いつもの大賢者様と違う?・・だけど)
 マリアは一瞬戸惑いながらも、言いつけ通りその場
    から数歩後退する。

 小さな光がマザーツリーの根元に現れ始め、数えら
    れない程の数になると、一箇所に向け全ての光が
    一斉に動き出し、やがて、一つの大きな光源と
    なって強く発光した。

「きゃ!?」
 突然の事に、マリアは目を閉じ体を強張らせる。

 すると、マリアの脳裏に、不意にぼやけた映像が
    流れ始める。
 そこには、はっきりと見えないが、どこか見覚えの
    ある男の人が映し出されていた。
 確かにあの人だ。
 そう、マリアは強く感じた。

{「君も、君のお母さんも、悪魔なんかじゃない。
 ごくごく普通の、人間だ」}
 映し出された男は、マリアに向け優しく微笑む。

(ま!待って!!)
 マリアは、男に向け手を必死に伸ばし掴もうと
    するが、その男は次第に遠ざかっていき、
 遂には見えなくなった。

(あなたは・・どこに、どこにいるんですか!?
 私は!!・・まだ・・・)
 掴もうとした手を力なく下ろし、マリアはその場に
 項垂れ目を閉じた。
 そして、薄っすらと目を開けるとーーー

 マリアの視線の先に、マザーツリーの根元に
 寄りかかり、眠るように座るエルフが居た。
 ここに住まうエルフ達と同じ、薄黄色の髪に、
 髪から少し出た尖った耳。
 エルフであるのは間違いないのだが、
    着ている服が、
 今までこの異世界で見た服装とは違った。

 血が付着しボロボロな所を除き、
 昔、あの人に見せてもらった写真に写る
 男の子が着ていた服にそっくりであった。

(この・・人は・・)

 マリアはゆっくりと目を閉じ、そして、

「マリアちゃん、こいつは間違いなくプレイヤーや。
 幸い、意識は無いらしいな。ここは安全とはいえ、
 マリアちゃんにはまだ早い。無視して関わらん
 ほうがえ…んな!?」

 マリアの左目が、金色に輝いた。

「ど、どないしたん!?マリアちゃん!そないに
 こいつが気になるんか?」

「うん…大賢者様……白金…白金色!!?
 ユー…ト…さん?」
 私は、彼の纏う色を見て思わず叫んでしまった。
 あの人と、同じ色。
 そして、大賢者様を見た時にも見えた名前の欄
    には、ユート、と表示されていた。

 マリアはこの異世界にきて、この眼がステータスも
 見れるようになったのだと思いつつ、それよりも、
 彼の纏った色が気になって仕方なかった。

(白金色・・あの世界ではあれ以来一人として同じ
 色の人はいなかった・・
 もしかしたら・・)

 別世界に飛ばされても、忘れる事は一度も無かった。
 だから、名前も、年齢も、性別も種族も、
    そして服装も全く変えずこの地に降りたった。
 もしかしたら、また会えるかもしれない。
 もし会っても、すぐに私とわかるように。

 数%の確率でも、0.001%の確率でも、
 きっといつか・・
 マリアは改めて思う。

「だから、私は諦めない…」
 小さく、それでいて力強く呟いた。

「ん?マリアちゃん?」
 大賢者はマリアを見て首を傾げる。

「大賢者様…私…彼を、助けます!」

「な、なんやて?いや、しかしどうやって…」

「この眼を…使います…」

「…そう…か。わかった。わしも出来る限り協力したる」
 珍しいマリアの気迫に押され、大賢者は疑問を
 飲み込みマリアに追随する。

「ありがとう…ございます」
 マリアは小さく頷くと、その場を後にする。

 レストオブマナを行き交う人々は、そのほとんどが
 エルフだ。
 金色の眼で道行くエルフ達を凝視するマリア。
 しかし、目ぼしい色を纏う人が中々現れない。
(できれば、白か・・橙色・・)

 人と関わる事が苦手なマリアだが、この目だけは
 無条件で信じる事ができる。
 あの人を助けるには、信頼できる人物の助けが必要
 不可欠だ。
 そして、そんな人物に心当たりがないマリアは、
 この目を使い続ける以外、選択肢が無かった。

「つぅ…」
 久々に使う能力。そして長時間能力を発動し

    続けているマリアは、その場に膝を立て、金色に
    光る左目からの痛みを必死に堪える。
 前にも同じ様な事があった。
 母様が病気になった時、信頼できる医者を探した時だ。

 私は、人に誇れるものなんてなに一つない。
 けれど、諦めの悪さだけは中々だと思う。

「マリアちゃん…」
 今にも泣きそうな顔でマリアを見守る大賢者様。

(大賢者様、心配してくれてありがとう)
「大…丈夫…です。ここには…居ない…みたいです…。
 あちらに行きましょう…」
 マリアは辿々しく立ち上がると、トボトボと
 歩き始める。

 一歩、一歩と歩を進めるマリア。
 その間にも行き交う人々を見るが、
 目ぼしい人物はいなかった。

 痛みが段々と酷くなってくる。
 それでも能力を行使し続けたマリアは、
 限界がきたのか、遂には、その場に静かに倒れ込んだ。

「そ…んな…」

「!? マリアちゃん!気をしっかり持つんや!
 マリアちゃん!!マリアちゃ  --- し - --- や  」

 大賢者様が叫んでいる。
 段々と聞こえていた声が薄れていく。

 私は・・

「…ん?おや」
 満足に見る事ができない視界で、
 マリアは、橙色を纏う恰幅のいい
    人族の女性に気づく。

「あ…の、どう…か。あの人を…助け…」
 女性に向け伸ばした手は、マリアの意識が
    途絶えると共に、地面に力なく落ちた。

「マリアちゃん…。この人がそうなんやな!
 後は、わしに任せときや!」

 それからーー

 大賢者の姿を見て、一瞬戸惑いながらも、
 話を聞いて快く頷いた女性は、
 マザーツリーの根元から、自身が営む宿屋へと
 運び込む。

 未だ目を開けない悠斗は、空いている部屋の
    ベッドで
 寝かされた。
 別の部屋のベッドで目を覚ましたマリアは、

    女将さんに
 話しを聞くと、何度も何度も感謝し、
そして悠斗の眠る
 部屋へ向かった。

 静かに眠る悠斗を確認し終えると、
 安心したのか、そこでそのまま眠ってしまった。

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