T.T.S.
FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 5-17
17
戦況は芳しくなかった。
前線は今にも崩壊しそうだが、敵のドローンに内蔵された3Dプリンターから放たれる弾丸は、なおも雨霰と降り注ぎ続ける。
しかしながら、それでもP.T.T.S.の健闘は目を見張るべき成果だった。
なぜなら本来のシナリオは、T.T.S.2名による速やかな薔薇乃根の制圧による全ドローンの無力化なのだから。
「糞!T.T.S.共!いつまでチンタラやってんだ!」
ホセ・セサール・チャベスはドローンの残骸を陰に弾時雨を凌ぎつつ、仲間にアドレナリンアンプルを突き刺し、叫ぶ。
T.T.S.の拠点たる“現在”を護るP.T.T.S.は、文字通り粉骨砕身で任務にあたる。そのため部隊には、常に痛覚を鈍化させるアドレナリンアンプルが用意されていた。
だが、それも枯渇してきている。一時的に鈍化させた痛覚がぶり返すのは、一気に死神に近づかれたような絶望感を伴う。
どうかその前に仲間にアドレナリンの効能が戻ることを祈りつつ、ホセは再び瓦礫の隙間から狙いを定めた。
その時だった—
「………セ………ぃ!………ホセ!」
突然、ジャミングの隙間からホセを呼ぶ声が聞こえてきた。
それは、もう死んだと思った者の声。地獄行きのチケットを自ら選んだ愚か者の声だった。
「お前、エリカか?」
超人的なT.T.S.の面々に同行したエリカ・リグスビーが、未だに最前線で孤軍奮闘しているとは、ホセも思わなかった。
「しぶとい野郎だなテメェも」
「んなこと言ってる場合かよ!最終機工兵器だ!」
突然クリアになったエリカの声に、ホセはハッと天を仰ぎ、ソレを見た。
まるで夜の帳を突き破らんとする龍のように、高速で地面から真っ直ぐに天を目指す白い光の線。
照明弾のような眩さに変わったその線の加速を、手で庇を作って睨みながら、ホセは叫ぶ。
「なんでこんなに起動が早ぇんだ……エリカ!対物電磁狙撃銃はあるのか!?」
「銃はある。でも残弾がねえ!車とセットで吹っ飛ばされちまった!」
ホセの口から思わず出た舌打ちは、隠し用もない本音だった。
最終機工兵器。
その正体は、リパルサーエンジンを搭載した人間の胴体ほどの大きさの一台のドローンだ。
自軍のドローン全てと情報連動しつつ地中で眠っていた最終機工兵器は、味方陣営の戦力がある閾値まで低下すると起動。特大火力で一気に成層圏まで駆け上がり、地球の重力とリパルサーエンジンの出力を釣り合わせて滞空を始める。
そしてその場に強力な磁場を展開し、ドローンたちの残骸を対流圏まで持ち上げて落とす。
自由落下というシンプルかつ強力なエネルギーは衝撃波となって、辺り一帯の何もかもを薙ぎ倒す。
まさに、無人ロボット同士の物量合戦の最後に現れる、究極の悪足掻きだ。
それを止める術はたった一つ。
成層圏に向けて急上昇する最終機工兵器を狙撃し、撃ち落とすことだけだ。
当然、難易度はとんでもなく高い。
地面からの狙撃は全てジェット噴射によって阻まれるため、曲射で最終機工兵器の頭上から着弾させなければならないからだ。
狙撃用のAIM補助ソフトを使っても、超長距離対空狙撃用のコリオリ補正弾を使っても、なお成功確率は低い。
しかしながら、そんな並外れた芸当を、エリカはこれまで何度もやってのけてきた。
源やギルバートという非常識極まりない存在に圧されがちだが、彼女とてそこらの雑兵とは違うわけだ。
「エリカ……車両はどっちに飛んだ?」
「今から探す気か?」
「当たり前だ!T.T.S.にさえ黙ってテメェのアーマーに隠した虎の子だぞ!弾丸が吹っ飛んだくらいで諦められるか!」
