T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 4-2


~2176年12月23日PM10:44 ???~

 降り立った地下の様子は、まさに物流倉庫だった。貨物積載用のパレットが何枚も積まれた山が乱立し、その隙間を縫うように何台ものフォークリフトロボットが行き交っている。

「源、アレを見ろ」

 ギルバートが指示する積み荷には、ラッピングの上に伝票が貼りつけられていた。
 記されているのは、この場所の名前。


~2176年12月23日PM10:44 薔薇乃根~


「案の定だな」

 “薔薇乃根”は薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスが一時拠点を置く際に使う言葉だ。基本的に彼らは拠点を構えないが、時には例外もある。

「何のための施設なんだろうね?」
「さぁな、でも新規事業開始って感じではねぇな」

 なんの施設にせよ、薔薇乃棘エスピナス・デ・ロサスの組織であるならば、捜査対象だ。
 詳しく調べたいところだが。

「来るぞ!」

 ギルバートが叫ぶのと、前方のパレットの山の1枚がダルマ落としのように真ん中から抜けて飛んで来るのは同時だった。
 音速で飛来するパレットの重量を正面から受け止めるのは、幾ら2人でも厳しい。
 源は上体を逸らして躱し、ギルバートが真上に蹴り上げた。T.T.S.から支給された彼の長靴ブーツは、源の凶運の掴み手ハードラックゲッターと同じ特別製だ。上空高く蹴り上げられたパレットは飛翔した速度のまま闇夜に消える。

「次!」

 今度は源が左腕を振り上げた。凶運の掴み手ハードラックゲッターの拳はパレットを弾き、背後のフォークロボットを2台潰す。

「おぃ兄弟!兄ちゃん2人が遊んでやっから感謝しろよ!」

 一方的に宣言した源に、敵は更なるパレットを飛ばすことで応えた。
 樹脂の加工技術改良によって大幅に強度の上がったプラスチックとラバーのパレットは、神資質Heiligeの攻撃に2度は耐えてみせたものの、それが限界だったようだ。
 源の拳で正面から殴り返されたパレットは、敵に真っすぐに向かい、3発目の被弾となるブロックによって真っ2つに割れた。
 同時に、源とギルバートはその先にいた敵影を確認して、絶句する。

「おぃおぃ……」
「子供か……」

 そこには、子供が1人立っていた。
 背格好から、恐らくローティーンの少女だろう。
 ボディラインの浮き出るダイバースーツのような衣服にはウサ耳風の装飾をあしらったフードが付いており、それを目深に被っている。
 面貌こそうかがえないものの、挑発的な笑みを浮かべた口元だけは覗いていた。

「会いたかったわ。Sample 4、Sample 9」
「……」

「懐かしい呼び名だ」

 ギルバートの軽口を待たずに、源は手近な運搬ロボットを掴んでブン投げた。フォークリフトロボットの下ろしたリフトから個別に荷物を運び出すそれは、マンホール大の掃除ロボットのような見た目をしている。
 音速を超える速度で投擲されたそれを、少女は片手で易々と受け止め、投げ返してきた。

神を掴む手Die Haendeum Gott zu fangen

 互いを突き飛ばすようにしてこれを躱した2人に、再びロボットをキャッチした少女が応える。

神を追う足Beineum Gott zu jagenもあるわ。もちろん、神罰を免れる目Charismavogelperspektiveだってね」
「……マジかよ……」

「……完全上位互換ってわけだ」

 源とギルバートを生んだ新人類組成計画Neuemenschheitherstellungplanの完成形が、そこにあった。
 だが、相手が何者であろうと、任務は遂行しなければならない。
 再び戦端を開くキッカケに、源は挑発した。

「テメェの特技が自己紹介ってのはよぉく分かった。兄貴としちゃ棒飴ロリポップの1本でもくれてやりゃいぃんだろぉが、生憎持ち合わせもねぇ。代わりに、と言っちゃなんだが、今回は見逃してやってもいぃ。どぉする?」

 顎を上げ、見下しの態度を全面に出した煽りは、しかし少女には全く響いていなかった。
 肩を震わせながらクスクスと笑った彼女は、やおらフードに剥がしてその素顔を曝した。

「お父様の仰る通りだわ。貴方達は不出来な失敗作。自信過剰で私との力の差も満足に認識出来ていない」
「……痛いところを突いて来る妹だ」

 舌戦ごときではなびかないどころか、更なる鋭さで切り返された。自らの力に絶対の自信を持つ彼女には、源とギルバートの考えなどお見通しのようだ。

「残念だけど挑発に効果はないみたいだよ、源」

 少し小馬鹿にするように話を振ってみたが、当の本人の様子に、ギルバートは顔を顰める。

「源?」
「どぉいぅことだ?」

「どうしたんだい?」
「何でお前……」

「彼女を知っているのか?」

 源は自分の見ているものが信じられなかった。
 フードを脱いだ少女の顔。
 挑発的に嘲る彼女の表情。
 その全てが。

「紫姫音か?」

 自らのOSAIに酷似し過ぎていた。

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