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T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 5-13

13

 Sample 13は理解の出来ない事柄にぶつかった場合、いつだって考える前に動いて解決を図ってきた。
 考える時間が惜しいわけでも、手間が惜しいわけでもない。実際、規格外の身体能力によるパワープレーはあらゆる問題を吹き飛ばす、何よりも早い解決策なのだ。
 だが、今回は違った。
 状況が呑み込めず、現実を理解出来ず、手立てが思い浮かばない。
 今目の前にいる見覚えのない顔の女が、さながら女王のように自らを見下ろしている現状が心底不思議で不快で不本意でならない。

「聞き逃したなら、もう一度言ってあげる。貴女じゃ私に勝てないわ。だからもう、お家に帰りなさい」

 唯一絶対だった解決策が通用しない苛立ちは、試行錯誤の反復学習が皆無なSample 13にとって未知の経験であり負荷ストレスだった。
 嫣然と、子供をあやすように繰り返される警告に、Sample 13は今にもフラストレーションで爆発しそうだ。

「調子に乗るな!」

 そう息を荒げてはみるものの、速度が乗ると同時に、途轍もない力で真上から潰される。
 Sample 13は知らない。
 正岡絵美は凡俗の身でありながら常に神資質Heiligeを持つ者と相棒バディを組み、あまつさえ神資質Heilige持ちと対峙し、打倒まで果たしている貴重な反復学習経験者だ。あらゆる手練手管を用いてジャイアントキリングを果たす新たなダビデ王に、ゴリアテの少女は歯噛みした。
 同時に、自らの身中に錘が発生したような倦怠感と重量感に、Sample 13は目を白黒させる。

「窒息してきたみたいね。身体が重くなるなんて初めてでしょ?でも、これからもっと苦しくなるわよ」

 神資質Heiligeをもって戦う時、発動者は無呼吸になり、急速に無質量になる。
 源に備わった神資質Heiligeを知り、観察を続けて学んだ性質。
 絵美は、その裏を突いた。
 神資質Heiligeの発動と同時に質量を失い続けるSample 13を高気圧の二酸化炭素で押し潰し、呼吸を再開した肺に同気体を大量に注いで中毒症状を誘発する。
 最速の後出しジャンケンともいうべき、後の先を取る戦法は、無垢な生物兵器を完全に封じていた。

 ただし。

『そろそろ折れて、お願い』

 およそ2兆のナノマシンを表皮のミゾ・・から空中に展開さえて制御するという無茶の代償は、絵美の脳に過剰な負荷をかけていた。
 脳に痛覚など備わっていないのに、ノルアドレナリンが頭蓋骨の内側を引っ掻き回し、シナプスが焼き切れるような痛みが全身を駆け巡る。
 その苦痛を必死に噛み殺しながら声帯を絞り、震えそうな声を張って別方向に水を向けた。

「源、やって。この子はもう動けないわ」

 崩れたコンテナ群の中から恋人の肩を借りて立ち上がった相棒バディは、相変わらず血の気のない顔で頷いて見せる。
 別の瓦礫からは、ギルバートもゆらりとその姿を現した。こちらの立ち姿もどこかを庇った歪なもので、口元からは血が滴っている。
 誰も彼も、満身創痍ここに極まりといった状態だが、ようやく形勢はT.T.S.に傾きつつあった。
 後は、源が破滅との握手シェイクハンズ・ウィズ・ダムネーションで触れるだけ。文字通り、あと一手で勝負が決まる。
 しかしながら。

「どこかで見た顔が2つも並んでいるとは……懐かしいなあ、息子たちよ」

 若い男の声が、誰も目を向けていなかった暗がりから響き渡る。
 その言葉は3つの人間兵器の意識を奪い、2人の女性の注意を引き、その場の全ての流れを止めた。

「お前誰だ!」

 停滞する空気を打破できたのは、ただ一人戦闘可能な亜金だけだ。彼女が声の方向に投げた咆哮はしかし、あっさりと無視される。

「Sample 4 神を追う足Beineum Gott zu jagen。君こそ私の研究の全ての始まりだ。また会えて嬉しいよ。Sample 9 神を掴む手Die Haendeum Gott zu fangen。お前が消えたお陰で私は全てを失った。ある意味、君にも会いたかったよ。それから、おお……」

 唐突に、男は絵美に水を向けた。その声音は、源やギルバートの時よりも弾んでいた。

「T.T.S.No.3 正岡絵美!君に会えるとは……何と言う幸運。金の鎖を授かったような気分だ。君の活躍は見させてもらったよ。実に素晴らしい、叡智の結晶のような戦いぶりだった。スペックで大きく劣るSample 9がSample 4に勝ててたのも、君の策あってのことだ。本当に君は何度も何度も……」

 神を殺す者がいたとして、それを英雄と呼ぶか、咎人と呼ぶか、人によって違うだろう。

 しかしながら、もし貴方が神を造っていたならば、それを殺した者を何と呼ぶだろうか。

「よくも壊してくれたな」

 淡白で簡潔な恨み節は、続く発砲音よりも遥かに無味乾燥にトンネルの中に響き渡った。

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