T.T.S.
FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 5-9
9
思わず立ち止まると、背後からマダムの巨体が激突して来た。
「ちょっと、急に止まらなんぐっ!」
「ごめんマダム。でもちょっと待って、すっごい面白いことになってるから」
コソコソと囁き合った2人が覗き込むと、防弾とショック反射の強化ガラスから差し込む光で、ロビーは逆光の中に浮かび上がっていた。
そんな真っ黒な影法師の舞台で、椅子に掛けた人影が今一度問う。
「正岡絵美はい源をどんな風に見ているのかって訊いてるの」
対する立ち尽す人影は、考えるように俯くと、やがて言葉を選ぶようにポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「好き……ではあります。付き合いが長いですし、背中を預ける相棒ですから。ですが、同時に彼の気に入らない部分も多く見てきました。ですから、誓って異性として魅力的とは思いません」
「ウソばっかり……」
背後で呟くマダムの声に苦笑しながら、鈴蝶は脳内無線で絵美に話し掛ける。
《絵美ちゃんゴメンね!遅くなった!》
《Master!助かった……私もうダメかと思った……》
《うん。ゴメンね。おっかないヤツの対応任せちゃって。で、ちょっとお願いがあるんだけど……》
《ええ……この上?》
《お願い!ちょっと源ちゃんがヤバいみたいなの》
その言葉に、さすがの絵美にも動揺が走ったようだ。
当然だ。
源のみならず、ギルバートまでもが加わったP.T.T.S.の支援任務で窮地が訪れるなど、想像さえしなかったはずだ。
「え?」
「何よ、え?って」
「……何でもないです」
《どういうこと?Master》
先ほどまでの弱音とはまるで違う、強い緊張感と僅かな不安の入り混じった張り詰めた声で絵美が訪ね帰して来る。
どう説明したものかと考えたが、絵美の安全性を考え、鈴蝶は迂遠な言い回しを避けた。
《亜金に。いや、アモロウナグに訊いて欲しいの。源ちゃんの妹について》
「妹?」
「アンタさっきから何言ってんの?」
「源に妹がいるんですか?」
直後。
バァン!という炸裂音と共に、椅子の人影が矢のように立ち尽す人影に跳びかかった。
だが、絵美には届かない。
彼女の操る不可視のナノマシンの軍勢は、とうに空気に溶けて亜金を取り囲んでいた。
面制圧の要領で放たれた高風圧の二酸化炭素が弾丸を弾き、亜金の身体も地に組み伏せ、自身を見上げさせながら、絵美は精一杯声を張って抗議する。
「危な!いきなり撃たないで下さいよ!」
だが、対する亜金も、酸欠に近い状態にも関わらず、うつ伏せ状態から無理矢理起き上がろうとするほど必死だった。
「源はどこ⁉アンタたち源をどこにやったの⁉鈴蝶!いつまでもそこで出歯亀してないで説明しろ!源はどこだ!……クソッ!これどけろ絵美!」
先ほど絵美と攻防戦を繰り広げていた時とはまるで違う。今や亜金は、ギチギチと歯軋りの音を響かせながら吠えていた。
リノリウムの床を爪で削りながら拳を握り、形容ではなく噛みつきそうな情動の女を前に、さすがの絵美も鈴蝶を顧みた。
「Master!もういいでしょう⁉」
マダムと共に光学迷彩を纏って様子を見ていた鈴蝶だったが、状況は未だ安心出来る状態ではない。
「マダム」
「なに?」
「アモロウナグはいつまでもつと思う?」
「……あと1分、ってところかしら。もう二酸化炭素中毒症状が出始めてる」
「そう……ならあと2秒で危ないって所で教えて」
「……了解したわ」
目を眇めて注意深く観察し始めたマダムを確認して、鈴蝶は表情一つ変えずに絵美に下知する。
《絵美ちゃん、あと50秒位頑張って》
《……正気ですか?》
《正気だよ。3秒あればアモロウナグは私を殺せる》
絶句する絵美を無視して、鈴蝶は唸る女を睨む。
「鈴蝶ォォォォォォォォォォォ‼」
獣がのたうち回り、咆哮する様を見ながら、マダムが告げる「その時」を待って、T.T.S.Masterはただ祈る。どうか大事な部下を失う前に何か活路を示せるようにと。
