デスゲームは異世界で

鳥もち

1章 7話 宿屋兼飲食店 アロマンド

 

「ふぁー」
 悠斗は、大きな欠伸をし、
    寝ぼけ眼を擦りながら周りを見る。
 幸せそうな寝言を呟きながら寝ていた
    マリアは居らず、辺りはすっかり明るく
    なっている。

 とりあえず起きるか。
 ベッドから出た悠斗は、
    壁に立て掛けてあった狩人の弓と
    矢筒を手に取り、装着しようとした所で
    気づく。

「あれ・・なんか民族衣装みたいなの
    着てる・・」
 昨日は暗かったし気づかなかったが、
 緑を基調とし、所々白の刺繍がしてある。
 生地は首から膝まであり、上半身を覆う形。
 現実世界であった、ポンチョに近い感じだ。
 着心地はすごくいい。

 いつ着替えたんだろう・・。
 悠斗は不思議に思いながらも
 答えが出るはずも無く、
 仕方なく装備を装着し部屋をでる。

 部屋を出たところで、下へ降りる
    階段があった。
 ここはどうやら2階のようだ。
 そして、階段の下からは話声が聞こえる。

 階段を降り終えると、そこには
    エルフであろう人達がイスに座り、
    テーブルに置いてある料理を食べながら
    談笑しているようだった。

「お、嬢ちゃん、どうやら起きてきた
    ようだよ」
 女性の声がした方向を向くと、
    カウンターの反対にある厨房で、
    料理をしながらこちらを見る少し恰幅のいい
    女性と、カウンターにあるイスに
 ちょこんと座るマリアの姿があった。


「ど・・どうも・・」
 ぎこちない声色で挨拶をし、
    マリアに会釈をする悠斗。

「あ・・は・・はい。こん・・にちは・・」
 イスから降りたマリアは、両足を揃え
 小さく会釈をする。

 ・・・・・
 気まずい・・。

「あっはっはっは!なんだい?
 結婚したての夫婦かい?」
 カウンターに肘をつけ、笑いながら
    こちらをみる恰幅のいい女性。

 結婚!?夫婦!?
 顔が熱い。
 チラりとマリアをみると、
    顔を真っ赤にしながら俯いていた。

「女将さん、それはありえへん。
 ぜーーーったいにありえへん」
 ボンっと奇妙な音がしたと思ったら、
 突如大賢者が現れ、ナイナイと
    小さな腕を振る。

「おぉ?大ちゃんいたのか。そうかい?
 私にはお似合いにみえるがねぇ・・」

「おかみさーん!3番テーブル塩焼き2つ、
 おねがいしまーす!」
 メモ帖を片手に、小さな手を上げ
    催促する少女。
 ぱっちりとした大きな黒い瞳に、
    黒を基調とした服。
 その服の前には、白のエプロンを着けた
 給仕服のようなもを着ている。
 茶色の小さなツインテールが揺れていた。

「あいよ!リルハ。残念だね。もうちょっと
 見ていたかったけど・・。
 ほら、兄さんも嬢ちゃんも突っ立ってない
   で座りな。
 リルハ、案内しておやり」

「はーい!お兄さん、ささ、ここへどーぞ」
 言われるまま、リルハが引いたカウンターの
 イスに座る悠斗。
 悠斗が座ったのを見て、マリアも
    元居たイスに座る。

 隣に座ったマリアを見ようと
 顔を向けた悠斗の目の前には、
 いつの間にきたのか、白い小竜が
    浮いていた。

「・・・なんや?」

「・・ナンデモアリマセン」
 すっごい睨まれた。

「あはは。大ちゃんがこんな不機嫌なの
 初めてみたー!
 お兄さんもきたことだし、マリアお姉ちゃん
    もお兄さんも朝ご飯食べる?」
 悠斗が座ったのを確認したリルハは、悠斗の
 左側に居たマリアへ近寄り尋ねる。

「あ・・はい・・お願いします」

「あ、ああ」

 ぎこちなくマリアと悠斗は返事をする。

「了解♪ おかみさーん!カウンター朝食2つ
 おねがいしまーす!
 それじゃ、ごゆっくりー!」
 リルハは楽しそうに言いながら厨房へ
    催促をすると、悠斗達に会釈をし
    テーブル席の方へ向かっていった。

「あいよー」
 厨房の奥から女将さんの声が聞こえた。


「あんなー。お前さんが起きてくるまで、
 マリアちゃんは朝食たべん言うてな。
 ぐーぐー鳴るお腹に耐えながら我慢しとった
    んやで?健気やろお?感謝せえよ?」
 悠斗をじろりと見ながら大賢者は言う。

「ちょ!?大賢者様?私・・お腹なんて!
   ・・うぅ」
 修道服のお腹の部分を抑え涙目に
    なりながら、マリアは大賢者に必死に
    弁明する。

 そうだったんだ・・。マリアに申し訳ない。
 にしても今朝の大賢者は
    ぐいぐいくるな・・。

「ごめん・・あの・・マリア。それと、
 色々とありがとう。
 あと、この服も用意してくれたのかな」
 悠斗は立ち上がると、マリアに向け深々と
 お辞儀をする。そして直ると、
 腕を広げたり閉じたりして服の説明を
    求める。

