T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 5-5



 かつてエアーズ・ロックの外周は、9.4kmほどあったとされている。
 だが、荒野にポツンと屹立し、大陸を駆け巡る雨風に曝され続けた世界一の一枚岩は、僅かにだが確実にその径を窄めていた。
 しかしながら、それでも外周はおよそ8.7km。監視ドローンと時折やって来る警備員の哨戒を潜り抜けながら歩き続けるには、少し億劫な距離だ。徐々に上がって来た気温にも顔を顰めながら、源は呻く。

「暑ぃ……もぉそろそろか?」
「うん、あそこのイワカゲ!」

「よぉやく見えたか」

 だが、近づけば近づくほど、件の岩陰に人の気配がなかった。赤茶けたエアーズ・ロックの壁にはなにもなく、地面には砂だけが堆積している。

「なんもねぇじゃねぇか。おぃ、どぉなってんだ?」
「ここであってるよぉ」

「……あてんなんねぇなぁ」

 モゴモゴと口籠る紫姫音に鼻を白ませながらも、源は諦めきれずに砂を攫ってみた。
 そして――

「……おぃ紫姫音。お前骨格データの照合は出来っか?出来んなら調べてくれ。コイツは誰だ?」

 源はシャレコウベを1つ掘り出した。
 遺棄されてから久しいのだろう、自然の分解能力によって綺麗に肉を剥がれた頭蓋骨は、砂に埋もれて風化も避けられたのか、骨格標本のように白かった。

「それがシオンだよ」
「あ?」

「だから、それがシオンだよ!」

 さも当たり前のように宣言する紫姫音を前に、源は頭を捻る。

「どぉいぅことだ?」
「あ、シオンがおハナシしたいって!」

「どぉいぅ」
「じゃあツナゲルね!」

「おぃ待て、お前何言って」
「源」

 突如として自身の言葉を遮った男の声に、源は心臓を握られたような苦しさを覚えた。それは、源が待ち望んだ最も聞きたくない声。
 ギチギチと、視線を手元に向ける。
 これほどまでに身体が動かし辛かったことはない。
 源の手の中で髑髏が肉を纏い、口を動かしていた。

「よく来てくれた。我が息子よ」

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