T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 3-1


~2176年12月23日PM10:05 ダラス~

 定刻より30分以上遅れて、ホセ・セサール・チャベスはチャンネルを開く。

「最終確認だ。各位、作戦タクティクスボードを被せろ」

 拡張現実を視界に被せ、武装警官たちは各持ち場から上面図の立体映像ホログラムを俯瞰する。

「突撃順に行くぞ。まずT.T.S.の2名が先行して特攻。次いでドローン部隊とサイボーグ部隊が誘導と攪乱、及び殲滅。最後に本隊が突っ込み制圧」

 余計な邪魔が入らないよう、間髪を入れずにホセは続ける。脳内発声は息継ぎが不要で便利だ。

「ただし、本作戦にはタイムリミットがある。I.T.C.とT.T.S.が成層圏を漂う衛星残骸スペースデブリを飛び回る監視AIを検知、排除した。AIコイツはタイムマシン越しに飛ばされてる。上空に衛星残骸スペースデブリがある限り、ゲームみてぇにリスポーンするそうだ。だが、みんな知ってる通り、地球は自転し、公転している。一時的に排除した衛星残骸スペースデブリも、地球自身がまた運んでくるわけだ。だから猶予は長くない。各位、臨機応変即行即決を心掛けろ」

 淵を白く囲まれた無数の矢印が上面図と頭上を飛び回って行くのを見届ける。

「おいホセ!そりゃないぜ!アタシらがどんだけ待ったと思ってんだ!」

 口を挟めるタイミングになるや否や、エリカが噛みついてきた。スタイル抜群だが気性が荒すぎる彼女は、こうなると意固地になって厄介だ。

「エリカ!聞き分けろ!」
「でもよ!」

「ホセ、ちょい代われ……エリカ、俺らと来てぇなら来ぃ。ただ呼吸と瞬きがしばらく出来ねぇのと、耐圧訓練を受けてなきゃ即行失神になる可能性大だ。ちゃんと我慢出来んなら、ご褒美に敵のドタマぶち抜かせてやんぞ」

 源の問い掛けに、エリカは一瞬息を呑む。
 ホセとしても、これで考え直してくれるなら重畳だ。
 だが、世は儘ならない。

「……上等だ!やってやるよ!」
「な⁉おい待て!エリカ!」

「いぃじゃねぇかホセ。部下の意志だ、酌んでやれ」
「……分かった。エリカ、車両を移れ」

「なぁ、ところでこの車、内側からはどぉ開けりゃいぃんだ?」
「エリカ、開けてやれ」

「任せろ」

 自身の装甲車を降りたエリカは、車高の低いスポーツカー型装甲車のガルウィングドアを開けた。

「よろしくな、T.T.S.」
「おぉ……ところでこの車って……2人用だよな?」

「あ……そういやそうか……」
「俺とギルで席埋まってんだよなぁ……俺の背中乗るか?」

「いや、その必要はない。エリカ、君に席を譲るよ。僕は自分の足で行く」
「はあ?」

 ペストマスクの変わった冗談に反射的に反応したエリカだったが、すぐ横で首肯したポニーテールに閉口した。

「っし、じゃあそれで行くか」
「いや待て、おい……冗談だろ?」

「うるせぇ、同行させてやんだから文句言うな。あとな、間違っても吐くなよ」
「吐かねえよ!」

 その威勢を鼻で笑い、首で敵地を指し、源はガルウィングドアを閉める。
 装甲車のボディをコツリとノックして、ギルバートは指揮官に向かって叫んだ。

「ホセ君、こっちは準備OKだ!」

 いよいよ、作戦が始まる。

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