T.T.S.
FileNo.4 『Sample 13』 Chapter 1-4
4
T.T.S.本部には、一部屋だけ源のプライベート空間がある。起きて半畳寝て一畳を地で行く超閉塞空間だが、空気中のナノマシンによって綺麗に紫煙を分解された彼のだけの喫煙所だ。
健康に多大な影響を与える喫煙は、2176年では『かつてそんな馬鹿な嗜好があった』レベルの、化石のような存在だ。未だに興じる者など、奇人変人以外の何者でもない。
そんな、前時代も前時代の嗜好品を嗜む彼だけが、この部屋に頻繁に出入りする。それ故の私的利用だ。
つまり、この喫煙行為とそれに興じる空間は、源のパーソナルを象徴するものとなっていた。
だからこそ、源はここでだけ彼女と会話する。
「重ぇよ」
「……失礼、しちゃう」
いつの間にやら背中に加わった重みに文句を言うと、頭頂部に硬い顎の感触が乗っかった。
T.T.S.No.4アグネス・リーの精神支配は、対象者とアグネスのパーソナルを綯交ぜにすることで完了する。
だがら、源のパーソナリティが色濃いこの場所では、その影響は希薄だった。
「っせぇ、ならさっさと降りろ」
「いじわる」
「テメェにだきゃ言われたくねぇ」
「……イライラしてる?」
「訊くまでもなく分かってんだろぉが」
感応性の高い彼女とのコミュニケーションは楽だが、どこまでも見られている気がして落ち着かない時もある。人間観察とその分析の専門家たるアグネスにとって、口調や行動から思考を把握するのは造作もないのだろう。
「うん……ごめん」
「何の用だ」
「今日、これから会う人、私……」
「……お前なんか知ってんのか?」
「……なんでもない。鈴蝶から、聞いて」
「おぃそれどぉいぅ……消えんの早ぇな」
紫煙のように消えたアグネスの言葉が気になり、まだ残る背中の温もりだけが、妙に不気味だ。
「ちっきしょう、また面倒臭そぉな感じだな」
煙草の味が、全くしない。気分を落ちつけようと思って入った喫煙所が、一気に不気味な場所に変わってしまった。
「もぉ少し俺の気分をアゲるもんはねぇのか……」
自分の気持ちを少しでも持ち直せるものを探して、ネガティブゾンビは喫煙所を後にした。
T.T.S.本部には、一部屋だけ源のプライベート空間がある。起きて半畳寝て一畳を地で行く超閉塞空間だが、空気中のナノマシンによって綺麗に紫煙を分解された彼のだけの喫煙所だ。
健康に多大な影響を与える喫煙は、2176年では『かつてそんな馬鹿な嗜好があった』レベルの、化石のような存在だ。未だに興じる者など、奇人変人以外の何者でもない。
そんな、前時代も前時代の嗜好品を嗜む彼だけが、この部屋に頻繁に出入りする。それ故の私的利用だ。
つまり、この喫煙行為とそれに興じる空間は、源のパーソナルを象徴するものとなっていた。
だからこそ、源はここでだけ彼女と会話する。
「重ぇよ」
「……失礼、しちゃう」
いつの間にやら背中に加わった重みに文句を言うと、頭頂部に硬い顎の感触が乗っかった。
T.T.S.No.4アグネス・リーの精神支配は、対象者とアグネスのパーソナルを綯交ぜにすることで完了する。
だがら、源のパーソナリティが色濃いこの場所では、その影響は希薄だった。
「っせぇ、ならさっさと降りろ」
「いじわる」
「テメェにだきゃ言われたくねぇ」
「……イライラしてる?」
「訊くまでもなく分かってんだろぉが」
感応性の高い彼女とのコミュニケーションは楽だが、どこまでも見られている気がして落ち着かない時もある。人間観察とその分析の専門家たるアグネスにとって、口調や行動から思考を把握するのは造作もないのだろう。
「うん……ごめん」
「何の用だ」
「今日、これから会う人、私……」
「……お前なんか知ってんのか?」
「……なんでもない。鈴蝶から、聞いて」
「おぃそれどぉいぅ……消えんの早ぇな」
紫煙のように消えたアグネスの言葉が気になり、まだ残る背中の温もりだけが、妙に不気味だ。
「ちっきしょう、また面倒臭そぉな感じだな」
煙草の味が、全くしない。気分を落ちつけようと思って入った喫煙所が、一気に不気味な場所に変わってしまった。
「もぉ少し俺の気分をアゲるもんはねぇのか……」
自分の気持ちを少しでも持ち直せるものを探して、ネガティブゾンビは喫煙所を後にした。
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