対物電磁狙撃銃は、その名の通り凄まじい火力と射程を誇るが、当然値段も張る。そんな予算は簡単には下りない。
しかしながら、今回のように突発的かつ喫緊で現場に必要になることもある。
だからこそ、ホセたちP.T.T.S.は秘密裏に各国の警察機関のコーチングや作戦補助などをしてなんとか手にした。
そんな起死回生の一手を、部隊メンバーの生存がかかったこの場面で使えないなど、冗談にしても笑えない。
銃そのものはナノマシンテクノロジーを用いてエリカのアーマーに変えてあるが、弾丸は空気摩擦で大きく削れることを計算に入れた対戦車榴弾の弾頭部のような大きさのものになるため、車両に忍ばせて運ぶ以外ないのだ
エリカがT.T.S.に同道すると言い出した時はヒヤリとしたが、何とか秘密を保ったまま移すことは出来た。
だが、その車両ごと吹き飛ぶことまでは、さすがのホセも予想出来なかった。
それでも、諦めるわけにはいかない。
「諦められっかよ!」
自らの小隊の全滅と任務の失敗を防げる金の鎖がそこにあるのならば、ホセ・セサール・チャベスはそれを見つけ出して見せると誓っていた。
その時だ。
突如、ホセやエリカの使っている戦術サポート、通信などの全てのアプリケーションが落ちた。
同時に、喧しく雨霰と弾丸を浴びせてきていたドローン達が、全て一斉に機能停止する。
言わずもがな、それらは地下深くで繰り広げられる光速戦闘によって生じる衝撃の影響だった。
とりわけ、原子の衝突によって飛び出た電子の本流は強力な電磁波となって電子機器という電子機器に強力な電圧を与え、その回路をショートさせる。
だが、その影響さえも振り切ってなお、最終機工兵器は天を駆け上っていく。
「エリカ!おい!エリカ!……クソッ!」
時事刻々と状況が変化していくのは、戦場の常だ。
それでも、今やるべきことは変わらない。
吹き飛んだ車両を探して、ホセは駆け出した。
戦況は芳しくなかった。
前線は今にも崩壊しそうだが、敵のドローンに内蔵された3Dプリンターから放たれる弾丸は、なおも雨霰と降り注ぎ続ける。
しかしながら、それでもP.T.T.S.の健闘は目を見張るべき成果だった。
なぜなら本来のシナリオは、T.T.S.2名による速やかな薔薇乃根の制圧による全ドローンの無力化なのだから。
「糞!T.T.S.共!いつまでチンタラやってんだ!」
ホセ・セサール・チャベスはドローンの残骸を陰に弾時雨を凌ぎつつ、仲間にアドレナリンアンプルを突き刺し、叫ぶ。
T.T.S.の拠点たる“現在”を護るP.T.T.S.は、文字通り粉骨砕身で任務にあたる。そのため部隊には、常に痛覚を鈍化させるアドレナリンアンプルが用意されていた。
だが、それも枯渇してきている。一時的に鈍化させた痛覚がぶり返すのは、一気に死神に近づかれたような絶望感を伴う。
どうかその前に仲間にアドレナリンの効能が戻ることを祈りつつ、ホセは再び瓦礫の隙間から狙いを定めた。
その時だった—
「………セ………ぃ!………ホセ!」
突然、ジャミングの隙間からホセを呼ぶ声が聞こえてきた。
それは、もう死んだと思った者の声。地獄行きのチケットを自ら選んだ愚か者の声だった。
「お前、エリカか?」
超人的なT.T.S.の面々に同行したエリカ・リグスビーが、未だに最前線で孤軍奮闘しているとは、ホセも思わなかった。
「しぶとい野郎だなテメェも」
「んなこと言ってる場合かよ!最終機工兵器だ!」
突然クリアになったエリカの声に、ホセはハッと天を仰ぎ、ソレを見た。
まるで夜の帳を突き破らんとする龍のように、高速で地面から真っ直ぐに天を目指す白い光の線。
照明弾のような眩さに変わったその線の加速を、手で庇を作って睨みながら、ホセは叫ぶ。
「なんでこんなに起動が早ぇんだ……エリカ!対物電磁狙撃銃はあるのか!?」