思わず立ち止まると、背後からマダムの巨体が激突して来た。
「ちょっと、急に止まらなんぐっ!」
「ごめんマダム。でもちょっと待って、すっごい面白いことになってるから」
コソコソと囁き合った2人が覗き込むと、防弾とショック反射の強化ガラスから差し込む光で、ロビーは逆光の中に浮かび上がっていた。
そんな真っ黒な影法師の舞台で、椅子に掛けた人影が今一度問う。
「正岡絵美はい源をどんな風に見ているのかって訊いてるの」
対する立ち尽す人影は、考えるように俯くと、やがて言葉を選ぶようにポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「好き……ではあります。付き合いが長いですし、背中を預ける相棒ですから。ですが、同時に彼の気に入らない部分も多く見てきました。ですから、誓って異性として魅力的とは思いません」
「ウソばっかり……」
背後で呟くマダムの声に苦笑しながら、鈴蝶は脳内無線で絵美に話し掛ける。
《絵美ちゃんゴメンね!遅くなった!》
《Master!助かった……私もうダメかと思った……》
《うん。ゴメンね。おっかないヤツの対応任せちゃって。で、ちょっとお願いがあるんだけど……》
《ええ……この上?》
《お願い!ちょっと源ちゃんがヤバいみたいなの》
その言葉に、さすがの絵美にも動揺が走ったようだ。
当然だ。
源のみならず、ギルバートまでもが加わったP.T.T.S.の支援任務で窮地が訪れるなど、想像さえしなかったはずだ。
「え?」
「何よ、え?って」
「……何でもないです」
《どういうこと?Master》
先ほどまでの弱音とはまるで違う、強い緊張感と僅かな不安の入り混じった張り詰めた声で絵美が訪ね帰して来る。
どう説明したものかと考えたが、絵美の安全性を考え、鈴蝶は迂遠な言い回しを避けた。
《亜金に。いや、アモロウナグに訊いて欲しいの。源ちゃんの妹について》
「妹?」
「アンタさっきから何言ってんの?」
「源に妹がいるんですか?」
直後。
バァン!という炸裂音と共に、椅子の人影が矢のように立ち尽す人影に跳びかかった。
だが、絵美には届かない。
彼女の操る不可視のナノマシンの軍勢は、とうに空気に溶けて亜金を取り囲んでいた。
面制圧の要領で放たれた高風圧の二酸化炭素が弾丸を弾き、亜金の身体も地に組み伏せ、自身を見上げさせながら、絵美は精一杯声を張って抗議する。
「危な!いきなり撃たないで下さいよ!」
だが、対する亜金も、酸欠に近い状態にも関わらず、うつ伏せ状態から無理矢理起き上がろうとするほど必死だった。
「源はどこ⁉アンタたち源をどこにやったの⁉鈴蝶!いつまでもそこで出歯亀してないで説明しろ!源はどこだ!……クソッ!これどけろ絵美!」
先ほど絵美と攻防戦を繰り広げていた時とはまるで違う。今や亜金は、ギチギチと歯軋りの音を響かせながら吠えていた。
リノリウムの床を爪で削りながら拳を握り、形容ではなく噛みつきそうな情動の女を前に、さすがの絵美も鈴蝶を顧みた。
「Master!もういいでしょう⁉」
マダムと共に光学迷彩を纏って様子を見ていた鈴蝶だったが、状況は未だ安心出来る状態ではない。
「マダム」
「なに?」
「アモロウナグはいつまでもつと思う?」
「……あと1分、ってところかしら。もう二酸化炭素中毒症状が出始めてる」
「そう……ならあと2秒で危ないって所で教えて」
「……了解したわ」
目を眇めて注意深く観察し始めたマダムを確認して、鈴蝶は表情一つ変えずに絵美に下知する。
《絵美ちゃん、あと50秒位頑張って》
《……正気ですか?》
《正気だよ。3秒あればアモロウナグは私を殺せる》
絶句する絵美を無視して、鈴蝶は唸る女を睨む。
「鈴蝶ォォォォォォォォォォォ‼」
獣がのたうち回り、咆哮する様を見ながら、マダムが告げる「その時」を待って、T.T.S.Masterはただ祈る。どうか大事な部下を失う前に何か活路を示せるようにと。
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