「あ・・いえ。その・・ここへは、
 女将さんが悠斗・・さんを運んで
 下さったんですけど・・あまりにも・・
 その・・服がボロボロだったので・・
 丁度居なくなった息子の服があるからって
 女将さんが・・その・・」
 またイスから降り、悠斗の方を見て俯き、
 両手をモジモジさせながらマリアは
    説明する。

 なるほど。ほんと色々な人に助けてもらって
 ばかりだな。

「はいよー。朝食2つお待ちー。って、
 また2人して突っ立ってんのかい。」

 厨房からでてきた女将さんは、
 湯気がでる朝食が乗ったお皿2つを
 カウンターに置くと、悠斗とマリアを見て
 呆れた顔をした。

「あ、女将さん。この服といい、
 色々とありがとうございました」
 でてきた女将さんに気づいた悠斗は、
 深々とお辞儀をした。

「なんだい?どうせ戻って来やしない
 息子の服だし、いいってものよ。
 それに、頑張ってたのは嬢ちゃんだしねぇ。
 そうさね…

 ここは、レストオブマナでも
 随一の宿屋兼飲食店’アロマンド’。
 なに、これを覚えてまた利用してくれれば、
 私は満足さ。事情はよく分からないけど、
 とりあえずこれでも食べて
    ゆっくりしておいで。」

 屈託のない笑顔を浮かべた女将さんは、
 そのまま厨房へと戻って行った。

「ええ人やわー」

「だな」

「そうですね」

 大賢者、悠斗は腕を組み、マリアは
 膝に両手を置き頷く。

「折角ですし・・その・・温かいうちに朝食
 ・・食べませんか?」
 小さな両手を重ね、自分の顔に
    近づけながら、悠斗に尋ねるマリア。

「「そうだね」そうやな」

「「ん?」あん?」
 見事にハモった悠斗と大賢者は、
    顔を見合わせる。

「ふっ、ふふ」
 マリアは2人をみながら微笑む。
 窓から差し込める陽の光を浴び、
    紺色の修道帽から垂れる金色の髪は
    輝いていた。

     (///)

「天使やん・・」
 悠斗は少し顔が赤くなり、大賢者は
    満足げだ。


 ーーーーーーーー


「んま、んま、・・んく、ごくん。んで?
 なんでマリアちゃんは俺みたいなどあほを
 助けてくれたのかって?」
 朝食の卵焼きを、マリアに食べさせられ
    ながら話す大賢者。
 大賢者は、俺がさっき聞いた質問を
    改悪しながら復唱した。

「ど、どあほって・・うん。まあそう・・」
 この小竜め・・。
 ちらりとマリアを見ると、大賢者に
    餌付けするのが楽しいのか、満面の笑みだ。

「それはちょっとここではなー。
    わしも詳しくは聞いてないしな。
 その質問は、・・後で部屋戻ってからに
    しよか」

「ふふ・・・あ!はい・・そう・・ですね」
 大賢者の視線に気づいたマリアは、
 どこか悲しい表情をした。

「ほな、そろそろわしの効果時間も
 少なくなってきたことやし、すこぶる機嫌の
 いい今のわしになら、あーん・・
 んぐ。もぐ。・・時間の続く限り何でも
    質問してええで・・んま」
 再び餌付けを再開するマリア。
 話を割ってまでやっているわけではなく、
 大賢者は大きく口を開けマリアに
    催促しているのだ。

 ふむ、これだけこの場に溶け込んでいて
 忘れていたが、大賢者はユニークスキルだ。
 ずっと出現できるわけではないのだろう。
 ここは色々聞けるチャンスだ。
 もう、助けてもらってばかりは嫌だ。

「それじゃ聞くが、ここに居れば安全って
    いうのは、どういう事だ?」
 昨夜大賢者が言っていたこと。どうして
    安全なのか確かめる必要がある。

「じー・・」
 なんだろう・・。大賢者が俺を・・いや、
 俺の目の前にある朝食を凝視している・・。

 まさか・・。

「・・・。情報量・・というやつか・・?」

「お?物分かりのいい子は好きやで?
    アリアちゃん、その皿こっちに移したって」

「え・・でも・・」
 困惑するマリア。

「いーんやいーんや。世の中はモノと金。
 情報にはそれ相応の対価を・・やなあ?」
 ニヤつく大賢者が悠斗を見る。

 クソッ。大事に取っておいた美味しそうな
 ベーコンとポテトが!
 俺はしぶしぶマリアに頷く。
 マリアはそれを見て小さく頷くと、
 申し訳なさそうに俺の皿を移動させた。

 いや・・しかし、これで大賢者から情報を
 聞けるなら安いものか。

「んぐ。ベーコンんまぁ!・・んで、
 どうして安全か。か。前提として、
 この世界にはな、君たちプレイヤーが
 無茶苦茶できんように、見えないルールが
    あるんや。

 その一つに、町などではプレイヤー同士は
 殺し合いをできんようになってるんや。
 そもそも初めは、大体どこかしらの町から
    始まるようになってるはずやし、
    ここらへんの事は初めに聞いとるはず
    やけどな?」

 俺の、俺のベーコーーン!!
 ・・・ん?
 ちょっと待て。おかしな点が多々ある。

「俺は始め、見知らぬ森から始まったんだ。
    それに、見えないルールなんて
    説明は受けてないぞ?」

「なんやて?それは、”普通”ではないな・・。
 あかん、もう時間切れや。この話はまた
    今度や・・ほな」
 大賢者は、思考顔のまま消えていった。


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