「銃はある。でも残弾がねえ!車とセットで吹っ飛ばされちまった!」
ホセの口から思わず出た舌打ちは、隠し用もない本音だった。
最終機工兵器。
その正体は、リパルサーエンジンを搭載した人間の胴体ほどの大きさの一台のドローンだ。
自軍のドローン全てと情報連動しつつ地中で眠っていた最終機工兵器は、味方陣営の戦力がある閾値まで低下すると起動。特大火力で一気に成層圏まで駆け上がり、地球の重力とリパルサーエンジンの出力を釣り合わせて滞空を始める。
そしてその場に強力な磁場を展開し、ドローンたちの残骸を対流圏まで持ち上げて落とす。
自由落下というシンプルかつ強力なエネルギーは衝撃波となって、辺り一帯の何もかもを薙ぎ倒す。
まさに、無人ロボット同士の物量合戦の最後に現れる、究極の悪足掻きだ。
それを止める術はたった一つ。
成層圏に向けて急上昇する最終機工兵器を狙撃し、撃ち落とすことだけだ。
当然、難易度はとんでもなく高い。
地面からの狙撃は全てジェット噴射によって阻まれるため、曲射で最終機工兵器の頭上から着弾させなければならないからだ。
狙撃用のAIM補助ソフトを使っても、超長距離対空狙撃用のコリオリ補正弾を使っても、なお成功確率は低い。
しかしながら、そんな並外れた芸当を、エリカはこれまで何度もやってのけてきた。
源やギルバートという非常識極まりない存在に圧されがちだが、彼女とてそこらの雑兵とは違うわけだ。
「エリカ……車両はどっちに飛んだ?」
「今から探す気か?」
「当たり前だ!T.T.S.にさえ黙ってテメェのアーマーに隠した虎の子だぞ!弾丸が吹っ飛んだくらいで諦められるか!」
対物電磁狙撃銃は、その名の通り凄まじい火力と射程を誇るが、当然値段も張る。そんな予算は簡単には下りない。
しかしながら、今回のように突発的かつ喫緊で現場に必要になることもある。
だからこそ、ホセたちP.T.T.S.は秘密裏に各国の警察機関のコーチングや作戦補助などをしてなんとか手にした。
そんな起死回生の一手を、部隊メンバーの生存がかかったこの場面で使えないなど、冗談にしても笑えない。
銃そのものはナノマシンテクノロジーを用いてエリカのアーマーに変えてあるが、弾丸は空気摩擦で大きく削れることを計算に入れた対戦車榴弾の弾頭部のような大きさのものになるため、車両に忍ばせて運ぶ以外ないのだ
エリカがT.T.S.に同道すると言い出した時はヒヤリとしたが、何とか秘密を保ったまま移すことは出来た。
だが、その車両ごと吹き飛ぶことまでは、さすがのホセも予想出来なかった。
それでも、諦めるわけにはいかない。
「諦められっかよ!」
自らの小隊の全滅と任務の失敗を防げる金の鎖がそこにあるのならば、ホセ・セサール・チャベスはそれを見つけ出して見せると誓っていた。
その時だ。
突如、ホセやエリカの使っている戦術サポート、通信などの全てのアプリケーションが落ちた。
同時に、喧しく雨霰と弾丸を浴びせてきていたドローン達が、全て一斉に機能停止する。
言わずもがな、それらは地下深くで繰り広げられる光速戦闘によって生じる衝撃の影響だった。
とりわけ、原子の衝突によって飛び出た電子の本流は強力な電磁波となって電子機器という電子機器に強力な電圧を与え、その回路をショートさせる。
だが、その影響さえも振り切ってなお、最終機工兵器は天を駆け上っていく。
「エリカ!おい!エリカ!……クソッ!」
時事刻々と状況が変化していくのは、戦場の常だ。
それでも、今やるべきことは変わらない。
吹き飛んだ車両を探して、ホセは駆け出した。
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