ダイスワークス✡リポート
ヒトならざるモノ
203号室。
十二里蔵海はそこにいた。
冷たさが、一層強くなった気がする。
最早温度等感じられない程に、空気が凝っていた。
コンコンコン、と心美さんのノックが淡々と響く。
俺に怒りをぶつけた直後から、彼女の雰囲気は様変わりしていた。
女王の風格とでも言うのか、今の心美さんには他を寄せ付けぬ圧倒的なカリスマ性があった。
♡「失礼します。九条医院長はこちらにいらっしゃいますか?」
淀みなく、恙なく、女王はきっちりと告げる。
開いた扉の先を、鋭利なナイフの様な目で睨む。
それを迎え撃ったのは、どこまでも穏やかな、聖母の様な声だった。
B「あら心美ちゃん。いらっしゃい」
♡「こんにちは、母さん」
聞く限りでは微笑ましい会話の相手を確認したくて、心美さんの脇から顔を覗かせる。
B「あら、可愛らしい男の子ね?新人さん?」
息を呑んだ。
203号室が、一瞬聖櫃の様に感じた。
お世辞にも広いとは言えない室内には、スタッフが一人、入居者が三人いる。
中央には、介護用ベットで上体を起こした余りにも清廉な老婆があった。
ボブの長さで揃えられた白髪に、湖面の様な蒼い眼、皺こそあれど、透き通る様な肌にはシミ一つない。
一体幾つなんだ、この人は。
しかしながら、ほんのりと笑むその目付きに狂気を感じた。
どこまでも、どこまでも、人の心を濾して凝縮した様な闇。
身震いすら起きない、諦観しか懐けない存在は、聖母であり魔王。
いずれにせよ、最早人とは言えなかった。
B「何故かしらね?貴方、とても嫌な感じがするわ」
♤「そんな事ないよ~」
B「あら一橋社長、お久しぶりね。今日も姿は見せてくれないのかしら?」
♤「ふふふ、そうですね~」
B「それで?彼は一体誰なの?」
♡「そうですね、早速紹介しましょう。……二人共前へ」
言われるが儘、俺と三葉は前に出る。
瞬間、三葉と蔵海さんの表情が曇った。
♡「本日より一週間の予定でインターンシップ生としてここで働きます。十一大哉君と城下三葉さんです。」
♢「宜しくお願いします」
キャリアセンターで習った通りの45度の礼をする。
身体が憶えるまで練習しただけあって、こんな時でもスムーズに出来た。
ところで……
♢「おい、三葉!」
小声で呼び掛けても、三葉は動かなかった。
その視線は、失望とも諦めともつかない表情でまんじりともせず蔵海さんを見詰める。
自然と怪訝な表情になる俺が、再び三葉を叱咤しようとした時だった。
B「……………なさい」
♢「え?」
B「今すぐその子を消しなさい!」
十二里蔵海の急な怒号が俺を打つ。
その眼光に焦りと怯えを湛え、指示する手は震えていた。
同時に、室内にいたスタッフシャツを着たオバサンが掌を俺に向ける。
♡「城下さん!下がりなさい!」
視界の片隅で、三葉が心美さんに引っ張られるのを確認した。
刹那。
俺の視界は炎に埋めつくされた。
十二里蔵海はそこにいた。
冷たさが、一層強くなった気がする。
最早温度等感じられない程に、空気が凝っていた。
コンコンコン、と心美さんのノックが淡々と響く。
俺に怒りをぶつけた直後から、彼女の雰囲気は様変わりしていた。
女王の風格とでも言うのか、今の心美さんには他を寄せ付けぬ圧倒的なカリスマ性があった。
♡「失礼します。九条医院長はこちらにいらっしゃいますか?」
淀みなく、恙なく、女王はきっちりと告げる。
開いた扉の先を、鋭利なナイフの様な目で睨む。
それを迎え撃ったのは、どこまでも穏やかな、聖母の様な声だった。
B「あら心美ちゃん。いらっしゃい」
♡「こんにちは、母さん」
聞く限りでは微笑ましい会話の相手を確認したくて、心美さんの脇から顔を覗かせる。
B「あら、可愛らしい男の子ね?新人さん?」
息を呑んだ。
203号室が、一瞬聖櫃の様に感じた。
お世辞にも広いとは言えない室内には、スタッフが一人、入居者が三人いる。
中央には、介護用ベットで上体を起こした余りにも清廉な老婆があった。
ボブの長さで揃えられた白髪に、湖面の様な蒼い眼、皺こそあれど、透き通る様な肌にはシミ一つない。
一体幾つなんだ、この人は。
しかしながら、ほんのりと笑むその目付きに狂気を感じた。
どこまでも、どこまでも、人の心を濾して凝縮した様な闇。
身震いすら起きない、諦観しか懐けない存在は、聖母であり魔王。
いずれにせよ、最早人とは言えなかった。
B「何故かしらね?貴方、とても嫌な感じがするわ」
♤「そんな事ないよ~」
B「あら一橋社長、お久しぶりね。今日も姿は見せてくれないのかしら?」
♤「ふふふ、そうですね~」
B「それで?彼は一体誰なの?」
♡「そうですね、早速紹介しましょう。……二人共前へ」
言われるが儘、俺と三葉は前に出る。
瞬間、三葉と蔵海さんの表情が曇った。
♡「本日より一週間の予定でインターンシップ生としてここで働きます。十一大哉君と城下三葉さんです。」
♢「宜しくお願いします」
キャリアセンターで習った通りの45度の礼をする。
身体が憶えるまで練習しただけあって、こんな時でもスムーズに出来た。
ところで……
♢「おい、三葉!」
小声で呼び掛けても、三葉は動かなかった。
その視線は、失望とも諦めともつかない表情でまんじりともせず蔵海さんを見詰める。
自然と怪訝な表情になる俺が、再び三葉を叱咤しようとした時だった。
B「……………なさい」
♢「え?」
B「今すぐその子を消しなさい!」
十二里蔵海の急な怒号が俺を打つ。
その眼光に焦りと怯えを湛え、指示する手は震えていた。
同時に、室内にいたスタッフシャツを着たオバサンが掌を俺に向ける。
♡「城下さん!下がりなさい!」
視界の片隅で、三葉が心美さんに引っ張られるのを確認した。
刹那。
俺の視界は炎に埋めつくされた。
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