陽が昇る前に

沖 鴉者

第一部 軋む歯車  第一章 寝覚めのいい朝に限って その2




 目を開けると、霞がかった見知らぬ天井があった。


 やたらと重い頭を巡らせる。


 徐々に合わさるフォーカスが捉えたのは、やはり見た事のない部屋だった。


「ん……」


 ガラガラに渇いた声帯を震わせ、痛む節々に鞭打って、上体を起こす。


 改めて視線を巡らせると、正位置の部屋は女性用の小物や家具類で満ち満ちていた。


 ここで、一つ目の状況判断。


『俺の部屋じゃない』


 さて、では一体、


「ここどこ?」


 しゃがれた酷い声で呟くと同時に、急激な喉の渇きに気付いた。


 すると不思議なもので、風景の中から小卓の上の水差しが目に留まる。


 今一度身体に鞭を打ち、雲の様に柔らかなベッドから立ち上がる――いや、立ち上がろうとして、バランスを崩してしまう。


「……っ!!!!……」


 声にならない悲鳴と共に地に伏した少年は、そこで初めて知った。


 身体が想像以上に疲弊し、消耗していると。


 だが少しばかり気付くのが遅かった。頭こそ打たなかったものの、強かに打ちつけた上半身から呼気が全て出てしまう。


『ヤバい……』


 立ち上がろうともがくも、酸欠の脳が腕を震わせて思う様にいかない。


 その時だった。


「ありゃりゃりゃ、大丈夫ぅ?無理しちゃ駄目だよぉ」


 聞き覚えのない声と共に、小卓の先にある扉を開けて女性が現れた。


 クシャクシャと癖のある濃緑の短髪と茶色の瞳、そして高い身長が印象的だった。


 俯せの少年を引っ繰り返しながら女性は言う。


「随分疲れていたのねぇ?運んでいる間もずっと起きないものだから、そろそろ御医者様を呼ぼうかと思っていた所なんだぁ」


 ふわりと甘い匂いを感じながら、少年は頭上を――卓上の水差しを指差した。


 それを見た女性はほんのりと微笑み、「成程ぉ、でもまずは一旦ベッド戻ろうねぇ」と少年を抱き上げた。


 意外な力に驚かされる一方、女性特有の柔らかさに少年の心は解れる。


 ベッドに戻った少年に念願の一杯を渡し、女性は口を開いた。


「私はシズナ。シズナ・ブランチ・キシャンよぉ。そしてここは王国十二騎士の一つぅ、“参謀のニフ”の称号をお持ちのアンナ・ニフ・リブ・セテモラ様が御当主を務めていらっしゃるセテモラ家のお屋敷ぃ。はい、ここまでで何か質問はぁ?」


