T.T.S.

沖 鴉者

FileNo.3 The truth in her memory Chapter 3-3


~2176年10月6日PM11:28 東京~

 コーヒーが5杯を超えた。

「ダ~メだ。どう書いても説得力出ない……結局2行目まで戻ってそっから進まない……」

 甘鈴蝶は今回の一件をどうICPO本部に報告したものか、頭を捻っていた。違法時間跳躍者クロック・スミスを確保すべきT.T.S.が、あまつさえそれを見逃し、幇助した。
 結果的にそれで正しい歴史が紡がれたわけだが、この事実の正当性をどう書けばいいかわからない。
 因果が逆転しているので、木佐幸太郎という人間の円環のような生涯を記すしか術がなかった。
 だが、そこにも問題がある。

「過去の絵美ちゃんに私が接触したらしいのは書きたくないんだよなー」

 正岡絵美の過去に干渉した鈴蝶は、未来の彼女だ。
 なぜ自ら禁則を犯しているのかは分からないが、恐らく何か考えあってのことだろう。
 だが、そんなことはICPO本部連中の知ったことではないわけで、これをそのまま上に上げると色々な査問を投げ掛けられるのは必然だ。それだけは出来なかった。
 加えてもう一点。

「一体誰なんだい絵美ちゃん。この学生寮の連続殺人犯は」
 
 正岡絵美と木佐幸太郎たち元Alternativeのメンバーが誰をどのように捕らえたのかが分からない。
 そも、こんな事件はどこを探し・・・・・ても存在し・・・・・ていない・・・・

「一体何があったっていうの」

 深まる謎と報告の難易度に、鈴蝶は6杯目のコーヒーをあおる決意を決めた。
 まだまだ長い夜になりそうだ。

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