「……ないっす」


 漸く潤った声帯を震わせた、ガラガラの一言だった。


 それを聞いたシズナはうん!と満足気かつ大仰に頷き、グラスを満たす。


 少年がそれを空ければまた満たし、尚空ければ更に満たす。


 全く以って至れり尽くせりな待遇だが、これには勿論裏がある・・・・


「でねぇ、君には幾つか訊きたい事があるからぁ、それ飲みながらでいいから答えてくれるぅ?」


 下手な切り出し方だが、これは尋問ではない。対する少年も無警戒に頷くばかりだ。


「じゃあまず貴方のお名前を教えてぇ?」


「ロード・ハンクス。ロードって呼んで下さい」


「いい名前ねぇ」と微笑みながら、シズナはこっそりと後ろ手で空中にペンを走らせる・・・・・・・・・・


「ロード君は今幾つぅ?」


「じゅうよ……あ、15です。この間誕生日だったんで」


「あらぁ、おめでとぉ」と暫くの間ロード・ハンクスと言う少年の情報を訊き出したシズナは、そこで――


「じゃあぁ」――核心に触れる。


「シャイロック・フランクって人ぉ、知ってるぅ?」


 その質問をした途端、ロード少年は破顔し、泣き崩れながら己の辛い身の上を吐き出す。


 ――と、シズナは思っていた。


「誰っすか?それ?」


 キョトンとした表情で訊き返してくるロード少年の言葉に、シズナの手が初めて止まった・・・・・・・


『え?』「ああぁ、知らないならそれでいいのよぉ。気にしないでぇ」


 鉄面皮と言う程ではないが、ポーカーフェイスは心得ているシズナだ、当然その逆に対する要諦だってある。


『嘘を言っている感じはないなぁ』


 その時だ、


「あれ?」


 ふと目の前の少年が自身の足元に興味を示した。


 剥いだ毛布から覗く彼の足首には、一本のロープが結び付けられている。


 ポカンとそれを見る少年の視線はその行き先を追い、シズナの這入って来た扉の先へと続いて行った。


「あの、これは……」


 ほんの少し表情を凍らせ、ロードがシズナに尋ねたが、実を言うとこれにはシズナの方が動揺していた。


 何故なら、そのロープを結んだのは彼女の主人アンナであり、その際下された命令が「私の合図があるまでは決してロープに触れさせない事」だったからだ。


 シズナは使用人だ。


 例え天地が引っ繰り返ろうとも、主からの命令は絶対。


 果たせなかった場合には、控えめに言ってキッツゥイお仕置き❤が待っている。


 加えてアンナはシズナと同じく優等生(B-Cell)のメンバーにしてシズナの一代前の先輩で
、たった今ロード少年が見付けたロープにも魔術を用いて少年のバイタルにアクセスしたライディテクターの役割があった。


 つまりシズナは、二重の意味でアンナに頭が上がらないのだ。


『ヤバいヤバいヤバいよぉ……お嬢様が鶏冠にきてしまわれるよぉ』


 しかし次の瞬間、内心ガタガタ震えるシズナの耳朶を、神のお許しが打つ。


――いいわよシズニャン♪副交感神経とニョ接続を確保、感度良好☆――


『助かったぁ……』


 風を媒体にした魔術通信に、シズナは胸を撫で下ろした。が――


――でも予想よりばれるニョ早かったからニャー。タイミングもギリギリだし、お仕置き❤プランは3が妥当かニャ――


『終わったぁ……』


 辿り着いた天国には誰もいなかった。
 孤独な楽園など、ただの地獄より性質が悪い。


――ちニャみにシャイロックに関する彼ニョ答えは事実ニェ、心拍に動揺はニャいわ――


――『やっぱりそうですかぁ…』――


 表で笑い、裏で泣きながらも、ロードへの質問は続く。


 ただし、今度は切り口を変えて。


「君ぃ、ロード君はどうしてこの街に来たのぉ?」


「あ、それなんすけど…ロキ・リブ・アグノバルって知りませんか?俺の友達なんですケド」


 この言葉に、シズナとアンナは息を呑んだ。


 何故なら件のロキ・リブ・アグノバルもまた優等生(B-Cell)のメンバーであり、同時にセテモラ家が名を貸すレベッカ商会の御曹司でもあるのだから。


――ロキニョお友達?――


――『どういう事でしょうねぇ』――「ロキは知っているわぁ、彼は私の友人でもあるのぉ」


 笑顔で話に乗ってみる。


「ホントっすか!?」


 シズナはこの時、人間の目が輝く瞬間を見た。


 それ位、ロードの変化は顕著だった。


 ベッドから落ちんばかりに身を乗り出したロードは、星空を初めて見た雛鳥の様な目でシズナを見る。


 童顔且つ整った顔立ちの少年にそんな風に迫られると、シズナとて悪い気はしない。


『んー何かに目覚めそうになるわぁー』


 自分より4つも年下を相手に少しばかりときめいてしまった事実を潔く肚に収め、続ける。


「ロキにはどんな用事がぁ?」


 すると――


「あ、いや、用事って程の事でもないんすけど…」


『ん?』


 初めて見せた歯切れの悪い反応に、シズナの目は光った。


――『探りますか?』――


――結構ニャ動揺っぷりが気ニはニャるけど本題とは関係ニャさそうだからいいわ。それより、ロキを呼んで確認とってみてくれニャい?そろそろ当主としてニョ仕事もしニャきゃだし――


――『畏まりました』――「うん、言い難いなら言わなくていいわぁ。ごめんねぇ変な事訊いてぇ。お詫びに今からロキを呼んで来るからぁ、ちょっと待っててくれるかなぁ?」


「マジっすか!?お願いします!!」


『うーん可愛い笑顔だ事ぉ。でもこんなんじゃ心配だわぁこの子ぉ、すっごい騙され易そぉ』


 晴れ渡った様に無防備な笑顔を浮かべる少年に、和まされつつも一抹の不安を感じるシズナだったが、表面は変わらず笑顔のままだった。


「それじゃぁ」と席を立ったシズナは部屋を辞し、狭いながらも立派な廊下に出た。


 豪奢とは言えずとも貧相ではない調度品を見ながら、ふとシズナは思い出す。


 一時没落しただけあってセテモラ家の史上最小の屋敷である此処も、ロキ・リブ・アグノバルと切っても切れない縁があった事を。


『何の因果なんですかねぇ』


 不思議な縁に導かれている気が、シズナにはした。


「シーズニャ」


 入口付近から自身を呼ぶ主の声は、どこか歌う様な響きがあった。


 その機嫌の良さを複雑な思いで感じながら、シズナは主を見る。


 玄関からの逆光を受けて燃える様に輝く赤い長髪の、毛先に向けてウェーブの掛かったその中で、切れ長の二重が笑っていた。


 高い鼻には気高さが溢れ、真紅の唇は三日月形に釣りあがっている。


 どこか意地悪さすら感じさせる表情のアンナに、シズナはまず謝罪した。


「申し訳ありません。まさかあれ程早く気付かれるとは思わず…」


「そんニャ事はいいから」


 アンナはズイッと外套を突き出した。


 常日頃から外行きの際にシズナが纏うそれは、アンナのお下がりで、上等な質感を湛えて陽光を跳ね返している。


「あ、スミマセン」


 主に上着を着せて貰うなど、使用人としての至らなさを恥じるばかりだ。


 素早くアンナに駆け寄ったシズナが袖を通そうとした時、


「ニャにやってんニョ?シズニャ?」


 アンナが楽しげに使用人を制止する。


「え?」自身の判断が誤りだったのか?と云う思いと共に、まさか…と云う不安にも苛まれつつ苦笑で顧みたシズナはそこで――


「これだけ温かい外套ニャんだもん。他ニョ服ニャんかいらニャいでしょ?」


 自身の主人が悪魔だった事を思い出した。


「脱げ、全部」


「………はい」


 お仕置き❤プラン3。
 精神的仕置きの一、全裸マント。


 余りの羞恥に死んだ方がマシだと思い知らされるこのプランは、しかしまだ良い方で、上限たるプラン5に至っては既視感ならぬ既死感を覚えるそうだ。


「じゃ、ロキニョ事はよろしくニェ~」


 マジで全裸に外套だけになったシズナを平然と表へ突き出し、扉は閉ざされた。


「………泣きたぃ…」


 分かっちゃいたけど避けられなかった仕打ちにそんな弱音を吐いて、シズナはトボトボ歩き出す。


 その時、背後の扉が開いて――


「15分以ニャいに戻らニャかったらプランレベルアップ♪だからニェ」


 シズナの脚は全力ダッシュに移行した。













 少女は息を潜めていた。


 あと少しだ。


 あと少しで、厨房に詰める使用人の大半は食堂へ朝の配膳に出る。


 淡い青の僧衣に所々に淡いピンクの陣が刻まれた玉虫色のローブを重ね、鹿革のサンダルを突っ掛けた王国一のセレブリティガール、ミネア・グテ・ブランチ・リュサックは城郭からの脱走常習犯だ。


 彼女の頭は今、この城内から抜け出す算段で埋めつくされている。


 ちなみに、これまで彼女が行使して来た手段は以下の通りだ。


作戦その1 大変、姫なのに私ったら気が振れちゃった!!作戦
 当時のレディースメイドに無理矢理ミネアのドレスを着させ、「取り敢えず城内十周ね」とウインク付きで命令。“「ひ、姫君!?まさか……暴走!?」騒ぎ”に乗じて脱出(ちなみにそのレディースメイドはトゥイーニーまで降格したらしいけど、何それ知らない☆)


作戦その2 大変、どういう訳だか部屋にネズミさんが!!作戦
 当時のキャッスルキーパーに「私の部屋にネズミさんが大量発生しちゃったの、私がトイレ行くまでの間に退治しといてね☆よろしくね☆間に合わなかったら旦那さんを男色家の母上に献上しちゃうぞ☆」とウインク。本気になったキャッスルキーパーが職権乱用して使用人集団が混乱に陥っている内に脱出(ちなみにそのキャッスルキーパーは以下 略、何それ知らない☆)


作戦その3 大変、私ったら突然の危篤よ!!作戦
 たまたま・・・・通りかかった客間の前でたまたま・・・・ダウン。たまたま・・・・中で掃除中のパーラーメイドがそれを発見。「どうなさいました姫?」「頭痛い」「おや、お熱が?」「わ…から…ない」「す、すぐに人を呼んで参ります」「ニヤリ」「え?」「わ、私に…構わず、貴女は……行って…」「は、はいすぐに呼んで参ります!!」→脱出(ちなみにそのパーラーメ以下略、何それ知らない☆)


作戦その4 大変、何だか知らないけど突然トイレが!!作戦
 以下略、(知らない☆)                             


 等々


 その数現在全九種。


 そんなだから使用人達には“強制降格者”等という(ミネア的に)不本意な二つ名で呼ばれている。


 だが当人からすれば、そんなの知らない☆訳で、今日も今日とてその名に恥じぬ暗躍で、試験ごとサボタージュしてやろうという訳だ。


 さて、現在彼女は厨房の勝手口近くの空樽の中にいる。


 ついさっきまでそこに詰まっていたのだろう、コーンの匂いが鼻を突いた。


 どうやってこんな所に潜めたかと言うと、記念すべき「作戦その10」の協力を買って出てくれた(もとい、白羽の矢の的になってくれた)トゥイーニーの少女、ブレアの手引きによってだ。


『いや~ごめんね~ブレアちゃん☆』


 泣きそうな顔をしていたトゥイーニーには申し訳ないと思わなくもなくはな…あれ?…なくもなくはな……まあいいや、知~らない☆


 ちなみに――王女としての体面の為に言っておくが――随分と誤解を招き易い記述をされているものの、ミネアは自身が巻き込んだ者に対しては後でしっかりフォローをしている。


『イメージ勝負の世界なんでね、そこはキッチリと!!』


 誰に向けてか小さくガッツポーズを決めた後、ふと外が静かな事に気付き、様子を窺う。


 一国を治める城の厨房となれば、当然ながら規模は大きい。


 厨房だけで縦30m横25mも採る程に、とにかく大きいのだ。


 しかも複数の調理台やコンロ、石釜オーブン等の遮蔽物が多く、厨房内の状況を完璧に把握する事は難儀だ。


 しかし、それは逆に多少人がいたとて何とか身を隠して進めるという事実も生む。


『ここから見る限り、スカラリーが3人か……』


 通常、給仕を担当する使用人達は前もって食事を済ませておく。


 王族の食事中に使用人が腹を鳴らしたり食事風景をガン見したりする粗相をしない為で、丁度今がその時だ。


『システムに救われたわ』


 行ける!!と判断した彼女は、メイドの死角を突く形で音を立てないよう樽から出た。


 すぐさま手近な調理台の影に潜み、勝手口へと距離を詰める。


『今入ってくんなよ~入ってくんなよ~』と勝手口に念じながら、最後の直線を一気に駆けた。


『……よし!!』


 果たして扉を潜った所で、彼女は溜息を吐く。
 毎度の事ながら、この瞬間の緊張感には慣れないものだ。


 まあ慣れるのも如何なものと思うが。


 だが、ミネアの脱出劇は終わっていない。


 一応確認しておくが、ミネア・グテ・ブランチ・リュサックはリュサック王国第59代王女である。


 つまり、彼女の住まいは一国の城、城郭な訳で、たった今行った脱出劇でさえ、まだ家屋を出て庭先に出たに過ぎない。


 そして、本番はここから。


 これより先には、無数の警備態勢が敷かれている。


 それこそ、真正面から攻め落とそうとは、冗談でも口に出来ない位に。


 だが、そんな頑強な警備体制にも穴はある。


 それはセキュリティの向きだ。


 一般に、それは外に向けて敷かれ、内には向いていない。


 仮に、内側にも向けたセキュリティがあったとして、外に対する警戒も内に対する警戒も怠らないセキュリティは、肝心な場面で身動きの取れない孤立した存在となってしまう。


 これでは警備と言うよりは独立した別機関で、これ程間の抜けた存在はない。


 だが、伊達にミネアも強制降格者の汚…異名を負っている訳ではなかった。


 城内には対ミネア用の内側に対するセキュリティだけはキッチリ存在していた。


 それは彼女の魔力のクセ・・を利用した特別な物で、かつてミネアが用いた逃走経路に敷かれている。


 ちなみに、それは以下の三ルート(本人の解説付き)。
 ・城門(変装したり荷物に紛れ込んだりしてみました。テヘッ☆)
 ・避難用地下道(照明代わりの蝋燭その辺に捨てたら備蓄用の薪が燃えてボヤ騒ぎ起こしちゃいました。テヘッ☆)
 ・堀(色んな方面に頑張って泳いでみました。初冬だったんで寒かったです。テヘッ☆)


 もしこれ等に近付こうものなら、たちまち彼女は居場所を特定されてしまい、お縄に掛かってしまう。


 そうなると、自然と選択肢は減って行く事になる。


 だが、それしきで手詰まりになる強制降格者ではなかった。


『まだまだ手はあるんだよ!』と凶悪な笑みを浮かべ、ミネアは未だ未発覚の第四のルートへ向かった。


 ミネアが立ち止ったのは、ある穴の前。


 一体どれだけ深いのか、底の見えない暗闇を見下ろす。


 彼女の傍らには、トゥイーニーブレアに用意させた空き箱があった。


 未使用の第四ルート。


 それは、郵便システムの利用。


 ルオム族という民族がいる。


 縦横無尽に地下を掘り進め、巨大なアンダーグラウンドネットワークを築いた民族だ。


 生活圏を地下に持つ為かその姿をハッキリと見た者はいないが、その姿はモグラの様だとも人間と同じとも言われている。


 だが、彼等を語る上で最も重大な事は、外見ではなく彼等の特技だった。


 それは、高い言語能力と順応力。


 ルオム族は姿を見せないが、代わりに実によく喋るのだ。


 それも、あらゆる言語を、滑らかな口調で、だ。


 その器用さ故だろう、古来より彼等は通訳として重宝され、異人種や異民族間の交渉の場には必ず顔を出していた。


 そうなれば、当然、顔も、否、声も効く。


 今やルオムは協調と友愛のシンボルとされ、広く世界に名を知られていた。


 さて、そんな彼等の聡明さと広大な地下ネットワークを郵便システムとして活かそうと考えた人物がいた。


 ミネアの先祖、セオドア・グテ・ML・リュサックだ。


――我が愛すべき隣人達へ願う――という有名な書き出しの依頼書は、国王の手で直接ルオムの穴に投げ込まれた。


 セオドア国王の郵便機構に対する拘りが窺える逸話だ。


 当然、この行動はルオムの民を動かし、才能を如何なく発揮出来る環境を得た彼等は、今日では天文学的な数の郵便物を日々配達している。


 そんな訳で、早速ミネアは空箱の表面に郵便物用のタグを括り付ける。


 そこには差出人の名前と届け先、そして偽の配達物名が記されていた。


 仕上げに、ポケットから取り出した発送留意点を蓋に加える。


 “速達”“生もの”“天面こちら側”。


 これで準備は万端整った。


「そんじゃ、行きますか」


「もしかしたらルオム族まで見れちゃう?王女、速達で届きま~す☆」作戦。開始!!


 ちなみにミネアは、城内が今「まぁた消えやがったな!!あのじゃじゃ馬娘!!」と騒ぎになっている事については、知らない☆のだった。

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